ブライアン・メイやロジャー・テイラーは今も変わらず互いにリスペクトしあえる良い友人──ティム・スタッフェル(ex.SMILE) トークイベント・レポート

2019年8月3日、「QUEEN BOOK&MAGAZINE FAIR featuring ROGER TAYLOR」イベント期間中に、クイーンの前身バンドでもあるスマイルのヴォーカル&ベースのティム・スタッフェル氏を迎えてのトーク&サイン会が開催された。司会は増田勇一氏(元ミュージック・ライフ編集長)が担当。

 
増田勇一(以下増田):本日の司会進行を務めさせていただきます、増田勇一と申します、よろしくお願いします。(拍手)さて、映画「ボヘミアン・ラプソディ」以降のクイーン人気の再燃で、まさかこんな至近距離でティム・スタッフェルさんと会える機会が訪れるなんて誰も思ってなかったと思います。もちろんそういった現象にティムご本人も驚いてらっしゃると思うんです、日本に行ってこういったトークイベントにゲストとして迎えられる──なんて。今日は限られた時間ですけど、皆さんが長年抱えてらっしゃる疑問とかも含めて聞ければ…と思っています。映画の中ではフレディ・マーキュリーとティムは会ってないですけど、皆さんご存知の通り、ティムはフレディの学校の先輩でもあり、フレディがクイーンに入ったのもティムがいたからこそ…という流れもあるので、聞きたいことは山ほどあるのですが──果たしてどういったことになるか。では、皆さん拍手でお迎えください、ミスター・ティム・スタッフェル!!(大歓声&拍手)通訳は川原真理子さんにお願いします。では、まず皆さんへのご挨拶を。
 
写真左より増田勇一氏、ティム・スタッフェル氏、川原真理子氏

ティム・スタッフェル(以下ティム):ハロー!トーキョー!(大拍手)お招きいただきありがとうございます。

増田:初東京公演です(笑)。

ティム:まったく初めての来日で、とっても光栄です。

増田:日本が嫌いだったんですか(笑)?

ティム:(笑)ひとつ補足したいんですけれど、映画『ボヘミアン・ラプソディ』の大ヒットにより可能性が本当に広がって、まさか日本に招かれるなんて予想もしていませんでしたし、これは本当に光栄なことです。

増田:映画の大ヒットに関して本当に驚いてらっしゃる。

ティム:家族と共に映画のプレミアに招待されたことや、私自身映画のサウンドトラックにも招かれてメンバーと一緒にレコーディング(「Doing All Right...revisited」/スマイル)したことは本当に凄いことだと思っています。映画自体も想像を遥かに超えた素晴らしい出来映えで楽しみました。たしかにクイーン15年間の歴史が2時間に凝縮されたものでしたけれど、ペース配分や様々な人の感情表現、アーティスティックな面やクリエイティヴィティといった面でも本当によくできた映画だと思います。

増田:あの映画に描かれているご自身についてはどう思われましたか? スマイルを裏切ってハンピー・ボングに行った男という──(笑)

ティム:(笑)え〜、50%は当たってますね(笑)。私の後にフレディが入りますが、そのことと私がスマイルを辞めたのははっきり言って関係はありません。そもそもその頃私は、スマイルに居ること自体に不満を感じるようになっていて、これは変えるタイミングだと思いました。じゃあこれから自分はどうするのかを考えたとき、コリン・ピーターソンと一緒にハンピー・ボングをやるというのが回答なのか? とも思いました。当時の私の音楽的志向はより即興演奏の方に傾いていて、スマイルがやっていたヘヴィ・ロックとは相容れなくなってしまっていたのが辞めた一番の原因です。
 

増田:音楽的方向性の相違ですか?

