【連載】

『マル・エヴァンズ もうひとつのビートルズ伝説』刊行記念トーク・イベント・レポート

松田ようこ × ピーター・バラカン「ビートルズのそばにいる日常」

【第6回】

ビートルズと同じくらい大好きだったエルヴィスに会えたのも、ビートルズのために働いていたから

・日時:2025年1月22日(水)19時30分~21時30分
・場所:下北沢 本屋B & B
・参加者:ピーター・バラカン、松田ようこ
・テキスト協力:島乙平

会場後方より。奥左から松田ようこ氏、ピーター・バラカン氏。
『マル・エヴァンズ もう一つのビートルズ伝説』発刊記念トークイベント・レポート、またしても公開が遅れて申し訳ありません。お二人の対談本編は今回が最後。大好きだったエルヴィスとも、ビートルズのおかげで会うことができたマルですが、最後はどうしてもしんみりとなってしまいます……。
 
────────────────
 
「だって自殺するんだからね。生きていく希望を持てなくなった……」── バラカン
「だから生きて、そこをなんとか切り抜けてればいい人生が待ってたんじゃないかなと思いたいです」── 松田
マル・エヴァンズ・エピソード

バラカン:一度本を書こうとしましたよね。それでゴーストライターにマルがいろいろ語って本の形の原稿にはなったんだけれど、いろんな出版社にプレゼンしてもことごとく断られた。
松田:最初の頃ですね。最初、アメリカのツアーを本にしてプレゼンしたけれども、当時も全く相手にされなかったんですよね。
バラカン:そうそうそう、そうですそうです。
松田:今回、ビートルズが解散した後に本格的に自分の伝記を書き始めて、解散した後だったこともあって、ようやく出版社に出してもらえることになんですけれども──ちょうど……。
バラカン:結局、でも出なかった。
松田:結局、それは。
バラカン:亡くなってしまったから。
松田:ただ75、76年頃、マルが本を書いていた頃……出版に向けて書いていた頃っていうのは、ウィングスがツアーをしたり、アメリカの建国200年の時で、ビートルズの再結成があるかも──みたいな噂がアメリカでは流れていました。そしてものすごい大金を払って、4人が再結成するというような噂も新聞とか雑誌とかに載っていました。なので、やっぱそこでマル・エヴァンズっていうのはすごく必要とされる存在になったと思うんですよ。彼の語ること、ビートルズについて語ることがどんどんお金になる時代になってきたと思うんだけど、その直前に亡くなってしまった。そこで亡くなっていなければ、もっと彼はいい人生を送れてたのになと私は思います。
バラカン:どうでしょうね。本人もそう感じてないですよね。
松田:そうですか?
バラカン:だって自殺するんだからね。生きていく希望を持てなくなった……。
松田:だから生きて、そこをなんとか切り抜けてればいい人生が待ってたんじゃないかなと思いたいです。
バラカン:思いたいところですよね。いや、本当に悲しいですよね、最後。
松田:最後は本当に悲しくて、なんなんだろうな……。そして後のエピローグがまた悲しいエピソードがいっぱいあるんです。周りの人たちがマルのことをね、どんな風にこう思い出しているかというところが、胸を締め付けられる思いなんですけれども──。そういう意味では、マルの人生、短い40年間だったけれども、ビートルズと一緒にいられたことが、こうやっていろんな人に感動を呼んでるんだなという気がします。
「エルヴィスに最初会う前に、電話で話してる時、ポールはマルがもう大ファンだってのを知ってるから、『エルヴィス待って、あなたの一番のファンが今話したがってるから』って言って電話を渡しますよね。そしてマルがもう感動しちゃって」── バラカン
バラカン:でもね、いろんな細かいところに面白い話いっぱいあってね。初期の、まだローディーになったばかりの時に、最初はいろいろ失敗するんですよ。リンゴのドラムセットの組み立て方が全然わかんなくて怒られてばかりいるんだけど、ビリー・J・クレイマーのローディーの人がもう何回も何回もドラムセット組み立てては解体して、それを全部マルに見せながらやってた。でも、マルは覚えるの早いんですよね?
松田:ねー。でもいきなりやれって言われてもできないですよね、普通は。ドラムセット解体とか組み立てとか、やったことない人には。私は分からないですけど。
バラカン:シンバルの高さ一つとっても、ドラマー一人一人は、自分のシンバルこの高さがちょうどいいっていうのがあるから、それを覚えなきゃいけないし。ローディーの仕事も、今だったら例えばギターのテクニシャンが専門でいたり、ドラマーのローディーが専門でいたり、そういうのは売れてるグループだったら当たり前なんだけど、60年代の頃はビートルズでさえ全員の機材を全部マルが一人で動かしているわけだからね。アンプももっと大きいのを作るんだけど、マルは結構背も高いし体もがっちりしてるから、全部一人で持ち運ぶことができるけれど、なかなかそうでなければ無理な話だと思うし。
松田:あの……棺桶と言われる?
バラカン:ポールのベースアンプね。
