MUSIC LIFE CLUB 7th Anniversary

4月6日(日)東京・日本橋三井ホール

「クイーン・デイ10周年スペシャル I」〈「オペラ座の夜」解説トーク〉ノーカット版

クイーンにとって運命の勝負作『オペラ座の夜』の最初の一滴は何だろう?〜クイーン・コンシェルジュ吉田聡志による考察と検証トーク

今年発売50周年を迎えるアルバム『オペラ座の夜』。運命の勝負作とも呼ばれる本作に至るまでのクイーンの1975年当時の歩みを辿りながら、その原点、そこに至る背景、それを支えたモチベイションなどを考察、検証していく。
◎クイーンにとって激動の年であった1975年

1975年日本では当時シングル「キラー・クイーン」がスマッシュ・ヒットを記録し、『ミュージック・ライフ』誌人気投票でも大躍進、破竹の勢いでした。イギリスではまだそこまでの人気ではなく、アメリカではようやくヘッドライナーのツアーが1月から始まったばかり。新人バンドとしてはまぁまぁに見えますが、実は大きな問題を抱えていました。それがマネージメント(トライデント)とのトラブル。クイーンは音楽制作を徹底的に突き詰めるバンドだから、レコーディング、スタジオ代もかかり、ツアーの照明や音響にもこだわってお金がかかるバンド。もちろん新人にそんな費用はかけてくれるわけはなく、最初に交わした契約もクイーン側に不利で、金銭的なサポートも満足ではなく、メンバーは極貧生活を送っていました。

そんな中、全米ツアーの追加公演(30ヵ所)も決まりチケットも売られていたのに直前にすべてキャンセルとなってしまい、バンドは契約に縛られたまま悶々とした日々を過ごします。この頃メンバーは後にマネージメントを担当する音楽専門の弁護士ジム・ビーチさんと出会います。
◎日本公演の大成功

一方日本でのクイーン人気は急上昇、来日公演も決まります。イギリスではホールクラスだったバンドが日本では最大級の日本武道館公演という前代未聞の事態に。4月17日に来日しての全8公演は、大熱狂のなか大成功を納めます。どの会場もほぼ満員、演奏も日に日に勢いが増し、本人たちも「こんなに僕たちは認められているんだ」という驚きがあったといいます。

『ミュージック・ライフ』誌人気投票でも1位に輝き、トロフィーを持つ笑顔の4人が誌面を飾ります。こんなことはイギリスではなかったし、1位を獲るなんて本当に驚きだったと思います。そしてお茶会や座敷の撮影など日本を満喫します。日本武道館のライヴでは一曲目からお客さんが前に押し寄せて、カメラマンの長谷部さんは潰されてしまい、一枚も撮れなかった──という有名なエピソードがあります。ともかく大変な来日公演でした。
◎アルバム制作のリハーサル

考えるに、クイーンが日本からイギリスに持って帰ったもの、それはもちろん〈日本のファンありがとう〉という気持ちと、〈僕らがやっていたことは間違いじゃないんだ〉という自分たちの音楽への自信だったと思います。イギリスのメディアからは〈腐ったグラムロック、ハードロックの最後の一滴〉とか嫌な言い方をされていましたけれど、〈自分たちが信じていた音楽は、人を魅了することができる〉ということに本人たちが気づいたことが一番大きいと思います。ものすごい自信になった。このことにより、〈自分たちでやりたいように音楽を作って、ツアーをやって、一人でも多くの人に伝えたい〉という気持ちが抑えきれなくなり弁護士ジム・ビーチさんを雇いトライデントと縁を切るわけです。その頃のビデオでメンバーはこう語っています。〈マネージメントからの独立は一か八かの賭けだった〉ロジャー・テイラー、〈貧乏だけじゃなくて音響や照明会社に借金があるから、次のアルバムを失敗したら廃業かと思った〉ブライアン・メイ。それくらい切羽詰まった状況だったわけです。
そんな中始まったレコーディング、その前に曲作りのリハーサルをするのですが、これが有名なリッジ・ファームのスタジオで行なわれました。1975年日本から帰った7月から作業を始めます。ロンドンから車で1時間半くらいの場所です。

