【イベント・レポート後編】

小川隆夫×池上信次
『レーベルで聴くジャズ名盤 Part 2』

刊行記念トーク2:メジャーとマイナーで音も変わる

ジャズを代表する42の主要レーベルの概要と代表的な作品を解説して好評を博した
「レーベルで聴くジャズ名盤 1374」の続編、
『レーベルで聴くジャズ名盤 Part 2』刊行イベントが9月上旬、
四谷の老舗ジャズ喫茶 “いーぐる” にて開催された。

当日は 同書を編集された池上信次さんが司会進行を担当、
著者 小川隆夫さんが曲を挟みながら「レーベルで聴く」という楽しみ方を講演、
密度の高いトーク・イベントとなった。

前編はこちら

以下、イベント後編ではさらにマニアックな聴き比べも披露され──

【第2部】レーベル違いで聴く名人たちのプレイ

■■ 渡辺貞夫がアメリカに残したもの ■■

▲『レーベルで聴くジャズ名盤 Part 2』著者の小川隆夫氏(左)、
編集を担当した池上信次氏(右)。

池上信次(以下池上):では第2部に入ります、ここまでは本の中で紹介している盤を紹介しましたが、次は「留学中の渡辺貞夫参加作品を聴く」というコーナー、これは今日のこのトークだけのために小川さんが用意してきたネタです。
 
小川隆夫(以下小川):これは、貞夫さんの演奏を聴きたいな──と思いついたネタです。一昨日お会いしてお話しもしたし。音源を紹介するこの3作、録音日を見てもらえばわかるんだけど、ゲイリー・マクファーランド「ザ・モーメント・オブ・トゥルース」1965年8月3日、チコ・ハミルトン「ストレンジ」1965年8月26日、ガボール・サボ「イエスタデイ」1965年11月。貞夫さんが日本に帰ってくるのが1965年11月15日なんですよ、ギリギリのレコーディングというか、アメリカ留学時代(1962年~65年)はバークリー音楽院に入ったけど、学生なのにボストンではなくニューヨークに住んで、いろんなバンドで演奏して、そのまま居ついちゃうんじゃないかと思ってたら急に戻ってきて──という感じなんですが、最後の8月と11月、立て続けにレコーディングがあった、それ以前はないんです。唯一あるのがバークリー音楽院の中で「ジャズ・イン・ザ・クラスルーム」と言ったかな? アンサンブルのクラスで、一番上のクラスの人がレコードを作ってもらえる──ということがあって、そこで3枚かな、いわゆる自費出版みたいな形であったけれど、市販されたのはこの3枚しかない。リーダーを見ればわかるけど、どれもポップな演奏が主体で、テーマ・メロディを吹いただけでソロは吹いてないとか、演奏は短いんです。とりあえず続けて聴いてもらって、あとでまた思いついたら話します。

