音楽プロデューサーのフィル・スペクター、新型コロナにより刑務所の病院にて81歳で死去

1939年にニューヨークのブロンクスで生まれたスペクターは、60年代初期から音楽プロデューサーとして頭角を現し、独自の音楽制作手法「ウォール・オブ・サウンド」を開発しました。60年代には、ザ・ロネッツやクリスタルズ、アイク＆ティナ・ターナーらの作曲やプロデュースを担当し、1960年から1965年に手掛けた25曲以上がチャートのトップ40入りを果たしました。

1969年にビートルズのアルバム『Let It Be』を手掛けた後もメンバーとの交流が続き、70年代にはジョン・レノンとジョージ・ハリスンのソロ・アルバムや、レナード・コーエン、ラモーンズらのアルバムもプロデュースしましたが、レノンやラモーンズのメンバーを銃で脅すなどドラッグによる奇行が目立ち始め、ラモーンズ1979年のアルバム『End of the Century』を最後に第一線から撤退しました。

なお、スペクターは、1969年の映画『イージー・ライダー』にドラッグ・ディーラーの役で出演しています。

また1973年には、ジョージ・ハリスンと共同プロデュースしたハリスン1971年のライヴ・アルバム『Concert for Bangladesh』（バングラデシュ・コンサート）で「グラミー賞最優秀アルバム賞」を受賞したほか、1989年には非演奏者部門で「ロックの殿堂」入りを果たし、1997年には「ソングライターの殿堂」入りも果たしました。

スペクターの訃報を受け、1968年から1974年まで結婚していた前妻で元ロネッツのシンガー、ロニー・スペクターは次の声明を発表しています。

「音楽にとって悲しい日であり、私にとっても悲しい日です。彼がレコーディング・スタジオで創作している姿を見ながら一緒に仕事をしていた時は、自分が最高の人物と仕事をしているのだと実感していました。当時の彼は完全に主導権を握り、全員に指示を与えていました。

　彼と出会って恋に落ちたのは、おとぎ話のようでした。彼と一緒に作った魔法のような音楽は私たちの愛にインスパイアされたもので、私は彼を狂おしいほど愛し、私のハートと魂を彼に捧げました。彼が生きていた時に何度も言ったように、彼は素晴らしいプロデューサーでしたが、夫としては最低でした。残念ながら、フィルはレコーディング・スタジオの外ではまともに生活し機能することが出来ず、暗闇の中で多くの人々にダメージを与えました。私は今でも彼と作った音楽を聴くと笑顔になり、それはこれからも変わらないでしょう。その音楽は永遠です」

安らかなる眠りをお祈りいたします。