【新シリーズ・スタート!】

「聴く専門家」による最新オーディオ体験記 初回〜オーストリアン・オーディオのヘッドフォン2機種〜ゲスト:増田勇一《前編》

撮影◉江隈麗志/C-LOVe CREATORS 取材協力◉株式会社エムアイセブンジャパン 取材/文責◉辻口稔之(MUSIC LIFE CLUB)

今回からスタートしました新シリーズ。MLC流のオーディオ試聴体験企画です。被験者には、言わば “聴く専門家” たる「評論家/音楽ライター」の方にご登場いただき、慣れ親しみ聴き込んできた楽曲を、最新のオーディオ製品で試し聴きしていただきましょう! 初回ゲストは元『BURRN!』副編集長にして元『ミュージック・ライフ』編集長で、現在は音楽評論家/ライターとしてご活躍中の、みなさんおなじみ増田勇一氏!

最新製品の “音” 解説を存分にお楽しみいただき、気になったらぜひ店頭であなたもお試しを。そして氏による音の感想の向こう側に見え隠れする、サンプル音源への作品評や尽きぬ愛情なんかもお見逃しなく! 前・後編に分けてお送りいたします。

── 前編・目次 ──

●試聴機器:ヘッドフォン4種

今回取材にご協力いただいたのは、オーストリアン・オーディオ。2017年7月、その名の通りオーストリアのウイーンで創業した新進気鋭のオーディオ・メーカー。しかしながら技術スタッフはその道の老舗であるAKGに元々在籍していた人物ばかりで、社としての歴史は短くともその技術は折り紙つき。

Austrian Audio

そして試聴に使用したのは主に、同社の技術の粋を投入したハイエンド製品としてのフラッグシップ・モデル「Hi-X65」「Hi-X60」の2機種。ともにオーバーイヤー型で、前者は耳当て部分の外面が網状になった「開放型」で、対する後者は板で完全に覆った「密閉型」。それぞれの音の魅力/特徴は、試聴した増田氏のコメントでお分りいただけると思いますので、それについては後ほど。

さらに、「Hi-X65」「Hi-X60」2機種の他、よりお求め安い価格帯のコンシューマー・モデルとして「Hi-X25BT」と「Hi-X15」も試聴。
開放型オーバーイヤー
プロフェッショナル・モニター・ヘッドフォン

 
Hi-X65

¥63,800

製品情報
密閉型オーバーイヤー
プロフェッショナル・モニター・ヘッドフォン

 
Hi-X60

¥63,800

製品情報
BLUETOOTHオーバーイヤー・ヘッドフォン

Hi-X25BT

¥28,600

製品情報
密閉型オーバーイヤー・ヘッドフォン

Hi-X15

¥20,900
 
※Austrian Audio日本上陸5周年記念のプロモーション価格を12月末まで実施中。詳しくはエムアイセブンジャパンのWEBにて。

●普段のリスニング環境は?

試聴、その前に。では増田氏の普段のリスニング環境は?──プライヴェートでリラックスして聴くのと、レヴューやインタヴュー取材前の “しっかりチェック” の際の聴き方も異なるはず。参考までに普段使いのヘッドフォンもお持ちいただきました。

「普段使っているのは、ミニ・コンポの……そんなに悪くないやつ(苦笑)。それを作業机──デザイナー用の、広くて大きい、奥行きもしっかりあるデスク──の、原稿を書くPCの正面に置いてあって。仕事以外、BGMで何かかけたりする時にはそれや、Spotifyで流しっぱなしにしている状態。アルバム・レヴューなどのために試聴する際は、ヘッドフォンとスピーカーでの聴き比べを必ず少なくとも1回ずつはやります。やっぱり聴こえ方の印象の違いも出てきますし。特に今時のものにはそういうのが多いように思います」

「移動の時は、最近は極力聴かないようにしてます。以前はずっとiPodなどの携帯プレーヤーを使ってたんだけど、それだと一日中何か聴いてることになってしまうし、耳がすごく疲れてしまうんで、耳をいたわるためにも移動の時ぐらいはむしろ聴くのをやめておこう、と。あと、聴くのに集中しすぎて電車で降りる駅を乗り過ごしちゃうことが何回もあったりしてね(笑)」

