
森田編集長の “音楽生活暦”
新連載 森田敏文(ミュージック・ライフ・クラブ編集長)
第4回:第64回グラミー受賞者・受賞作を見渡してのあれこれ
ミュージック・ライフ・クラブ編集長・森田敏文による連載・第4回! 月いちペースでミュージック・ライフ的な洋楽のアーティストや作品、業界やシーンに関するあれこれなど。「ミュージックなライフのカレンダーへ」、徒然なるままに語るその月の談話形式の雑記としてお送りします。
第4回目のテーマは、今週開かれたばかりの第64回グラミー賞授賞式について。ジョン・バティステが最優秀アルバムはじめ過去最多タイの5部門独占。最優秀ロック・アルバム賞他3部門を受賞したフー・ファイターズは直前にドラマーのテイラー・ホーキンズが突然の他界を受けて授賞式を欠席したり、まさにロシアの侵攻を受けているウクライナのゼレンスキー大統領がビデオで登場したりと、何かと話題でした。
第4回目のテーマは、今週開かれたばかりの第64回グラミー賞授賞式について。ジョン・バティステが最優秀アルバムはじめ過去最多タイの5部門独占。最優秀ロック・アルバム賞他3部門を受賞したフー・ファイターズは直前にドラマーのテイラー・ホーキンズが突然の他界を受けて授賞式を欠席したり、まさにロシアの侵攻を受けているウクライナのゼレンスキー大統領がビデオで登場したりと、何かと話題でした。

●グラミー賞から透けて見えた、米国音楽業界、その「迷い」と「底力」
◆ 名門一家から生まれた新しいR&B界の大スター、ジョン・バティステ。一方ロック界は? ◆
率直な印象としては、今年はジョン・バティステ、オリヴィア・ロドリゴ、ソウル・ソニック、フー・ファイターズの年だったという感じでしょうか。
まずジョン・バティステですが、彼が年間最優秀アルバム(ALBUM OF THE YEAR)始め5部門も取るとは予想していませんでした。MLCでも読者の皆さんの音楽的嗜好にマッチするだろうと彼のニュースはずっと取り上げて来ましたが、ここまでの人気は予想を超えていました。ジャズ、R&B、ヒップホップ的なもの、つまり伝統と新しさをジャンル横断する形で兼ね備えているので、色んな人が支持したのはわかります。それにアメリカのエンターテインメントを全方位でしっかり体現しているのも強みだったんでしょう。映画『ソウルフル・ワールド』で知った方も、驚きの躍進だったと思います。またニューオリンズ音楽ファンからすると、あのバティステ一族の出身、という嬉しい驚きもありました。
ロック部門3冠がフー・ファイターズで、これは驚きました。ベテランが多数ノミネートされていて、もっと票がバラけるかと思っていましたが、集中しましたね。ロック・アルバム賞(BEST ROCK ALBUM)にノミネートされていたのが、AC/DCにクリス・コーネル、ポール・マッカートニー、フー・ファイターズ。唯一ブラック・ピューマズが新しいくらいで、こんなにベテランばかりで良いのか?って。去年はストロークスが取っているから、もうちょっと若かったし。このロック部門の受賞だけ見たら、ロックは中高年のもの、という感じがします。まあアメリカのみならず世界の実態もそれに近いのかも知れないですけど。
フー・ファイターズに票が集中したのは、やはりテイラー・ホーキンズが亡くなった事に因るんでしょうけど、正直ロック部門は特に注目ポイントはなかったように思います。
普通にヒット・チャートを見ると、ポップ・ソングかヒップホップかR&Bで、ロックはほとんど入る余地が無い。今回の受賞傾向を見るとヒット・チャートが素直に反映されていた一方で、ロックは若手がなかなか認知されない状況になってきているように感じました。
ミュージック・ライフ・クラブ的にはベテランが注目されるのは良いんだけど、一方でロックというジャンルを考えたら決して明るくはないですね。ロックを聴くのが、日本の洋楽を聴く世代と同じように、アメリカでも中高年世代のものだけになっていかないか気にはなります。ポップスやR&Bでは若い才能が出てきて、あれだけ支持されているのを見ると余計にそう思っちゃう。
◆ 評価された「楽曲そのものの良さ」は今も昔も変わらず/存在感を見せつけたアジア勢 ◆
