【WML×MLC連動連載】
名盤の立役者・トミー・リピューマ 第5&6回(全10回)

モンタレー・ポップ・フェスティバル──ザ・フー、ジミ・ヘンドリックス

3月29日に発売になった新刊『トミー・リピューマのバラード  ジャズの粋を極めたプロデューサーの物語』は、1960年代からブルー・サム〜A&M〜ワーナーなどで数多くの名盤を手がけたプロデューサー、トミー・リピューマの評伝です。著者は自らもオルガン/キーボード・プレイヤーとしてジャズ/ポピュラー音楽界で著名なベン・シドラン。すでに複数の著作も上梓している作家としての横顔も持つ彼が、トミー・リピューマの人物像を軸に、音楽業界の裏側や名盤の舞台裏を包み隠さず描いた一冊です。

 『トミー・リピューマのバラード』は、50年来の親友への私からのラヴ・レターです。家族のように、ともに素晴らしい時代を過ごしました。“バラード”としたのは、彼の人生は、私が歌うべき歌だから。そして今それを届けることができてうれしく思います。皆さんはここで、音楽やレコード・プロデュースにまつわるさまざまな現実を知ることでしょう。しかし、この歌(本書)の中心は、トミーという男の気持ちにほかならないのです。

ベン・シドラン
そして本連載は、短期集中で毎回アーティスト/作品単位でのテーマを取り上げ、同書からそれにまつわる部分をご紹介していこうというもの。同時に、トミー・リピューマが多くの作品を残したワーナーミュージックのウェブサイト「ワーナーミュージックライフ」(WML)のご協力のもと、我々ミュージック・ライフ・クラブ(MLC)と連動した連載として別々のテーマを取り上げ、双方で同時に展開。両方同時に読むことで倍楽しめる!ことを目指しました。ぜひ取り上げたアーティストの作品を聴きながらお楽しみください。


そして第6回・ボブ・ジェームス&デイヴィッド・サンボーン『ダブル・ビジョン』は、ワーナーミュージックライフで同時公開。こちらもぜひお読みください。


WMLでの第6回・ボブ・ジェームス&デイヴィッド・サンボーン『ダブル・ヴィジョン』はこちら。

モンタレー・ポップ・フェスティバルは、1967年6月16日から18日までの3日間、アメリカ合衆国カリフォルニア州モンタレーで開かれました。特にジミ・ヘンドリックスがギターに火をつけたパフォーマンスで記憶に残る、ロック史随一のイベントです。若者文化とアシッドが密接に結びつき、アメリカでは“サマー・オブ・ラヴ”、英国では “スウィンギン・ロンドン” とも呼ばれる、サイケデリック・カルチャーが全盛を迎えた時代の象徴的な出来事のひとつでした。リピューマもその現場へと出かけ、時代の変わり目を目の当たりにします。ザ・フーやジミ・ヘンドリックスのステージで、そしてステージ袖でそれを見つめる、旧世代に属するある人物の姿に──。
Monterey Pop Official Trailer


以下、『トミー・リピューマのバラード ジャズの粋を極めたプロデューサーの物語』より引用。
やっとのことで実現したモンタレー・ポップ・フェスティヴァルも、今となっては昔の話になってしまった。1967年6月16日の週末に開催が計画されたこのイヴェントは何人かの音楽業界関係者によって準備が進められており、その話が伝わるやいなや、間違いなく大きな出来事になると噂された。音楽的にも然るべきタイミングでの開催だったが──まだレコード会社との契約がない新人バンドが大勢いた──それ以上にこれからの大躍進を目前に控えていた音楽業界の祝祭としてふさわしい一大イヴェントと言えた。そう誰もが予測し、その気配を嗅ぎ取っていた。それは純粋な時代の終結の兆しだった。

トミーとクラズナウは会場に開催前日に着き、くつろいでいた。彼らだけではなかった。ジャニス・ジョプリンもやはり早く来場していて、最終日までの3日間、ジャック・ダニエルの瓶を抱えたままステージの袖に座りっぱなしでいた。

新しい音楽はともかく、自由とそれに伴う責任の対峙は別の問題だった。トミーはザ・フーが彼らの楽器をぶち壊していたことを鮮明に覚えている。「しかし、その一件でもっとも印象的だったのは、フェスティヴァルの録音を依頼されていたサンフランシスコ在住のエンジニア、ウォリー・ハイダーが必死にステージを駆けずり回ってマイクが壊されないように守っていたことだった。彼がステージに持ち込んでいた音響機材の総額は少なく見積もっても2万ドルを下らなかったと思うけれど、ザ・フーのピート・タウンゼントは暴れ回っていた。あのコンサートの映画をよく見ると、大柄な男がステージの袖から出て来て、マイクをつかみ取っていくのがわかる。彼はザ・フーの連中が完全にぶち切れてしまっていると思ったんだろうけれど、それが彼らのステージのウリであったことも事実なんだよね」