「イヤホンは、たまにそんな移動中に聴かなきゃいけない時とか、インタヴューの原稿を文字に起こす時とかに使うだけ。音楽を聴くのはたいがいヘッドフォンですね。DVDで映画やライヴ映像作品を観る時にも使うし、仕様頻度はかなり高いのでそこそこのものが欲しいなと思って、これは去年買い換えました。たまにDJをやる時のためにはまた別なのを。使い方が荒いのか、よく壊すんです(笑)。これを選んだポイントは、まず〈装着感〉と〈重低音〉。仕事上、重低音が重要な音楽を聴くことが多いので(笑)。レヴューとかする時は『なるべく平均値で聴かなければ』と思うから、自分が気持ちいいようにイコライジングで調整したりはしません。必ず音源の音を『そのまま聴く』ようにしてます」

●試聴の為にと増田氏が持参したアルバムがこちら

というわけで、いよいよ試聴です。ご持参いただいた普段使いのヘッドフォンで音量感を確認、そしていざ試聴実機で。ちなみに、音源も「普段聴きなじんでいるものを」ということでこれもご持参いただいていて、それが以下の通り。「増田さんそうこなくっちゃ!」なセレクションですね。試聴にあたっては、事前の編集部による試聴で、ソースとなるディスクの製造が古いと「それなりの音」にしかならないのに加え、かえって音の古さ・悪さを際立たせてしまったことから、「古い作品でも、最近のリマスターのものをお持ちください」とお願いしました。曰く「当然でしょう!」と、申し上げるまでもありませんでしたが!

読み込み中.....

クイーン『ボヘミアン・ラプソディ(オリジナル・サウンドトラック)』(2018年10月発売)
ガンズ・アンド・ローゼズ『ユーズ・ユア・イリュージョン I 』[デラックス・エディション](2022年11月発売)
エアロスミス『グレイテスト・ヒッツ』(2023年8月発売)
メタリカ『72シーズンズ』(2023年4月発売)
ブラー『The Ballad of Darren』(2023年7月発売)
ジョン・バティステ『ワールド・ミュージック・レディオ』(2023年8月発売)
ピンク・フロイド『狂気 - 50周年記念SACDマルチ・ハイブリッド・エディション(7インチ紙ジャケット仕様)』(2023年4月発売)

●いざ試聴! Hi-X65とHi-X60、その実力や如何に!?

クイーン『ボヘミアン・ラプソディ(オリジナル・サウンドトラック)』より

クイーン『ボヘミアン・ラプソディ(オリジナル・サウンドトラック)』より
「20世紀フォックス・ファンファーレ」
〜「愛にすべてを」

普段使いのものからHi-X65へと交換、いよいよ本番。開放型のHi-X65で再生を始めて間も無く、独り言でポソっと「あー、全然違う……」と、思わず言葉が漏れ出てしまう氏。音漏れも気にしつつ、「音は結構デカめにしてました。結構音漏れしてた? (装着せず再生して漏れ具合を確認)あ、でもこんなもんか。外側の網の部分から余計な音を抜けさせてるんだね」と試してみたりする。

●Hi-X65[開放型]
「最初に選んだサンプルがたまたま分かりやすかったのかもしれませんね。“20世紀フォックス” のファンファーレは、最初のドラムに続いて入ってくるブライアン・メイの弾くギターの音だけで余計な音が少ないから、楽器の鳴り方がまったく違って聴こえる。普段のヘッドフォンで聴く時は “音が割れる寸前” くらいの大きめな音で聴いてたんですけど、出だしのドラムの音からして “楽器の音” をちゃんと聴いてる気がしました。ギターの音にしても、いかにもブライアン・メイらしい高音を引き立たせたようなあの音が、言い方は変だけど『芯があるのに柔らかい』みたいに聴こえて。全体としても普段使いのと同じ音量で聴いても割れる感じもなく、非常に心地よく聴けました」
「その次に入って来るのが “愛にすべてを” なんですが、冒頭のピアノだけの部分からバンドが入って、フレディ・マーキュリーの歌とそれに続くコーラスが──段々と音が増えていくのを聴いていくと、音像の強/弱のメリハリがものすごくしっかりしてるのが感じられた。あとコーラスの、普段耳が追っているメロディとは別のところに耳が向いちゃう感じがありますね。だから普段聴き逃している部分がしっかりと聴こえてきて、ちょっと驚いちゃいました」

●Hi-X60[密閉型]

