【連載】

『マル・エヴァンズ もうひとつのビートルズ伝説』刊行記念トーク・イベント・レポート

松田ようこ × ピーター・バラカン「ビートルズのそばにいる日常」

【第4回】

ビートルズの人気に一役かっていたマル。しかしツアーをやらなくなるということは……!?

・日時:2025年1月22日(水)19時30分~21時30分
・場所:下北沢 本屋B & B
・参加者:ピーター・バラカン、松田ようこ
・テキスト協力:島乙平

左から松田ようこ氏、ピーター・バラカン氏。
『マル・エヴァンズ もう一つのビートルズ伝説』発刊記念トークイベント・レポート、1日遅れでの第4回です。ビートルズ・ファンとマルの関係から始まり、コンサート・ツアーをやめることになるあたりのお話。そうするとロード・マネージャーの仕事はなくなることになるんじゃ……!? どうなるマル!?、どうするマル!?

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マル・エヴァンズがちゃんとファンたちをケアしていたから、4人は守られていたんだなと思います ── 松田
マル・エヴァンズの貢献
 
バラカン:(ファンの子たちは)ビートルズのメンバーに会うことはなかなかできないから、その側にいるマルを慕うわけですよね。彼は慕われることが気持ちよくて、それでいろんなファンの女の子と文通をしたりとか。そういう可愛いところもあるんだよね。
松田:本当ですね。決してビートルズを利用しているわけではないけれども、やっぱりビートルズに会いたくてマル・エヴァンズのとこにやってくる子たちには優しくしてしまう。それがきっと嫌味のない優しさだったと思うんですよ。彼は話していてもとても面白い人だろうし、手紙もこまめに書いてくれるし、そういういいつながりがファンとの間にできていて、それは絶対ビートルズの人気にも影響してたと思うんですよね。マル・エヴァンズがちゃんとファンたちをケアしていたから、4人は守られていたんだなと思います。

松田:アメリカを制覇したビートルズ。その後1966年には日本にも来ました。もちろん私は来日公演を見ておりませんが、ピーターさんもその頃は日本にはいらっしゃらないですよね。この本を読むと、日本の観客が静かだったので自分たちの下手さ加減を実感したというようなこともありました。下手さって言ったら語弊がありますね。
バラカン:チューニングが狂ってることに初めて気づいた。要するに、武道館でお客さんがすごく静かだった。警備が厳しすぎてみんな発散できなかったってことでしょうね。
松田:チューニングとかってマル・エヴァンズの仕事なんですか?
バラカン:もちろん彼の仕事ではあるんだけど、ミュージシャン自身がやっぱりギターのチューニングが狂ったら気づくはずですよ。ただ、それまではビートルズのコンサートでは、自分たちの演奏は自分でも聞こえないんですよ。『ザ・ビートルズ EIGHT DAYS A WEEK The Touring Years』という記録映画あったでしょう? あの中でね、僕、吹き出したのがリンゴの言葉。「演奏は何にも聞こえないから、曲のどこまで来てるかはお尻の振り方で分かった」(笑)。だからほんとに何にも聞こえてないんですよ。もうギターのチューニングが合ってなくてもわかんない。だからライヴを止めた大きな理由の一つがそれなんですよ。
松田:人がまともに聞いてくれないという環境がアメリカにはあったと。日本はね、熱狂はしたでしょうけれども、武道館はやっぱり皆さんそれなりに落ち着いてちゃんと音が聞こえて演奏ができたんだと思います。で、日本は非常にいい思いをして出ていったと思うんですけど、その後、フィリピンで大変な思いをしたというのがこの本に出てきます。
一応「Here There and Everywhere」のね、歌詞の一部はマルが提案したと言われています。マルがこうしたらいいんじゃないかというふうに提案したと、いうふうになってますね。── 松田
ツアーをやめてしまうビートルズ。その時マルの仕事は……
 
