【連載】

『マル・エヴァンズ もうひとつのビートルズ伝説』刊行記念トーク・イベント・レポート

松田ようこ × ピーター・バラカン「ビートルズのそばにいる日常」

【第3回】

ステージ後の拭き掃除や、グルーピーの手配など。そんなことまでマルの仕事なの!?の巻

・日時:2025年1月22日(水)19時30分~21時30分
・場所:下北沢 本屋B & B
・参加者:ピーター・バラカン、松田ようこ
・テキスト協力:島乙平

ピーター・バラカン氏。
『マル・エヴァンズ もう一つのビートルズ伝説』発刊記念トークイベント・レポート、第3回。「毎週水曜公開」と謳いながら2日遅れでの公開となってしまい、楽しみにしておられるところ大変申し訳ありません! ちょうどその日はポールのお誕生日ということもあり、代わりに【ミュージック・ライフ写真館】を公開した次第でございます。

MUSIC・2025.06.18
【ミュージック・ライフ写真館】お誕生日おめでとう!──ポール・マッカートニー83歳【ML Imagesライブラリー】

ということで、改めましてトークイベント・レポートの第3回。どうぞごゆっくりお楽しみください。

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60年代ってね、意外にまだ保守的だったんですよ最初の方は。でもだんだんビートルズを筆頭にああいう若いバンドが天下を取るようになった影響で、ファッションから何から全部大きく変わったからね。 ── バラカン
60年代ファッションとビートルズ

バラカン:マルは西部劇の世界に憧れていて、やっぱりジーンズ履きたいんですよ。
松田:そうかそうか。当時この(本の)中で、お父さんにマルがジーンズを初めて履いた時に、労働者、労働者階級の……働いている人たちのズボンだということで、ひどく怒られたというエピソードがありました。
バラカン:自分のお父さんにね。
松田:お父さんに殴られたというエピソードが入ってます。
バラカン:そうそうそう。だからね。僕らの子供の頃もまだみんなジーンズ履いてないんですよ。60年代に入ったぐらいから国内のジーンズ・メーカーもあったんですけど──そっちの方が安いから、僕らぐらいの子供はみんな憧れて履くようになるんだけど、リーヴァイスが広く出回るようになるのは60年代半ばから後半かな?
松田:そうですね。私がニューヨークにいた時、72年からもうみんなリーヴァイス履いていましたけども。
バラカン:アメリカはね。でもイギリスは、僕のいとこの女の子、僕より二歳年上だったんだけど、彼女のお母さんは厳しい人で。「絶対にあなたはね、ジーンズ履いちゃいけない」と言って。あまりにもそれが厳しかったので、彼女、今もう70代半ばなんだけど、ジーンズは履いたことない。そういう人もいる。ちょっと珍しいけど。
松田:その意味ではアメリカはまた意識が違ったかもしれないですね。イギリス人とアメリカ、当然リーヴァイスはアメリカの会社だったりしますし。
バラカン:60年代ってね、意外にまだ保守的だったんですよ最初の方は。でもだんだんビートルズを筆頭にああいう若いバンドが天下を取るようになった影響で、ファッションから何から全部大きく変わったからね。
松田:ファンションといえば、60年代にサージェント・ペパー(アルバム『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band』)になると、結構マルは貢献しているみたいなんですよね。その頃から、どんどんビートルズのファッションは変わっていって、サイケデリックな色彩になったりしましたけれども、そういうスウィンギング・ロンドンと言われる流れはピーターさんはどうでしたか?
バラカン:その頃は中学から高校ぐらいだから、もろには影響を受けてますよ。有名なカーナビー・ストリートってありましたよね。あそこは、今の言い方をすればファスト・ファッションに近いもの。安かったんですよ。
松田:なるほど。
バラカン:だから今、若者が渋谷でファスト・ファッション買うのと同じような感覚で、僕らも自分の小遣いで買えるわけじゃないんだけど、親におねだりをして、たまにシャツとかズボン一枚を買ってもらった。でもそんなに高くはなかったんです。
松田:スカーフ巻いたりとか。
バラカン:そういうことも。あとね、古着屋も昔からちょこちょこあったし、軍のお下がりのコートだとか、ジャケットとかそういういろんなものが。
松田:ミリタリー・ルックのような。
バラカン:そうそう、ああいうものが結構安く売られていたから、よく買ってました。
松田:じゃあやっぱり街中全体がビートルズの影響もあって、そういうファッショナブルになっていった感じですか?
バラカン:そう、モッズの時代ですよ、60年代半ば。だから、みんなかなり着飾ってました。僕らはまだ中学生だからあんまりやると生意気になる、でも高校生ぐらいの若者たちはみんな着飾っていて。モッズはね、基本的に労働者階級なんですよ。あれだけ服をたくさん買うためにはお金が必要でしょう。でも学生だと逆にお金はないんです。で、労働者階級の人たちは15歳16歳で学校を出るともう働くから、給料は毎週けっこうあるわけで、ちゃんとしたテイラーでスーツをあつらえても、そんなに大したお金がかからなかった時代なんです。だからモッズの連中はね、結構ちょこちょこスーツを買ったりしてたんですって。
松田:当時、そのモッズにしても労働者階級の人たちって早くから働いてるから、ビートルズもそうですけども、非常に成長が早いというか、今考えると20歳になる頃にはもうベテランになっていた。
バラカン: 20歳でベテランっていうのはちょっと言い過ぎかもしれないけど、中には16歳ぐらいでデビューする子もいました。ジョージ・ハリスンはそうだね。20歳になったのは63年だから、ハンブルグの時はまだ未成年。
松田:そうです。それがバレて強制送還されましたね。これは『NO ハンブルグ NO ビートルズ』という映画を見ていただくとわかると思います。
(ジョージ・ハリスンが大好きだと言ったジェリーベイビーについて。ジェリービーンズとは別物で)
ジェリーベイビーは柔らかくて美味しいんだなっていう。やっとこれを読んでわかりました(笑)。 ── 松田
ビートルマニアとジェリービーンズ