「で、[密閉型]の方にすると、余計な音を外へ逃してないからかなのか、『全部の音を聴けー!』と言われているかのような、細部までが痛いほどハッキリしている感じがしました。この2曲に関してはそんな印象。……これからよりうるさいものを聴くのが怖くなってきますね(笑)」

こういう時、人間の感覚のすごさを実感させられますよね。同じ音源であれば、「普段使いの愛機」から「慣れない試聴機」に変えただけで、細部に至るまでその違いを耳が追って、ちゃんと聴き分けてしまえる。それが「聴くこと」を生業としている増田氏のような方であればなおさらです。そのうえ何十年も聴いてきた曲なのだから!──ただしこれ、どこまでが増田氏の能力で、どこからがHi-X65とHi-X60の実力なのか? 実はこれ、試聴を進めるに従い徐々に明らかになっていきます。そして増田氏、「じゃあここからは違いの分かりやすそうなものからどんどんやっていきましょうか!」ともうノリノリです。新しいおもちゃを手にしたようなこども的なアレです。

ガンズ・アンド・ローゼズ『ユーズ・ユア・イリュージョン I』[デラックス・エディション]より

ガンズ・アンド・ローゼズ『ユーズ・ユア・イリュージョン I』[デラックス・エディション]より
「ライト・ネクスト・ドア・トゥ・ヘル」
「ノーヴェンバー・レイン」

(「ライト・ネクスト・ドア・トゥ・ヘル」イントロが終わったあたりで)「(笑)……いやいやいや、すごいわコレ。完全に “飛んで火にいる夏の虫” になってるわ、俺(笑)」と、すでに降参気味の独り言も。

●アルバム『ユーズ・ユア・イリュージョン I』解説
「まず作品の説明をしておくと、これは『ユーズ・ユア・イリュージョン』の『 I 』の方です。30周年記念エディションが一昨年の30年めに間に合わず31年めの去年出たんですが(笑)、ちゃんとリマスターもされていまして。じゃあなぜ『 II 』も同時に出た中でこの『 I 』の方を持ってきたかというと、こちらには “ノーヴェンバー・レイン” にオリジナルには入っていない50人編成のオーケストラが入っていて、しかもポーキュパイン・トゥリーのスティーヴン・ウィルソンがリミックスしているという。そもそも、実際91年に出た元のCDと、この新しいヴァージョンを聴き比べてみただけでも全然迫力もクリアさも違うんですけど。ただ、これが発売された90年代ってもう音が良い時代じゃないですか。しかもこの時の彼らは湯水のように金を使ってレコーディングしていたわけで。だからこれまでも、このアルバムが音の悪いアルバムだなんて思ったことはないんですが……」

●Hi-X65[開放型]
「1曲めの “ライト・ネクスト・ドア・トゥ・ヘル” は、まずベースから入って、ドラムが入ってきてギターがギュワ〜ンッ!と来てヴォーカルがガッと入ってきて、そこからいきなり興奮が最高潮に向かっていく感じ。Hi-X65で聴くと、それが何倍も増幅・強調されていて。普段使いのもので聴いてもその感覚はあったにもかかわらず……音の位置というか、動きというか──例えば右後ろから入ってきて反対に左前方に音が駆け抜けていくような感覚──愛機で聴いている時にはさほど感じていなかったものを、とても強く感じました。ちょっと驚かされますね、これは」
「“ノーヴェンバー・レイン” に関しては、最初静かにピアノとストリングスで始まって、それが長めに続いて次に歌が入ってくるんですけど。ストリングスが『旧ヴァージョンにちょっと加えてみました』という程度の聴こえ方じゃないんだよね。オーケストラが背後にいて、その手前でメンバーが演奏している、その〈人の配置〉が感じられるような。作り手の意図した音の定位がちゃんと伝わってくるというか、それがより生々しく感じられました。途中からギターが入ってくるところとかは、いきなりスラッシュの姿が目の前に現れる感じというか、目を見開いて見上げさせられるイメージ(笑)。ヴォーカルも、元のヴァージョンよりリマスター版は手前に出してきているんだけど、その意図がHi-X65では普段使いのものより、さらに明確に伝わってきました」

●Hi-X60[密閉型]

「こちらで同じものを聴いてみたら、Hi-X65よりも一層、全部刺激が強くなる感じがしました。小さな音まで粒だちがハッキリして、全部が刺激的になったというか。ただ、自分の好みとしては、どちらかというとHi-X65の方かな」

