【新連載!】

『マル・エヴァンズ もうひとつのビートルズ伝説』刊行記念トーク・イベント

松田ようこ × ピーター・バラカン
「ビートルズのそばにいる日常」

【第1回】

・日時:2025年1月22日(水)19時30分~21時30分
・場所:下北沢 本屋B & B
・参加者:ピーター・バラカン、松田ようこ
・テキスト協力:島乙平

左から松田ようこ氏、ピーター・バラカン氏。
本稿は、2025年1月下旬『マル・エヴァンズ もう一つのビートルズ伝説』の発刊記念としてが開催されたトークイベント、そのほぼノーカット版です。登壇したのは同書の翻訳者・松田ようこ氏と、当時少年時代をロンドンで過ごしたピーター・バラカン氏。松田氏の翻訳にあたっての苦労話や、それを裏付けるピーター氏の実体験のお話は非常に面白く、しかし全体は大変長尺となるため、分割しての連載とさせていただくことにしました。今回は記念すべきその第1回、話はお二人の “ビートルズ原体験” から。下北沢の本屋B&Bにいらっしゃる気持ちで、どうぞごゆっくりお楽しみください。
2025年1月下旬『マル・エヴァンズ もう一つのビートルズ伝説』の発刊記念として、翻訳者、松田ようこさんと、その時代のビートルズを英国で実体験したピーター・バラカンさんとのトークイベントが開催された。今回その全貌をまとめてレポートします。

松田さんは1960年生まれ、1972年から76年の四年間はニューヨークに住みラジオから流れるビートルズに触れ大ファンになったとのこと。幸運にも76年5月にはマジソン・スクエア・ガーデンでウイングスのコンサートを観ることができ、ますますビートルズやウイングスへの愛が強くなった。

一方ピーター・バラカンさんは毎週聞いていたラジオのカウントダウン番組で1962年「Love Me Do」が17位にチャート・インした──。

「違うなっていうのはすごくよく覚えてます。当時の僕はまだ11歳ですからね」──バラカン
バラカン:一番最初の「Love Me Do」はリアルタイムで聞いたかどうかっていう確証はないんです。62年の秋、僕はその頃毎週日曜日の夕方にラジオでトップ20のカウントダウン番組を聴いていました。そこで一回「Love Me Do」が17位に入った。で、もしかしたらその時一回聞いたかもしれない。ただ、認識はしていないと思います。その三ヶ月後ぐらい63年に入ってすぐに「Please Please Me」がチャートに入って、これはもう大ヒットするから当時のイギリスでは、多分僕のような年齢の人間だったら知らない人がいない状態になるんです。いきなりものすごいビートルズ旋風が巻き起こって、どのレコードもみんなラジオで聞いて、テレビでもしょっちゅう見て、雑誌にも毎週のように出て、途端にビートルズ一色になっちゃう。
松田:ビートルズを聞いて最初ワアって思われました? 何か今までと違うとか。
バラカン:思いました。違うなっていうのはすごくよく覚えてます。当時の僕はまだ11歳ですからね。当時のイギリスでは11歳だとみんな一年中短パンで、膝下ぐらいまでロングソックスを履いて。その格好で学校の運動場でミニカーかなんかで遊んでる。そこでそういう遊びをしながら、ビートルズっていうすごいバンドで出てきたよね──みたいな話題が出たのを覚えてます。
松田:それはその時ロンドンですか?
バラカン:ロンドンです。僕は生まれも育ちもロンドンです。
松田:じゃあ、まさかリヴァプールというような地方都市からそういう人たちが出てくるっていうのは意外だったんですか?
バラカン:最初は考えてないんですけど、彼らがテレビに出るようになったら、喋ってるのはもうとにかくアクセントが強い。イングランドの北部ということはすぐわかるんだけど、多分リヴァプールのアクセントを聞くのはビートルズで初めてだったかもしれません。北部は北部でヨークシャーもランカシャーも違うし、ランカシャーの中でもマンチェスターとリヴァプールも違うし。そういうことに気づくのはもっと後ですね。だからとにかく訛っていて、北の方の訛りだっていうことはわかる。例えば東京の人間が。関西をよく知らないと、大阪も神戸も全部関西じゃないですか。でも全然違う。
松田:そうですね。地方によってね、違いますね。
バラカン:それと同じような違いかもしれないね。

