ポリス、映像作品『アラウンド・ザ・ワールド』初ブルーレイ&DVD化記念・短期集中連載「今だから語るポリス、1980年の日本ツアー」Part 1

『アラウンド・ザ・ワールド』より
ポリスが1979〜1980年にかけて初めて行なったワールド・ツアーの様子を収めたドキュメンタリー『アラウンド・ザ・ワールド』が5月20日発売に。それを記念し、当時日本の所属レコード会社だったアルファレコードの肥田慶子氏と、メンバーとも親しく専属カメラマンとして同行した写真家の浅沼ワタル氏という、1980年の来日公演のすべてをご存知のお二人による対談が実現。全3回にわたって短期集中連載としてお送りします。スティング、アンディ・サマーズ、スチュワート・コープランドのメンバー3人の素顔や、初めてのワールド・ツアーの裏側、日本滞在時のエピソードなど。『アラウンド・ザ・ワールド』を観てから読むと、ちょっとした部分が何倍ももお楽しみいただけます。

「あんなにてんやわんやなツアーになるとは思っていませんでした」

肥田慶子

肥田慶子(ひだ・けいこ)当時ポリスが所属した日本のレコード会社アルファレコードA&M部の社員。

(京都大学・西部講堂でのステージ後)「スタッフに頼まれて、タクシーで逃げるように会場を出たんだよ」

浅沼ワタル

浅沼ワタル (あさぬま・わたる)写真家。当時ポリスの専属カメラマンとしてワールド・ツアーに同行。エリック・クラプトン『スローハンド』『Live At 武道館』ジャケットなども撮影。

ポリス『アラウンド・ザ・ワールド(レストア&エクスパンデッド)』がリリースされる。1980年から1981年のポリスの世界ツアーを追うドキュメンタリーで、当時VHS、Betaとレーザーディスクで発売された映像作品の初DVD、Blu-Ray化である。

1980年2月にポリスは初来日。東京、名古屋、大阪、京都で公演を行なった。スティング、アンディ・サマーズ、スチュワート・コープランド──メンバー三人の新幹線での移動、京都公演、京都でのオフをカメラは追い、さらに東京で相撲部屋を訪問する三人の姿が作品に収められている。

この日本ツアーに同行し、映像にも登場するお二人にインタビューする貴重な機会を得た。当時アルファレコードA&M部の社員であった肥田慶子さんと、写真家の浅沼ワタルさんである。お二人に42年前のバンドとの日々を思い出して頂いた。

ポリス『アラウンド・ザ・ワールド(レストア&エクスパンデッド)』
The Police/Around The World Restored & Expanded


2022年5月20日発売
・Blu-ray+CD:商品番号UIXY-15046 / ¥6,600円(税込)
・DVD+CD:商品番号UIBY-15125 / ¥5,500円(税込)
──今回の映像作品の冒頭に、肥田さんの姿が登場します。枯山水の庭園で「意味は何だろう?」と尋ねるアンディに仏教の心を説いています。竜安寺でしょうか。
肥田慶子(以下肥田):竜安寺ね。アンディが石庭の前に座り込んで、私が通訳して説明をした。

──京都の場面で映っているのは竜安寺と金閣、清水寺ですね。
浅沼ワタル(以下浅沼):最初に行ったのが清水寺だと思う。バンドが移動のバスから降りたら、ちょうど団体で記念撮影しているグループがいて、僕が三人に「入れー」って言って皆と写真を撮った。日本人のみなさんは何が起こっているかわかっていなかったけど、喜んでたよ。

──この映像作品にもその様子が入っています。スチュワートが8mmカメラを自ら回して、スティングがカメラを持ってあちこち撮影しているのは金閣ですね。
浅沼:スティングのカメラは東京で買ったもの。僕のと同じセットが欲しいと言って、バンドと僕が滞在していた新宿の京王プラザホテルから歩いてヨドバシカメラに三人を連れて行った。来日中に2回は行った。

