今だから語るフレディ・マーキュリーと 『ボヘミアン・ラプソディ』トークイべント・レポート PART.2

写真左より増田勇一氏、東郷かおる子氏

今から45年前、クイーンを日本で初めて紹介した音楽雑誌ミュージック・ライフ。同誌の元編集長、東郷かおる子氏と増田勇一氏がクイーンと映画『ボヘミアン・ラプソディ』を語るトークイベントが、2018年12月15日開催されました。今回はクイーン来日秘話を披露したPART.2をお届けします!

PART.1はこちら

ミュージック・ライフとクイーン 取材時のエピソード

pic: KOH HASEBE / Music Life / Shinko Music
増田:さっき来場された方から質問を募ったんですけど、メンバーの人となりや、実際会うとどんな人なのかを知りたいと言う方が多いんですよ。映画の中での描かれ方はメンバーの人間像という部分での違和感というのはありました?

東郷:全然ないですね、特にロジャーなんか本当にああいうことはやってないと思うけど、フレディの妹に「この後空いてる?」って手を出す場面があるでしょ、あれはやりそう。

増田:実際はあったかどうかは分からないけど、やりそうなこと言いそうなことが描かれて。

東郷:だからロジャーはあの場面をOKしたんでしょうよ。本当に実際会ったメンバーの印象はあの通りなんですよ。フレディはあの<この世ならざる者>のようなミステリアスな、でもお茶目な可愛い、でも時々ぶっ叩きたくなるような(笑)。そういう感じもありました。

増田:すみません、その<時々ぶっ叩きたくなる>というのはどんな瞬間ですか?

東郷:なかなかインタビューさせてくれない時。私の場合それのみです。それさえやらせてくれれば<いい人ねぇ〜>なんですけど。

増田:それは僕も同感です。

東郷:私たちの仕事って、そういうものですからね。

増田:フレディの場合は、やっぱりすごくサービス精神のある人?

東郷:ありますよね。可愛くて。これは今回の色んなコメント撮りの時に言ったんだけど、どこも使ってくれなかったことがあるんですが。最後の来日の時にちょうど『Mr.バッドガイ』というフレディのソロ・アルバムの話題があって、その頃4人もバラバラになってたのでインタビューも取りづらかったんですけど、フレディの方から「インタビューして欲しい」という連絡が来たんです。あら珍しやと思ったら、「ソロ・アルバムのことを語りたい」ってことだったので、『Mr.バッドガイ』の話を中心にインタビューしたんです。その頃‘85〜6年だからMTV全盛期でしょ、インタビューの後フレディがニカって笑って「〈I was born to love you〉のビデオがあるんだけど、見たい?」って言うんですよ。見たくない──って言えないじゃない。それも見ない?じゃなくて見たいか?なので、「はい、見たいです」って言ったんです。そうしたらもうスイッチを押せばいいようにセットしてあって。

増田:それ、可愛いですね。

東郷:可愛いでしょ。そしたらニカって笑ってカチャっとスイッチを。あのビデオご覧になった方います? なんかスゴいおかしなフィルムなんですよ、いつものように大袈裟で。それでやっと終わって、「ありがとう、じゃあ」って椅子から立ち上がろうとしたら、「ねぇねぇねぇ、もう1回見たくない?」って言うんですよ。だから、「はい、見たいです」って──結局都合4回見ましたね。4回目になると自分でピッとポーズ・ボタンを押して、「ここ、ここって僕ゴージャスよね〜」って。(場内爆笑)

増田:自分自身についてそういう言葉が出てくる人ってスゴいですよ。

東郷:スゴいっていうか、なんて可愛い奴なんだろうって思って、いやぁ「スゴいゴージャスだ!」ってノリました。

増田:それはノラざるを得ませんね。

東郷:この話が象徴するように、フレディってそういう人だったんです。

増田:自分の気持ちも上げたいし、周りの方がノってきてくださるとノリがよくなる。

東郷:それに、人に親切にしてあげたい。僕のコレを見るときっと喜ぶに違いない!──っていう人だったんですよ。

増田:なるほどね…。そう言った意味では映画で描かれている人と変わらないというか違和感ないですね。他のメンバーに関してはどうですか。特にブライアンはルックスもそうなんですけど喋り方がそっくりだなと思って。

