名盤の立役者・トミー・リピューマ 第5&6回(全10回)
モンタレー・ポップ・フェスティバル──ザ・フー、ジミ・ヘンドリックス
3月29日に発売になった新刊『トミー・リピューマのバラード ジャズの粋を極めたプロデューサーの物語』は、1960年代からブルー・サム〜A&M〜ワーナーなどで数多くの名盤を手がけたプロデューサー、トミー・リピューマの評伝です。著者は自らもオルガン/キーボード・プレイヤーとしてジャズ/ポピュラー音楽界で著名なベン・シドラン。すでに複数の著作も上梓している作家としての横顔も持つ彼が、トミー・リピューマの人物像を軸に、音楽業界の裏側や名盤の舞台裏を包み隠さず描いた一冊です。
そして第6回・ボブ・ジェームス&デイヴィッド・サンボーン『ダブル・ビジョン』は、ワーナーミュージックライフで同時公開。こちらもぜひお読みください。
WMLでの第6回・ボブ・ジェームス&デイヴィッド・サンボーン『ダブル・ヴィジョン』はこちら。
以下、『トミー・リピューマのバラード ジャズの粋を極めたプロデューサーの物語』より引用。
トミーとクラズナウは会場に開催前日に着き、くつろいでいた。彼らだけではなかった。ジャニス・ジョプリンもやはり早く来場していて、最終日までの3日間、ジャック・ダニエルの瓶を抱えたままステージの袖に座りっぱなしでいた。
新しい音楽はともかく、自由とそれに伴う責任の対峙は別の問題だった。トミーはザ・フーが彼らの楽器をぶち壊していたことを鮮明に覚えている。「しかし、その一件でもっとも印象的だったのは、フェスティヴァルの録音を依頼されていたサンフランシスコ在住のエンジニア、ウォリー・ハイダーが必死にステージを駆けずり回ってマイクが壊されないように守っていたことだった。彼がステージに持ち込んでいた音響機材の総額は少なく見積もっても2万ドルを下らなかったと思うけれど、ザ・フーのピート・タウンゼントは暴れ回っていた。あのコンサートの映画をよく見ると、大柄な男がステージの袖から出て来て、マイクをつかみ取っていくのがわかる。彼はザ・フーの連中が完全にぶち切れてしまっていると思ったんだろうけれど、それが彼らのステージのウリであったことも事実なんだよね」
そして、言うまでもなく、ジミ・ヘンドリックスの存在があった。彼はちょうど暗くなり始めるころにステージに登場した。彼が登場するやいなや、トミーは座っていたところから離れ、ステージの近くに立った。ジミがライター・オイルを絞り出してギターに火をつけた例の瞬間、トミーはたった数フィートしか離れていなかった。それは実に奇妙な光景で、LSDのトリップで見る幻覚を思わせた。そんな時、彼の視界に入ってきたのは「ステージの袖で僕の隣に立っていた、痩せて背の高い男」だった。「その男は片手にギターを持ったまま夢中で見入っていた。それはチャック・ベリーだった。彼の目はギターを燃やすジミ・ヘンドリックスに釘付けになっていた。別に、その瞬間を感動しながら見ている様子ではなかったけどね。ただ立ちすくんで成り行きを見つめていたよ」。それは、世代交代のバトン・タッチの瞬間を思わせた。
当時は誰も、こうした瞬間が時代を超える出来事だとは考えてもみなかった。歴史が今塗り替えられているとは、誰も夢にも思っていなかったのだ。ただ目の前で起こっていることでしかなかった。実際のところ、こうしたことを “ハプニング” と呼んでいた。とはいえ、その週末のステージから発せられていたエネルギーは桁外れだった。
The Jimi Hendrix Experience
『Live At Monterey』
MP3(2007/10/16)¥1,600
WMLでの第6回・ボブ・ジェームス&デイヴィッド・サンボーン『ダブル・ヴィジョン』はこちら。
第7&8回は、それぞれマイルス・デイヴィスとデイヴ・メイスンについてをWMCとMLCで取り上げます。5月28日公開。どうぞお楽しみに。
【WML×MLC連動連載企画】『トミー・リピューマのバラード ジャズの粋を極めたプロデューサーの物語』より
第1回 MLC・2021.05.07 フィル・スペクター “サウンドの壁”
第2回 WML・2021.05.07 マイケル・フランクス『アート・オブ・ティー』
第4回 WML・2021.05.14 ジョージ・ベンソン『ブリージン』
関連ニュース MUSIC|EVENT
『トミー・リピューマのバラード ジャズの粋を極めたプロデューサーの物語』翻訳者 吉成伸幸を迎えてのトークイベントが実現!(5月22日開催)
アメリカの音楽界だけでなく、日本のポップス・ミュージック・シーンにも多大な影響を与え、AOR、シティ・ミュージックの先駆者である今は亡き名プロデューサー、トミー・リピューマ。グラミー賞に33度ノミネートされ、5度受賞。彼のプロデュースしたアルバムは7,500万枚以上の売り上げを記録している。彼が携わったImperial, A&M, Blue Thumb, Warner Bros., A&M/Horizon, Elektra, GRP/Verveというすべてのレーベルから、彼が手掛けた代表的な楽曲を収録した、未亡人公認のオムニバスCD。ジョージ・ベンソン、マイケル・フランクス、マイルス・ディヴィス他アーティストの数々の名曲を収録。AORファン、フュージョン・ファン垂涎の貴重な写真を収録したブックレットが付いた、3枚組CD。
ブックレットには、マイルス・デイヴィス、マイケル・フランクス、ダイアナ・クラール、ドクター・ジョン、サンドパイパーズ、クロディーヌ・ロンジェ、ニック・デヵロ、アル・シュミットなどと撮影された、音楽史的に大変貴重な写真の数々を収録。
●トミー・リピューマ・プロフィール
1936年7月5日生まれの音楽プロデューサー、オハイオ州クリーヴランド出身。ジョージ・ベンソンはじめ、アル・ジャロウ、マイケル・フランクス、マイルス・デイヴィスやダイアナ・クラール等、ジャズ/クロスオーヴァー/AORの名盤とされる作品を数多くプロデュース、グラミー賞の受賞作も多数。2017年3月13日に他界、享年80。
その生涯をベン・シドランがまとめたのが評伝『The Ballad Of Tommy Lipuma』(2020年刊)で、邦訳版『トミー・リピューマのバラード ジャズの粋を極めたプロデューサーの物語』(弊社刊)として発売中。
トミー・リピューマのバラード ジャズの粋を極めたプロデューサーの物語
BOOK・2021.03.03
3/29発売 ジャズやポップスの名伯楽トミー・リピューマ波乱万丈な人生を、ベン・シドランが綴る〜『トミー・リピューマのバラード ジャズの粋を極めたプロデューサーの物語』
この記事へのコメントはまだありません
RELATED POSTS
関連記事
-
2024.04.04 ザ・ビートルズ関連 最新ニュース(2024/10/4更新)
-
2024.04.02 【動画】関係者が語る雑誌『ミュージック・ライフ』の歴史【全6本】
-
2024.01.26 クイーン関連 最新ニュース(2024/10/8更新)
-
2023.03.07 直近開催予定のイベントまとめ(2024/10/8更新)
LATEST POSTS
最新記事
-
2024.04.04 ザ・ビートルズ関連 最新ニュース(2024/10/4更新)
-
2024.04.02 【動画】関係者が語る雑誌『ミュージック・ライフ』の歴史【全6本】
-
2024.01.26 クイーン関連 最新ニュース(2024/10/8更新)