Special Interview
元『ミュージック・ライフ』編集長 東郷かおる子

インタビューと文■赤尾美香


ポール・マッカートニーとの結婚を夢見ていた少女は、やがてチープ・トリック、デュラン・デュラン、ボン・ジョヴィといった洋楽スターの原石を見つけ出し、プッシュし、真のスターへの伴走を果たしていく。
大切なのは、バンドやミュージシャンの背景であり、それを語るストーリー。情報に飢えているファンの気持ちに寄り添い、信頼を勝ち取って『ML』の全盛期を築いた名物編集長のこだわりとは?
4月12日発売の『ミュージック・ライフ完全読本』に掲載されたインタヴューの一部をお届けします。


 

エアロスミスのスティーヴン・タイラーと  pic: KOH HASEBE / Music Life / Shinko Music



女性ファンは誤解されていると思う。
顔が可愛いだけだったら別に好きじゃないのよ。
可愛くて、才能があって、かっこよくて、良い音楽だから好きなの


 

――東郷さんと『Music Life』の出会いを教えてください。

東郷:4歳上のいとこがプレスリーのファンで、そのいとこが、『ML』を時々読んでいたの。私はプレスリーには興味なかったけど、アメリカン・ポップスがけっこう好きで、FENとかを聴いていたのね。もともと母の影響もあって、映画は洋画の方が好きだったし、父が当時、進駐軍の関係の仕事をしていたり、通っていた幼稚園もキリスト教の神父さんが経営しているところだったりで、そこに時々アメリカの兵隊さんがビスケットやチョコレートを持って来て頭を撫でてくれた。だから、アメリカ人はすごく良い人、素敵だと思い込んでいたわけね。当時、日本人にとって外国と言ったら、即アメリカだったから。家にもアメリカの兵隊さんの家族が、よく遊びに来てたし。だから外国人に対して怖いとか、違う人だとか全然なくて。で、小学校高学年から中学生くらいの時、いとこの『ML』を見るようになったの。

――ビートルズの登場前ですね。

東郷:3~4年前ね。その後、FENを聞いて、雷に打たれたようになったのがビートルズの「プリーズ・プリーズ・ミー」だった。その時は、何が何やらわかんない。なんとか、ビートルズっていうバンドなのはわかったんだけど、イギリスなのかアメリカなのかもわからない。そうこうしているうちに、日本のAMラジオでも流れ始めたの。いとこに聞いたら、「『ML』にビートルズ出てるよ」と言うから、自分も買うようになった。それが中学2年か3年の頃。それから一直線よ! ビートルズには青春を賭けていたからね。

――新興楽譜出版に入るのは、高校卒業後ですね。

東郷:最初からML編集部だと思ってたんだけどね、私は。今から思うとほんとバカだったんだけど、入社1週間くらいで、星加さんが会社に来た時に、「あー! 星加ルミ子だー! サインしてください!!」って言ったら、草野さん(当時の専務=草野昌一)に「バカヤロー!」と怒られた。「社員が社員にサインを頼んでどうすんだー!」って怒鳴られた(笑)。でも、とにかく私は憧れの星加さんがいる会社に入ったからいいや、と。結局、最初に配属された経理には1年いて、その後、『ML』に欠員が出て異動になったわけ。とはいえ、仕事をしている意識は全然なかったわね、当時は。とにかく会社に行くのが楽しくて。ビートルズの写真なんて見放題だし。星加さんの話は聞き放題。今から思うと酷いわよね。あれでお給料もらっていたんだから。編集部には4~5人のスタッフがいて、私は読者からのハガキの整理をしたり、原稿を取りに行ったり電話番したり。それでも毎日楽しいのよ。

――60年代終わりから70年代頭にかけて、ですね。

東郷:そう。69年にウッドストックがあったじゃない? 当時はウッドストックなんて言ったって、現場で何が起こってるかなんて誰もわからない。週刊誌や新聞に記事は出るけど、裸のヒッピーが騒いでるくらいの記事で。サンタナが出ました、ザ・フーが出ましたなんて言っても、現場で起こっていることがわかんなくて。翌年映画が公開になって初めて、これはとんだことになったんだとわかったの。世の中が変わると思ったわけよ。私たちがビートルズにキャーキャー言ってる頃、大人が子どもを弾圧したのよね。あれは、大人が怖かったからだと思うのよ。新興宗教みたいに、ある日突然みんな熱狂しているんだから。

BBCが制作したビートルズのドキュメンタリー映画を、去年か一昨年にBSでやっていたけど、イギリスでも同じだったみたい。みんな「キャー!」って失神する。そんなことを引き起こす人は今までいなかったわけだから、「あいつらは悪魔だ」ってことになった。日本でも同じだったの。右翼が出てきて、「日本を汚すビートルズは出て行け!」とかやっていたんだから、実際に。テレビの『時事放談』かなんかでも、「あんなものにうつつを抜かす子どもはバカだ! 親もバカだ!」とか言って。教育委員会は、ビートルズのコンサートに行くなというキャンペーン張ったくらいだからね。そうされればされるほど、強まる反抗心があの時代にはあった。学生運動も高まっていた時期だったし。

