【新刊セルフ・ライナーノーツ】『マイルス・デイヴィス大事典』by 小川隆夫

医者になったのはこの時のため!

「新刊セルフ・ライナーノーツ」は、発売前の近刊やすでに発売中の刊行物について、“ライナーノーツ” の名の通りその見所・読み所を「著者ご自身で」解説していただこうという連載です。今回はその第二回、ご登場いただいたのは小川隆夫氏。弊社よりジャズのデータブックなど多数刊行、殊にマイルス・デイヴィスに関する書籍ではここ日本においては一、二を争う著作点数の研究家/評論家です。そして今回取り上げていただいたのも、そのマイルスに関する840ページの大著『マイルス・デイヴィス大事典』!

もちろん、マイルス・デイヴィスに対する強い思いは本そのものに叩き込まれているので、読者の皆様にはそちらをお読みいただくとして、ここではそこに入れるには至らなかった余談や裏側などを、ご本人に解説していただきます。

さらに、本文中でも言及されていますが、来年2026年はマイルス・デイヴィス生誕100周年という記念すべき年。小川氏も来年5月に向け新刊を執筆中、そしてこれから「毎月26日はマイルスの日」とし、関連新情報を発信していきますので、ファンの皆様はどうぞお楽しみに!

【新刊セルフ・ライナーノーツ】

『マイルス・デイヴィス大事典』by 小川隆夫

イーグルス 全曲解説
マイルス・デイヴィスとの出会いは?
『マイルス・デイヴィス』にノックアウトされたのは高校2年の時

ぼくにとって永遠のアイドルがマイルス・デイヴィスだ。あれは高校2年のときだから、1966年のことである。受験勉強をしていた夜中にラジオから流れてきたマイルスの『マイルス・スマイルズ』(コロムビア)にノックアウトされてしまった。新譜紹介のコーナーだったと思う。

背伸びをしてジャズ喫茶にも出入りをしていたし、マイルスのレコードはほかにもいろいろ聴いていた。しかし、『マイルス・スマイルズ』はそれまでに聴いたどの音楽とも違っていた。

どこがどう違うのか。言葉でうまく説明することができない。とにかく心にズシンと響いたのだ。以来、リアルタイムでマイルスの新譜を聴き、併せて過去に彼が残したアルバムにも耳を傾け、「マイルス命」の筆者が誕生した。

イーグルス 全曲解説
最も思い出深いマイルスとのエピソード
「この傷を見ろ。なにかいいリハビリの方法はないか?」
いまの言葉でいえば、「推し」ということになるだろうか? その推しのマイルスにまさか会えるとは夢にも思っていなかった。85年3月のことだ。マリブの別荘で会ったマイルスはご機嫌で、次に出る『ユア・アンダー・アレスト』(コロムビア)のラフ・ミックス・テープを聴かせてくれたり、愛車の黄色いフェラーリに乗せてくれたり、仕事とはいえ、信じられない夢のような時間をすごすことができた。

そのときに、流れから自分が整形外科医でリハビリテーションを勉強していたことを話す。すると驚いたことに、マイルスがやおらズボンを脱ぎ始めた。

「この傷を見ろ」

76年に股関節の手術を受けた経過が思わしくなく、彼はいまも足を引きずっている。それは、そのときの手術が原因ではないかと想像していた。そして、手術痕を見て、まさにその通りとわかった。

「なにかいいリハビリの方法はないか?」

それまでの34年は、まさしくこの瞬間のためにあった。医学部を卒業し、整形外科医になり、留学してリハビリテーションを学んできた。その経験は、このときのためだったのだ。
イーグルス 全曲解説
『マイルス・デイヴィス大事典』の完成に至るまで
そして2021年、『マイルス・デイヴィス大事典』刊行
以来、信じられないことだが、マイルスとはときどき会うようになった。会うときはいつも極端に緊張する。しかし会って、彼の話が聞きたい。そうやって、マイルスがこの世を去る91年まで、ニューヨークのアパートや、東京と香港のホテル、その他の場所で、彼からさまざまな話を聞かせてもらった。それらを纏めたのが、2002年に出した『マイルス・デイヴィスの真実』(平凡社、現在は講談社プラス・アルファ文庫で発売中)だ。