バラカン:日本では、ビートルズはホテルから外に出ちゃいけないって言われてたんです、それで、ポールとマルが密かに出たら、すぐに警察にバレて。で警察が付いてくれて、一緒に明治神宮? 皇居の一部を見学したって書いてたと思うんだけど、でも途中でファンはやっぱり気づくから慌ててまたホテルに戻んなきゃいけなかった。
松田:すごく本人たちは残念だったんでしょうけど、他の国では結構抜け出してるところもありましたよね。
バラカン:いろいろあったと思う。とにかく日本はもう政府までビクビクしてて、やっぱ武道館をポップ・グループが使うということに対して右翼がいろいろと怒り出してて。事件に発達してはまずいということで、とにかく外出禁止にしたんですよね。
松田:法被を着たマル・エヴァンズの写真が載ってます。JALが機内で法被をメンバーに配ったんですけど、その時にマルもそれを着ている写真が載ってるのがとても嬉しいですね。日本のファンとしては(笑)。それで次にフィリピンに行って非常に大変な思いをして、その余波もあったのか、その後コンサート・ツアーをやめてしまう。フィリピンでのマル・エヴァンズの辛い体験というのは私、初めて知ったんですけれども。フィリピン当局から暴力を受けたり、空港の中で乗客か誰かからいろんな暴力を受けて、また一度飛行機から降ろされて資料、書類を調べられて、また戻って。マルは、もうこれで自分はイギリスに帰れないと感じて、ブライアン・エプスタインに自分の妻に「愛しているからと伝えてくれ」というふうに言って飛行機を降りたというエピソードがありますね。
バラカン:そっかそっか、やっぱり大統領夫人の──。
松田:イメルダ。
バラカン:晩餐会、ランチに呼ばれて、断ったっていうのがもう大変な事件だったんですね。日本にしてもフィリピンにしてもアジアは違うんだなっていうのは、僕はすごく感じました。やっぱりヨーロッパとかアメリカでは、そういうリーダーの奥さんのお誘いを断ったということは、多分そんなに大事にはならなかったと思うんですよ。だから今だったら違うかもしれないけれど、60年代のアジアというのはやっぱり物の考え方が違うなって読んでてすごく感じました。
松田:きっと相当恐怖だったでしょうね、そんな辛い思いをした上で、アメリカにまたツアーをして、そして最終的にはコンサートをやらなくなってしまう──。マル・エヴァンズは当初、きっとツアーがなくなったら自分の居場所はないと思ってたと思います。機材の管理も運搬もなくなるわけですから。だから、それで実際にもう一人のアルフ・ビックネルというローディーは、仕事がなくなって辞めていきましたね。
バラカン:運転手のかた。
松田:運転手、そうですね。でもマルはその後スタジオで、それこそいろいろなローディー以外の仕事をして、そして歌詞も(笑)。
バラカン:一言二言。
松田:そうですね。困った時のマル・エヴァンズ(笑)。
バラカン:彼はどうやら提案したような。
松田:一応「Here There and Everywhere」のね、歌詞の一部はマルが提案したと言われています。「Watching her eyes and hoping I’m always there」というフレーズですけども、これはマルがこうしたらいいんじゃないかというふうに提案したと、いうふうになってますね。ビートルズってそうやってこう自分たちが曲を作っている中で人に助言を求めたりすることが多かったみたいなんですね。完全にレノン=マッカートニーで作ってたわけではないですし。
バラカン:作詞の作業っていうのはそういうもんだと。もちろんボブ・ディランみたいに一人で作る人もいますけれど、2人で作ってる時ってアイデアをぶつけ合ったり、あるいは、“これにライムする言葉、なんか出てこないなあ”って言ったら、部屋にいた誰かが “これなんかどう?”っていう、もういかにもありそうな話なんですよ。
松田:そうですね。ポールも実際、それを期待してわざわざマルの部屋に行って、この曲のここなんとか思いつかない?って聞いたりしていたみたいですし、ただそれが徐々に、サージェント・ペパーになると、結構マルは貢献しているみたいなんですよね。
ブライアン・エプスタインは本当に、もう何から何まで自分が面倒を見ているミュージシャンのキャリアの方向性から何から全部見てるわけですからね。その責任も重大ですよね。──バラカン
松田:サージェント・ペパーの、そのコンセプトなどもポールとマルが話し合って作っていたりとか、それから「Fixing A Hole」という曲に関しては、ポールの自宅にいる時にマルがずいぶん協力して作ったと言われています。で、そこで本人としては、自分もポール・マッカートニー&ジョン・レノンの曲作りに参加できたということに、ものすごく生きがいを感じて喜んでいたので、それは素晴らしいと思うんだけれども、ただ名前がクレジットされることはなかった。