エアロスミス『グレイテスト・ヒッツ』より

エアロスミス『グレイテスト・ヒッツ』より
「バック・イン・ザ・サドル」
「エレヴェイター・ラヴ」

次にどれを試聴しようかとなって、「どうぞ、自分が楽しく聴ける感じで進めてください」とスタッフが応じると、「じゃあエアロで!」と即答。間も無く大音量の「バック・イン・ザ・サドル」が漏れ聴こえてきます。続いて「エレヴェイター・ラヴ」を聴き終え、「我ながらいやらしい “答え合わせ” の選曲をしているなあと思います(笑)」と謎めいたコメントが。

●アルバム『グレイテスト・ヒッツ』解説
「この作品は現在アメリカで行なわれているフェアウェル・ツアーに際してリリースされたグレイテスト・ヒッツ。といってもただのシングル集になっていないのがミソで、今日持ってきたのは6枚組仕様、スタジオ音源3枚+ライヴ音源3枚のもの。なぜその中からこの2曲を選んだかというと、“バック・イン・ザ・サドル” の方は現在のツアーでも1曲めにやっている曲なんです。僕は、この曲が入っている『ロックス』というアルバムの音自体が元々好きなんです。プロデューサーは前2作と同じジャック・ダグラスなんですが、前作の『闇夜のヘヴィ・ロック』が大ヒットしたこともあり、当然のように製作費もかけられるようになっていたんでしょうね。そのせいか、サウンド・クオリティも格段に良くなっているんです」

●Hi-X65[開放型]
「その『ロックス』1曲めに収められているこの曲はミステリアスなベースで幕を開けます。まさに“来るぞ、来るぞ……ギャーッ!”という感じの始まり方ですよね(笑)。あの、どんどん迫って来る感じの迫力がすごい。馬が走っている効果音も含め、Hi-X65ではすべてがいっぺんに襲いかかってきます(笑)。この作品についてはアナログも当然持っているので、そっちを聴くこともあるんですが、今回のリマスタリング音源にはさほど大きな違いは感じていなかったにもかかわらず、これで試聴してみると、そのリマスターによる違いがより顕著に感じられますね。しかもそれがいやらしくない感じなんですよ。こんなに違うぞ、というあからさまな感じではないんです」
「リマスター作品などの場合、エンジニアがオリジナルとの違いを強調しすぎて、そこばかり目立ってしまってるケースがまれにあるじゃないですか、『あ、ここを変えたかったのね』というのが手に取るようにわかるような。Hi-X65で聴くと聴き慣れた旧音源とリマスターとの違いがはっきりとわかるのは確かなんですが、そういう作り手側の “いやらしさ” みたいのは感じられなかった。自然に、心地よく全体の違いを楽しめました」
 

●Hi-X60[密閉型]

「Hi-X65とは、また不思議な違いがありますね。この試聴もこれで3枚めなので若干先入観が伴いつつあるのかもしれませんが。さっき『すべてがより刺激的になる』みたいな言い方をしましたけど、やっぱり鋭角的なところがより鋭角的になる感じで。一番感じたのは、“バック・イン・ザ・サドル” の歌い出しのスティーヴン・タイラーの一番声の高いところが、こちらの方が “けたたましい” です。耳に刺さる、ハードさが増す感じ」
「加えて、この2機種の聴こえ方の違い方を確かめたくて、“エレヴェイター・ラヴ” の冒頭、曲に入る前のエレヴェイターの中のシーン──デパートのエレヴェイターにスティーヴンが乗ってくる場面でざわざわした音が入ってるんだけども、それがね……ざわざわ感の人数が違う!(一同爆笑)。これまでは普通に聴き流してたんだけど、『えっ! ここにこんなにも人がいたの!?』という音の立体感とか奥行きみたいものがあって。それから曲が始まるときの、ドンッ!っていう落差も含めて強調されていて。しかもね、Hi-X65とHi-X60でも、人数が違うんですよ、なんか(笑)。こういうところにもこんなに違いが出るものなのか、という驚きがありました」

Hi-X65とHi-X60、[開放型]と[密閉型]の違いをまざまざと見せつけられられている増田氏。その違いについて質問、スタッフが「開放型は抜けがいい分、ナチュラルに聴こえるはずです。対して密閉型の方は、イヤーマフの中で完結させてるんで……」と解説している途中で、「だからすごく確認用な気がする」と、氏は自分なりの言葉で説明。逆に説明している側が「あー、なるほど」と納得させられるようなやりとりも。「言ってみれば[密閉型](Hi-X60)の方がより解像度が高くなるということです」の言葉に、「やっぱりそういうことですね」と腑に落ちたご様子です。

