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多くのスターが参加したチャリティ・アルバム『Help!2』3月リリース。その制作の舞台裏

昨年11月、ロンドンのアビー・ロード・スタジオでは、普段とは一風変わった光景が繰り広げられていました。ブラーのデーモン・アルバーンがカンティーン(軽食堂)の入り口に立って、ザ・リヴァティーンズのカール・バラーとお喋りに興じ、すぐそばではパルプのメンバーたちが焼き上がったばかりのラザーニャ目当てに列を作っています。彼らの周囲にはハンディカムを手にした5、6人の子供たちが興奮気味に走り回り、目につくものを片っ端から撮影しています。彼らは皆、オリヴィア・ロドリゴの到着を今や遅しと待ち構えているところで……。

この時行なわれていたのが、紛争地などで戦禍を受けた子供たちを支援する団体、ウォーチャイルド(Warchild)UKに協力してワールド・クラスのスターたちが大挙集結し制作された新たなチャリティ・アルバム『Help!2』のレコーディングです。公表されたトラックリストは、さながらインディ・ロック界の重要人物カタログでした──ウェット・レッグ、ザ・ラスト・ディナー・パーティー、ウルフ・アリス、フォンテーンズDC、ニルファー・ヤンヤ、キャメロン・ウィンター、エズラ・コレクティヴ、フォールズ、そしてヤング・ファーザーズ……。
一週間という制作期間で、23曲がレコーディングされました。時にはアビー・ロードの5つのスタジオ全てが使用中となり、その場のひらめきで思いがけないコラボレーションも生まれました。ブラーのグレアム・コクソンがロドリゴによるザ・マグネティック・フィールズのカヴァー「The Book Of Love」でギターを弾けば、デーモン・アルバーンのセッションにはジョニー・マーがギターで参加しました。しばらくしてジャーヴィス・コッカーがトイレ休憩から自分の作業していたスタジオに戻ってくると、その日に来ていた全員がそこに集まっていました──そこで彼は全員を指揮し、パルプが提供した新曲「Begging For Change」のイントロを歌わせることに成功したのです。

今回のアルバムは1995年の『Help!』の精神をそのまま継承したプロジェクトです──ブリットポップ全盛期に制作され、ポール・ウェラー、レディオヘッド、スウェード、ポール・マッカートニー、KLF、ポーティスヘッド、マニック・ストリート・プリーチャーズ等がフィーチュアされていた前作は、オアシスとブラーが後々語り草にもなった(激しい舌戦を伴う)チャート・バトルを繰り広げたほんの数か月後に、同じレコードに参加した唯一の機会としても有名です。

ノエル・ギャラガーは当時こう語っていました。「大義のためには考え方の違いなんてものはお互い脇にどかすことにしたんだ。もっとも、俺たちが見解の一致を見るのはきっとこれが最初で最後だろうけどな」

こうして完成した前作は発売初週で7万枚を売り上げ、ボスニア・ヘルツェゴヴィナなどの紛争地で戦禍に苦しむ子供たちを助けるために、総額125万ポンド近く(=2億6,000万円 ※現在のレート)の寄付金が贈られました。
Various Artists/War Child Records
『Help:Artists for War Child』


(War Child Records:1995)

1. Oasis and Friends(Johnny Depp, Kate Moss, Lisa Moorish)「Fade Away」
2. The Boo Radleys「Oh Brother」
3. The Stone Roses「Love Spreads」
4. Radiohead「Lucky」
5. Orbital「Adnan」
6. Portishead「Mourning Air」
7. Massive Attack「Fake the Aroma」(alternate version of「Karmacoma」)
8. Suede「Shipbuilding」
9. The Charlatans vs. The Chemical Brothers「Time For Livin'」
10. Stereo MCs「Sweetest Truth(Show No Fear)」
11. Sinéad O'Connor「Ode to Billie Joe」
12. The Levellers「Searchlights」
13. Manic Street Preachers「Raindrops Keep Fallin' on My Head」
14. Terrorvision「Tom Petty Loves Veruca Salt」
15. The One World Orchestra featuring The Massed Pipes and Drums of the Children's Free Revolutionary Volunteer Guards「The Magnificent」
16. Planet 4 Folk Quartet(Andrew Weatherall and David Harrow)「Message to Crommie」
17. Terry Hall「Dream a Little Dream of Me」
18. Neneh Cherry and Trout「1, 2, 3, 4, 5」
19. Blur「Eine kleine Lift Musik」
20. The Smokin' Mojo Filters(Paul McCartney, Paul Weller, Noel Gallagher, Steve Cradock, Steve White, Carleen Anderson)「Come Together」

●HELP - The Story of the War Child Album Episode 1
それから30年後の2025年、募金集めは更に急務となりました。ウォーチャイルドによれば、全世界で実に5億2,000万人もの子供たち──ほぼ5人にひとりの計算──が戦争の影響を受けており、とりわけウクライナ、スーダン、ガザでは危機的状況が続いています。この数字は第二次世界大戦以降最も高く、しかも世界各国政府は国際支援のための予算を削減する方向に傾いています。

パルプのジャーヴィス・コッカーはこう語ります。「今現在、本当に毎日良くないことばかりが起きていて、多くの人々が無力感を感じていると思う。みんなニュースを観ながら、一体どうしたらいいのか分からずにいるんだよね。だからこのアルバムが、そういう人たちを楽しませると同時に、このアーティストたちはポジティヴな状況転換を図ろうとしているって知ってもらうきっかけになればと思っているんだ」

