【イベント・レポート前編】

小川隆夫×池上信次
『レーベルで聴くジャズ名盤 Part 2』

刊行記念トーク1:ジャズはマイナー・レーベルも面白い

■■ アトコ、ジャズランド、ニュー・ジャズ…傍系レーベルの名演 ■■

池上:では、今日持ってきたCDが割れてしまったため、この本の特徴でもあるQRコードを読んでスマホで聴くことができますので、そのやり方で。

♪「イージー・トゥ・ラヴ」
ローランド・ハナ
『The Piano of Roland Hanna Easy to Love』


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小川:お聴きになってわかると思いますが、ローランド・ハナっていうのはセンスがいい。世の中にピアノ・トリオはいっぱいあって、ローランド・ハナというのはちょっと隠れたピアニストかなと思いますが、こうやって聴くと心が落ちつきます。アトコはアトランティックが作らない、ちょっとウチではというのを出していたようなところがある。で、アトコが出来た時にアトランティックとの話し合いで、ヨーロッパのアーティストに関しては基本的にアトコが出すということにしていて、親会社とサブ・レーベルのうまい関係ができていたと思います。
 

池上:次はジャズランド。
 

川:親会社はリバーサイド。ビル・グラウアーはリバーサイドの社長で、プロデュースは副社長のオリン・キープニュース。元々は大学の同級生で、学生の頃から会社を立ち上げ最初は再発売専門のレコード会社として、昔SP盤で出ていたものを出し始めた。2年くらい経ってから新録音を始めて、セロニアス・モンク、新人のビル・エヴァンスを発掘してジャズの世界ではそれなりの評価を獲得して、続いて立ち上げたのがジャズランドというサブ・レーベル。リバーサイドではビル・エヴァンスがスターになり、キャノンボール・アダレイ、ウェス・モンゴメリーとかがスターになっていく。で、ジャズランドはそういうスター路線よりもう少し渋いところを集めています。

リバーサイドにも作品を残しているチェット・ベイカーや、ジョージ・シアリングとウェス・モンゴメリーが共演したスターのものは例外ですけど、これから聴いていただくのはチェット・ベイカーの「ニューヨークの秋」。チェット・ベイカーは西海岸の人ですが、ドラッグで居られなくなったのでニューヨークに逃げてリバーサイドでレコーディングをするんだけど、そこでも居られなくなってヨーロッパに逃げてジャズランドに2枚録音を残していて、そこで逮捕されてまたアメリカに戻ってきてとんでもない目に遭うんです。懲りない人ですけどアーティストとしては素晴らしい。歌も演奏もいいし、というわけで気張って作った作品で、ストリングスが50人ってクレジットされていますがいいアルバムができました。

池上:アルバム『チェット・ベイカー・ウイズ・ストリングス/マイ・ファニー・ヴァレンタイン』からB-1「ニューヨークの秋」。
 
小川:チェット・ベイカーはドラッグから脱けるため漸減療法(ドラッグを投与してだんだん減らしていく)というのをやって。その頃来日した時にすごい雪が降って帰れなくなって薬が切れて、僕のところに電話がかかってきた。だけど、ないよと断ったら納得して、その後どうしてたのか知らないけど2日後に帰国した。それからも活動はしてたけど、最後はアムステルダムのホテルから転落して亡くなった。僕はドラッグのせいだと思ってる。LSDって空を飛べる気になっちゃうから。

♪「ニューヨークの秋」
チェット・ベイカー・ウイズ・ストリングス
『With Fifty Italian Strings』


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池上:なかなかゴージャスな音で。
 
小川:ついでに歌ってくれればもっと売れたと思うんだけど(笑)。
 
池上:次はニュー・ジャズ・レーベル。
 
小川:先ほども話したプレスティッジのサブ・レーベル。プレスティッジは元々ニュー・ジャズって名前だったんです。ボブ・ワインストックというプロデューサーが1949年に設立するんですが、彼は元々レコード屋さんをやっていてまだ二十歳くらい。登記をする際に、考えていた「ニュー・ジャズ」と父親が推した「プレスティッジ」の2つで登記したんです。それで、初期のSP盤はニュー・ジャズで出して、並行してプレスティッジの名前も使ったレコードも出たので最初の頃はごっちゃになったんだけど、その後プレスティッジに統一されます。53年頃から10インチのLPを出した時に何枚かニュー・ジャズを使ってまた消えちゃうんだけど、50年代終わりくらいにニュー・ジャズを復活させてプレスティッジと並行して運営していくんです。違いはほとんどないと思います。2つのレーベルで出すと税金面で優遇されるというのが当時あったようで、金銭的な面でサブ・レーベルを作ることも多かった。彼は他にも「ムーズヴィル(Moodsville)」とか「スウィングヴィル(Swingville)」というのも作って税金をまけてもらったらしいです──あるミュージシャンから聞きました。そういう流れでニュー・ジャズはできました。
 