主要4部門の内2冠に輝いたシルク・ソニックは、70年代ソウルが好きな我々にとっては、懐かしいし、楽曲もすごい良く出来ているし、正にその頃の良さを体現してくれている所がある。じゃ、何か新しいか?って言ったら、サウンド的には特別な新しさは感じない。これも原点回帰現象なのかなと。どちらかというと、楽曲そのものの良さに改めて聴き手の意識が向いて来たのか、と。ノミネートされたドージャ・キャット Featuring シザの楽曲「Kiss Me More」も、オリビア・ニュートン・ジョンのヒット曲「フィジカル」をサンプリングしていたりするしね。
オリヴィア・ロドリゴの4冠も凄かったですね。昨年のビリー・アイリッシュ的存在でわかりやすかった。可愛くてポップで、歌詞も現在の10代の有りようを投影している等身大のもので、最大公約数的な魅力を持っている。
イギリス勢が全然取れなかったけど、アジア系は入り込んでいましたね。BTSは取れなかったものの存在感を示したし。ブルーノ・マーズもオリヴィア・ロドリゴもフィリピン系の血が入っていて、それにジャパニーズ・ブレックファストは韓国系でしょ。そういう意味ではアジア系も当たり前の時代になってきたように感じました。
◆ 日本とアメリカ、音楽マーケットの認識にズレあり。ジャンルを超えた音楽的交流も増え続けている ◆
メタル部門(Best Metal Performnace)は今年ドリーム・シアターが受賞したけれど、ノミネートされているのがデフトーンズ、ロブ・ゾンビなどだし、昨年の受賞はアイスT率いるボディ・カウント。2020年受賞はトゥール(Tool)。日本で語られるメタルというジャンルとは違いがありますね。
会場で演奏したクリス・ステイプルトンとかオズボーン・ブラザーズなど、日本だとアメリカではカントリー・ミュージックとしてで語られる人達も気になりました。ステージではカントリーの要素は殆どなくて、ロックンロールやルーツ・ロック的なニュアンスが強かった。そういう意味ではカントリーというジャンルが幅を広げているんでしょうね。かつてはシャナイア・トゥエインとかが売れた時代や、最近のテイラー・スウィフトのようなものもあるけど、もっと幅が広くなって、ロックが当たり前のように取りこまれている。おそらくその境界線は時代時代で変わるんだろうけど、ロック耳でも何の違和感もなく聴けるし、魅力的でした。
◆ リアルなシーンを反映させるためグラミー賞サイドも苦労? 同時に「さすが!」な層の厚さも再認識 ◆
グラミー賞のカテゴリーがいっぱいあるのは知っていましたが、今やラップ部門も細かく分かれていて驚きました。それは時代を明らかに反映しているんでしょう。しかしその一方で昨年のウィークエンドのように今後グラミーをボイコットすると表明したり、音楽シーンの動向とグラミーが正確にリンクしていた時代とは違っているのも確かです。
実はグラミーにあまり関心を持てなくなってきていたんですが、今回こうやって授賞式を改めて見ると、やはりアメリカのエンターテインメントの強さ、層の厚さを凄く感じたし、とても面白かったです。飽きることなく通して見ることができました。
率直な印象としては、今年はジョン・バティステ、オリヴィア・ロドリゴ、ソウル・ソニック、フー・ファイターズの年だったという感じでしょうか。
まずジョン・バティステですが、彼が年間最優秀アルバム(ALBUM OF THE YEAR)始め5部門も取るとは予想していませんでした。MLCでも読者の皆さんの音楽的嗜好にマッチするだろうと彼のニュースはずっと取り上げて来ましたが、ここまでの人気は予想を超えていました。ジャズ、R&B、ヒップホップ的なもの、つまり伝統と新しさをジャンル横断する形で兼ね備えているので、色んな人が支持したのはわかります。それにアメリカのエンターテインメントを全方位でしっかり体現しているのも強みだったんでしょう。映画『ソウルフル・ワールド』で知った方も、驚きの躍進だったと思います。またニューオリンズ音楽ファンからすると、あのバティステ一族の出身、という嬉しい驚きもありました。
ロック部門3冠がフー・ファイターズで、これは驚きました。ベテランが多数ノミネートされていて、もっと票がバラけるかと思っていましたが、集中しましたね。ロック・アルバム賞(BEST ROCK ALBUM)にノミネートされていたのが、AC/DCにクリス・コーネル、ポール・マッカートニー、フー・ファイターズ。唯一ブラック・ピューマズが新しいくらいで、こんなにベテランばかりで良いのか?って。去年はストロークスが取っているから、もうちょっと若かったし。このロック部門の受賞だけ見たら、ロックは中高年のもの、という感じがします。まあアメリカのみならず世界の実態もそれに近いのかも知れないですけど。