ティム:いやいや、私が真意を伝えていなかったので、スマイルの他のメンバー、ブライアン・メイやロジャー・テイラーはそのことは知りませんでした。そういう気持ちがスマイルの活動の邪魔になるようにはしたくなかった。ですから当時も今もそういう音楽的な軋轢というのはなく、今も変わらず互いにリスペクトしあえる良い友人です。実際、私のソロ・アルバム『aMIGO』にはブライアンも参加してくれているし。彼には私の曲も歌って欲しいと思っています、彼は素晴らしいシンガーでもあるし──ま、歌わないとは思いますけど(笑)。

増田:映画の中ではティムさんがスマイルを去って、そこにフレディが現れる…というストーリーになっていますけど、実際はフレディはティムさんのカレッジの後輩。そこでのつながりも含め、フレディの才能を誰よりも早く知っていたのかな…とも思うのですが。

ティム:カレッジの頃はフレディは別にバンドをやっていたし、私はスマイルをやっていてお互いのライヴを見に行ってました。だから音楽的なつながりや交流もありましたし、当時のロンドンは音楽の坩堝でしたから、フレディが私の後任になったのも自然な流れだと思います。最初は私の代わりにフレディ?という感じもありましたけれど、しばらくするとそれも受け入れられるようになりました。ま、私は歌とベースをやってましたから、その代わりにはベーシストとヴォーカリストの二人が必要でしたけどね(笑)。

増田:そういう意味ではジョン・ディーコンの印象は?

ティム:彼とは会ったことがありません。新年のパーティで彼の奥様には会ったことはありますけれど…その時話したことなのですが、彼はクイーン在籍中ちょっと居心地の悪い処が少しあったようです、それが大きな問題に発展することはなかったと思いますが、ヒット曲もたくさん書きソングライターとしてもベーシストとして素晴らしいものがあり、彼の貢献度は大きかったのですが、徐々に商業面でのプレッシャーというものを感じるようになってしまったようです。ですからある時期から表舞台に出なくなって──、でも今は幸せに暮らしている…実は私の住んでいる場所の近所なんですよ。

増田:そういう不思議な時間の流れの後、ティムさんはハンピー・ボング、モーガン・フィッシャーとのモーガンと音楽歴があって、でもその後しばらく音楽から離れてしまわれる時期があるのですが、それは音楽を諦めたんですか?

ティム:私は73年に結婚したのですが、70年代半ばは妻に養ってもらっていました。76年〜77年頃、妻から “あなた、何かしなさいよ“ と言われたことがきっかけで(笑)。

増田:そして再び音楽に戻ってきて『aMIGO』『Two Late』という2枚のアルバムを発表される。やはり音楽は諦められないものですか?

ティム:音楽を離れてからテレビの仕事(『きかんしゃトーマス』の模型制作を担当)とかをやっていましたが、音楽から全く離れていたわけではなく、その間も70年代後半から断続的にバンド活動はしていました──その頃のバンド、テイル・フェザー(Tail Feather)の曲で未発表のものが5〜6曲あるので、それを新たにレコーディングしてリリースしたいなと思っていますが、それはさておき、映画やテレビの仕事が一段落着いたときにやはり音楽の世界に戻ろうと自然に思いました。それで2001年に初めてのソロ・アルバムを作ろうと、当時持っていた会社を売却し、それまでの30年間で書き溜めた中からベストなものを選んでレコーディングし直したんです。そうやって作ったのが『aMIGO』。これにはブライアン・メイ、モーガン・フィッシャー、スノウィー・ホワイトが参加してくれています。他にもスマイルにほんの短期間だけ在籍したクリス・スミスがキーボードを弾いてくれていて、そうやってできたのがこの『aMIGO』です。古くは70年代から、新しいのはレコーディング当時に作った曲までが収録されています。

増田:それに比べると『Two Late』は今のティムさんの音楽的志向により近いものであると言えるのでしょうか?

ティム:そうですね。

増田:この音楽をティムさんはどんな言葉で形容しますか?

ティム:ロックではありますが、ジャズ・プレイヤーたちが演奏しているロック、ロックの基盤にジャズの感性が乗ったものだと思います。

増田:こういう言葉ってご本人から聞けるのは嬉しいですね、僕らはそういうときにフュージョンとかミクスチュアっていう既存の言葉に逃げちゃうんですけど、そういう風に言っていただくと凄く分かりやすいです。

ティム:そうですね、ジャズ=ロックならフュージョンと言えると思いますが、これはロック=ジャズです。
 

増田:カレーライスかライスカレーか(笑)。でも、こうしてティムさんが再び音楽の世界で活動を始められたのは僕たちにとって凄く歓迎することで、この先の音楽家としてのヴィジョンはどんな風に描いてらっしゃるのですか?