松田:ポールのベースアンプを持ち上げてヒョイって運んでいるというのは、エピソードとして出てきます。
バラカン:ロンドン中の楽器屋さん、もう毎日のように彼が回ってて、ジョンのこのピックだとか、ジョージはもうギターの弦が毎日のように切れるから必ずスペアの弦を用意しなきゃいけないとか。もう自分のカバンの中にはありとあらゆるそういうものが全部あって、もう真面目に仕事してるって思った。
松田:本当ですね、すべての何かあった時に必ず備えるように。──そういう意味では面白いエピソードが、エルヴィス・プレスリーの家に行った時にありましたね。ローディーというのは、常にピックを持ち歩かなければいけないっていう教訓を得たのが、エルヴィスの家に行った時でしたね。
バラカン:いつも持ってるんだけど、その日だけ自分のカバンを持ってなくて。で、ビートルズのメンバーがエルヴィスの家に行った時に、ギター持ち出してみんな弾き始めたんだけど、ピックがないから。マルが一瞬慌てるんだけど──なんだったっけね?
松田:なんかプラスティックのスプーンを削ってピックにしたんですかね。あれ。
バラカン:そうそうそうそう。
松田:考えますね。すごいですね。それでも一応使えますからね。
バラカン:いや、そういう細かい話がある意味一番面白いんですよ。
松田:そうですね。
バラカン:で、マルはとにかくエルヴィス命の人だからね。ビートルズ以上に多分エルヴィスが好きだったっていう話もあるぐらいだそうですね。
松田:最初はエルヴィスから入ってますから。で、ビートルズにエルヴィスの曲をリクエストしたり。
バラカン:そうそうキャヴァーン・クラブでやってる時。で、エルヴィスのマネージャーのトム・パーカーに──ビートルズと会う話の関係でだったっけ? バスローブをもらうんですよね。
松田:そう、エルヴィスの映画のロゴが入ったバスローブをもらって。
バラカン:『ガール!ガール!ガール!』っていう。
松田:(本に)写真が入ってますよね。もう嬉しくてしょうがなかったでしょうね。あれはファンとして。
バラカン:エルヴィスに最初会う前、電話で話してる時に、ポールはマルがもう大ファンだってのを知ってるから、「エルヴィス待って、あなたの一番のファンが今話したがってるから」って言って電話を渡しますよね。そしてマルがもう感動しちゃって。
松田:感動しちゃって。それで、最初にアメリカ上陸をした時に、エルヴィスとパーカー大佐からビートルズに祝電が届いたのかな? そしたらポールがそれを持って、「マルは一番のファンなのに、どうしてマルに届かなかったのかな──?」みたいにいじめるところも可愛いですね。そう、そういう意味ではエルヴィスのエピソードがいっぱい入ってます。
バラカン:それでエルヴィスと直に電話でマルが話した時に「サー」と呼ばれてね。それでまたもう感動しちゃってね。でも、エルヴィスってね、誰に対してもすごく丁寧に話す人だったんですね。南部の人間でしょう、エルヴィスって。南部の人たちってみんなすごく礼儀正しい時代でした──今はそうとは限らないけれど。
松田:何かあっても「Yes Sir」って。
バラカン:エルヴィスはね、もう誰に対してもね。そういう口を聞く人だったらしいね。
松田:それに結構感動してたんですね、マルは。直接家に電話がかかってきた時もありましたよね。お風呂に入ってたかなんかの時にエルヴィスから電話がかかってきて、慌てて風呂から飛び出るっていうエピソードとかも。
バラカン:そうそう、奥さんに呼ばれたんだ。
松田:そういうエルヴィスが好きだったってことが、きっとそもそもの始まりなのかなと思います、ビートルズにつながる。なので、エルヴィスの家まで行けて、そしてビートルズと一緒にセッションする場にもいられて、こんな幸せなことはなかったと、本人としてもそれが一番幸せな時だったっていうふうに、どっかに書いてあったと思います。
「(マルの奥さん、リリーが)それまでずっと元気でいらしたというのが嬉しいですね。いろいろ大変、彼女が一番大変だったんじゃないかと私は察しますけれども」 ── 松田
バラカン:でもね、ちょっと不思議なことがあって、ビートルズがエルヴィスと会った話、いろんなところで書かれているんですけど、お互いすごくしらけたっていうことが以前何ヵ所か、いくつかの本で読んでたんだけど、マルの本ではね、全然そうじゃない。
松田:そうですね。
バラカン:楽しい雰囲気で終わったっていうふうに彼が書いてるから。
松田:マルとしては──ファンのマルとしては、すべてが興奮したんじゃないかとは思いますね。
バラカン:かもしれませんね。
松田:結構長い時間いたみたいですもんね。だからその間にはしらけた瞬間もあったのかもしれないですね。エルヴィスもそんなにこう騒ぐ方ではないし、お酒も飲まずにずっと水を飲んでいたというふうに書いてあるので。
バラカン:そうそう。
松田:だから、今となってはビデオも何も残ってないのでわからないですし、他にもいろいろ書かれてる資料はあると思いますけれども。ただ、そういう意味ではエルヴィスとの記録は非常に鮮明に書かれているな──というふうに思います。だから、その辺も楽しんでいただけると思いますね。