松田:ビートルズがアメリカに進出した1964年、ともかくすごい歓迎を受けた。この辺が、マル・エヴァンズの本には非常に色々と書いてあるんです。マルはローディーとしてまず先に会場に行ってセッティングをして、そしてお客さんが入ってくるのをずっと見守るわけです。で、熱狂した観客が塀をよじ登ってビートルズに近づこうとしたり、ステージに上がってきたり、ステージと観客の間に堀のように水が流れているところを泳いでまでステージに行こうとしたり、ともかくファンの熱狂ぶりと言ったら、今では想像できないようなものだったと思うんです。
バラカン:それはいわゆるビートルマニアと言われていたもの。
松田:なんですかね?、これは。イギリスでもそんなこと、そこまでじゃなかったと思うんですけど。
バラカン:そこまで……かなり激しかったんだけど、アメリカはさらにすごかったみたいね。僕はそれを目撃していないから、マルの本を読んでここまでやるのかってびっくりしたくらいでした。
松田:私もびっくりしました。去年上映されたアメリカ上陸時の『ビートルズ '64』っていう映画。それを見て、ジョン・F・ケネディが暗殺されて暗い気持ちになっていたアメリカに、イギリスからやってきたすごく明るくて楽しい音楽っていうところで、みんなそちらに飛びついた──ということも分かりました。何しろ、この本を読むまで、ビートルマニアってそんなにひどいとは思ってなかったんです。だけども、実際に爆竹がステージに投げ込まれたりとか、シェイ・スタジアムではみんなの歓声がホワイト・ノイズのようにヒスのように響いてたっていうようなことが書いてあって、そこは本当に読んでいてびっくりしました。
バラカン:あと、お菓子を投げるんですよね。何かの時に、メンバーの誰が言ったんだっけ?
松田:ジョージが。これ、ちょっとピーターさんにお聞きしたいんですけども、ジェリーベイビーっていうお菓子がイギリスにはあると思う。
バラカン:意外に美味しいんですよ。
松田:意外に美味しいっておっしゃいますけど、アメリカにあるジェリービーンズは美味しくないんですよ。
バラカン:そうそうそう。ジェリーベイビーとジェリービーンズというのは全然違う。
松田:そう、それがどうもごっちゃになってしまって。
バラカン:ジェリーベイビー、いろんな会社が作っているものがあるかもしれないけど、ちっちゃいベイビーの形をした柔らかいグミなんだけど、本当の果汁が少し入ってるんです。だからフルーツの味がかすかにして。
松田:じゃあ本当に美味しいんですね。
バラカン:おいしいんですよ、甘いけどね。でもジェリービーンズというのは、いかにも人工的な味しかしない。
松田:そうなんです。ジェリービーンズは周りに硬い皮があって。
バラカン:キャンディーがついてるから。
松田:食べても私は美味しくないと思ったんですけれども。ただジョージ・ハリスンが、「僕はジェリーベイビーが大好きだ」とイギリスにいる時に言ったことで、ジェリーベイビーがステージに投げ込まれるようになった。
バラカン:今はジェリーベイビーは袋で売られてるんだけど、昔は多分量り売りだったと思うんですよ。イギリスのお菓子屋さんに行くと、大きなガラス瓶があって。そこから秤に入れて、4オンスとか8オンスとか買うわけですよ。多分女の子たちは紙袋に入ったものを持っていて、それそのものを投げてたから。コンサートが終わると、マルはチェリーベイビーの残骸を機材から、拭き取らなくちゃいけないからえらい大変だったって。
松田:ケーブルにも巻き付いたりとか、ベタベタしたものを一生懸命取るのが大変だったという。
ジェリーベイビー。ジョージが好きだと言ったのはこちら。
ジェリービーンズ。表面が硬く、投げつけられて当たるといかにも痛そう
バラカン:それがまだ、ジェリーベイビーは柔らかいからいいんですけど、ジェリービーンっていうのは今話したようにちょっと硬いキャンディーが表についてるから、当たると痛いんですって(笑)、僕は投げられたことはないんだけど。
松田:イギリスではジェリーベイビーと言っているのに、アメリカでそれをジェリービーンズだと思って、みんな投げてしまうっていうところがね。
バラカン:そうそう、勘違いですよね。
松田:誰が最初に間違えたか知らないですけれども、〈ジョージ・ハリスンはジェリービーンズが好きだ〉というふうに、きっとアメリカでは報道されてたんでしょうね。ジェリービーンズは皆さん食べたことありますよね? 美味しくなかった?(笑)。好きな方もいらっしゃると思いますけども、そういう意味ではジェリーベイビーは柔らかくて美味しいんだなっていう。やっとこれを読んでわかりました(笑)。
