森田編集長の “音楽生活暦”

新連載 森田敏文(ミュージック・ライフ・クラブ編集長)

第2回:エリック・クラプトンとロバート・クレイの壊れた友情。そしてトランプ政権後の音楽について

動画「Eric Clapton & Robert Cray - Old Love」より
 

今年から始まった、ミュージック・ライフ・クラブ編集長・森田敏文による新連載。月いちペースでミュージック・ライフ的な洋楽のアーティストや作品、業界やシーンに関するあれこれなど。「ミュージックなライフのカレンダーへ」、徒然なるままに語るその月の談話形式の雑記としてお送りします。

森田編集長は1981年入社、即『ミュージック・ライフ』編集部に配属(当時の編集長は東郷かおる子氏)。88年に雑誌『クロスビート』を立ち上げ、その後は『FRONT』(後に『blast』と改名)、『THE DIG』を手がけ、現在は編集の現場を離れるも出版部門一筋。会社の舵取りの一角を担いつつ、MLC編集長として今回新たに連載をスタートさせました。

第2回目のテーマは、かつては親しかった二人、エリック・クラプトンとロバート・クレイの雲行きの怪しくなりつつある関係、そしてトランプ政権後の音楽界の動向についてです。

●エリック・クラプトンとロバート・クレイ。そしてトランプ政権後の音楽について

最近のエリック・クラプトンとロバート・クレイの一件から、いろいろと考えさせられました。

トランプ登場以降のアメリカは典型的な例になっているけど、考え方の違う人を排斥するために、自分に都合のいいことだけを真実として認めていく傾向が顕著になってしまいました。そのため反対の意見はまったく耳に入れない、聞く耳を持たない、という人たちが双方に溢れ出してしまった。トランプ政権下ではそうした分断を煽ったせいで、最終的には大統領選挙の結果を信じない人たちが、武器を持って議事堂に乱入までしてしまった。もしこれが日本で起きたら、と思うと非常に怖いですよね。一種のクーデターですから。「民主主義を守る」というお題目で「民主主義を壊す」行為は、許してはいけないでしょう。そして最近そういった分断を更に助長する考え方が、音楽の世界にもちょっとずつ浸透してきている感はあって心配です。

ベテラン・ミュージシャンが、これまでは決して言わなかったような「暴言」「誹謗」「痛罵」を平気で口にすることが多くなったように感じます。もちろん単純に自らの意見表明するだけなら良いのですが、その正当性を強調したいのか、用意した敵をしっかり罵倒するのが厄介です。

ミュージシャンが社会的発言するのは良いことですし、そうした個人の考え方を音楽に反映してきたのも「ポップ・ミュージック」の世界では常道です。ただし最近の例を見ると、どうしても「自分に都合の良い情報」だけで理論武装し、それを絶対的に正しいと主張していることが多いように感じられます。そこには大きな違和感が残ってしまう。

◆ SNSの普及は立場の違いを助長している? ◆

こうした風景の背後にはSNSの発達という要素が大きく絡んでいますよね。SNSって自分の意見に近い人はフォローするけど、反対の人はフォローしない。そうすると、自分の意見に近い人の話だけがドンドン入ってくる。その結果、そちら側の意見が絶対的に正しくなる。だけど反対側の意見がまったく聞こえてこない。「でも、こういう考え方があるんだよね」という事が全く見えてこない。だから議事堂に押しかけてしまうような事態も起きてしまう。SNSは便利だけど、社会を分断させる非常に危険な部分を持っているし、それは音楽の世界でも少しずつ起きてきているのかなと。

コロナも要因でしょうね。今までの活動が出来なくなってしまっていて、ミュージシャンにとっては自分の生き甲斐、自由が奪われたような感はあると思いますし、焦りにつながっているかなと。そういった中で、様々な事柄を拡大解釈してしまっている。

意識的に自分とは違う考え方を聞くようにしたり、異論を知っていることは大事だと思います。アメリカの田舎の白人の貧困層は民主党政権時代には何もしてもらえなかったという、そういった中で現れたトランプは救世主であって、そういったメンタリティも理解しないといけないでしょうけど、あまりにも極端に思想が行ってしまうのは引き戻さないといけないですよね。色々なものが便利になっている一方で、考え方が不自由になってきているような気はします。そういった分断の流れは、残念ながら音楽でも始まっていると思いますね。「このアーティストは、今の自分と考え方は違う」という違和感。けれどもかつて作った音楽の評価は変わるわけではないですよね。ただ、あまりに異論無視の極端な発言を聞くと、寂しさを感じます。

◆ 異なる意見に、“意識的に” 耳を傾ける必要があるのでは ◆

ロバート・クレイは黒人でありながら、地元の黒人コミュニティでブルースを学んだわけではなく、普通にビートルズなど聴いていた音楽少年で、改めてレコードからブルースというものを知ったんですね。つまり、黒人とはいえクラプトンと同じようにブルースを学んでトップ・アーティストになったわけです。心情的に近いところにあったはずのクラプトンに、「人種差別」と「ワクチン接種」を同列で語られてしまっては、さすがに許せなかったということでしょう。今後の共演は拒否、そして友人としての関係も終止符も打たざる得なかったのは、悲しすぎますね。クラプトンもヴァン・モリスンも、コロナ禍でライヴができない苛立ちを抱えているのは理解できますが、あまりにその表現・表明が一方的正義であること、それによって批判されるのは当然だと思います。

クラプトンは昔から自らの音楽がブルースに多くを負っていながら、人種差別的発言が度々あって問題視されることが多かったんですが、今回のような発言もまたそうした負のページに追加されてしまいました。彼の音楽的偉業が変わるわけではありませんが、やはりあまりに悲しい結末と言えそうです。
 

2月18日(金)発売

アンブルースド 80年代のエリック・クラプトン
エリック・クラプトン自叙伝

エリック・クラプトン自叙伝

3,080円

エリック・クラプトン(著)、中江昌彦(訳)
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