──京都公演の「ネクスト・トゥ・ユー」の演奏が収録されています。マネジャーのマイルス・コープランド(スチュワートの兄で、I.R.S.レコーズ社長)が「1980年ナンバー・ワンのバンド、ザ・ポリス」と自信満々に叫んで3人をステージに呼び込みます。
肥田:マイルスの頭の中にはあったの。最初っから。世界ツアーっていう企画が。

──マイルスは世界制覇を目指していました。いっぽう、アンディ・サマーズはこの作品に封入されているライナーノーツで以下のように記しています。「1980年2月、僕らは日本に到着した。東京にいることに僕らはかなり興奮していた。まるで本物のワールド・ツアーだ!」まだそんな感覚だったんですね。
肥田:アンディは考えてなかったかもしれないけど、マイルスは世界を見ていた。インドに行く苦労だってね、チャリティの形でいくしかないとか、それを撮るとか。最初から頭にあった。

──このツアーで日本、香港、オーストラリア、インド、エジプト、ギリシャ、フランス、南米、米国を訪れ、この作品にそれぞれの様子が収められています。
肥田:レコードのプロモーションのために使える写真を下さいとかマイルスに言うじゃない、背が低い私の方なんか見てない。聞いてっこない。世界っていうか、宇宙を見ていた。

──アンディがファンの女の子と会話している様子が収録されています。「昨日の公演、大学で観ました」と英語で話しています。
肥田:清水寺だと思う。茶屋の様子がね。

──スティングがファンに囲まれたり、ホテルのコーヒーショップでアンディが女の子たちとしゃべったり、ファンとの交流が多くあります。
浅沼:このコーヒーショップは大阪のホテル。

──ファンが駅やホテルから追いかけてきているようです。
浅沼:東京からずっと追っかけてる女の子も三人いたよ。英語をしゃべる子がひとりいて。

──京都観光の前日、2月20日の京都大学・西部講堂での公演は学生がステージに上がってスティングにしがみついたりして、混乱しました。この作品に映像が残っています。
浅沼:バンドがステージを降りた後、キム・ターナー(ツアー・マネジャー、サウンド・エンジニア。ウィッシュボーン・アッシュのマーティン・ターナーの弟)に「ワタル、三人を乗せて行ってくれ」と頼まれて、タクシーで逃げるように出たんだよ。
肥田:聞いたら、キム・ターナーはまだ20歳だった。
浅沼:キムは音(コンサート会場の音響担当)をやっていた。
肥田:演奏後、スタッフと学生たちがいろいろ話している間に、私とスティングは外にいた。ステージドアのそばでした。スティングは怪獣のオーバーオールを着ていて。タクシーが待っているのに「ケイコ、何が起こってるのか説明してくれ」ってスティングが言ってね。

──怪獣のオーバーオールというのは、後ろがゴジラの背びれのようになっているスティングの上着ですね。
肥田:いい服だなと思ったの。
浅沼:日本で買ったものじゃない。スティングは日本で洋服は買ってないから。
──今回の作品では京都公演の演奏がCDで聴けます。これが初公開のすばらしい音質で。スティングも「KYOTO!」と連発しています。ライヴの混乱の印象があったので、しっかりした演奏の高音質の録音が残っているのが感激です。アルファレコードが録音したんですね。
肥田:吉沢さん(吉沢典夫氏)。当時のアルファレコードの録音部の部長さんです。

──京都公演のリハーサルの様子が作品に収録されています。スティングがベースではなくギターで「ブリング・オン・ザ・ナイト」のイントロを延々と弾いている貴重な映像です。スティングが弾いている赤いストラトキャスターはアンディのもののようで、しかもドラムを叩いているのがスチュワートではない。
浅沼:ジェフだね。ジェフ・サイツ。スチュのドラムテック。ニューヨーク・フィルハーモニック・オーケストラでドラムを叩いていた。このツアーのためだけに来たはずが、バンドのスタッフとしてずっと残った。

──ベースを弾いているのは?
浅沼:ダニー・クアトロッチ。彼はもともとギタリストで、1979年にバンドのチームに加わった。
肥田:彼がポリスの四番目のメンバーで、浅沼さんが五人目?
浅沼:(ポリスのチームに)入ったのは俺の方が早いんだよ。ダニーは今でもスティングと仕事してる。