東郷:ブライアンは映画を観て、「自分がいる」って言ったらしですけど。あのナヨ~ンとした感じとか髪の感じとか。それが凄いのがスマイルの頃って、真ん中のパーマが取れかかった感じだったのが、ちゃんと再現されてたんで、細かいとこまでやってるなって思いました。

増田:ブリティッシュ・アクセントで何か寂しそうな喋り方をしますよね。

東郷:そうそうそう、全然内容は違うんだけどね。

増田:強気なことを言ってても何か柔らかい。

東郷:そう。だけどよく考えるとキツイこと言うな──って。

増田:ロジャーの歌詞にあんなヒドいこと言ってましたからね。

東郷:車に乗るだけだろ──って。

増田:あの優しい言い方で、あんなヒドいことを(笑)。

東郷:アクセントとかギターの弾き方とか、振り付け師みたいな人がピタッと付いてフィルムを何回も見て勉強したらしいですから、あれはよくできてましたね。

増田:ブライアン役のグウィリム・リーさんはリズムギターを弾いたことはあるんですって。リードギターをヒーロー的に弾いたことはなかったので、どんな振る舞いをしていいか分からなかったからすごく勉強したらしいです。

東郷:<どんな振る舞いをしていいか分からない>って、まんまブライアンじゃない。

増田:(苦笑)

東郷:ブライアンってステージでそういうとこない? おどおどおど…みたいな。

増田:たしかにそうですね、仁王立ちしてウワーって感じじゃないですからね。さっき振り付け師って話がありましたけどフレディ役のラミ・マレックに付いたのは<ムーブメントコーチ>という肩書きの方で、ここでこう動けっていうんじゃなくてフレディの動き一つ一つを分析するんですって。ステージで腕を振り上げる仕草は幼少期にボクシングをやっていた影響が絶対ある──とか、若い頃に歯を気にしていて手で口を被うポーズをしていたのが、成功してくると胸を張って口元を被わなくなる──とか。そういうことを全部分析して、ラミ・マレックは一年がかりで全てを吸収して。彼が言うのは「フレディ・マーキュリーはその場で自発的な動きをする人だったはずだ。だから僕は取り入れるだけ取り入れて成りきって自然に動こうとした」ということで、縛られて動いている感じではなかったらしいですね。

東郷:ステージの端から端まで歩く姿なんか、あぁフレディだわって思いました。

増田:あと、変に姿勢がいいとことか。背中が弓ぞりになって。

東郷:本当にあれは独特ですよね、慣れてしまえばあれもいいなって思いますけど。

増田:映画が始まった時は、「あ、役者さんってあまり似てないじゃん」って思うんだけど、観ていくうちにだんだん本物に見えてくるんですよね。

東郷:だんだん感情移入できるようになって。

増田:あと、まだお話が出てないのがジョン・ディーコンですよ、ディーキー。年下だけあっていじられ役って感じで。

東郷:そうですよ、でもよく似てたね。

増田:特に髪を切って変なパーマのときってよく似てましたね(笑)。当時、ジョンはどうしてあの頭にしようと思ったんでしょうね。

東郷:私も、「パーマかけてるね」って話をした覚えはあるんですけど、ジョン・ディーコンははっきり言って好きでしたね。つまり一番普通の人なんですよ。バックステージとかで向こうもヒマだと話しかけてくるんで世間話とかして。フレディとかはコンサート前はピリピリしちゃって<話しかけるなよ>って煙幕を張ってる感じなんだけど、ジョンはそういうのが全然なくて、ブラ〜っと来て「今日は何するの?」って。こっちは「やることは決まってんだよ!」って言いたくなりましたね(笑)。ミュージック・ライフでもジョンと私がタバコを吸いながら喋ってる写真とかいっぱい出てくるんです。ただ、ジョンに関しては半分申し訳なくて半分大笑いするエピソードがありまして、3回目の来日の時だったかな大阪でインタビューをやったんですよ。ホテルに部屋を取ってメンバーに時間差で来てもらって一人ずつ取材をして。で、これは失礼なことなんだけど、フレディ、ブライアン、ロジャーとインタビューをして、ロジャーが終わった時「あーよかった、これで終わりだわ」と思ったんです。だってコンサート取材もした後で疲れ果ててたんですよ。で、スタッフ皆と「やっと終わったね──」と言った途端、誰かが部屋をノックするので扉を開けたらジョンが笑顔で「ハロー」って。一瞬皆真っ青になって、「そうだ、ジョンが残ってた!」。