バラカン:これはそういうもんなんですよ(笑)。ごくまれにね、そのぐらいの参加でも、一言でもね、参加したらクレジットするっていうミュージシャンもたまにいるんです。でもほとんどいない。特にレノン=マッカートニーとなると、自分たち以外の誰もクレジットしたことないですよね。
松田:うん、ないですね、当時としては特にそういうことがなかった。今ってほら、作曲者の名前がいっぱいあることも。
バラカン:サンプリングの時代になったらますますそういうふうになっちゃいました。
松田:当時としては、ちょっと協力したぐらいでは印税のこともあるから、名前がクレジットされることはなかった。
バラカン:ない、ない、ない。
松田:これに同情することも当時はなかったわけですね。
バラカン:と、思います。
松田:やっぱりマル・エヴァンズ可哀想だなと、今の感覚で見ると感じてしまいますけれども。
バラカン:本を読んでてちょっと甘い感じも若干しましたけど。そのくらいでクレジットして欲しかったっていうのはちょっと甘くない? まあ現場は見てないからなんとも言えないんですけど。でもマルも結局どこまでもファンなんですよ。読んでるといろんなところからそれもすごく伝わってくる。うん、憧れてるんですよね。すごく。
松田:そうですよね。
バラカン:で、側にいたい。
松田:そしてまた彼らがマルを必要としてくれるっていうその関係が、どんどんどんどん進んでいったんだと思うんですけれども。そういうふうにしているうちにサージェント・ペッパーの大ヒット、そして、ブライアン・エプスタインが亡くなってしまって。
バラカン:急に何もかも全部変わってしまうんですね。マネージャーがいかに重要な存在であるかっていうのは、ビートルズのブライアン・エプスタインが亡くなったことで、とてもよくわかります。マネージャーといういろんなタイプがいますけれど、まず、日本でいうマネージャーっていうのはほとんど付き人なんです。で、ブライン・エプスタインとか、そういうタイプのマネージャーっというのは日本の芸能界だったら、ジャニー喜多川とか──本当のマネージャーと言えるかもしれませんけれど。どうだろう、今、日本の例えばロック畑で、ブライアン・スタイルのようなマネージャーっているんだろうか? だいたい現場のマネージャーは要するに小間使い。だからマネージャーという言葉のニュアンスが日本だとだいぶ違う。ブライアン・エプスタインは本当に、もう何から何まで自分が面倒を見ているミュージシャンのキャリアの方向性から何から全部見てるわけですからね。その責任も重大ですよね。で、彼が亡くなってしまった後に、ビートルズもめちゃくちゃ泡食ったんですよ。年はそんなに変わらないんだけど、もうほとんどお父さんのような存在で。父親のように頼っていたわけだから、途端に彼らはもう全部自分たちでやるか、あるいは誰か代わりの人を見つけなきゃいけなくなった。後に、アラン・クラインの話が出てくるんだけど、それはもう後の話。
マルとアップル

松田:まずビートルズはアップルを……アップルという会社を作ります。
バラカン:自分たちにその経営の経験なんて全くないのに。自分たちでやっちゃおうっていうめちゃくちゃ甘い話ですよね。
松田:そうですよね。ニール・アスピノールが少しはそういうところに長けていたんでしょうかね? 多分彼もあんまり経験はなかったと思いますけど。そこでレコード会社もブティックもやるし、えーと、電気製品の開発から何からいろんなことを次々と。あの、アレックス・マーダスという。
バラカン:マジック・アレックスという言われた、もうね、ペテン師ですよね。
松田:インチキな電気屋さんが出てきましたしね。笑っちゃいますよね、そういうところアップルの面々っていうのは。ピーターさんはアップルの時代は、ロンドンに?
バラカン:もちろんロンドンにいました。でも、当時は音楽雑誌に載るニュースくらいしか知らなかったんですから、舞台裏のこと何もわかってないですね。もっともっと後になって振り返って、こういうことが起きていたのかということがわかるんです。でも結局レコード会社を作った時にマルが突然えらいことになっちゃうんですね。
──第4回はここまで。続きの第5回は、来週7月2日(水)公開予定です。どうぞお楽しみに!
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