──この日本ツアーの始まりのお話をお伺いします。ハワイで全米ツアーを終えたポリスのメンバーと一緒に、1980年2月12日着のフライトで浅沼さんはハワイから成田に飛んで来ました。
浅沼:ロスの飛行場のチケットカウンターで待ちあわせて、まずホノルルに一緒に行った。その待ち合わせの前日にホテルでアンディに会ってる。

──仲良しですね。
肥田:ロンドンでもずっとポリスを撮っていたんでしょ?
浅沼:78年から。
肥田:専属って感じでね。
──浅沼さんは『ミュージック・ライフ』誌の「ロンドン在住特約カメラマン」として活躍されながら、ポリスとの仕事もされていました。肥田さんはアルファレコードのA&M部で海外とのやりとりなどを担当されていました。グループの来日中は通訳を務められます。
肥田:バンドを成田に迎えに行って、浅沼さんとも初めてお会いして。ポリス専属カメラマンだって紹介されて、一緒に動いた。浅沼さんは、関さん(アルファレコード/ポリス担当 関信夫氏)と私が入れないようなところにいつもいるから、いいねーって。レコード会社は(コンサートの現場で)入れないところ多いから……。

──肥田さんはポリスの三人と会ったのはこの1980年2月が最初なんですか?
肥田:1979年3月にニューヨークのロング・アイランドでコンサートを見たの。ニューヨークのA&Mの女性が連れて行ってくれて。ロング・アイランドまですごいリムジンで。

──1979年3月29日にロング・アイランドの「マイ・ファーザーズ・プレイス」でポリスは演奏しています。
肥田:そうそう。ちっちゃなクラブでした。そこで三人と少し話しました。

──その11ヵ月後の1980年2月にポリスが日本にやって来るわけです。
浅沼:初来日。
肥田:あんなにてんやわんやなツアーになるとは思っていませんでした。

──そうなんですね。
肥田:カメラ・クルーを連れてきてました。
 
──BBCのビデオ・クルーですね。
浅沼:あれだよ。『The Old Grey Whistle Test』。

──英国国営放送 BBCは人気テレビ番組『The Old Grey Whistle Test』のためにポリスを追って来日。1979年9月のシングル「孤独のメッセージ」が初の全英1位、翌月のアルバム『白いレガッタ』も初の全英1位と本国で人気絶頂の3人の世界ツアーを追います。これがテレビ番組(『The Old Grey Whistle Test ── Police In The East』)として1980年10月10日にBBCで放送され、さらに映像を加えて『ポリス アラウンド・ザ・ワールド』としてビデオが発売。今回、40年の時を経てのレストアです。
肥田:(BBCは)四人くらいで来たのよ。
浅沼:カメラマンと、カメラ助手は奥さんで、サウンド担当の人。それとA&M UKのメディア担当の人と、マイケル・アップルトンっていうBBCプロデューサーと、アン・ナイチンゲール(BBCのレポーター)。

──MKタクシーの車内から撮っている京都市内の映像が含まれています。
浅沼:BBCのクルーが乗っていたんだね。

──けっこうな大きさのビデオカメラを担いでタクシーで?
浅沼:いや、そんなに大きくない。
肥田:西部講堂では観客の間に入って撮ってたくらいですから。

──日本の初日、成田に到着したバンドは新宿の京王プラザホテルに入ります。
浅沼:移動の車はリンカーン・コンチネンタルかなんかだった。

── ホテルに着くとすぐにインタビューでした。
浅沼:スチュワートがしゃべりすぎるんだよ。
肥田:そう。「音楽的にどんな影響を受けましたか?」「これはどんな意図で?」なんていう質問に、スチュワートがベラベラ答え、アンディはちょっとふざけちゃう感じで。二人にさんざんしゃべらせておいて、スティングが「僕の意見は違うよ」って乗り出してくる。
浅沼:それを肥田さんが通訳してる。
肥田:そうですね。
浅沼:インタビューの間、京王プラザのコーヒールームでスタッフは待機してた。スティングが降りてきて、どうしたのって聞いたら「つまんない」ってね。出て来ちゃったんだ。
肥田:ホテルでインタビュー用の部屋を押さえて、2メディアくらいは三人でやったの。そのあと皆に言われた。三人で揃ってインタビューに答えるなんて、イギリスではもうやらなくなっているけど、日本だからやるんだね、って。
構成:大島隆義
 

