森田編集長の “音楽生活暦”

新連載 森田敏文(ミュージック・ライフ・クラブ編集長)

第3回:ジェスロ・タルの新作を聴いて思う長寿バンドの事

ジェスロ・タル公式ツイッターより。1月にリリースしたばかりの最新作『The Zealot Gene』は、ヨーロッパ各国だけでなくアメリカでも好チャート・アクションを記録したことを報告。人気も健在

ミュージック・ライフ・クラブ編集長・森田敏文による新連載も今回で3回め。月いちペースでミュージック・ライフ的な洋楽のアーティストや作品、業界やシーンに関するあれこれなど。「ミュージックなライフのカレンダーへ」、徒然なるままに語るその月の談話形式の雑記としてお送りします。

森田編集長は1981年入社、即『ミュージック・ライフ』編集部に配属(当時の編集長は東郷かおる子氏)。88年に洋楽専門誌『クロスビート』を立ち上げ、その後はヒップホップ/R&B専門誌『FRONT』(後に『blast』と改名)、ベテラン・ミュージシャンの特集主義雑誌『THE DIG』を手がけ、現在は編集の現場を離れるも出版部門一筋。会社の舵取りの一角を担いつつ、MLC編集長として今回新たに連載をスタートさせました。

第2回目のテーマは、ジェスロ・タルの新作をきっかけに徒然に考えた、ベテラン・バンドのあり方について。ジェスロ・タルは1967年にデビューし、顔ぶれを変えながらも新作『ザ・ゼロット・ジーン』を今年1月にリリースしたばかりで、その活動期間はなんと半世紀を超えます。そしてそれ以外の長寿バンドも、いろいろ特色があって........

●ジェスロ・タルの新作を聴いて思う長寿バンドの事

ジェスロ・タルが18年振りにスタジオ新作『The Zealot Gene』というアルバムを出しました。ホント驚きました。そんな長い間アルバム出してなかったか、というのが実感で、リーダーのイアン・アンダーソンはソロ名義でのアルバムや、バンドの昔の作品のデラックス・エディションをコンスタントに出ていたこともあって、そんな感じはしなかったんです。

でも調べてみると2003年にクリスマス・アルバムを出して以来との事。ただしジェスロ・タル=イアン・アンダーソンと言えるので、今回のアルバムを聴いても、イアンのソロとほとんど差が無いと思いました。曲自体はこれまでのジェスロ・タルと特に変わったことはありませんし、際立ったフックもあるわけでは無いのですが、彼のヴォーカルは全然衰えてない、これが一番感心したところでした。

今、このバンド名で活動してくれているのはファンとしては嬉しい気持ちになるのではないでしょうか。ジェスロ・タルは結成が1967年で、それからすでに55年が経っています。とんでもなく長くやっているバンドだなと思いました。それで、他のバンドはどうなんだろうと、ちょっと調べてみました。

◆ ジェスロ・タル以外で、今も活動している長寿バンドには? ◆

今も現役で続いているバンドで、おそらく最長なのは黒人のコーラス・グループ、ザ・ドリフターズではないかと。結成が1953年ですから、驚いた事に69年も続いているんです。当然、ベン・E・キングとか有名な人がいた時代はとうの昔で、現在はかつてのヒット曲だけを毎晩歌い続ける懐古的なグループになっているわけですが、それでも綿々と暖簾が続いていて、これはこれで驚異的ですよね。

その次に来るのが、多分この間オリジナル・メンバーのドン・ウィルソンが亡くなったザ・ベンチャーズではないかと。ドン・ウィルソンが亡くなったからと言って、バンドが無くなるわけではないと思いますし、オリジナル・メンバーは誰もいませんが、それこそ「暖簾は続くよ、どこまでも」という感じでしょう。彼らは1959年結成で、63年続いているグループです。

ロック・バンドで言えば、やはりザ・ローリング・ストーンズが長いのではないかと。途中で一時的な解散や活動休止もなく、もうじき結成して60年です。いや、大事なバンドを忘れてました。ビーチ・ボーイズは結成が1961年ですから、結成して61年ですね。

◆ 意外な長寿バンド、スコーピオンズ。秘訣はバンドとしてのあり方にあり ◆

こういうバンドの次に来るのが、意外やスコーピオンズかもしれません。結成して57年になるそうで、彼らはルドルフ・シェンカーがいればスコーピオンズという事らしいんですが、これも凄いですよね。その後に来るのがシカゴやフリートウッド・マックなど。さらにその下に続くのがイエスやエアロスミスなど。

で、どうやったらこんなに長く続けられるのかを考えた時に、ストーンズで言えば、最初はブライアン・ジョーンズがリーダーで、その後にミックとキースに政権が移って、基本的にはこの二人がいればストーンズであると考えられます。いわゆる双頭バンドですよね。先ほどのスコーピオンズは、リーダーのルドルフがいれば続くというバンド形式。意外なのがシカゴ。実は彼らはまだ3人オリジナル・メンバーが残っていて、これも改めて驚きました。彼らはヒット曲もたくさんあるので、おそらくメンバーが変わっても続いていく「暖簾バンド」のようになるんでしょう。

フリートウッド・マックは、ミック・フリートウッドとジョン・マクヴィの名前からバンド名も付けられているように双頭バンドです。ただ、彼らはギタリストが変わるたびに大きく音楽性が変わるバンドで、そういう長生きの仕方も結構ありそうです。基本的に曲作りをギタリストが担うことが多いと、こういうことが起きますね。かつてのジェイムズ・ギャングなどはわかりやすい例です。ジェスロ・タルも、スコーピオンズのルドルフ同様イアン・アンダーソンがいればOKでしょう。

一方でイエスはオリジナル・メンバーいないんですよね。今だとスティーヴ・ハウがいるからイエスという感じですが、実は彼は3枚目のアルバムから参加しているメンバーです。今のイエスの動きを見ているとプログレ界の互助会的に人事異動が行なわれているようなバンドになっているのかなと。そういう存続方法も今ならアリでしょう。それからエアロスミスはストーンズに倣って、スティーヴン・タイラーとジョー・ペリーの双頭バンドですね。

色々な長生きのあり方はあるけれど、サウンドにリーダーになるべき人達が一つのしっかりとした個性を持っていて、曲作りが基本的にその人達で出来ている。そういうバンドは個性が確立しているし、一種の暖簾が続く大きな要因になっているんだろうとは思います。

◆ 暖簾は続くよいつまでも。U2よ永遠なれ ◆

予備として調べたんですが、その後に続く長寿さんはAC/DC、アイアン・メイデン、デフ・レパード、デュラン・デュラン、U2、モトリー・クルー、ペット・ショップ・ボーイズとかです。ペット・ショップ・ボーイズは二人組なので不思議はないですが、U2はバンド結成以来メンバー・チェンジ無しに45年くらい続いているという稀有な存在で、結束力に驚きました。

どのバンドも平等にメンバーが年を取って、様々な理由で欠けていって、それでもバンドが続けられるのか? 時にはバンドの名義を誰が持っているかとかで揉めたりすることも伝えられますけど、バンドやグループの在り方を考えながらその音楽を聴くと、また違った風景も見えてくるなあと、今回のジェスロ・タルを聴いて思いました。
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