「奴らはみんな、僕らのことを田舎者だと思っている」とか、そういうところで差別を受けていたのかな、なんて──松田

松田:私がビートルズの会話を初めて聞いたのは、映画の『ア・ハード・デイズ・ナイト』、それももうだいぶ後になってからなんですが、何を言ってるのかよくわからなかった。私はニューヨークに住んでいたので、アクセントがもっとニャーっという感じでだらだらしてる。それに比べてイギリスのアクセントはかっちり綺麗なすごくフォーマルなイメージがありました。だからそういう言葉に慣れていた私の耳には『ハード・デイズ・ナイト』が非常に難しかった。何で笑ってるのかよくわからなかったという印象があります。
バラカン:それはあると思いますよ。アメリカの人はイギリスのBBC的な標準語を聞くと、だいたいはわかるんだろうけど、最初は違和感があると思うんです。で、そうじゃないリヴァプールのような喋り方っていうのは確かに彼らはわかりにくい。頻繁に聞けばだんだん慣れてくるものですけど──今、聞いてわかります?
松田:そうですね、今はだいぶ分かるようになりました。
バラカン:でも同じリヴァプールでもね、ジョンとポールとジョージとリンゴみんなそれぞれ特徴が違いますよね。
松田:そうですか?
バラカン:聞いてすぐに、これジョンだとかこれリンゴだとか、わかりません? 僕はもう瞬間的にわかります、ジョージが一番すごい癖があって、例えば、髪の毛は「ヘア」って言うでしょう? でもジョージの発音だと「フゥ」。
松田:あそうですか?
バラカン:うん、聞いてみてください。
松田: 「Hair」、ニューヨーク人は特にアールのアクセント、強く言いますけどね。
バラカン:リヴァプールも少しは巻くかな。ロンドンよりも巻きます。少しだけね。
松田:なるほど、そうですか。このマル・エヴァンズの本(私は「マル本」って呼んでます)の中でビートルズが、リヴァプールからロンドンに行って取材を受けた時に、非常に辛い思いをしたというようなくだりがあるんですけれども。〈奴らはみんな、僕らのことを田舎者だと思っている〉とか、そういうところで差別を受けていたのかな、なんて思うんですけれども。ロンドンの人からすると地方から出てきた人に対して、その当時、60年代には厳しい目はあったんですか?
バラカン:ありました。厳しいっていうか、田舎者という風に見てました。で、それがビートルズによって急に変わっちゃったんです。それまではロンドンの人が北のほうのアクセントをわざと真似して、ちょっと小馬鹿にするようなことがあったんですけど、ビートルズが人気だけじゃなくて、極めてクールな存在だったから、逆に途端に彼らのおかげで訛りで話すこと、特に北の方の訛りで話すことがかっこいいことになっちゃったんです。いい意味で真似するように。
松田:そうなんですか? すごい影響力ですね。
バラカン:いやものすごい影響力ですよ。あそこまで変わるとは思わなかったっていうか、気がついたらそういう感覚に変わってた。
松田:ピーターさんの周りのお友達で、女の子とかキャーって言ったり、盛り上がってましたか?
バラカン:僕の周りは当時11歳。女の子の友達はあんまりいなかったかもしれない(笑)。でも、中学高校ぐらいになると、女の子の友達もたくさんいたけど、その頃にはビートルズはもうライヴやってないからね。僕が生まれて初めて見たコンサートは、63年のクリスマス・コンサートなんですよ。フィンズベリー・パークのアストリア・シアター。
松田:ビートルズの?
バラカン:僕が見たのは64年1月2日なんだけど、何週間? 3週間ぐらいやったんだっけ?(12月24日〜翌年1月11日の30ステージ)。
松田:クリスマス終わってるけど。そうですね。
バラカン:一日2回回しで、コメディアンとかも含めてバンドが、6組ぐらい多分やってたと思うけど、それを見たんですよ。
松田:じゃあ、マル・エヴァンズに会ってますね。舞台袖にいたはずです。
バラカン:で、最後の日に──。
松田:最後の日にスピーカーの後ろ(間)から出てきて “I'm free” って言ったっていう。
バラカン:そうそうそうそう! 僕その最後の日じゃなかった。でも不思議とね、マル・エヴァンズっていう名前を少なくとも60年代から知ってましたね。だからバンドのローディーであそこまで有名になるっていうのは他にいるんだろうか? マルもそうですし、ニール・アスピノール、トニー・ブラムウェル、デレック・テイラー。その4人のビートルズのスタッフの名前はいろんなメディアで当時からよく見ましたね。他にローディーで名前知ってる人って言えば、ローリング・ストーンズのイアン・スチュアート。最初はメンバーだったからね、後にロード・マネージャーになったけど、かなり知ってる人多かったと思う。アニマルズとかキンクスとかマンフレッドマンとかローディーの名前知らないよ。誰も多分知らないと思う。
松田:そうですよね。マル・エヴァンズは結構ファンの間でも人気になって、彼がステージのセッティング出てくるとキャーってね。声が上がったりしたって感じですね。
バラカン:らしいですね。

松田:もうローディー以上の存在だったというのは、もうこの本を皆さんも読んでいただければわかると思います。
バラカン:でも最初はバウンサーなんですよね。
松田:そうですね。用心棒ですね。バウンサー。
バラカン:用心棒でいいのか、バウンサーって。いや、僕はいつもどう訳せばいいのかなって。警備って言えば警備だし、ガードマンでもないし。
松田:日本語に訳す時って、いろんな選択肢があるんですけれども。用心棒に関しては、ビートルズの日本の書籍の中では用心棒という名前でも非常に多く使われていたので、その言葉を採用しています。そういう意味で英語から日本語に今回するのも、いろいろとこう、難しいところがいっぱいありました。ピーターさんは原書で読まれてますけど、私はそれをいかに日本人が一番馴染みやすい言葉にするかというところに、非常に重きを置きました。だから、例えば人の名前にしても、いろんな正しい発音にすると読みにくくなってしまう部分もあって、本当はマル・エヴァンズの息子さんはギャリーっていう名前なんですけれど、マル・エヴァンズがゲーリー・クーパーという俳優からとったっていうので、ゲーリー・クーパーという名前が日本ですごく浸透していますから、ゲーリーという読み方にして、ゲーリー・エヴァンズにしたりとか。
バラカン:一番こだわるところがあって。
松田:すみません。そうなんです。あの……。
バラカン:ただ、イギリス人がゲイリーになるとね。僕耐えられない。絶対絶対ギャリーです。
松田:ギャーリー。ただアメリカ人はどうなんだ? 「Gary Cooper」って言うんですけど
バラカン:だからあれもほんとはね、ギャリーなんだけど、アメリカ人もね、なまってるから。「Gary、Gary 」(笑)。でも、ゲーリーではないですね。
松田:ゲーリーではないですね。日本語にするときに、色々と妥協と言ったら変ですけど、一番いい方法を考えてます。
──本日はここまで。続きの第2回は、来週6月11日(水)公開予定です。どうぞお楽しみに!
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