増田:全員揃いも揃って(笑)。

東郷:そう、全員ジョン・ディーコンが頭から抜けてた(笑)、ひどいわよね。パッと開けたらにっこり笑って「ハロー」。もちろん、忘れてた──なんてそぶりはできないんだけど、長谷部さんなんか、もうカメラをしまってて(笑)。だから時間稼ぎで「コーヒー・オア・ティー?」とか聞いて。ティーって言うからカップに少し紅茶を入れて出したんです。それで男性スタッフが注ぎ足そうとしたんですけど、間違えてコーヒーを入れてしまって。ジョンがにっこり笑ってそのカップを飲んで、「あれ? この紅茶、コーヒーの味がする」って。それはすごく覚えてます。

増田:怒るでもなく機嫌悪くなるわけでもなく。

東郷:全然ないの。

増田:やっぱりディーキーは愛すべきキャラですね。

東郷:抱きしめたくなりますよ、あまりにもいい人で。でも、ジョンって今引退状態じゃないですか。

増田:そうですね。

東郷:ジョンのことってあまり表に出ないけど、凄くフレディのことを尊敬してたし好きだったみたいで、フレディの追悼コンサート以降一切公の場所に出てこないでしょ。

増田:隠遁生活。

東郷:自分でレコーディング・スタジオを経営して悠々自適らしいんですけでど、なんかジョンらしいなと思います。とっても普通の人、でも普通であるってすごく難しいことじゃないですか。

増田:あんなに普通じゃない世界にいるわけですから。

東郷:エキセントリックな世界にいたのに、そういう物に惑わされず常にマイペースで。海外のクイーンの取材ってこっちもイライラして目がつり上がっていたけども、ジョンに会うと和んだっていうのが随分ありました。

増田:バンド内のバランスってこうやって聞いてても、映画でも同じですね。なんか一番悪い部屋を与えられて、渋々だけどウンウンって(笑)。

東郷:70年代の初期、来日の1回目2回目くらいまでは四人揃ってインタビューしてても、ジョンの発言が全然ない──とか。最後にクイーンに入ったんだからって遠慮はあったと思う。そんなことを思う必要もないんだし、こっちも「じゃジョンはどう思うの?」って聞かないとニコニコしてるだけで。でも答えるとしっかり答えるんです、しっかりした意見も持ってる頭も凄くいい人。電子工学部主席で卒業ですから。イギリスってブルーカラー/ホワイトカラーの階級制度ってはっきりしてるじゃないですか、で彼らはブルーカラーじゃない。だからそういうものが特にジョンなんか出てましたね。

増田:育ちがいいのかな──っていうのが。

東郷:そういうところが初期の女性ファンにウケやすい部分だったんじゃないかしらね。王子様的な、少女向きな。当時ツェッペリンやパープルとかはマッチョ!みたいな感じだったけども。

増田:アクの強い人が多かったですよね。

東郷:変人奇行とか暴力的とか。なんかヤダなぁっていうのが。

増田:悪魔を崇拝してるとか(笑)。

東郷:そういうのが多かったんだけど、クイーンの場合すごくノーブルな感じがして、それを男性ファンがフン!って感じで見てた──という図式は確かにあったんです。

ミュージック・ライフとクイーン 来日時のエピソード

pic: KOH HASEBE / Music Life / Shinko Music
増田:そうなんですね、その時代のお話をしましょうか。最初輸入盤でしか手に入らなかった初期は、男性ロック・ファンがそれこそ<ツェッペリンの後継者>って言って。

東郷:当時は輸入盤を買って人より早く聴くというのがロック・ファンのステイタスで“このブライアン・メイっていうギタリストは凄い”っていう小波はあったんです。

増田:しかもギターは自分で造ったらしいぞ…とか。

東郷:暖炉の木で造ったらしいぞ…みたいな。そういうのが小波としてあったんです。ところが、女の子のファンがウァ〜!って大波になった途端にそういう小波は一気に潰されたわけですよ。でも蘊蓄を語りたがる男性ファンは今度はクイーン・ファンを揶揄するようになって。『ミュージック・ライフ』は確かにミーハーだったんですけど、クイーンが出てきた時にいきなりファンが15〜16歳の女の子になってしまったんです。同時期にベイ・シティ・ローラーズが出てきた頃で、不思議なもので男性ファンから揶揄されるクイーン・ファンが、今度はベイ・シティ・ローラーズを揶揄するんです、「ベイ・シティ・ローラーズなんかロックじゃないわ」「クイーンは全員が大学を出て頭いいのよ」って(笑)。何の意味もないですけど。