次にお聴きいただくのは、日本では一応トミー・フラナガンのリーダー扱いだけど、プレスティッジ得意のジャム・セッション盤で、おなじみのミュージシャンがずらずらっと並んでレコーディングをしたもの。これはフラナガンに聞いたんですけど、当日コルトレーンは遅刻してなかなか来なくて、ワインストックはスタジオ代を無駄にしたくないけれどコルトレーンをスターにしたいし──何度もコルトレーンに電話をかけていたけれど結局1時間くらい遅れて来て、その遅れた分のスタジオ代は彼のギャラから引いたそうです。当時コルトレーンはジャンキーで、57年4月にマイルスのバンドをクビになってるんですね。56年末にも一度クビになっていて、マイルスはあの有名なクインテットを解散して1人でレスター・ヤングやMJQらとJATPのパッケージ・ショウに入ってヨーロッパを回った。これが大好評で。翌年またヨーロッパで現地調達のミュージシャンとパッケージ・ツアーをやって、その後パリで『死刑台のエレベーター』を録音しました。で、コルトレーンに話を戻しますが、彼の上をいくジャンキーがフィリー・ジョー・ジョーンズ。2人ともマイルスのバンドをクビになる。そのコルトレーンはセロニアス・モンクに拾われて、57年夏から半年間セロニアス・モンク・カルテットとしてファイヴ・スポットに出演して伝説の演奏を残すけれど、レコーディングはない。そういう時期のお話でした。

♪「エクリプソ」
トミー・フラナガン
『The Cats』


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池上:トミー・フラナガンのアルバム『ザ・キャッツ』から「エクリプソ」でした。ここまで「アトコ」「ジャズランド」「ニュー・ジャズ」と聴いてきました。傍系レーベルと一口にいってもいろんなタイプがあるってことですね。
 
小川:先ほども言いましたが、アトコはアトランティックとはちょっと毛色が違うものがメイン。ジャズランドは基本的に同じなんだけど、リバーサイドのスター級の人は出ていない。リラックスして聴ける音楽をメインにしているとどこかに書いてあったな。ほとんど差がなくて、例えばエリック・ドルフィーの「ファイヴ・スポット」のライヴは一集がニュー・ジャズ、二集がプレスティッジ発売ですから、ワインストックが税金のこととか考えながら気まぐれにレーベルを分けた。音楽的な意味は多分ないと思う。
 
池上:他にも傍系レーベルはたくさんあって、この本に載っていますのでご覧ください。

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『レーベルで聴くジャズ名盤 Part 2』

レーベルで聴くジャズ名盤 Part 2

3,300円
著者:小川隆夫

【掲載レーベル】

01 ABC-Paramount
02 ABC-Impules!
03 Ad Lib
04 America
05 Andex
06 Antilles/Antilles New Directions
07 Arista
08 Arista/Novus
09 Artists House
10 Atco
11 Audio Fidelity
12 Bee Hive
13 Black Jazz
14 Black Lion
15 Black Saint
16 Blackhawk
17 BYG
18 Chiaroscuro
19 Choice
20 Cobblestone
21 Commodore
22 Criss Cross
23 Dawn
24 Debut/Danish Debut
25 Dial
26 Dootone
27 Elektra/Musician
28 Embryo
29 ESP Disk
30 Famous Door
31 Flying Dutchman
32 Freedom/Arista Freedom
33 Futura
34 Galaxy
35 Gramavision
36 HiFi Jazz
37 Horizon
38 Imperial
39 India Navigation
40 Intro
41 Jaro
42 Jazz:West
43 Jazzcraft
44 Jazzland
45 Jazztime/Jazzline
46 JCOA
47 Jubilee
48 KUDU
49 Landmark
50 Mainstream
51 Mode
52 Moodsville/Swingville/ Tru-Sound
53 New Jazz
54 Nilva
55 Novus
56 Owl
57 Palo Alto Jazz
58 Peacock’s Progressive Jazz
59 Period
60 Progressive
61 Reprise
62 Signal
63 Signature
64 Skye
65 Sonet
66 Soul Note
67 Storyville
68 Strata-East
69 Tampa
70 Theresa
71 Time
72 Timeless
73 Transition
74 Vanguard
75 Vortex
76 Warwick
77 World Pacific
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