キャット・スティーヴンスが全盛期の3作を元にした回想録『Cat Stevens : Back Beyond』発表。その奥深き世界をシンガー/翻訳家の中川五郎氏が紹介


■『Cat Stevens : Back Beyond 1970-71』発売に寄せて
『白いバラ』『父と子』『ティーザー・アンド・ザ・ファイアキャット』はぼくにとっては「古典」。だからこそ懐かしいのに新鮮に響く。
TEXT by 中川五郎

2022年5月にイギリスのジェネシス・パブリケーションズから1,500部限定で出版された『Cat Stevens : Back Beyond』は、今年74歳のキャット・スティーヴンスが1970年から71年にかけて発表した三部作と言える三枚のアルバム『Mona Bone Jakon(白いバラ)』『Tea for the Tillerman(父と子)』『Teaser and the Firecat(ティーザー・アンド・ザ・ファイアキャット)』を本人の回想録とアートワーク、それにさまざまなフォトグラファーが撮影したキャットの写真、当時の資料などによって振り返る超豪華本だ。縦31.5センチ、横25センチ、厚さ3.5センチで全248ページ、箱入りで重さは2.5キロにもなる。それに未発表曲2曲入りの7インチのブルーのヴィニール盤も付いている。

ぼくはキャットとは同世代で、1970年代前半に『Mona Bone Jakon』をはじめとする三枚のアルバムが発売された時はすぐに手に入れて何度も何度も繰り返し熱心に耳を傾け、はかりしれない刺激や影響を受けていた。それから50年後、本人による詳細な情報開示や作品解題、曲に関連した素晴らしいアートワーク、そして貴重な資料と共に、三枚のアルバムを改めて聴き直せるということは、まさに至福の体験だ。
『Back Beyond』を手にして(とにかく重くて大きいのでデスクの上か膝の上に本を載せてページを捲るしかない)三枚のアルバムを聴き直し、改めて強く思ったのはこれらのアルバムはぼくにとっての「古典」だということだった。古典、クラシック、という言葉にはどこか古くささ、過去のものという印象が付き纏い、確かに辞書では「古い時代に書かれた書物。古い時代に属する書物」という定義が最初に出てくるが、続けて「学問・芸術のある分野において、歴史的価値をもつとともに、後世の人の教養に資すると考えられるもの」と書かれている。まさにその後者の意味でぼくはこれらのキャット・スティーヴンスの70年代前半の三枚のアルバムは古典なのだと思う。だからこそ懐かしいのに新鮮に響くのだ。キャットと同世代のぼくらのような者たちや、少し遅れて彼の音楽を追いかけた世代だけでなく、今のうんと若い世代にもキャットの音楽は絶対に通じるに違いない。キャットのこれらの歌は古典ならではの永遠の魅力と輝きを宿しているからだ。
1966年、18歳の時にショウ・ビジネスの世界に飛び込み、ヒット曲を次々と作り「アイドル」のような扱いを受けていたキャットを、『Mona Bone Jakon』から始まる三部作の世界へと転換させた重要な出来事は、1968年の初めに結核となり、入院や療養生活を余儀なくされたことだった。『Back Beyond』の回想録でキャットは次のようなことを書いている。「病院で毎日注射を打たれ、まわりで人が亡くなっていった。友人に差し入れてもらった仏教の本にも影響を受け、生きる意味や心の安らぎについて深く考えるようになった。自分の書く歌はうんと個人的で思索的なものとなっていった。もはやヒットするかどうかは関係なく、歌は自分を導き、高めるために存在するものとなった」。
そしてキャットは当時の34曲の歌について詳しく明晰に語り、読み応えのあるこの回想録を21世紀になってまた歌を歌い始めたエピソードで締めくくっている。
「2000年代初め、わたしの息子が家にギターを持ってきた。楽器は全部処分していた。ほんとうに久しぶりにギターを手に取ってみると、歌いたいことがいっぱいあった。音楽の世界を離れたのは、生きるとはどういうことなのかを見つけ出したかったからで、それからいろんなことを学び、多くの体験を重ねた」「ボスニアで戦争が勃発した時、わたしたちは自分たちの戸口でジェノサイドが行なわれているのを目撃した。巻き込まれてしまった人たちを救援する動きに参加すると、現地ではみんなが歌を歌っていた。闇が覆い尽くす状況の中でも歌が彼らの魂を鼓舞していた。そこでわたしは歌がわたしたちの望む未来を切り拓いて行くためにどれほど重要な役割を果たすのかということに気づいた」
キャット・スティーヴンスがユスフ・イスラムとなり、2006年に発表したアルバム『Footsteps in the Light』の中で、彼はこの三部作の代表曲「The Wind」「Wild World」「Peace Train」を新たな解釈で歌い直している。また2020年には『Tea for the Tillerman』全曲をレコーディングし直したアルバムも発表している。豪華本『Back Beyond』と共にキャットの「過去」を辿り直せば、誰もが彼の「現在」や「未来」に行き着くはずだ。その時こそ、あまり聞かれることのないように思えるユスフ・イスラムの歌に出会ういい機会に、キャット/ユスフにとっての歌について真剣に考えるとてもいい機会になるのではないだろうか。うんと昔の向こうへときちんと遡ることは、今に戻って、未来へと向かうことなのだ。
■アルバム『白いバラ』『父と子』『ティーザー・アンド・ザ・ファイアキャット』