アルバムからのファースト・シングルはアークティック・モンキーズの2022年以来の新曲「Opening Night」です。アレックス・ターナーが暗黒時代における希望を歌いあげるこの曲は、ドラマーのマット・ヘルダースによれば、数年前から作りかけのまま放置してあった素材を、ウォーチャイルドからの連絡を受けて急いで完成させたもので、歌詞には軍隊の召集のようなイメージを投影したと言います。「チャリティ・レコードって言うとカヴァーに走ったり、普段とは違うコラボレーションを試みたりすることが多いけど、俺たちはレコード作るのが好きだし、スタジオで過ごすのも好きだから、自分たちで書いた曲を仕上げられて良かった、やってて楽しかったよ」
●Arctic Monkeys – Opening Night (Visualiser) – HELP(2)
●Arctic Monkeys - HELP(2) Recording Session
楽しい雰囲気を更に盛り上げたのが、8歳から10歳までの子供たちで編成された撮影クルーで、彼らはレコーディング作業の進行の一部始終を記録し続けました。彼らのお目付け役はBAFTA(英国映画・TV芸術協会)賞受賞監督のジョナサン・グレイザー(『Sexy Beast』『Under The Skin』『The Zone Of Interest』)で、彼にはここで作られる音楽と、それによって支援を受ける側の子供たちのイメージを結びつけたいという考えがありました。
マット・ヘルダース「子供たちはみんなフリー・アクセスでそこら中ウロチョロしてて、そのせいで普段のレコーディングとは空気が全然違ったんだ。スタジオって基本的に硬質で無機質で、見方によっては無味乾燥な環境とも言える。でも彼らが歩き回って、色んなものにぶつかったりしてると、それだけで何だか愉快な場所になってさ」
一方コッカーはその趣向にやや懐疑的でした。「僕はスタジオの中で歌ってる時に誰かの視線を感じるのは凄く嫌なんだ、何しろ僕はいわゆる自意識過剰な人間で、誰かが自分にカメラを向けてるって状態はそいつを増幅させるだけだからね。だけど僕が歌ってるのを撮るうちに、じきに飽きてきちゃったんだろうね、彼らはそこら辺の床に寝転んで、天井を撮ったりしてたよ」
つまるところ、彼は子供たちの存在のおかげで解放感を味わえたのです。彼らが全く興味を示さなかったことをきっかけに彼は、スタジオ・レコーディングとは楽曲の「完璧な、決定版となるヴァージョン」を記録すべきものであるという固定観念から脱することができたのでした。その結果として、パルプの提供曲「Begging For Change」はライヴ・バンドらしい自由なフィーリングが感じられるナンバーに仕上がり、アルバムの自然発生性や共同体的な感覚をそのまま体現するものとなりました。

実のところ、若きカメラ・クルーはレコーディングにも参加しています。
コッカー「面白かったよ、何しろ子供たちっていうのは絶えず『うるさいよ、こっちは考え事してるんだから』とか、『シーーッ、パパは二日酔いなんだ』とか言われてるだろ。だからちょっとでも大声出していいって言われたら、みんなそのチャンスを逃さず、ちゃんとその通りにしてくれるんだ。僕らの曲に彼らの絶叫を入れてみようってことになって頼んだら、まあそれはそれは上手にやってくれたよ」

その曲を実際に聴くには、3月6日の『Help(2)』発売日まで待たなければなりませんが、レコード・レーベルとプレス工場から無償で協力を得られることになったおかげで、アルバムの価格設定は通常の作品よりも割安になっており──2枚組ヴァイナルで26ポンド前後(=約5,500円)──ウォーチャイルドはその収益の全額を受け取ることになっています。

store.warchild.org.uk

商品詳細
Various Artists/War Child Records
『HELP(2)』


Amazon Music(MAR 06 2026)

■『HELP(2)』参加アーティスト(アルファベット順)

アンナ・カルヴィ(Anna Calvi)
アークティック・モンキーズ(Arctic Monkeys)
アーロ・パークス(Arlo Parks)
アルージ・アフタブ(Arooj Aftab)
バット・フォー・ラッシーズ(Bat for Lashes)
ビーバドゥービー(Beabadoobee)
ベック(Beck)
ベス・ギボンズ(Beth Gibbons)
ビッグ・シーフ(Big Thief)
ブラック・カントリー・ニュー・ロード(Black Country, New Road)
キャメロン・ウィンター(Cameron Winter)
デーモン・アルバーン(Damon Albarn)
デペッシュ・モード(Depeche Mode)
ダヴ・エリス(Dave Ellis)
エリー・ロウゼル(Ellie Rowsell)
イングリッシュ・ティーチャー(English Teacher)
エズラ・コレクティヴ(Ezra Collective)
フォールズ(Foals)
フォンテインズ D.C.(Fontaines D.C.)
グレアム・コクソン(Graham Coxon)
グリーンティー・ペン(Greentea Peng)
グリアン・チャッテン(Grian Chatten)
ケイ・テンペスト(Kae Tempest)
キング・クルール(King Krule)
ニルファー・ヤンヤ(Nilufer Yanya)
オリヴィア・ロドリゴ(Olivia Rodrigo)
パルプ(Pulp)
サンファ(Sampha)
ザ・ラスト・ディナー・パーティー(The Last Dinner Party)
ウェット・レッグ(Wet Leg)
ヤング・ファーザーズ(Young Fathers)
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