以来、マイルスの本は何冊か書かせてもらった。そうして2021年に『マイルス・デイヴィス大事典』が完成する。

これは、簡単にいえばレコード・ガイドだ。ただし、単なるガイド・ブックとはわけが違う。自画自賛になって心苦しいが、サイドミュージシャンとしてのものも含めて、オフィシャルでリリースされたマイルス参加の全作品、加えて、シングル盤(12インチ、7インチ)、プロモーション盤その他もコンプリートし、なおかつ大事典なので、「演奏楽曲事典」と「関連人物事典」をつけ、通常の索引のほか、「作品名」(英語・日本語)、「楽曲名」(英語・日本語)、「共演者・楽曲提供者」(英語)の各索引もつけるという、途中で本人も呆れるほどの徹底ぶりだった。

ここ10年ほどだが、「自分がほしい本が書きたい」と願ってきた。その夢を、『マイルス・デイヴィス大事典』でも実現させることができた。やるなら徹底的に、中途半端は意味がない。この本に限らず、拙著が分厚くなるのはそれが理由だ。そして『大事典』はシンコーミュージック・エンタテイメントの担当者の開いた口が塞がらないほどのページ数(840頁)になった。知る限り、数多いマイルス本の中でいちばん分厚いのがこの『大事典』だ(そこが自慢かい)。

あるひと曰く、「凶器本」、いや「狂気本」か? 「重くてベッドで読めない」。不評ばかりだ。それでも、幾多の反感は承知のうえで、自分の満足いく本が出せたことには感謝の言葉しかない。
イーグルス 全曲解説
2026年5月26日でマイルスは生誕100年!
次なるマイルス本新刊は2026年5月、刮目して待て!
しかし、不満がないわけでもない。マイルスはこの世にいないが、彼の作品は『大事典』を出版して3年半がすぎたいまも出続けている。出版時に完璧を期した本は、翌月には不完全になっていた。

だけど、いい考えが閃く。現在、続編ともいうべき『マイルス大百科』(仮)を執筆している。これは、過去にぼくが書いたマイルス関連の原稿の大半を集めた1冊になる。その最後に「補遺」として、『大事典』以降に出た作品を同じ書式で掲載しようと考えている。出版の予定は来年の5月だ。そう、マイルス生誕100年が来年の5月26日である。

またまた出版社と編集者泣かせの本になると思うが、『大事典』と『大百科』、2冊並んだら壮観だろうな。ということで、目下、次のマイルス本出版に向けて執筆中です。そうだ、せっかくなのでこの原稿も『大百科』に載せてしまおう。
マイルス・デイヴィス大事典

マイルス・デイヴィス大事典

2021年12月発売/小川隆夫 著/A5判/840ページ

マイルス・デイヴィスの百科事典が満を持して登場!
アルバムなど全パッケージ、全楽曲、そして全関係者を網羅!



2021年で生誕95年、没後30年となる、ジャズ界の巨人マイルス・デイヴィス。常にジャズを改革し、前進させた彼の偉業を丸ごとパッケージした、マイルス・ファン/ジャズ・ファン必携の一冊がここに登場する。マイルスとは直接的な関係を築き、その音楽を長年研究してきた音楽ジャーナリストの小川隆夫による渾身の書き下ろしで、アルバム、シングル、EP、プロモ盤、ボックスなど、わかる限りすべてのアイテムと全楽曲を解説。そしてジャズメンを中心とするミュージシャンや業界関連人物の人名事典も掲載し、データ面(2021年の最新版)もかゆいところに手が届く充実振りとなっている。これを読めば、マイルスの音楽的な歴史、そしてその大き過ぎる功績を俯瞰することが出来るだろう。表紙はジャズ界きってのオリジナルな存在感を強烈に放つ、藤岡宇央の描き下ろし。

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■ 新刊・7月30日発売

レーベルで聴くジャズ名盤 Part 2
ジャズ・クラブ黄金時代 NYジャズ日記1981-1983

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3,740円
ジャズ超名盤研究 3

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2,860円
ジャズ超名盤研究 2

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2,750円
来日ジャズメン全レコーディング 1931-1979 レコードでたどる日本ジャズ発展史

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3,850円

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