松田:この本ですけれども、ここに出てくる奥さんのリリーさんは、そういえば、一昨年亡くなったんですね。
バラカン:ああ、はい。
松田:それまでずっと元気でいらしたというのが嬉しいですね。いろいろ大変、彼女が一番大変だったんじゃないかと私は察しますけれども。
バラカン:そうですよ。子供が2人いて、マルが最初は真面目に手紙を書いたりもして、本当に彼女のこともう大好きだったんだけれど。やっぱりビートルズと一緒の生活を選んだらね、辞められなくなっちゃったんですね。ローディーの仕事って基本的にずっと世を離れてることになっちゃうからね。それが、中毒って言ったら言葉はよくないかもしれないけど、結局そういうことになっちゃうと思いますね。
松田:そうですね。本人もそれがわかっているけれども、家に帰るといろいろ辛く言われてしまうから帰れなくなってしまったり──というのが、本当に彼の人生の中で一番大変だったところだと思うし、リリーも大変だったと思いますね。
バラカン:ミュージシャンの奥さんって大体大変ですよ。
松田:そうですか。
バラカン:結婚が長く続く例もそう多くはないと思う。
松田:そうですか?
バラカン:ミュージシャンの場合はうん。少なくとも最初の結婚がダメだったことが多くて。で2度目、3度目でそのミュージシャンもある程度年をとって、成長したところで自分に本当に理解のある女性と会った時に長続きするケース。いろいろ読んでいると、そういう印象を受けます。もちろん個人差はありますね。
松田:確かにビリー・ジョエルなんかもそうだったし、そうですね。
──以上、第6回でした。そしていよいよ次回は最終回。来週7月16日(水)頃の公開予定です。毎度お待たせしまして申し訳ありません、最後もどうぞお楽しみに!
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