今年のベスト・アクトは? 〈フジロック'19〉を振り返る

Text: Mika Akao / Pix: Yuki Kuroyanagi

苗場で21回目の開催を迎えた今年のフジロック。7月25日(木)前夜祭15,000人、7月26日(金)40,000人、7月27日(土)40,000人、7月28日(日)35,000人と延べ130,000万人が来場。ディラン初出演で盛り上がりを見せた昨年よりさらに多くの来場者で賑わいました。
    
また2日目には台風6号の影響による記録的な豪雨が降り、テントや通路の水没に加え一部プログラムが中止。現地にいたオーディエンスにとっては忘れられない雨になったことでしょう。お昼過ぎから夜明けまで容赦なく降り続けました。

例年以上に過酷な環境もありつつ、YouTubeでのライヴ配信も含め世界中を巻き込んで盛り上がった今年のフジロック。ここでは元ミュージック・ライフ編集者でもあるライター赤尾美香さんが現地で見た多くのステージの中から、各日の“ベスト3”を中心にレポートします。フォトグラファー畔柳ユキさんによる撮り下ろしフォトと合わせてお楽しみください!

■ライター赤尾美香が見た今年のフジロック

7月26日(金)

THE CHEMICAL BROTHERS ケミカル・ブラザーズ
7/26(金)GREEN STAGE 21:00-22:30

〈BEST ACT〉
①THE LUMINEERS ②JANELLE MONAE ③MITSKI
_____________________________________________

方のグリーンステージに登場したジャネール・モネイ。「私は黒人でクイア」というスタンスで発するメッセージは、まさに今日的であり世界的。バック・ダンサーを引き連れてのステージは、華やかにしてダイナミック。LGBTQを象徴するカラーの照明や、MVでお馴染みのヴァギナ・ドレスも!!  伸びやかな歌声、キレキレのダンス、豊かな表情、かっこよくてチャーミングな彼女は、堂々たるプリンスへのオマージュも含め、1時間の完璧なショウを披露した。今日はもうジャネールを超えるステージはないなぁ、と思っていたら、フィールド・オブ・ヘヴンのトリ、ザ・ルミニアーズがこれまた素晴らしかった。

と、その前にレッドマーキーで観たMITSUKI。9月以降ライヴ活動休止を宣言していただけに、注目度は高い。思った以上に安定感のある歌声とユニークなパフォーマーぶりにあっぱれ。窮屈な世の中において自我と対峙する姿、あるいはそこから肉体的及び精神的な解放を試みている姿は、この時代に活躍する女性アーティストの多くと共通するものだと思えた。

そして、祭の初日を盛大に彩るケミカル・ブラザーズをチラ見しながら、ヘヴンへ。これまでポップなルーツ・ロックで、観客を巻き込んでワイワイと明るいショウを観せるという印象だったザ・ルミニアーズが、じっくりと“歌”を聴かせた。時には、聴き手が思わず息を止めてしまうほどの緊張感を伴って、真摯な歌が夜の山に響いた。いつの間にこれほどの深みを備えたバンドになったのか! 9月に出る新作に俄然期待。

MITSKI ミツキ

7/26(金)RED MARQUEE 20:00-21:00

THOM YORKE TOMORROW’S MODERN BOXES 
トムヨーク トゥモローズ モダン ボクシーズ

7/26(金)WHITE STAGE 22:00-23:30

7月27日(土)

SIA シーア
7/27(土)GREEN STAGE 21:10-22:25

〈BEST ACT〉
①DEATH CAB FOR CUTIE ②COURTNEY BARNETT ③CAKE
_____________________________________________

大好きなCAKEをゆるゆると味わい、雨脚が強くなってきたのはコートニー・バーネットを観ていた頃から。でも、雨など気にせず夢中になれた。堂々たる歌いっぷりに、ギターの弾きっぷり。トリオ編成のバンドはツアーで鍛えられただろう、ざらついたロックンロールを痛快に繰り出す。私の中では、パティ・スミス後継者第1号認定決定。すっぴんで、脇毛は処理せず、中性的ルックで、いわゆる“女性らしさ”の括りを打ち破って自由であり、潔く品もいい。今年のフジロック、SIA、ジャネール・モネイ、ネイ・パーム(ハイエイタス・カイヨーテ)ら非ヘテロを公言する女性出演者が多く、コートニーもその中のひとりだが、彼女たちの軽やかで凛々しき姿にはたくさんのインスピレーションをもらった。

