あるカップルの、“結婚前夜” と “離婚前夜” の物語──極上のミュージカル・エンターテインメント、映画『トゥモロー・モーニング』

「あしたの朝、すべてが変わる」くり返し歌われるフレーズが耳に残る。人生の重大な局面を迎えたカップルの、気づきのマリッジ・ミュージカル。あしたになれば結ばれるふたりと、あしたになれば別れるふたり。ロンドン、テムズ川のほとりを舞台にふたつのあしたの朝が描かれる。

キャサリンは画家、ビルは小説家志望。大恋愛の末に結婚したふたりは、ジグソーパズルのようにぴったりだった。息子が生まれ、仕事も順調。でもいつの間にかパズルのピースが欠けてきた。すれちがい、口論、お互いの胸をえぐるような会話にくたびれ果てた。離婚の調停審理をあしたに控え、思い出されるのは過去のふたりのことばかり。離婚前夜とその10年前の結婚前夜の男女が交互に（ときには混じりあって）スクリーンに現れる。

2006年にロンドンで初演、日本でもシアタークリエで2013年に上演された舞台がオリジナル。制作15年を記念して新ヴァージョンでの映画化となった。監督は、クイーンのミュージカル『We Will Rock You』の演出・振付家、ニック・ウィンストン。

舞台を映画に翻訳するにあたって変更したのは主人公のカップル。舞台では二人一役、つまり離婚寸前の夫婦と結婚間近の恋人同士という2組の対照的なカップルを4人の役者が演じていた。実はそれが1組のカップルの現在と過去だったというオチになるのだけれど、映画では一人一役、キャサリンもビルもそれぞれ演じる役者はひとり。

「たとえ世界が崩れ落ちたとしても、決してこの瞬間を忘れない、今このときのふたりを忘れない」そう誓いあった結婚前夜のふたりだった。恋に恋する若くてラブラブな恋人同士だったのに、10年たってこの修羅場。顔をみれば角突きあわせ、財産分与でもめ、一人息子を泣かせている。自分で自分が腹立たしい。腹立たしくてつらい。ためらいもあれば後悔もある。もとに戻れることを期待している自分がいて、それがまた腹立たしくて酷い口論になってしまう離婚前夜の夫婦。

夫婦のもめごとに外野はあてにならない。キャサリンの祖母と母は、どちらも離婚経験者。「パリで男をナンパしよう」傷心の孫娘に祖母は言う。「おまえはもっと毅然として女房からカネをとれ」ビルの父は息子の尻をたたく。皮肉なことにビルはいま、ダイヤモンドの広告コピーで悩んでいる。永遠の輝き、永遠の愛、変わらぬ愛などどこにあるのか。英語でもっともキケンな4文字、それはWill you marry me?

そんなコミカルな一面もあるロマンス劇のみどころは、世界トップのミュージカル・スター、サマンサ・バークスとラミン・カリムルーの共演だ。ダンスの場面は少なく、役者の動きも抑えられている。パッションよりも情感。男女の恋愛の機微に触れるカジュアルなミュージカル。

あしたの朝すべてが変わるのは大人だけではない。小学生の息子が衝動的にとった行動が、はっとするような問いを夫婦に突きつける。「その愛は確かか」と。