ティム・バージェス、シャーラタンズとして来日。9月にリリースしたばかりの新作ソロについて語る来日インタヴュー

10月2日・3日にザ・シャーラタンズの一員として来日公演を行なったティム・バージェス。9月23日にリリースされたソロとしてのニュー・アルバム『Typical Music』は、なんと全22曲を収録した大作! 「水道の栓をひねったら水が溢れ出てくるように、次から次へと曲が出来ていったんだよね。『いつかダブル・アルバムを作りたい』という気持ちは常にあったし、その機会がたまたま今回訪れた」と、その裏側を語る貴重な来日インタヴューをお送りします。

90年代初頭のシャーラタンズのプロモーション写真。左から二人目がティム・バージェス。
 


1980年代後半から1990年代初頭にイギリスのインディ・シーンを席巻したマッドチェスター・ムーヴメント。その主要バンドの一つであり、今なおコンスタントの作品をリリースし続けるザ・シャーラタンズのフロントマン、ティム・バージェスによる通算6枚目のソロ・アルバム『Typical Music』がリリースされた。前作『I Love The New Sky』からおよそ2年ぶりとなる本作は、なんと1時間半に及ぶ全22曲入りのダブル・アルバム。ザ・ヴェルヴェット・アンダーグラウンドを彷彿とさせる「Here Comes The Weekend」で幕を開け、ソフト・サイケやガレージ・ロック、ジャズ、プログレ、サーフ・ロックなど実に様々な楽曲が並び、聴き手を全く飽きさせない。

「水道の栓をひねったら水が溢れ出てくるように、次から次へと曲が出来ていったんだよね。『いつかダブル・アルバムを作りたい』という気持ちは常にあったし、その機会がたまたま今回訪れた。おそらく僕自身の人生が、この時期にターニング・ポイントを迎えたとのも大きかったと思うな。例えば妻と別れたこともそうだし、それに伴い息子がどういう気持ちになったかについて深く考えたよ。それから父親が亡くなった。容態はかなり悪かったから覚悟はしていたつもりだったのだけど、やはりとても辛かったしショックだった。コロナ禍だったので、ちゃんと送り出す事すらできなかったんだよ。その一方で新しい恋愛が始まり、それは自分自身にポジティヴな影響を与えている。今話したような経験がアルバムに濃縮されているから、本作を聴くと過去を乗り越え新しい未来へと向かっていくような、そんな気分を味わえると思う」

レコーディングにはコイル(Coil)、ジュリアン・コープ(Julian Cope)、スピリチュアライズド(Spiritualized)らと共演経験のあるサイポルサンドラ(Thighpaulsandra)、具ランブリング・ファー(Grumbling Fur)のマルチインストゥルメンタリストであるダニエル・オサリヴァン(Daniel O'Sullivan)が参加。ヴァラエティ豊かな本作に大きく貢献している。

「彼らなしで本作は作れなかったと思っている。もちろん全ての楽曲のコードとメロディも僕が書いたのだけど、二人がそこに深みを足してくれた。例えば適切なテンポ感についてアドバイスをくれたり、時には新しいコード展開を提案してくれたりね。僕がアコギで作ったデモが、彼らのアイデアや演奏力に助けられたからこそ、あのサウンドスケープへと到達することができたんだ」

さらにミックス・エンジニアとして、マーキュリー・レヴの頭脳でありフレイミング・リップスやモグワイ、初期ナンバー・ガール(Number Girl)などを手掛けた鬼才デイヴ・フリッドマン(Dave Fridmann)が参加。本作のめくるめくサイケデリアを存分に引き出している。

「サイポルサンドラとダニエル・オサリヴァンのおかげでベストな仕上がりとなった音像を、さらに一段階上げてくれたのがデイヴだった。ベラ・ユニオン(Bella Union)のボスで、元コクトー・ツインズ(Cocteau Twins)のサイモン・レイモンド(Simon Raymonde)が強烈にプッシュしてくれたんだけど、それがなくても僕の頭の中にはデイヴがイメージされていたよ」

それにしても1時間半にも及ぶリスニングタイムを退屈なしに乗り切ってもらうには、例えば曲間や曲順など様々な工夫が必要だったのではないだろうか。

「悪夢だったよ(笑)。最初にアンセミックな曲を持ってきて、最後は “What's Meant For You Won't Pass By You” で終わるということだけは決めていて、その間をどういう流れにするか。聴き手の好奇心を保ち続けるための方法を模索した。とにかくジャンルや文脈などは気にせず、いろんなタイプの曲を組み合わせていくことによってコントラストを生み出すことが大事だと思っていたんだ」

まるでビートルズの『ホワイト・アルバム(The Beatles)』やプリンスの『サイン・オブ・ザ・タイムス(Sign o' the Times)』のような、壮大なダブル・アルバムを作り出したティム。最後に、彼が考える「ロック史上に残る完璧なダブル・アルバム」を挙げてもらった。