増田:僕がちょうど中学・高校の頃で、僕は<男ならパープル、ツェッペリンを聴け>みたいなのはイヤだったんですよ。ギター・ソロがあまり長いのとか得意じゃなくて。で、まぁその後クイーン、キッス、エアロスミスが出てきて、あっ、これが自分の世代のロックなんだなと思ったんです、3分間の曲もちゃんとあって、コンパクトな曲もあって、そういう中でベイ・シティ・ローラーズが人気者になってきて。高校時代、下級生がベイ・シティ・ローラーズ、タータン・ハリケーンにまみれてましたね。

東郷:なんだかんだいっても、スゴい人気があったからね。

増田:アイドルということでは、当時はスイートとかを同じようなアイドルとして見る向きもありましたよね。

東郷:エアロスミス担当のレコード会社の人、後にチープ・トリックを世に出す野中さんと喋ってて、「東郷さん、真面目な話、キッス、クイーン、エアロスミスってML三大70年代バンドって今でも通用しますね。東郷さん、実はどのバンドが一番好きなんですか?」って訊かれたの。私は個人的に、クイーンを見たら泣く──っていう大ファンではなかったんです、誰が好きかっていうとエアロスミスが一番好きだったの。どうしてかっていうと、エアロスミスって凄いブルージーなバンドだったでしょ。私どっちかっていうとアメリカのR&Bやブルースとかカントリーとかああいうのが好きだったんですよね。だからクイーンは嫌いだったわけじゃないんだけども、「いやぁ一番好きなのはエアロだったのよ」って言ったら野中さんが「僕、実はクイーンなんだ」って。

増田:な。なんと。当時、最初に『ミュージック・ライフ』がクイーンを取り上げたのは、東郷さんがモット・ザ・フープルの取材でニューヨークに行った時だったんですよね?

東郷:この話はもう100万回くらいしてるんですけど、1974年の春。当時モット・ザ・フープルはCBSソニーから発売してたんです、イギリスのバンドですけど初めてアメリカでツアーをするというので、しかもブロードウェイでロックのバンドが演奏するというのは凄く画期的で、それを取材しませんか?って言う話がCBSソニーから来たので、心の中ではやったぞ!と思いながら、行きます!って言ったんです。どうしてかというとクイーンが前座なのを知ってたから(笑)。私は当時、クイーンを凄く見てみたいと思っていて、写真を見て、この人はギターかな、この金髪の人はヴォーカルかな…この人(フレディ)は何をするのかな?──って(笑)。でもファーストの『戦慄の女王』1曲目の「キープ・ユアセルフ・アライブ」を聞いた時、なんてカッコいい曲なんだろうと思ったし、今までのバンドとは全然違うし、なんとなく人気も出始めた。でも実際の演奏が下手だったらお笑いになっちゃうので。きちんと演奏ができるバンドじゃないと推したくなかったんです、それで見る機会が欲しくてしょうがなかった。それができたわけです。前座ですから演奏時間は30分くらいで、イクイップメントも簡素で時々スポット・ライトを射す程度。その時のクイーンが例の白鷺ルック(笑)で、ステージに出てきたらフレディがバッと手を上げて白鷺の羽を広げたわけですよ。ブライアンも白鷺で、ジョンは恥ずかしそうにして(笑)。それを見て、すげ〜〜なぁ!って、好きとか嫌いじゃなくてこれは日本でやったら絶対ウケると思ったわけ。そんなバンドいないし、なんとなく薄化粧してキレイだったでしょ、当時の日本人の女の子はそういうのが好きなのよ、少女漫画っていうのがあったから。そういうものと通底する物があって、私はクイーンは売れる!やるぞ!と思って。

増田:その時の取材はロジャーとジョン。

東郷:そう、ロジャーとジョンだけ。フレディはお買い物でいなくて、ブライアンは病気で隣の部屋で臥せってるよ──ってロジャーが教えてくれたの。「でもせっかく来たんだから、Say Helloだけしない?」って呼んで来てくれたの。そうしたら今にも倒れんばかりのブライアンが、「Hell~o~」って真っ青な顔して出てきて。

