
名盤の立役者・トミー・リピューマ 第3&4回(全10回)
ローリング・ストーンズ「タイム・イズ・オン・マイ・サイド」

3月29日に発売になった新刊『トミー・リピューマのバラード ジャズの粋を極めたプロデューサーの物語』は、1960年代からブルー・サム〜A&M〜ワーナーなどで数多くの名盤を手がけたプロデューサー、トミー・リピューマの評伝です。著者は自らもオルガン/キーボード・プレイヤーとしてジャズ/ポピュラー音楽界で著名なベン・シドラン。すでに複数の著作も上梓している作家としての横顔も持つ彼が、トミー・リピューマの人物像を軸に、音楽業界の裏側や名盤の舞台裏を包み隠さず描いた一冊です。
そして第4回・ジョージ・ベンソン『ブリージン』は、ワーナーミュージックライフで同時公開。こちらもぜひお読みください。
WMLでの第4回・ジョージ・ベンソン『ブリージン』はこちら。

アンドリュー・ルーグ・オールダム公式フェイスブック・ページより。60年代、左からオールダム、チャーリー、キース。
以下、『トミー・リピューマのバラード ジャズの粋を極めたプロデューサーの物語』より引用。
(中略)
敢えて言うならば、このハリウッド大通りの部屋では音楽産業にまつわる歴史上のさまざまな出来事がおきた。ローリング・ストーンズが初めてLAに来た時、チャーリー・ワッツとキース・リチャーズがマネージャーのアンドリュー・オールダムとともに、曲を求めてメトリック・ミュージック(註2)にやって来た。トミーはミニット・レコードのカタログからさまざまな曲をかけた。やがて彼らはぽつりぽつりとひとりずつ帰っていったが、アンドリューだけが残った。彼は彼らに「ねえ、どこかでマリワナが手に入るかな?」と尋ねた。「どこで手に入るかは知らないけど、少しならうちにあるよ」とトミーが答えた。そして、ふたりはハリウッド大通りの彼の部屋に向かった。
トミーがマリワナを取り出し、彼とジョニー・ヘイズがオールダムのためにレコードをかけ始めた。ヘイズはシングルの完璧なコレクションを誇っていて、それぞれが緑色のジャケットに収められていた。彼らはR&Bの名曲やレアな曲をたくさん聴いた。翌日ジョニーが、仕事先にいたトミーに電話をかけてきた。「トミー、今昨晩聴いたシングルをジャケットに戻しているんだけど、空のジャケットだけが2枚残っているんだ」。「オールダムが持って行ったと思うかい?」とトミーが返事した。「もしかしたらな。でも、とにかく見つからないんだ」と彼は言った。
約1か月後、またジョニーが電話してきて言った。「ヘイ、あいつが持って行ったレコードの1枚は間違いなくわかったぜ」。それはアーマ・トーマスの「タイム・イズ・オン・マイ・サイド」だった。そしてその1枚はローリング・ストーンズのアメリカにおけるデビュー・ヒットとなった。
「別に盗まなくてもよかったのにな」トミーは言う。「ひと言僕に欲しいと言ってくれれば、カタログの全曲が揃っていたのに」
註1:マートーニーズ=ハリウッドにあった店。
註2:メトリック・ミュージック=リバティ・レコードの出版部門。当時リピューマはレニー・ワロンカー、ランディ・ニューマンらとともに同社で働いていた。

ザ・ローリング・ストーンズ
『ゴールデン・アルバム』(初回完全生産限定/SHM-CD)
CD(2021/6/30)¥2,934
WMLでの第4回・ジョージ・ベンソン『ブリージン』はこちら。
第5&6回は、それぞれボブ・ジェームス&デイヴィッド・サンボーンとモンタレー・ポップ・フェスティバルについてをWMCとMLCで取り上げます。5月21日公開。どうぞお楽しみに。
【WML×MLC連動連載企画】『トミー・リピューマのバラード ジャズの粋を極めたプロデューサーの物語』より
第1回 MLC・2021.05.07 フィル・スペクター “サウンドの壁”
第2回 WML・2021.05.07 マイケル・フランクス『アート・オブ・ティー』
関連ニュース MUSIC|EVENT
『トミー・リピューマのバラード ジャズの粋を極めたプロデューサーの物語』翻訳者 吉成伸幸を迎えてのトークイベントが実現!(5月22日開催)

アメリカの音楽界だけでなく、日本のポップス・ミュージック・シーンにも多大な影響を与え、AOR、シティ・ミュージックの先駆者である今は亡き名プロデューサー、トミー・リピューマ。グラミー賞に33度ノミネートされ、5度受賞。彼のプロデュースしたアルバムは7,500万枚以上の売り上げを記録している。彼が携わったImperial, A&M, Blue Thumb, Warner Bros., A&M/Horizon, Elektra, GRP/Verveというすべてのレーベルから、彼が手掛けた代表的な楽曲を収録した、未亡人公認のオムニバスCD。ジョージ・ベンソン、マイケル・フランクス、マイルス・ディヴィス他アーティストの数々の名曲を収録。AORファン、フュージョン・ファン垂涎の貴重な写真を収録したブックレットが付いた、3枚組CD。
ブックレットには、マイルス・デイヴィス、マイケル・フランクス、ダイアナ・クラール、ドクター・ジョン、サンドパイパーズ、クロディーヌ・ロンジェ、ニック・デヵロ、アル・シュミットなどと撮影された、音楽史的に大変貴重な写真の数々を収録。

●トミー・リピューマ・プロフィール
1936年7月5日生まれの音楽プロデューサー、オハイオ州クリーヴランド出身。ジョージ・ベンソンはじめ、アル・ジャロウ、マイケル・フランクス、マイルス・デイヴィスやダイアナ・クラール等、ジャズ/クロスオーヴァー/AORの名盤とされる作品を数多くプロデュース、グラミー賞の受賞作も多数。2017年3月13日に他界、享年80。
その生涯をベン・シドランがまとめたのが評伝『The Ballad Of Tommy Lipuma』(2020年刊)で、邦訳版『トミー・リピューマのバラード ジャズの粋を極めたプロデューサーの物語』(弊社刊)として発売中。

トミー・リピューマのバラード ジャズの粋を極めたプロデューサーの物語
BOOK・2021.03.03
3/29発売 ジャズやポップスの名伯楽トミー・リピューマ波乱万丈な人生を、ベン・シドランが綴る〜『トミー・リピューマのバラード ジャズの粋を極めたプロデューサーの物語』

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