【WML×MLC連動連載】
名盤の立役者・トミー・リピューマ 第3&4回(全10回)

ローリング・ストーンズ「タイム・イズ・オン・マイ・サイド」

3月29日に発売になった新刊『トミー・リピューマのバラード  ジャズの粋を極めたプロデューサーの物語』は、1960年代からブルー・サム〜A&M〜ワーナーなどで数多くの名盤を手がけたプロデューサー、トミー・リピューマの評伝です。著者は自らもオルガン/キーボード・プレイヤーとしてジャズ/ポピュラー音楽界で著名なベン・シドラン。すでに複数の著作も上梓している作家としての横顔も持つ彼が、トミー・リピューマの人物像を軸に、音楽業界の裏側や名盤の舞台裏を包み隠さず描いた一冊です。

 『トミー・リピューマのバラード』は、50年来の親友への私からのラヴ・レターです。家族のように、ともに素晴らしい時代を過ごしました。“バラード”としたのは、彼の人生は、私が歌うべき歌だから。そして今それを届けることができてうれしく思います。皆さんはここで、音楽やレコード・プロデュースにまつわるさまざまな現実を知ることでしょう。しかし、この歌(本書)の中心は、トミーという男の気持ちにほかならないのです。

ベン・シドラン
そして本連載は、短期集中で毎回アーティスト/作品単位でのテーマを取り上げ、同書からそれにまつわる部分をご紹介していこうというもの。同時に、トミー・リピューマが多くの作品を残したワーナーミュージックのウェブサイト「ワーナーミュージックライフ」(WML)のご協力のもと、我々ミュージック・ライフ・クラブ(MLC)と連動した連載として別々のテーマを取り上げ、双方で同時に展開。両方同時に読むことで倍楽しめる!ことを目指しました。ぜひ取り上げたアーティストの作品を聴きながらお楽しみください。


そして第4回・ジョージ・ベンソン『ブリージン』は、ワーナーミュージックライフで同時公開。こちらもぜひお読みください。


WMLでの第4回・ジョージ・ベンソン『ブリージン』はこちら

ローリング・ストーンズとトミー・リピューマ──一見関係なさそうな二者ですが、ある意味リピューマはストーンズに、実は「曲を提供」していました。1967年、リピューマが「DJのジョニー・ヘイズとともに、LAのハリウッド大通りに立地したとんでもなく豪華な高級アパートに住んでいた」頃のお話です。同居人のヘイズは最高級のオーディオ・システムを所有、リピューマはそれを大変気に入っており、それだけでなく結果的に二人のその住まいは業界人たちの溜まり場と化していました。ある日そこへ訪れたのが、ストーンズのマネージャー、アンドリュー・ルーグ・オールダムだったのです。

アンドリュー・ルーグ・オールダム公式フェイスブック・ページより。60年代、左からオールダム、チャーリー、キース。

 

以下、『トミー・リピューマのバラード ジャズの粋を極めたプロデューサーの物語』より引用。

「いつ誰が現われるかわからなかったね」トミーが言う。「午前2時であっても、マートーニーズ(註1)にいる連中は『じゃ、これからリピューマのところに行こうか』ってな調子さ。ランディ・ニューマン、レニー・ワロンカー、レブ・フォスター、チャック・ケイ、B・ミッチェル・リードなど、レコード業界のほとんどの連中が少なくとも一度や二度は来たね。ほとんど毎晩、そこにはいろいろな連中がごろごろしていて、くだらない話題に花を咲かせ、音楽に聴き入ってはクスリをやっていた」
(中略)
敢えて言うならば、このハリウッド大通りの部屋では音楽産業にまつわる歴史上のさまざまな出来事がおきた。ローリング・ストーンズが初めてLAに来た時、チャーリー・ワッツとキース・リチャーズがマネージャーのアンドリュー・オールダムとともに、曲を求めてメトリック・ミュージック(註2)にやって来た。トミーはミニット・レコードのカタログからさまざまな曲をかけた。やがて彼らはぽつりぽつりとひとりずつ帰っていったが、アンドリューだけが残った。彼は彼らに「ねえ、どこかでマリワナが手に入るかな?」と尋ねた。「どこで手に入るかは知らないけど、少しならうちにあるよ」とトミーが答えた。そして、ふたりはハリウッド大通りの彼の部屋に向かった。
トミーがマリワナを取り出し、彼とジョニー・ヘイズがオールダムのためにレコードをかけ始めた。ヘイズはシングルの完璧なコレクションを誇っていて、それぞれが緑色のジャケットに収められていた。彼らはR&Bの名曲やレアな曲をたくさん聴いた。翌日ジョニーが、仕事先にいたトミーに電話をかけてきた。「トミー、今昨晩聴いたシングルをジャケットに戻しているんだけど、空のジャケットだけが2枚残っているんだ」。「オールダムが持って行ったと思うかい?」とトミーが返事した。「もしかしたらな。でも、とにかく見つからないんだ」と彼は言った。