増田:当時、ブライアンは病気がちってイメージが凄く強かったですよね。

東郷:その後『ミュージック・ライフ』が取材したのはロンドンで、その時のフレディはいたけどブライアンは居なくて。その取材に私は立ち会ってないんだけど、丁度3枚目の『シアー・ハート・アタック』との間で、もう曲はできあがってたんだけどブライアンがギターを被せるのが凄い重労働で倒れたらしいのよ。それでなんとなく病弱な人っていうイメージが。

増田:あの頃『ミュージック・ライフ』の「He Said She Said」って読者投稿コーナーで、僕未だに覚えてるギャグがあるんですよ。ここで一句っていうので、<病気がち せめて稼ごう 薬代>(笑)。そういうイメージが勝手にできてて。当時はフレディは歯がどうとか、エルトン・ジョンはハゲとか、ジミー・ペイジはケチとか。

東郷:そういういじられキャラが多かったのよ。フレディなんか最高のいじられキャラ。でもそれは愛情の裏返しなんですよ。

増田:ただ、初期のクイーンは有望新人の匂いはあっても世界中が注目してる感じじゃなかったわけですよね?

東郷:日本の洋楽業界もミュージック・ライフも狭い世界なの。ネットもSNSもない時代だから世界のことなんか何も分からない、MTVさえなかったのよ。で、月刊の雑誌しか情報がなかったわけで。

増田:来日アーティストも今みたいに多くないですし、海外のアーティストの取材ができる機会も限られていて、でも毎月雑誌を出さなきゃならない。

東郷:そう、大変だったんですよ。でもなんとかやってましたね。海外の『Billboard』や『Cash Box』『Melody Maker』『NME』とか辞書を片手に読んではニュースに使ったり。

増田:そんな中でのクイーン来日になったわけです。

東郷:それでも業界はタカを括ってましたね、高名な音楽評論家の先生たちからも、止めとけって言われて。当時は<アメリカで売れてるバンドが本物>っていう風潮で、日本やイギリスやフランスは関係なし。全米ナンバー1の錦の御旗がないとダメ。でも、「そんなの関係ないじゃない、私がいいと思ったんだもの、ファンもきっといいと思うわよ」ってね。チケットも売れたわけです。で、コンサートが始まって客電が落ちた途端、女の子たちがキャ〜!!って山のようにステージに押し寄せて、そこでバタバタと失神するの。

増田:ドミノ倒しのように。

東郷:撮影してた長谷部さんも倒されたんだけど、その下にも女の子がいるから両手で踏ん張っていたわけ。でも上にどんどん倒れ込んで来るから大変。フレディがステージからそれを見て、「ちょっと待て! 客電を付けてくれ、みんなもっとクールダウンしよう」って言ってくれたんですよ。私は一階席正面でそれを見てたからアリーナの前でそんなことが起きてるのなんか分からないんですよ。後から長谷部さんに会ったらもうボロボロで、メガネはどっかへ行っちゃうし、カメラは3台くらいグショグショ、アルミ製のカメラケースの蓋もなくなって。これは弁償しなきゃ…と2人で意気消沈したのを覚えてます(笑)。

増田:だから、その日は写真を撮れなかった。

東郷:しかたがないから地方のコンサートへ行って撮ったんです。でもそれを見て私は、「やったね!」と思いましたよ、ざまぁみろ!と
pic: KOH HASEBE / Music Life / Shinko Music

ミュージック・ライフとクイーン 海外取材のエピソード

増田:さっきのベイ・シティ・ローラーズもそうですけど、女性ファンが多いバンドを軽視しがちな風潮が業界にもあって、お偉いさんたちからは“顔だけのバンドだろう”とか言われて。