ティム:これから3枚目のアルバムが出ます。曲はもう書き上がっていて、『Two Late』に比べると音楽的にもう少し幅広いものになると思います。アルバムの仮タイトルは『No Margin』、これはもしかしたら私がレコーディングする最後のアルバムになるかもしれません。色々な楽曲があって、弦楽器、管楽器、ワールド・ミュージックの民族楽器とかを使って自分の音楽性を広げていきたいと考えています。あと、これは『Two Late』の制作中から思っていたのですが、楽曲がどんどん個人的なものになってきたんです。『aMIGO』のときは「Earth」「Sudden Moves」といったもう少し客観的な観点からの曲が多かったのが、『Two Late』になるとよりパーソナルになり、今回の『No Margin』になるとそれがさらにパーソナルなものになっています。人生のこの時期に於いて、やはりそういったよりパーソナルなものを表現したいという気持ちが強くなったのだと思います。


増田:今、話を伺いながら、“モア・ストリングス、モア・ブラス“ と仰っていたので、“モア・ブライアン・メイ、モア・ロジャー・テイラー” はないのか?と思ったのですが(笑)、彼らがこうして現役で活躍していることに刺激を受けたことってあるのでしょうか?

ティム:ブライアンは『aMIGO』に参加してくれているし、ロジャーはその時別件で参加できなかったけれど、今度のアルバムにブライアンもロジャーも参加してくれたらこれほど嬉しいことはないですね。

増田:スマイル再結成?

ティム:それは…ちょっと…、実現可能かどうかはなんとも言えないけれど、なったらいいかなぁ…(笑)。今、クイーンでもアダム・ランバートが「Doing All Right」を素晴らしいヴァージョンで歌ってるし。ま、いつでも電話は受けますよ(笑)。

増田:こういうお話を聞いていると、話だけじゃないものも聴きたくなりますよね。

ティム:──何曲かお聴きかせしようかと思ってます。(場内大拍手&大歓声)

増田:じゃぁこの後はティムさんにお任せして。

ティム:じゃぁ、ちょっとギターを持ってきますから2分待ってください(笑)。
 

ティムさん一時退席。その間増田さんが今日のまとめを。

 
増田:いやぁ予想通り話好きの方でしたね(笑)、実はこの倍くらいの質問を用意してたのですが、時間内に訊くことができませんでした。僕がした質問はベイシックなものだったと思うんですが、予想外なことも答えていただいたので。僕は7月19日、20日とクイーン+アダム・ランバートを見てきたんですが、ティムさんも仰ってましたけど、「Doing All Right」が凄くいい使われ方というか、印象に残る組まれ方をしていて、何か特別な曲が一曲増えたな…という感じがありました──そろそろ2分経ちますが(笑)──。実はこの後演奏してくださるというのは予定にはないことだったんです、“もしかしたらやってくれるかも” …みたいなことを僕たちも期待してはいたんですが、“そういう機会があればいつでもやるよ” という姿勢のある方なんだなというのが凄く分かりました。そろそろいらっしゃると思うんですが、何をやってくれるんでしょうね? 色々想像して期待しちゃいますよね。あっ、エレベーターが降りてきました。

ティムさんギターを片手に再登場、場内大拍手!
 
ティム:サンキュー! これからはアコースティックでやるので、静かに…ね
 
♫「Doing All Right」 サビの曲名部分を場内が一斉にコーラス!

ティム:(場内大拍手)では、これはどこででも初めてなのですが、これから出す『No Margin』からの曲をやります。最近の曲で、以前の2枚のアルバムとの違いも分かると思います、よりフォーキーな側面を持っている曲で、気に入ってもらえれば嬉しいです。タイトルは「Laurent Blues」


♫「Laurent Blues」 物語的な歌詞のフォーク・ブルース・タイプの曲

演奏終了、場内大拍手!
 
増田:「Doing All Right」は半ば期待と予想をしたかもしれませんが、その後で次のアルバムからの新曲。よりパーソナルな──と仰ってましたが、その片鱗がここで聴けるとは。皆さん大きな拍手をもう一度!(場内大拍手)今日はどうもありがとうございました!
 
この後サイン会が行われた。
 

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