ここで『ミュージック・ライフ』はフォトセッション&取材を行なっています(7月14 日)。写真を見ればわかりますが、スタジオというより納屋、ここで〈こんなことをやったらどうかな──〉という実験を繰り返していたわけです。一昨年偶然この場所でクイーンの初代エンジニアのジョン・ハリスさんにお会いできました。当時のリハの状況をお尋ねしたら、〈外で聞いていて、何をやっているのかわからなかった〉と仰ってました。それまでのクイーンの曲はロックンロールやハードロックでしたから、想像するに「預言者の唄」か「ボヘミアン・ラプソディ」とか、何をやっているかわからない感じだったのかな──と。そういった実験を繰り返していたのがリッジ・ファームです。ここにはフィレディ愛用のベヒシュタインの白いピアノがあります、かなり高価なドイツ製の高級ピアノで、ものすごい借金だったと思いますけど、クイーンは楽器にもお金をかけていました。リハーサルにわざわざグランドピアノを運び込むのもフレディらしいですね。

このピアノはリッジ・ファームで撮った「マイ・ベスト・フレンド」のPVでジョン・ディーコンが当て振りで弾いています。リッジ・ファームは今はリハビリ施設になっていて、現在のオーナーさんも当時は子供でしたけどクイーンのことは覚えていて、日本からファンが来るのをすごく喜んでいました。
◎ロックフィールド・スタジオ

曲作りリハを終えたクイーンはベイシックなレコーディングをロックフィールドで開始します。ロンドンから車で3時間くらいのウェールズの農場スタジオで、辺りは羊と馬しかいない環境。近隣に飲み屋もない、これもう音楽に集中するしかない場所。ここは彼らにとっても思い出深いスタジオで、当時は最先端の機材が入っていました。今はデジタルがメインなので一世代前のミキサーとかになっていますが、すごく雰囲気があるスタジオで、経営者の一家も非常に家族的。ここでロンドンの喧騒から離れて『オペラ座の夜』の完成に集中できたのかな──と想像できます。この時。オーナーのキングスリーさんがミキサー卓で「ボヘミアン・ラプソデイ」をかけてくれて、当時の話をしてくださいました。建物の上には風見鶏ならぬ風見馬があって、それを見たフレディが、歌詞を思いついた──と。「ボヘミアン~」エンディングの「Anyway the wind blows~いつだって風は吹くから」じゃないかとキングスリーさんは仰ってました。
◎ミキシングとオーバーダビング

ベイシックなレコーディングが終わると、ミキシングとオーヴァーダビングっていう死ぬほど面倒くさい大変な作業があります。これ、ブライアンが大好きなんです、ロジャーはあまり好きじゃないけれど(笑)。アルバム中面の『オペラ座の夜』のクレジットを見るとメンバーがキャスト(出演者)と表示してあります。これはアルバムのコンセプトを〈「オペラ座」に皆さんを招待する──〉といった内容にしようと決めていたので、こういった言い方をしたもの。メンバー名の下に小さく〈レコーディング・アット・サーム・イースト、ラウンドハウス、オリンピック、ロックフィールド、スコーピオ、アンド・ランズダウン。ミックス・バイ・サーム・イースト〉と書いてありますが、普通こんなにスタジオは使いません、異常です。ですが、時間がないのと、色々な音を足していかなければならないから同時進行で5つのスタジオを使って作業を行なったんですね。今だったら大人気バンドだから少しくらい贅沢をしてもいいんですけど、まだ世界的に売れるかどうかわからないハンドなのに、これだけお金と時間を集中して作っていたというのがここからわかります。

この時の立役者は “exclusive engineer(特別なエンジニア)” と書かれているマイク・ストーンさん、彼がいたからこそクイーンの緻密なレイヤー・サウンドは出来上がったと言われていて、とにかく音を重ねても綺麗に丸く収めるのが天才的に上手なエンジニア。ただ音を重ねるだけだと厚ぼったくなってしまうだけですけど、クイーンのコーラスって隅々まで綺麗じゃないですか。あれはマイク・ストーンさんの力。彼はクイーンをやったことにより実力が認められ、ジャーニーやエイジアの「ヒート・オブ・ザ・モーメント」とかどんどん仕事をこなして、世界から引っ張りだこのエンジニアになっていきました。クイーンの次作『華麗なるレース』はロイ・トーマス・ベイカーの元を離れてのセルフ・プロデュースになりますが、マイク・ストーンには声がかかり参加します。クイーンにとってサウンド作りの大事なスタッフだったというのもわかりますね。
◎クイーンと様々な楽器