東郷:そういうところって男ってダメよね。第一顔だけでファンになります? やっぱりあの声で、あの音楽で、キャラクターがあってファンになったわけですよ。

増田:やっぱり音楽が凄い。好き嫌いはあるとしても凄いことは確か。そういうところはありましたよね。さっきも言ったように当時の僕は当時中〜高校生なんですけど、クイーンの場合、アルバムが出て来る度に違うじゃないですか。それで、あ、ついて行けない──っていうのがいつも出てきたんですよ。三大バンド体験の中でキッスみたいな分かりやすいのもあれば、エアロスミスの“こういうのがロックンロール・バンドなんだね”っていうのがある中で、クイーンに関しては「えっ、これってロックなの?」って曲が平気で出てきて、メンバーによって全然違う曲調だし、分からない分からないと思いながらも何度も聴いて。それで聴き慣れた頃に新しいアルバムが出ると、これがまた違う──という繰り返しでした。

東郷:私はまず最初のアルバム『戦慄の王女』を聴いて凄いなと思ったんです。で、今聴くと音作りも軽いんだけど本当の意味で、ヒエ〜〜ってビックリしたのが『クイーンⅡ』なの。男性ファンが密かに「大きな声では言えないけどクイーンって凄くいいかもしれない」って評価したアルバムで。それで、これはエッ!?って言われることがあるんだけど私が初期のクイーンで好きなのは『シアー・ハート・アタック』なの。凄くロックンロールしてるんですよ。

増田:コンパクトで強い物がぎっしり入ってる。

東郷:ジョン・ディーコンの曲もロジャー・テイラーの曲も入ってるし、クイーンってロックンロール・バンドなんだなっていうのが分かって。ジャケットも凄く好きですね。あれってクイーンのアルバムの中で珍しくない? 4人がちゃんと写っていて。

増田:華麗な感じではなくて。あのアルバム僕は大好きでしたけど、その後で『オペラ座の夜』が出た時には驚きましたわ。

東郷:どうしよう…と思いましたね。

増田:「ボヘミアン・ラプソディ」はラジオで聴いてたんですけど、アルバムを買って聴いてみたら1曲目の「デス・オン・トゥ・レッグス」が怖くて怖くて。ナイフをグサッグサッて刺すような感じを受けてしまって。かと思えば色んな曲が出てくる。今思えばオペラティックな──って言い方ができるんですけど当時は何て言っていいか分からなかったです。

東郷:そうでしょうね。でもああいうのが好きになるとハマる。ハマる入り口になったアルバムですよね、クセになるというか、それは凄く感じますね。

増田:あのアルバムで世界的に評価が決定付けられたわけですよね。映画の中でもあのアルバムの制作背景が多く描かれていて、名前は違うんですけど実際はリッジ・ファームという農場のスタジオで録音されて。東郷さんはここに。

東郷:行ってるんですよ、初来日の翌年、ちょうど次のアルバムのための曲作りとリハーサルをやっていて。初来日があんなに大騒ぎになったので、ファンからいっぱい電話がかかって来るんですよ“クイーンは今何をしてますか?”って。そんなの知らないですよ(笑)。でもそういう要望がいっぱいあったので、これはやらない手はないし、行かなきゃしょうがないと。当時クイーンの方に話が行くのは大変で、というのはクイーンはアメリカでは契約がエレクトラ・レコードで、日本はワーナー・パイオニアがエレクトラ・レコードと契約してたんです。だから私たちがクイーンの取材をしようと思うと、まずワーナー・パイオニアに連絡して、そこからエレクトラに行って、そこからEMIに連絡が行くんです。そういう経由をしなければいけないから時間がかかったんですけど、やっとOKが出て。それでロンドンに飛んで、そこから車で二時間くらい走って行ったのがリッジ・ファーム。着いたのが昼過ぎで終わったのが夕方──というくらい大歓迎してくれたんです。フレディはサービス精神の塊で、ここで写真を撮ろう、こういうのはどうだ?と、もういいよってくらい(笑)。

増田:その辺りのことは『ミュージック・ライフが見たクイーン』とかにも再録されてますけど、僕が印象に残っているのはテニスをやってるメンバーたち。

東郷:あれもフレディが“そうか、外で撮るならテニスをやろう”って。でもテニスってやってる所って見るのは楽しいんだけど写真にしたら面白くない。

増田:しかも写真から下手なのがわかるメンバーがいて(笑)。背が高い人。

東郷:とにかく下手なの。だって1回もボールに当たらないんだよ。フレディも言い出しっぺのわりにマアマアだったけど、ロジャーなんか凄いのを打つし。一番上手いのはジョン・ディーコン。

増田:え〜〜。(笑)