約1か月後、またジョニーが電話してきて言った。「ヘイ、あいつが持って行ったレコードの1枚は間違いなくわかったぜ」。それはアーマ・トーマスの「タイム・イズ・オン・マイ・サイド」だった。そしてその1枚はローリング・ストーンズのアメリカにおけるデビュー・ヒットとなった。
「別に盗まなくてもよかったのにな」トミーは言う。「ひと言僕に欲しいと言ってくれれば、カタログの全曲が揃っていたのに」

註1:マートーニーズ=ハリウッドにあった店。
註2:メトリック・ミュージック=リバティ・レコードの出版部門。当時リピューマはレニー・ワロンカー、ランディ・ニューマンらとともに同社で働いていた。

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WMLでの第4回・ジョージ・ベンソン『ブリージン』はこちら。


第5&6回は、それぞれボブ・ジェームス&デイヴィッド・サンボーンとモンタレー・ポップ・フェスティバルについてをWMCとMLCで取り上げます。5月21日公開。どうぞお楽しみに。

【WML×MLC連動連載企画】『トミー・リピューマのバラード  ジャズの粋を極めたプロデューサーの物語』より 
第1回 MLC・2021.05.07 フィル・スペクター “サウンドの壁”

第2回 WML・2021.05.07 マイケル・フランクス『アート・オブ・ティー』

Various Artists
『トミー・リピューマ・ワークス』

ワーナーミュージック・ジャパン
AOR、シティ・ミュージックの先駆者である今は亡き名プロデューサー、トミー・リピューマ。貴重な写真の数々を掲載したブックレットを収録した、音楽の自叙伝ともいえるCD3枚組45曲収録の楽曲集。

アメリカの音楽界だけでなく、日本のポップス・ミュージック・シーンにも多大な影響を与え、AOR、シティ・ミュージックの先駆者である今は亡き名プロデューサー、トミー・リピューマ。グラミー賞に33度ノミネートされ、5度受賞。彼のプロデュースしたアルバムは7,500万枚以上の売り上げを記録している。彼が携わったImperial, A&M, Blue Thumb, Warner Bros., A&M/Horizon, Elektra, GRP/Verveというすべてのレーベルから、彼が手掛けた代表的な楽曲を収録した、未亡人公認のオムニバスCD。ジョージ・ベンソン、マイケル・フランクス、マイルス・ディヴィス他アーティストの数々の名曲を収録。AORファン、フュージョン・ファン垂涎の貴重な写真を収録したブックレットが付いた、3枚組CD。

ブックレットには、マイルス・デイヴィス、マイケル・フランクス、ダイアナ・クラール、ドクター・ジョン、サンドパイパーズ、クロディーヌ・ロンジェ、ニック・デヵロ、アル・シュミットなどと撮影された、音楽史的に大変貴重な写真の数々を収録。

●トミー・リピューマ・プロフィール
1936年7月5日生まれの音楽プロデューサー、オハイオ州クリーヴランド出身。ジョージ・ベンソンはじめ、アル・ジャロウ、マイケル・フランクス、マイルス・デイヴィスやダイアナ・クラール等、ジャズ/クロスオーヴァー/AORの名盤とされる作品を数多くプロデュース、グラミー賞の受賞作も多数。2017年3月13日に他界、享年80。

その生涯をベン・シドランがまとめたのが評伝『The Ballad Of Tommy Lipuma』(2020年刊)で、邦訳版『トミー・リピューマのバラード ジャズの粋を極めたプロデューサーの物語』(弊社刊)として発売中。

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