メタリカ『72シーズンズ』より

メタリカ『72シーズンズ』より
「72シーズンズ」

そして次に、メタリカ最新作のタイトル曲を試聴。合間に「怖い、これは怖い(笑)」と独り言が。一通り聴き終え、言葉を選び選びご説明してくださいます。

●アルバム『72シーズンズ』解説
「メタリカのアルバムの面白さのひとつに、いつもの音のようでいて、作品によっていつも音が違うという点があります。例えばベースの音が聴こえないアルバムがあったり(『メタル・ジャスティス』)、ドラムがやけにカンカンいってるアルバムがあったり(『セイント・アンガー』)──そういう〈音のバランスの悪さ〉〈音のいびつさ〉によって〈怒り〉や〈苛立ち〉といったものを表現してきたところがあると思うんですが。今回のアルバムに関して言えば、90年代の半ばの『ロード』や『リロード』みたいなオルタナティヴ寄りの音作りを基本にしながら──当時はそのせいで『時流に迎合した』とか言われたりもしていましたけど──そこにあった、ダークでグルーヴィな方向でありつつ “ジャムって楽しい感じ” というのに、従来の〈ささくれだった〉感じを加えたような響きを感じる作品だと感じています。だから、自宅でコンポやヘッドフォンで普通に(大きくない音で)聴いていると、“ダーティ” な音、粗い感じのサウンドを意図して作っているのかなと思ってたんだけれども……」

●Hi-X65[開放型]
「こうしてちゃんと、しかも大きめの音でしっかり聴くと、この作品が如何に細かい部分まで考えて作り込まれているかというのがわかる気がします。この曲はイントロがやけに長いんですが、楽器が順繰りに入ってくる中、歌がない分『あ、そこにそんなフレーズが入ってましたか』みたいな発見があったりもする。そうやって細部まで考え抜かれているのがわかって、すごく立体的に聴こえてきましたね。そして、1分以上経ってようやく出てくる歌については、これもまた、ジェイムズ・ヘットフィールドが意図的に声を潰していると思われる歌唱がより生々しく聴こえて、全体としてもこれまでとは印象がまたちょっと変わりましたね」
 

●Hi-X60[密閉型]

「普段使いのヘッドフォンで聴くのと印象としては大きな違いはなかったものの、さきほどから感じていた〈刺激がよりダイレクトに伝わる〉という特性に沿って言うと、『メンバーとしては、最終的にはHi-X65での聴こえ方を目指して、Hi-X60の方で確認しながら作ったのでは』というような印象ですね。こっち(Hi-X60)で緻密に音を構築した上で、Hi-X65の方を使って『こう聴こえるように』という具合に。まあ本人たちはこれを使っていたわけではないんだけど、そういう音の作り方をしたんじゃないか、という妄想が膨らみました(笑)」
「実際、ミュージシャン自身がスタジオでどんなヘッドフォンを使ってモニターするかについても好みはあるだろうし、誰かに『こういう時にはこういうものを使うべき』とサジェスチョンされることもあるんだろうけど、[密閉型]と[開放型]、その目的や用途の違い──普段こんなこと考えたことはなかったけど、この2機種で試聴してみたら、そういう使い分けもあるのかもしれないな、と感じさせられました」

●後編ではこの2機種をさらに深掘り、コンシューマー・モデルもお試し!

スピーカーの前に座って聴くようなHi-X65、そしてディテールを「チェックするためとかかな」のように細部まで聴かせるHi-X60。「普段なんてことないと思っているフレーズが、[密閉型]のHi-X60で聴くと、実は計算尽くで考え抜かれたものだってわかる」──増田氏のこの言葉からもわかるように、オーディオ的な数値で表される各機器の能力・仕様は、言い換えれば使い手側にとっての用途・好みへの広がりにつながる。オーストリアン・オーディオがこの別な性格を持つ2機種へ込めたメッセージ、その一部をちゃんと受け取ることができたと思える、ここまでの取材前半でした。

そして後半戦は、前半で取り上げたものほど “うるさくない” サンプルで、また別な角度から2機種を試聴。さらにコンシューマー・モデルの「Hi-X25BT」と「Hi-X15」もとりあげ、その実力を探っていくことになります。
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