フー・ファイターズに票が集中したのは、やはりテイラー・ホーキンズが亡くなった事に因るんでしょうけど、正直ロック部門は特に注目ポイントはなかったように思います。
普通にヒット・チャートを見ると、ポップ・ソングかヒップホップかR&Bで、ロックはほとんど入る余地が無い。今回の受賞傾向を見るとヒット・チャートが素直に反映されていた一方で、ロックは若手がなかなか認知されない状況になってきているように感じました。
ミュージック・ライフ・クラブ的にはベテランが注目されるのは良いんだけど、一方でロックというジャンルを考えたら決して明るくはないですね。ロックを聴くのが、日本の洋楽を聴く世代と同じように、アメリカでも中高年世代のものだけになっていかないか気にはなります。ポップスやR&Bでは若い才能が出てきて、あれだけ支持されているのを見ると余計にそう思っちゃう。
◆ 評価された「楽曲そのものの良さ」は今も昔も変わらず/存在感を見せつけたアジア勢 ◆
主要4部門の内2冠に輝いたシルク・ソニックは、70年代ソウルが好きな我々にとっては、懐かしいし、楽曲もすごい良く出来ているし、正にその頃の良さを体現してくれている所がある。じゃ、何か新しいか?って言ったら、サウンド的には特別な新しさは感じない。これも原点回帰現象なのかなと。どちらかというと、楽曲そのものの良さに改めて聴き手の意識が向いて来たのか、と。ノミネートされたドージャ・キャット Featuring シザの楽曲「Kiss Me More」も、オリビア・ニュートン・ジョンのヒット曲「フィジカル」をサンプリングしていたりするしね。
オリヴィア・ロドリゴの4冠も凄かったですね。昨年のビリー・アイリッシュ的存在でわかりやすかった。可愛くてポップで、歌詞も現在の10代の有りようを投影している等身大のもので、最大公約数的な魅力を持っている。
イギリス勢が全然取れなかったけど、アジア系は入り込んでいましたね。BTSは取れなかったものの存在感を示したし。ブルーノ・マーズもオリヴィア・ロドリゴもフィリピン系の血が入っていて、それにジャパニーズ・ブレックファストは韓国系でしょ。そういう意味ではアジア系も当たり前の時代になってきたように感じました。
◆ 日本とアメリカ、音楽マーケットの認識にズレあり。ジャンルを超えた音楽的交流も増え続けている ◆
メタル部門(Best Metal Performnace)は今年ドリーム・シアターが受賞したけれど、ノミネートされているのがデフトーンズ、ロブ・ゾンビなどだし、昨年の受賞はアイスT率いるボディ・カウント。2020年受賞はトゥール(Tool)。日本で語られるメタルというジャンルとは違いがありますね。
会場で演奏したクリス・ステイプルトンとかオズボーン・ブラザーズなど、日本だとアメリカではカントリー・ミュージックとしてで語られる人達も気になりました。ステージではカントリーの要素は殆どなくて、ロックンロールやルーツ・ロック的なニュアンスが強かった。そういう意味ではカントリーというジャンルが幅を広げているんでしょうね。かつてはシャナイア・トゥエインとかが売れた時代や、最近のテイラー・スウィフトのようなものもあるけど、もっと幅が広くなって、ロックが当たり前のように取りこまれている。おそらくその境界線は時代時代で変わるんだろうけど、ロック耳でも何の違和感もなく聴けるし、魅力的でした。
◆ リアルなシーンを反映させるためグラミー賞サイドも苦労? 同時に「さすが!」な層の厚さも再認識 ◆
グラミー賞のカテゴリーがいっぱいあるのは知っていましたが、今やラップ部門も細かく分かれていて驚きました。それは時代を明らかに反映しているんでしょう。しかしその一方で昨年のウィークエンドのように今後グラミーをボイコットすると表明したり、音楽シーンの動向とグラミーが正確にリンクしていた時代とは違っているのも確かです。
実はグラミーにあまり関心を持てなくなってきていたんですが、今回こうやって授賞式を改めて見ると、やはりアメリカのエンターテインメントの強さ、層の厚さを凄く感じたし、とても面白かったです。飽きることなく通して見ることができました。
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