【連載・朝日順子】ロック史の現場を見て!食べて!飲む! UK & アイルランド体当たりレポート〜2023 夏 最終回 ディランと並び一番好きな作詞家レイ・デイヴィス

朝日順子さんによる英国とアイルランドでのロック聖地巡りの旅の記録は今回が最終回。ビートルズやクイーンを中心にお送りしてまいりましたが、前回に続き今回も少々経路を変え、メインのテーマは今年で結成60周年を迎えたザ・キンクスです。

朝日順子のサイト

レイ・ディヴィスのことが「ディランと並びロックの作詞家で一番好き」という朝日さん。最後の最後には、レイとデイヴの父親についてまで思いを馳せます。

今年はとても素敵な夏になったはず。ロック好きならこんな旅をしてみたい

最終回 ディランと並び一番好きな作詞家レイ・デイヴィス

ロックの作詞家で一番好きなのは、ボブ・ディランとキンクスのレイ・デイヴィスだ。自虐と島国根性に溢れるキンクスの歌は、我々島国に住む者こそ共感できる。無限に続くハイウェイ!貨物列車に無賃乗車して大陸横断!みたいなアメリカの歌も大好きだけど、レイの描く行動半径の狭い歌詞には、クセになる味わいがある。
音楽出版社の集まっていたロンドンのデンマーク・ストリートは、イギリスのティン・パン・アレーと呼ばれる。「お前の持ち込んだ曲は大嫌いだが ヒットを取り逃したら嫌だからサインしてやる と言いながら貧乏ゆすりをする音が 通りに鳴り響く」と、レイはこのとても短い通りを歌にしている。
アルバム『マスウェル・ヒルビリーズ』(RCA:1971年)。LPは1枚ながらダブル・ジャケットで、画像はそれを見開いた外側。
マズウェル・ヒルビリー・ボーイ(マズウェルなのにアメリカの貧しい白人の田舎者)を自称する、幾重にも屈折していて可笑しい曲が含まれる『マスウェル・ヒルビリーズ』。ジャケに使われたアーチウェイ・タバーンに行き、酒で身を持ち崩すエリート・サラリーマンを歌った “Alcohol” を脳内再生し、ペールエールを飲みながら「オー! デーモン・アルコホール!」と心で絶唱した。
アーチウェイ・タバーン、外観。
同、店内。
庶民的な町並みを楽しみつつ少し移動し、キンクスのお膝元マズウェル・ヒルへ。クリソード・アームスは、デイヴィス兄弟が1960年に初ギグをやったパブだ。ここもキンクスの聖地になっており、メモラビリアが大量に飾られたキンクス部屋がある。お店の人が優しく色々案内してくれ(とても誇らしげでもある)、当時のままの家具や、キンクスが触ったままのピアノも好きなだけ触って下さいと。
さらに、イギリスに来たならこれを飲みなさい!と、「昔イギリスでは結婚すると “honey wine” を飲んだから、“honeymoon”(ハネムーン)の言葉が生まれた」と説明付きで蜂蜜ワインを出してくれた。よく冷えたワインが、注文したギリシャのサラダ2種類にとても良く合い、暑い夏の夕食がとても爽やかなものに。キンクス部屋のドアからおもてを眺めると、長屋風のデイヴィス家の入り口が文字通り目の前に。デイヴィス兄弟の父はこのパブに入り浸っていたらしいが、距離的にもうほぼ家じゃないか。

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朝日順子氏「ロック史の現場を見て!食べて!飲む! UK & アイルランド体当たりレポート〜2023 夏」、残念ながら今回で最終回です。クリソード・アームスの窓越しに見えるデイヴィス兄弟の実家なんて最高じゃないですか。時を超えて、いつまでも陽が落ちない夕方のロンドン、通りの向こう側からは兄デイヴィスが試行錯誤しながら曲を作っている音が聞こえてきそう。同時にギターの練習に余念がない弟デイヴィスのまだ初々しい演奏なんかも聞こえる中、玄関が開いて出てきた父親デイヴィスがビールを飲むために軽い足取りで通りを横切ってまっすぐこちらへ向かって来る──そんな光景が見えてきそうです。連載を通じて、朝日さんの妄想の爆発癖がユーザーの皆さんにも伝染ってしまったのではないでしょうか。もっともっと読ませていただきたいところですが、今回はここまで。朝日さんどうもありがとうございました! またの機会にも是非お願いいたします!

朝日順子・主な著作

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朝日順子(著)
『ルート66を聴く: アメリカン・ロード・ソングは何を歌っているのか 』

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『インドとビートルズ:シタール、ドラッグ&メディテーション』

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朝日順子(著)、藤本国彦(編集、読み手)
『ビートルズは何を歌っているのか?(CDジャーナルムック)』

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