『Mona Bone Jakon』(邦題『白いバラ』)
A&Mレコードに移籍後、第一弾アルバム。アイドルから本格的なシンガーソングライターとしてのキャリアをスタートさせた記念碑的な作品。代表曲「白いバラ」「トラブル」他収録。ジャケットのアートワークも本人。プロデュースはポール・サムウェル-スミス。

『Tea for the Tilleran』(邦題:父と子)
3部作の第二弾アルバム。アメリカ、イギリスでのヒットを記録。多くのアーティストのカヴァーされている名曲「ワイルド・ワールド」「父と子」他収録。前作同様アートワークは本人で。プロデュースはポール・サムウェル-スミス。2020年にはリメイク盤をリリース。

『Teaser and the Firecat』
3部作の最後の作品。本人が作・絵を担当した同タイトルの絵本としても発表された。「モーニング・ハズ・ブロークン (雨にぬれた朝)」、「ムーン・シャドウ」他収録。レコーディングには、リック・ウェイクマン、リンダ・ルイスなどがゲスト参加。

■『キャット・スティーヴンス:バック・ビヨンド』コレクター・エディション
『キャット・スティーヴンス:バック・ビヨンド』
コレクター・エディション
(7インチ・レコード/スリップケース付)
著者:キャット・スティーヴンス
■2022年5月発行 224ページ 240㎜×360㎜ スリップケース付き
■全世界限定1,500部 本人直筆サイン入り
■発行元:ジェネシス・パブリケーションズ(英国)
■7インチ・レコード「I Think I See The Ligh」「If You Want To Sing Out, Sing Out!」未発表デモ収録
購入はこちらから。
※購入サイトはコチラ(genesis- publications.com)。
※購入サイトはイギリスのジェネシス・パブリケイションズの自動日本語訳サイトにつながります。
※購入サイトでの販売価格は345£になります。
※別途、日本までの送料がかかります。
■『バック・ビヨンド』製造工程動画
■最新公式リリック・ビデオ「Morning Has Broken」「Bitterblue²」


商品情報
Cat Stevens
『Catch Bull At Four』[50th Anniversary]
CD(2022/12/2)輸入盤

商品情報
キャット・スティーブンス
『白いバラ』(50周年記念エディション・SHM-CD)
2CDs(2020/12/4)¥3,960

商品情報
Yusuf / Cat Stevens
『Teaser and The Firecat Deluxe Edition』
2CDs(2021/11/19)輸入盤

商品情報
Cat Stevens
『Teaser And The Firecat』(4CDs+Blu-ray)
4CDs+Blu-ray(2021/11/12)輸入盤

キャット・スティーヴンス
『父と子』(50周年記念エディション)
CD(2020/12/11)¥3,136(SHM-CD)
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