浅沼氏がポリスを撮影するのに使用したカメラ

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◆商品情報
ポリス『アラウンド・ザ・ワールド(レストア&エクスパンデッド)』
The Police/Around The World Restored & Expanded

2022年5月20日発売

・Blu-ray+CD:商品番号UIXY-15046 / ¥6,600円(税込)
・DVD+CD:商品番号UIBY-15125 / ¥5,500円(税込)

*アンディ・サマーズ(G)によるライナーノーツ掲載(日本盤は日本語訳付)
*日本盤のみ日本語字幕付、SHM-CD仕様

お求めはこちら
■DVD & BLU-RAY
※下記の曲の演奏シーンあり。

Next To You/ネクスト・トゥ・ユー
Walking On The Moon/ウォーキング・オン・ザ・ムーン
Born In The 50’s/俺達の世界
So Lonely/ソー・ロンリー
Man In A Suitcase/スーツケースの流れ者
Can’t Stand Losing You/キャント・スタンド・ルージング・ユー
Bring On The Night/ブリング・オン・ザ・ナイト
Canary In A Coalmine/カナリアの悲劇
Voices Inside My Head/果てなき妄想
When The World Is Running Down, You Make The Best Of What’s Still Around/君がなすべきこと
Shadows In The Rain/シャドウズ・イン・ザ・レイン
Don’t Stand So Close To Me/高校教師
Truth Hits Everybody/トゥルース・ヒッツ・エヴリバディ
Roxanne/ロクサーヌ
 
※ボーナス・フィーチャーズ(完全演奏)
Walking On The Moon(Live from Kyoto)/ウォーキング・オン・ザ・ムーン(ライヴ・フロム・京都)
Next To You(Live from Kyoto)/ネクスト・トゥ・ユー(ライヴ・フロム・京都)
Message In A Bottle(Live from Hong Kong)/孤独のメッセージ(ライヴ・フロム・香港)
Born In The 50’s(Live from Hong Kong)/俺達の世界(ライヴ・フロム・香港)
■CD
1. Walking On The Moon - Live from Kyoto/ウォーキング・オン・ザ・ムーン(ライヴ・フロム・京都)
2. Next To You – Live from Kyoto/ネクスト・トゥ・ユー(ライヴ・フロム・京都)
3. Deathwish - Live from Kyoto/死の誘惑(ライヴ・フロム・京都)
4. So Lonely - Live from Kyoto/ソー・ロンリー(ライヴ・フロム・京都)
5. Can’t Stand Losing You - Live from Kyoto/キャント・スタンド・ルージング・ユー(ライヴ・フロム・京都)
6. Truth Hits Everybody - Live from Kyoto/トゥルース・ヒッツ・エヴリバディ(ライヴ・フロム・京都)
7. Visions Of The Night – Live from Hammersmith/ヴィジョンズ・オブ・ザ・ナイト(ライヴ・フロム・ハマースミス)
8. Roxanne – Live from Hammersmith/ロクサーヌ(ライヴ・フロム・ハマースミス)
9. Intro/イントロ
10. Born In The 50’s – Live from Hong Kong/俺達の世界(ライヴ・フロム・香港)
11. Message In A Bottle – Live from Hong Kong/孤独のメッセージ(ライヴ・フロム・香港)
12. Bring On The Night – Live from Hong Kong/ブリング・オン・ザ・ナイト(ライヴ・フロム・香港)
商品詳細
スティング
『ブルー・タートルの夢』


Amazon Music・MP3(1985/6/1)¥1,350
CD(2011/11/9)¥2,028
商品情報
スティング
『マイ・ソングス』


Amazon Music・MP3(2019/5/24)¥2,210(Deluxe)
2CDs(2019/10/4)¥3,520(スペシャル・エディション)

 
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