SIAが始まる頃には土砂降り。足元を空のペットボトルが流れていく。来日しないと思っていたダンサーのマディ・ジーグラーの登場に興奮しつつ、抜群の歌唱力を見せつけるSIAの歌に絡め取られていく。しかし、生演奏ではなくバックトラックを用いているのは、個人的に残念ポイント。とはいえ、直立不動のまま歌うSIA、ダンサーとスクリーンを用いたコンテンポラリー・アートのごときステージは見応え十分だ。しかし、次第に私は飽きてしまった。“音楽ライヴを楽しんでいる”感が希薄になってしまったのだ。もし雨が降っていなかったら、もう少しあのアートを堪能することができたかもしれないが……。

で、ホワイト・ステージに走りデス・キャブ・フォー・キューティー。最高!!  新布陣になって初の来日(7年ぶり)、過去から現在を総括するセット・リストもさることながら、緩急つけながらのダイナミックかつ繊細な演奏にはスキがなく、凄まじい吸引力を発揮。降りしきる雨の向こうで演奏する彼らの姿に、何度も感極まりそうになった。

                        CAKE ケイク   

                              7/27(土)GREEN STAGE 14:50-15:50

DEATH CAB FOR CUTIE  デス・キャブ・フォー・キューティー

7/27(土)WHITE STAGE 22:00-23:30

7月28日(日)

THE CURE ザ・キュア
7/28(日)GREEN STAGE 21:00-23:15

〈BEST ACT〉
①THE CURE ②STELLA DONNELLY ③HIATUS KAIYOTE
_____________________________________________

とにかく圧巻だったザ・キュアー。深刻な個人的事情で来日できなかったサイモン・ギャラップ(b)の代役は彼の息子だったと、後から知った。それくらい演奏はタイトにしてダイナミック、ロバート・スミスの歌声には張りも艶もあり、フェスらしく代表曲を並べ、威風堂々の横綱相撲みたいなショウだった。彼らは6年前ここで、伝説の3時間ステージを繰り広げたが、あの時よりもずっとバンドの状態はよさそうだ。

レッドマーキーで観たステラ・ドネリーは、そこにいる人みんなが彼女を好きになってしまっただろう、と思えるほどにキュート。オーストラリアの実家で配信観覧中の父親に向かって呼びかける姿の、なんと愛らしかったことか。でも、彼女が歌う歌には男性優位社会に対して物申す視点があり、男性であれ、女性であれ“自分らしくあろう”という思いが強く込められている。

5回目の来日にしてフジロック初出演となったハイエイタス・カイヨーテ。昨秋、乳がんを公表したネイ・パームを心配したが、いい方向に向かっているようで一安心。親日家として知られる彼らだが、この日も日の丸にコヨーテをあしらったと思われるバックドロップを下げ、ネイ・パームの奇抜な衣装にはポケモン・キャラも。変幻自在のリズムを何食わぬ顔で共有し、各人が楽器の音を重ねてグルーヴを生み出していく。言葉なき部分も多いネイ・パームの歌は、そのグルーヴを巧みに操り、さらなる高みへと引き上げる、そんなイメージ。前日の豪雨が嘘のように晴れた空に、彼らのジャムが気持ちよさげに踊っていた。
 

JAMES BLAKE ジェイムス・ブレイク

7/28(日)WHITE STAGE 22:00-23:30

STELLA DONNELLY ステラ・ドネリー

7/28(日)RED MARQUEE 12:40-13:30

■〈番外編〉 今年のベスト・フードは?

豪雨の土曜日は結局何も食べられず。だから、雨はイヤなのだ。初日、フィールド・オブ・ヘヴンで食べた『井の頭ナムチャイ』のカオソーイは自家製麺使用。美味しかったけど夜でうまく写真が撮れず残念!

『朝霧食堂』の朝霧シチューは、私のフジロック定番食。最終日ともなるとパン付きが売り切れで泣く泣く単品。でもボリュームたっぷりで、満足度は高い。同じく定番はヘヴン出店の『さくら組』のピザ。30分待ちは少々辛いがいい休憩タイムにもなり、焼きたてマルゲリータを友人とシェア。

初めて食したのは、都内でも人気のレストラン『WE ARE THE FIRM』のタコス&ナチョス。思いのほかひき肉たっぷり。味にもう少しパンチが欲しかったけれど、晴れた最終日、グリーン・ステージで友人たちとハイエイタス・カイヨーテを待ちながらワイワイつまむのにはよかった!!  最終日にヘヴンに行くと、帰宅後月曜の朝食にすべく『ルヴァン』でバタはちを買うのもおきまりのパターンで、もちろん今年も買いました。

■2020年の開催は8/21、22、23に決定!

来年2020年はオリンピック・イヤーということもあり、例年より1ヶ月ほど遅い8月21、22、23日での開催が発表されました。いつもと違う時期でのフジロック、果たしてどんな展開が待っているのでしょうか?

『FUJI ROCK FESTIVAL'20』
2020年8/21(金)22(土)23(日)
新潟県 湯沢町 苗場スキー場

■オフィシャルサイト fujirockfestival.com

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