バラカン:じゃあ今度ロンドン行ったら買ってきます。
松田:お願いします(笑)。
バラカン:あとマルのもう一つ大事なお仕事、コンサート会場で女の子を……。
松田:その話いきますか?
松田:で、64年の全米ツアーは、本当にマル・エヴァンズが非常に苦労したとこの一つだと思います。会場側も地元の警察もまさかこんなにすごいことになるとは想像していなかったと。
バラカン:そうそうそう、一番ひどかったのがテキサスじゃなかった?
松田:テキサスはいつもひどいらしいですね。
バラカン:警備が全然足りなくて、そうとう大変なことになったって。
松田:まず空港に飛行機が入ってきたら、ファンが機体の上によじ登ってきた。
バラカン:小型飛行機だったんですよね。確かにチャーター便かなんかで。ヒューストンじゃなかったっけ?
松田:ヒューストンですね。
バラカン:ファンがみんな滑走路でバーとか走ってきたからパイロットが慌てて、プロペラ機だからエンジン切っちゃった。そうしたら、もうみんな上によじ登っちゃって大変だった、結局普通に降りることができなくて、空港のスタッフがフォークリフトを持ってきてその台の上にメンバーが乗って、そのままターミナルまで行ったっていうから、そんな話もマルの本でなければ多分どこも書かれてないと思う。
松田:こんなだったのかっていうのをびっくりさせられます。それだけじゃなくて、<「アコースティック・バンドだと思ってたから、電源を用意してない」という会場や、電源供給が間に合わなくて電源が落ちてしまう会場もあった。当時はアンプがどんどん大型になるので会場側も対応できなかった──なんていうこともあったみたいですね。それに当局が全然ビートルズの凄さをわかってなくて、最初から「私たちはちゃんと考えているんだから、私の仕事に口を出すな」とビートルズ側に言って、結局それで大変なことになってしまう、あまりにもたくさんのファンが集まりすぎてけが人が出てしまう──というようなことを全部アメリカの各地方を回りながら一つ一つ繰り返しながらやってきたんですね。そしてそれを全部マル・エヴァンズが表に立ってやってたっていうのが、本当にこれは驚きでした。
バラカン:あとマルのもう一つ大事なお仕事、コンサート会場で女の子を……。
松田:その話いきますか?
バラカン:何回も何回も本に出てきますから、そうなんですよね。
松田:調達する。
バラカン:グルーピーっていうのはロックンロールにはつきものなんだけど、こんな早くからそうだったのかと、僕はちょっと意外でした。ビートルズはあんまりそういうイメージは──なんとなくなかったけど、僕も甘かったっていうか、ナイーヴだった。
松田:私は女性ファンとしてそういうことがあるはずがないと当時は思っていました。やっぱそういうクリーンなイメージでしたからね。それを信じて好きだと思ってたんですけど、マルはこんなことをしてたのか──って思います。
バラカン:マル自身も決して手を出さないわけでもなかった。でも、マルっていうのはまた複雑な人で、基本的にとってもシャイな人間なんだけど、ビートルズの仕事をしてて、そういうコンサートで女の子たちがみんなもう狂ったようにビートルに近づこうとするところで、自分も染まってしまう──そういうところだったんでしょうね。
松田:そうですね。仕方なくというところはあったんだと信じたいんですけれども(笑)。奥さんも子供もいる身ですから。ただ、やっぱり当時はそういうことがよくあったということですね。
バラカン:でも、奥さんのことは大好きですね。ビートルズのローディーになった時に、奥さんはとにかく、毎日必ず電話するか手紙を書くかどっちかしてくれって言うので。怠ったこともあったけれど、けっこう努力してやってたんですよね。
松田:そうですね。本当に奥さんのことは深く深く愛してたと思いますし、他に、女性関係でいろいろあったとしても、やっぱり最終的に一番好きなのは奥さんのリリーだったと思うし、それが最後の最後にもわかるんですけれどもね。
──第3回はここまで。続きの第4回は、来週6月25日(水)公開予定です。どうぞお楽しみに!
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