東郷:それもニコニコ顔でパーン! 見た目と全然違って、面白かったですよ。ブライアンが空振りする度に大声で笑ってたのがプロデューサーのロイ・トーマス・ベイカー。それで最後に全員で写真撮りましょうって、当時のガールフレンドも皆集まって。だからメアリーもいたのその中に。こっちは全然分からないから、お茶を出してくれて感じいいな──って思ってた。

増田:最近、あの時の記事を改めて目を通す機会があったんですけど、取材に行くことにGOサインは出たものの編集部の方にクイーンがどういう状態で何をしているかっていう情報は一切なかったんですね。

東郷:そうです。

増田:だからビックリしたのが、質問の一問目が<今レコーディングをしているの?>だったんです。

東郷:レコーディング自体ではなくて、まだ曲作りがどうの、リハーサルがどうの──っていう段階で、そのアルバムが『オペラ座の夜』だったわけですよ。「実は日本語の曲を入れようと思ってるんだ」「日本の思い出は最高だ」とか「琴を使いたいと思っている」とかって話もあって。そういえば『オペラ座〜』には琴の入った曲もあって。あと、フレディが「僕たちは音楽と結婚したんだ」っていう名言を吐いた──とか色々ありましたけど、当時のインタビューなんてそんなものなんですよ、重箱の隅を突くような質問じゃないわけ。やっぱりファンが知りたいこと<好きな食べ物は? 初恋はいつですか?>とか、でもクイーンのメンバーが相手だから訊けたのよ、なんとなく雰囲気で。これが例えばピンク・フロイドのメンバーには訊けないでしょ(笑)。でもクイーンってそんな女の子の夢を実現してくれるところがあって、実際に答えてくれたし。

増田:本当に日本のファンのことはそのインタビューの中でも大絶賛してました。で、出来上がったのが『オペラ座の夜』。

東郷:あんなのが出来上がるとはちっとも思いませんでした。

増田:あんなコーラスの多重録音をあんな納屋で。

東郷:やってたんですよね〜、びっくりしました。リッジ・ファームは今でもあって、ネットを調べると使用料とか載ってます。

増田:宿泊施設付のレコーディング・スタジオ。そもそも農場の納屋だかの大きな建物を改造して機材を持ち込んで。

東郷:もっとちゃんと聞いておけばよかったなって思うんですけど──何かの曲のリハーサルをやっていて、貴重な場にいたのにねえ。でも写真を押さえて話を聞くのに夢中でしたから。

増田:さっきも取材連絡の面倒さの話になりましたけど、なにしろ当時は全部国際電話とテレックスですから。インターネットどころか未だFAXもなくて。FAX普及は86年くらいだと思うんですよ。

東郷:あのFAXの出現時は神様だと思いましたね。

増田:当時ブッキングは大変でしたけど、一回決まったことは守ってくれましたよね。

東郷:そういう所は今よりも慎重に事を進めて。
 

次回PART.3は1月30日(水)の更新を予定しています。

RELATED POSTS

関連記事

LATEST POSTS

最新記事

この記事についてのコメントコメントを投稿
  • jimmario さん投稿日時 2019.02.01 20:43

    MUSIC LIFEの名物コーナー He said She said。実に楽しかったです。よくもまー、世界的なアーテストをあれだけ「こき下ろせたものだ」と思います。ジミーページが集金袋を肩にかけたイラストや北海道の隠れ東郷ファンの方が描いた、フライアン メイトと2ショットの東郷さんのイラストなど、皆さんとってもウイットに富んだ楽しい作品満載でした。ちなみに、ミュージックライフ読者がつづった爆笑ゲラフティ <He said She said 傑作集> つい登場!として、笑ケースが発行されましたね。表紙は思いっきりひげ面のフレディーマーキュリーだったような・・・。歯は出ていなかったような・・・。

MUSIC LIFE Presents クイーン<シンコー・ミュージック・ムック>

2,160円
ROCK STARS WILL ALWAYS LOVE JAPAN 長谷部宏 写真集

ROCK STARS WILL ALWAYS LOVE JAPAN 長谷部宏 写真集

3,240円
ミュージック・ライフが見たクイーン

ミュージック・ライフが見たクイーン

3,086円
麗しき70年代ロック・スター伝説 8ビートギャグ リターンズ

麗しき70年代ロック・スター伝説 8ビートギャグ リターンズ

1,620円

ページトップ