そして、言うまでもなく、ジミ・ヘンドリックスの存在があった。彼はちょうど暗くなり始めるころにステージに登場した。彼が登場するやいなや、トミーは座っていたところから離れ、ステージの近くに立った。ジミがライター・オイルを絞り出してギターに火をつけた例の瞬間、トミーはたった数フィートしか離れていなかった。それは実に奇妙な光景で、LSDのトリップで見る幻覚を思わせた。そんな時、彼の視界に入ってきたのは「ステージの袖で僕の隣に立っていた、痩せて背の高い男」だった。「その男は片手にギターを持ったまま夢中で見入っていた。それはチャック・ベリーだった。彼の目はギターを燃やすジミ・ヘンドリックスに釘付けになっていた。別に、その瞬間を感動しながら見ている様子ではなかったけどね。ただ立ちすくんで成り行きを見つめていたよ」。それは、世代交代のバトン・タッチの瞬間を思わせた。

当時は誰も、こうした瞬間が時代を超える出来事だとは考えてもみなかった。歴史が今塗り替えられているとは、誰も夢にも思っていなかったのだ。ただ目の前で起こっていることでしかなかった。実際のところ、こうしたことを “ハプニング” と呼んでいた。とはいえ、その週末のステージから発せられていたエネルギーは桁外れだった。
商品詳細
The Jimi Hendrix Experience
『Live At Monterey』

MP3(2007/10/16)¥1,600
────────────────

WMLでの第6回・ボブ・ジェームス&デイヴィッド・サンボーン『ダブル・ヴィジョン』はこちら。

第7&8回は、それぞれマイルス・デイヴィスとデイヴ・メイスンについてをWMCとMLCで取り上げます。5月28日公開。どうぞお楽しみに。

【WML×MLC連動連載企画】『トミー・リピューマのバラード  ジャズの粋を極めたプロデューサーの物語』より 
第1回 MLC・2021.05.07 フィル・スペクター “サウンドの壁”

第2回 WML・2021.05.07 マイケル・フランクス『アート・オブ・ティー』

Various Artists
『トミー・リピューマ・ワークス』

ワーナーミュージック・ジャパン
AOR、シティ・ミュージックの先駆者である今は亡き名プロデューサー、トミー・リピューマ。貴重な写真の数々を掲載したブックレットを収録した、音楽の自叙伝ともいえるCD3枚組45曲収録の楽曲集。

アメリカの音楽界だけでなく、日本のポップス・ミュージック・シーンにも多大な影響を与え、AOR、シティ・ミュージックの先駆者である今は亡き名プロデューサー、トミー・リピューマ。グラミー賞に33度ノミネートされ、5度受賞。彼のプロデュースしたアルバムは7,500万枚以上の売り上げを記録している。彼が携わったImperial, A&M, Blue Thumb, Warner Bros., A&M/Horizon, Elektra, GRP/Verveというすべてのレーベルから、彼が手掛けた代表的な楽曲を収録した、未亡人公認のオムニバスCD。ジョージ・ベンソン、マイケル・フランクス、マイルス・ディヴィス他アーティストの数々の名曲を収録。AORファン、フュージョン・ファン垂涎の貴重な写真を収録したブックレットが付いた、3枚組CD。

ブックレットには、マイルス・デイヴィス、マイケル・フランクス、ダイアナ・クラール、ドクター・ジョン、サンドパイパーズ、クロディーヌ・ロンジェ、ニック・デヵロ、アル・シュミットなどと撮影された、音楽史的に大変貴重な写真の数々を収録。

●トミー・リピューマ・プロフィール
1936年7月5日生まれの音楽プロデューサー、オハイオ州クリーヴランド出身。ジョージ・ベンソンはじめ、アル・ジャロウ、マイケル・フランクス、マイルス・デイヴィスやダイアナ・クラール等、ジャズ/クロスオーヴァー/AORの名盤とされる作品を数多くプロデュース、グラミー賞の受賞作も多数。2017年3月13日に他界、享年80。

その生涯をベン・シドランがまとめたのが評伝『The Ballad Of Tommy Lipuma』(2020年刊)で、邦訳版『トミー・リピューマのバラード ジャズの粋を極めたプロデューサーの物語』(弊社刊)として発売中。

この記事についてのコメントコメントを投稿

この記事へのコメントはまだありません

ギター・スコア ジミ・ヘンドリックス全集[ワイド版]

ギター・スコア ジミ・ヘンドリックス全集[ワイド版]

3,520円
コピー&タブ譜 ジミ・ヘンドリックス・ソングブック[新装版]

コピー&タブ譜 ジミ・ヘンドリックス・ソングブック[新装版]

2,420円
ディスク・コレクション AOR

ディスク・コレクション AOR

2,640円
AOR名盤プロデューサーの仕事

AOR名盤プロデューサーの仕事

2,200円

RELATED POSTS

関連記事

LATEST POSTS

最新記事

ページトップ