
新企画のスタートです! 「新刊セルフ・ライナーノーツ」は、発売前の近刊/発売間もない新刊について、“ライナーノーツ” の名の通り その見所を「著者ご自身で」解説していただこうというもの。もちろん、発売される本で取り上げたアーティスト/グループ、もしくはテーマに対する強い思いは本そのものに叩き込んであるわけですが、そこに至るまでの道のりや、入れるには至らなかった余談などに加え、その本の核心を別な言葉で言い換えたりなど。
その記念すべき第一回にご登場いただくのは、今週『イーグルス 全曲解説』が発売になったばかりの同書の著者・五十嵐 正氏。そもそも、氏にとってのイーグルスとは。そしてそれが、どうして “全曲解説” という形をとったのか。まだお買い求めでない方にはご一読の一助に、そしてすでにお買い求めになった方には、同書のこれ以上ないサブテキストとして、お読みください!



五十嵐正 著
A5判/184頁
定価2,970円(税込)/10月22日発売
僕個人にとっては、ジャクソン・ブラウンとイーグルスはデビューからずっと追いかけることになった最初のアーティスト、バンドという特別な存在なんです。米英のロックやポップを60年代末から聴いていますが、それまでに好きになったアーティストやバンドは既にデビューしていたのを後追いで聴いたわけですが、72年デビューのジャクソンとイーグルスは最初のアルバム発売直後に買ったアーティスト、バンドだったんです。それから現在に至るまでリアルタイムで聴いてきたので、時代の雰囲気なども含めて語ることができると考えました。
また、イーグルスは『全曲解説』という企画にふさわしいバンドでもあります。イーグルスがあまりに巨大な成功を収めて、誰もが知っている有名バンドになったぶん、熱心なロック・ファンのなかにはそれゆえに冷ややかな見方をする人たちもいるかもしれません。ですが、ロックの約70年の歴史のなかでも、あれほどソングライティングの水準の高い曲の数々を残したロック・バンドはそれほど多くありません。彼らの曲は今やアメリカン・スタンダードと言ってもいいと思います。
ドン・ヘンリーもステージからの挨拶で、グレン・フライを失い、唯一の創立メンバーとなっても、イーグルスを続け、そのレガシーを守っていくことについて、観客にこう言っています。「なぜなら、今や最も大切なのはこれらの歌だから。これらの歌が皆さんの人生においてどんな意味を持つのかが重要なんだ」と。また、グレンの死後、新たに加わったヴィンス・ギルは、カントリー音楽界のスーパースターがバンドの一員となった理由を「あれらの素晴らしい歌の数々を彼らと一緒に歌い演奏できる機会を断れるはずがないだろ」と説明しています。そんな名曲の数々について、是非一冊にまとめてみたかったんです。

彼らがレコーディングした曲は90曲近くあります。「Hotel California」などはそれこそ一冊の本も書けるかもしれませんが、それほど長い解説にならない曲も結構あるんじゃないかと思っていたんです。ところが、執筆にとりかかると、どの曲もいろいろ書くことがあるんですね。07年の2枚組『Long Road Out Of Eden』ですら、予定していたページ数を大きく超える文章量になりました。それは、メンバー全員が曲を書いて歌えて、それぞれが異なった音楽的背景を持つ個性的なミュージシャンであることが、どの曲にも反映しているからでしょう。2作目以降はドン・ヘンリーとグレン・フライのコンビが引っ張っていくバンドになったのは間違いありませんが、今改めて聴くと、『One Of These Nights』から『The Long Run』までの3枚では、「Hotel California」の作曲者でもあるドン・フェルダーのサウンドの構築への大きな貢献を再認識することになりました。鋭いギター・ソロだけじゃないんです。だから、彼の解雇は本当に残念ですね。