♪「ザ・モーメント・オブ・トゥルース」
ゲイリー・マクファーランド
『The In Sound』


再生する
♪「ストレンジ」
チコ・ハミルトン
『El Chico』


再生する
♪「イエスタデイ」
ガボール・サボ
『Gypsy '66』


再生する

池上:渡辺貞夫さんが学生時代に参加した作品3曲を続けて聴いていただきました。
 
小川:3枚しか残してないんですけど、凄いことですよね。当時日本ではトップのミュージシャンだったけれど、アメリカじゃ全く無名で誰も知らないところから始めてこうなった。貞夫さんに訊くと、きっかけはゲイリー・マクファーランドのオーディションを受けて、それに通ってから人脈が広がったということ。貞夫さんはゴリゴリのビ・バッパーでビ・バップ以外眼中にないみたいな感じでやってた──と本人も仰ってましたけれど、その人がアメリカに行って “ジャズってこんなに楽しいものなんだ” と分かった。それまではストイックにビ・バップを追求していたんだけど、それ以外の方が面白い、可能性があると分かった。ゲイリー・マクファーランドにそれは教わったと仰ってました。そこからこの短期間に3作を録音したということを思えば、このまま居ればさらに発展したんだと思うんですけど、帰ってきちゃうんですね。なぜ帰ってきたかというと、本人もすごく揺れ動いていた。当時の『スイングジャーナル』を調べると、「渡辺貞夫、いよいよ帰国か!?」という記事が毎月のように載ってた、本人の手紙とかも載っていて、〈秋吉(敏子)さんに相談したら、日本に仕事なんかないわよ!って言われたので止めることにしました〉。そういう風に揺れ動いた中で、突発的に帰りたくなっちゃった。それまで奥さんとお子さんもちょっと遅れてボストンに来てたんだけれども、この時はもう帰っていて、貞夫さん一人だった。まず1つはホームシック。それから体の具合があまり良くなかった。それからアメリカに住むつもりでグリーンカードを申請したということですが、法律が変わって再申請が必要になって、ちょっとイヤになった。決定打はニューヨークの大停電(65年11月9日)。その大停電の最中にバスに乗ってボストンに帰って学校に行って、帰りますって日本に帰ってきちゃった。だから突発的に思いついて帰ってきた。
 
でも11月15日に貞夫さんが帰ってこなかったら、日本のジャズはどういう盛り上がり方をしたのか。もっと低調になっていたと思うんです。彼の音楽観がその後に続く日本の若いミュージシャン、例えば日野皓正さんや菊地雅章さん、ジョージ大塚さんとか70年前後の日本のジャズ界を引っ張った人たちに影響を与えた。だから彼の存在はすごく大きい──と思いました。だけどそのままニューヨークにいたら、僕らのようなジャズ・ファンにはもっと楽しいレコーディングがあったりして、それも良かったかなぁとは思いますけど。
 
池上:これレーベルは、ゲイリー・マクファーランドがヴァーヴで、チコ・ハミルトンとガボール・サボがインパルスという大レーベルです。
 
小川:そのうちどちらかのレーベルからリーダー作を吹き込めたかもしれない。
 
池上:そういう可能性もあった。
 
小川:それでゲイリー・マクファーランドに、66年の2月には良い仕事があるから──と引き止められたけど帰ってきたって。
 
池上:良い仕事って何だったんでしょう。
 
小川:わからない。

『レーベルで聴くジャズ名盤 Part 2』

レーベルで聴くジャズ名盤 Part 2

3,300円
著者:小川隆夫

【掲載レーベル】

01 ABC-Paramount
02 ABC-Impules!
03 Ad Lib
04 America
05 Andex
06 Antilles/Antilles New Directions
07 Arista
08 Arista/Novus
09 Artists House
10 Atco
11 Audio Fidelity
12 Bee Hive
13 Black Jazz
14 Black Lion
15 Black Saint
16 Blackhawk
17 BYG
18 Chiaroscuro
19 Choice
20 Cobblestone
21 Commodore
22 Criss Cross
23 Dawn
24 Debut/Danish Debut
25 Dial
26 Dootone
27 Elektra/Musician
28 Embryo
29 ESP Disk
30 Famous Door
31 Flying Dutchman
32 Freedom/Arista Freedom
33 Futura
34 Galaxy
35 Gramavision
36 HiFi Jazz
37 Horizon
38 Imperial
39 India Navigation
40 Intro
41 Jaro
42 Jazz:West
43 Jazzcraft
44 Jazzland
45 Jazztime/Jazzline
46 JCOA
47 Jubilee
48 KUDU
49 Landmark
50 Mainstream
51 Mode
52 Moodsville/Swingville/ Tru-Sound
53 New Jazz
54 Nilva
55 Novus
56 Owl
57 Palo Alto Jazz
58 Peacock’s Progressive Jazz
59 Period
60 Progressive
61 Reprise
62 Signal
63 Signature
64 Skye
65 Sonet
66 Soul Note
67 Storyville
68 Strata-East
69 Tampa
70 Theresa
71 Time
72 Timeless
73 Transition
74 Vanguard
75 Vortex
76 Warwick
77 World Pacific
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