クイーンは録音や楽器に関してすごい変わった面白いアイデアを持ち込んでくるバンド。例えば「うつろな日曜日」でスピーカーから出しているようなフレディのヴォーカルは、ヘッドフォンで再生させてそれをバケツに入れて共鳴している音を録ったそうです。「シーサイド・ランデブー」にフレディとロジャーのタップダンスが入っているのは知ってますか? あれはタップダンス風のことを金属製の指ぬきを使ってスタジオでカタカタやって録音しています。ジョン・ディーコンは「39」ではウッドベースを使って(クレジットはダブルベース)、「マイ・ベスト・フレンド」ではフレディがキーボードを弾いてくれないので、しかたなく自分でエレピを弾いています。ブライアンもすごいですよ、「預言者の唄」で使ったおもちゃの琴は75年に日本のファンからもらった──というのは有名なエピソードですが、なんと初めて弾いたハープの演奏をレコーディングしたのが「ラヴ・オブ・マイ・ライフ」。あと、ブライアンはウクレレ・バンジョーが大好き。普通のウクレレとはちょっと違った音を「グッド・カンパニー」で使っています。『シアー・ハート・アタック』でも「リロイ・ブラウン」で印象的な音を弾いています。
◎運命の勝負作 コンセプト・アルバム『オペラ座の夜』

こんな風に楽器においても様々なトライアルを行なったということは、このアルバムが自分たちの音楽の全てを賭けた、クイーンにとっての〈運命の勝負作〉となる作品だったから。この作品を絶対代表作にするぞ!という強い意志がないとそうはならない。だから一切の妥協を許さず制作に臨んだんです。
ミキシングの時、運良くスコーピオ・スタジオで『ミュージック・ライフ』の取材が入りました。撮影をされた浅沼ワタルさんがよく話してくれるんですけど、ここでは「ボヘミアン・ラプソディー」のロジャー・テイラーの高音の歌入れ(♫ガリレオ、ガリレオ……など)をやって、ロジャーが “こんな高音できない!” と言っても、フレディは “ヤレ!! ヤレ!! ” と言ってレコーディングを進めていったそうです。そうやって4ヵ月かかってようやく完成したのが『オペラ座の夜』。これが「ボヘミアン・ラプソディ」含め大ヒットを記録します。
10月に完成パーティが行なわれましたが、その時のポスターに、〈Queen invite you to『A Night At The Opera』~皆様をオペラ座の夜にご招待いたします~〉と書いてあります。これが彼らが貫いてきたコンセプトで、自分たちが作った架空のオペラ座という劇場にあなた方を招待します~というコンセプトのアルバム。この時はまだ「ボヘミアン・ラプソディー」は1位にはなっていませんが、パーティの写真では、この後起きることを予感させる自信に満ちたフレディの顔と乾杯ポーズが非常に印象的です。他にもロイ・トーマス・ベイカーやヴァージン・レコードのオーナー:リチャード・ブランソンなど、こういった大物たちも含め集まって全メディアがクイーンに注目していました。DJのケニー・エヴェレットも写っています、この人は、かけちゃダメと言われたシングル・レコード「ボヘミアン・ラプソディー」をラジオで6回もオンエアして、大ヒットにつなげた人です。そしてこの後、前人未到の「ボヘミアン・ラプソディー」ビデオ・シューティングが行われます。まだMTVがない時代です、革新的なアイデアの作品でお金も時間もかかったと思いますけれど、1曲丸ごとPVにしたことが大ヒットのきっかけにもなりました。この時も唯一『ミュージック・ライフ』のカメラマンが入って、世界で一人だけ現場を撮影しています。
◎『オペラ座の夜』の最初の一滴は何だったのか?

『オペラ座の夜』はハマースミス・オデオンで開催されたクリスマス・コンサートを経て、この年の最後12月27日に全英チャートのトップに立ちます。こうして日本公演から8ヵ月を経て、日本のクイーンから世界のクイーンへと羽ばたいていったわけです。『オペラ座の夜』の最初の一滴は何だったのか?──と考えると、やはり初来日の感動体験は大きかったと思います。それがクイーンに音楽を生み出す力や自信を与え、運命の勝負作を完成させる一端になったのだと。

『ミュージック・ライフ』誌では完成直後のこのアルバムにメンバー4人のサインを入れたものをいただきました、今でも記念すべき宝物として大事に保存されています。
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