実のところ、この仕事を40年近くやってきて、ブルース・スプリングスティーンやトム・ウェイツなど、なかなか取材の難しい人にインタヴューする機会にも恵まれてきましたが、イーグルスのメンバーには未だインタヴューできないままなんですよ。ジャクソン・ブラウンにはたぶん日本でもっとも多くの回数、それも長時間のインタヴューをしてきたし、故JD・サウザーにも複数回取材し、ジャック・テンプチンの初来日時には第一部のトーク・ショウの聞き手としてツアーに同行と、外堀は埋めてきた(笑)のですが、残念ながら、本陣のイーグルスには会えてないんです。
なので、直に接しての個人的なエピソードは何もありません。ただ、04年9月にドン・ヘンリーが故郷のテキサス州リンデンで、60年代末にその小さな町を離れてから初めて行なった帰郷コンサートにはるばる出かけていきました。さすがに日本人は誰もいなかったので、これが唯一の自慢でしょうか。会場は彼が若い頃に出演していたホールを改装したミュージック・シティ・テキサス・シアターで、シャイロ時代の仲間で長年の親友リチャード・バウデンが会長を務め、地域文化再興の拠点にしています。そのコンサートもそのシアターのためのベネフィットでした。ドンは故郷の復興にすごく尽力しているんです。
その会場に着くと、入口でリチャードが「君が日本からの客人かい」と迎えてくれました。別に取材でもなんでもなく、一人の客として行ったので、「えっ?」とびっくり。「君の(チケット購入の)電話をとったのは妹なんだよ」とのことでした。そんな遠来の客の特権で、こちらが頼まずとも、スタッフの女性が場内を案内してくれ、楽屋にあたる裏手にも連れていってくれました。残念ながら、主役は喉の調子が気になり、大事をとって開演までツアー・バスに篭っていたのですが、当時のバンマス格のギタリスト、フランク・シムズに紹介されました。驚いたことに日本の横浜・横須賀近辺で育ち、ミッキー吉野とサンライズというバンドをやっていた人で、とても楽しい会話を交わしました。フランクはその後、ザ・フーのミュージカル・ディレクターにまで出世しましたね。
そして、開演が近づいて席につき、隣に座るご老人に話しかけると、なんとドンのハイスクール・バンドを指導していた先生で、トロンボーンの才能のなかった彼にドラムズを薦めたという恩人でした。コンサート半ばでドンは彼に感謝の言葉を捧げましたよ。そんな人たちに囲まれ、僅か420席の親密な空間で、リラックスしたドンが曲間にたっぷりと想い出話を挟みながら進行するパフォーマンスは素晴らしいものでしたね。
一方、とても悲しい思い出もあります。グレン・フライの訃報を聞いたのは、ジャック・テンプチンの日本ツアーの途上だったんです。ジャックは親友の容態を知っており、覚悟はしていたとあとで明かしてくれましたが、盛況だった初日の横浜公演の翌朝早くにその衝撃の知らせを聞き、名古屋までの車中での重い雰囲気は今もよく覚えています。その夜の公演で、ジャックが歌ったグレンとの共作の数々は本当に心に響きましたね。
左:04年のドン・ヘンリーの帰郷コンサートのチケットと、リチャード・バウデン氏にもらった “Music City Texas theatre” の帽子を被って。
●関連ニュース
MUSIC・2025.05.21
【特別企画】五十嵐正の著書を読もう!──『ザ・バンド 全曲解説』著者として登壇のトークショー「ザ・バンドを語る!」6/13(金)開催

イーグルス 全曲解説
五十嵐正 著
五十嵐正による “全曲解説” シリーズ、ザ・バンドに続く第二弾は、ファイナル・ツアー “The Long Goodbye” が進行中のイーグルス!
米ウエスト・コースト・ロック/カントリー・ロックの後継者として1972年に登場、アメリカで最も売れたアルバムを生むに至ったイーグルス。ドン・ヘンリーとグレン・フライを中心に、ジャクソン・ブラウン、J.D.サウザーなど仲間たちの力も借りながら世に送った名曲群を、歌詞の背景や発表当時の社会情勢も踏まえながら、丁寧に解説していきます。詳細なバイオグラフィも必読。アメリカの光と影を見つめ続けたバンドの核心に迫る待望の一冊!
イーグルス 全曲解説
五十嵐正 著/A5判/192頁/定価2,970円(税込)/5月26日発売






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