かつて世の中には、ヤング・ジェネレーション(若者)という言葉がなくて、大人か子どもしかいなかった。中間のティーンエイジャーっていう、大人でも子どもでもない世代を、誰も認めなかったの。ところが、ビートルズみたいなものが出てきて世の中が変わった。大人は、ドドドって音がしたような気がしただろうし、ある意味すごい危機感を持ったんだと思う。

でもさ、そういうものって、抗しがたいのよね。今でこそ「ロックが時代の先端だ」なんて言う人は誰もいないけど、当時はビートルズに代表されるロック・ミュージックが時代の先端で、そういうものが新しい時代を作っていく、ものの考え方、ファッション、すべて新しいものはそこから始まるっていう意識がすごくあった。71年にはデヴィッド・ボウイが出てきて、ジェンダー・フリーという意識がもたらされるじゃない? 当時は化け物扱いだったけど。若い男の子が口紅塗ったりして、大人から見たら理解不能だよね。だけど、そういうものをよしとする風潮が出てきたわけ。そういう時代の只中に『ML』にいて、おもしろかったわよね。

――編集部員は、どういう思いで本を作っていたんでしょう。

東郷:大人が見たらしかめ面しそうなことに対しても、オープンマインドでいたかったと思うんだけど、私と同じようにオープンマインドで、「そうだそうだ!」って言っていたのは、1歳上の水上(はる子)さんくらいでね。他の人はみんな、4~5歳上だったから、信じられないわけよ。そういう人たちは、どんどん辞めちゃった。

――70年前後には、それまでとは違うロック・バンドも人気を得ていきます。

東郷:ヒッピー・ムーヴメントもいよいよ下火になって、次に出てきたのが(レッド・)ツェッペリン。ツェッペリンのアルバムを聴いてひっくり返って、「これは、すごい!」ってことになった。ビートルズによって全国に数多のバンドが生まれたけど、今度はギター少年が出てくるの。ギター少年の憧れは、やっぱり(ジミー・)ペイジ、(ジェフ・)ベック、(エリック・)クラプトン。『ML』としては、ごく自然に「ツェッペリンが良い」って載せる。そこに何らかの主張があるからなんて、私は考えないわけ。とにかく、これはすごくいいし、聴いてもらいたいからっていうので取り上げた。

自分でも思うんだけど、売れる人を見分ける力があるのね。やっぱりルックスは大事なのよ。私が、シカゴでかっこいいと思ったのはロバート・ラムだった。当時『ニューミュージック・マガジン』ができて、日本にもロック・ジャーナリズムというのが芽を吹き始めたの。そこからすると、私みたいな人間は許せないわけよ。私がロバート・ラムのソロ・アルバムにライナーノーツを書いた時、『ニューミュージック・マガジン』のレコード評に、このライナーノーツは酷いってボロクソ叩かれたわけ(笑)。でも私は全然平気で、「だったら売ってみなさい」って感じだった。そういう意味で『ML』は、理論派達からは目の敵にされていたけど、別に気にしなかった。でも当時から、読者層は6:4で男性の方が多かった。女性の方が多い時代は、デュラン・デュランの時代でもなかった。私が辞めるまで、いつもその割合で男性の方が多かったのよ。意外に思われるかもしれないけど。

――『ML』の役割は、どのように考えていましたか?

東郷:当時は圧倒的に情報がない。『キャッシュ・ボックス』と『ビルボード』と『NME』を読んで、辞書引きながら、ツアーが始まるという情報を得る。そういうことをチクチクやっていくことの方が、このレコードのここが素晴らしいとか、ギターのフレーズがどうとか書くよりも、急を要した。ファンは、そういうことを知りたかった。誰が今何しているか。どういう家に住んでいるか。家族構成はどうか。体重は…とか。それは、ゴリゴリの理論派の人から見るとアホみたいだけど、ファンっていうのは、そういうものなのよね。私がそうだったから。ギターのフレーズがどうっていうのは、その次にくること。

でもね、当時から今まで、女性ファンは誤解されていると思う。ルックスだけを見てファンになるわけじゃないのよね、絶対に。それを、多くの男性は誤解している。顔が可愛いだけだったら別に好きじゃないのよ。可愛くて、才能があって、かっこよくて、良い音楽だから好きなの。男性ファンよりも5つくらい関門があるの。その関門をクリアできているバンドって、いいんだよね、すごく。だから、残るわけ。たまに残らないバンドもいるけど(苦笑)。それを見分ける自信というのが、私にはあったのよ。

ミュージック・ライフ完全読本

『ミュージック・ライフ完全読本』

発売日:2018/04/12
サイズ:B5判
ページ数:176P

1,800円(税込)

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