「難しいな(笑)。今挙げてくれた2枚は当然マスト。それからブルース・スプリングスティーンの『ザ・リバー(The River)』もいいね。ザ・ローリング・ストーンズの『メインストリートのならず者(Exile on Main St.)』やザ・クラッシュの『ロンドン・コーリング(London Calling)』、トッド・ラングレン『サムシング/エニシング(Something/Anything)』なんかも捨てがたいね」
商品情報
ティム・バージェス
『ティピカル・ミュージック』


Amazon Music・MP3(2022/9/23)¥1,800
CD(2022/9/23)¥2,750
ビッグ・ナッシング/ウルトラ・ヴァイヴ
BELLA1311CDJ[CD/国内流通仕様]
¥2,500 + 税
2022.09.23 世界同時発売、解説付
購入はこちら

収録曲
1. Here Comes The Weekend
2. Curiosity
3. Time That We Call Time
4. Flamingo
5. Revenge Through Art
6. Kinectic Connection
7. Typical Music
8. Take Me With You
9. After This
10. The Centre of Me (Is a Symphony of You)
11. When I See You
12. Magic Rising
13. Tender Hooks
14. L.O.S.T Lost / Will You Take A Look At My Hand Please
15. A Bloody Nose
16. In May
17. Slacker (Than I've Ever Been)
18. View From Above
19. A Quarter to Eight
20. Sooner Than Yesterday
21. Sure Enough
22. What's Meant For You Won't Pass By You

●この2年間で、これほど多忙なミュージシャンがいただろうか? 多作なアーティスト? クリエイティヴな人? それともヒーロー? バンド・リーダー、ソロ・スター、レーベル主宰者、回顧録の筆者、そしてカフェイン中毒の万能選手であるティム・バージェス(Tim Burgess)は、「ヒーロー? レコードをかけただけでか?」と間違いなく最後の賞賛に尻込みするだろう。でも、僕らは彼をヒーローと呼ぶ。それは、2020年5月、5枚目のソロ・アルバム『I Love The New Sky』を半ば強引にリリースし、憂鬱な世界に光をもたらしたからだけではない。パンデミックの最初の1年間、ティムの「ツイッター・リスニング・パーティー」は多くの人にとって命綱となった。世界が閉ざされ、誰もが屋内に引きこもり、ライヴのキャンセルが心配の種だった時代に、ソーシャル・メディアを活用してデジタル・ターンテーブルを囲んで団結しようというノース・カントリー・ボーイのアイデアは、インスピレーションを与えてくれるものだった。一方、ティムは曲を書き続けていた。2020年9月から2021年夏にかけて、ティムからはアイデアが溢れ出ていた。また、自身のレコード会社ベラ・ユニオン(Bella Union)のボスで、元コクトー・ツインズ(Cocteau Twins)のサイモン・レイモンド(Simon Raymonde)に、「新作を作ればいい。そうすれば、再びツアーができるようになったとき、2枚のアルバムに相当する曲を演奏することができる」と励まされてもいた。今、ティムには、ライヴで演奏するアルバム3枚分の曲がある。『Typical Music』は、22曲入りのダブル・アルバムで、豊かで幅広く多様な曲で構成された超大作だ。ファンキーで楽しく、心の痛みも愛も受け入れている。ゲスト・ヴォーカルにパール・チャールズ(Pearl Charles)を迎え、ABBAからザッパまで、あらゆるジャンルの曲を収録している。

●ティム・バージェスはロック・バンド、ザ・シャーラタンズ(The Charlatans)のフロントマンとして知られる。ザ・シャーラタンズは1990年、デビュー・アルバム『Some Friendly』をリリース。全英チャートの1位を獲得しインディ・バンドとしては破格の成功を収める。その後も『The Charlatans』や『Tellin' Stories』といったアルバムが全英1位を獲得。2017年には目下の最新作で13枚目となるアルバム『Different Days』(全英4位)をリリースしている。一方、ティム・バージェスはソロでも活動。2003年にはファースト・ソロ・アルバム『I Believe』、2012年にはラムチョップ(Lambchop)のカート・ワグナー(Kurt Wagner)と制作した『Oh No I Love You』、2016年にはピーター・ゴードン(Peter Gordon)とのコラボレーション・アルバム『Same Language, Different Worlds』、2018年には2008年にレコーディングされお蔵入りとなっていたアルバム『As I Was Now』、2020年5月には目下の最新作となる『I Love The New Sky』と計5枚のアルバムをリリースしている。

■More info:Big Nothning

商品情報
ティム・バージェス
『I Love The New Sky』


Amazon Music・MP3(2020/5/22)¥1,800
CD(2020/6/3)¥2,312

商品情報
Tim Burgess
『As I Was Now』


Amazon Music・MP3(2018/5/11)¥1,500

商品情報
ティム・バージェス
『I Believe』


Amazon Music・MP3(2003/9/8)¥1,600

 
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