森田編集長の “音楽生活暦”

森田敏文(ミュージック・ライフ・クラブ編集長)

第5回:人気の高まりを見せる “音楽映画” のあれこれ

ミュージック・ライフ・クラブ編集長・森田敏文による連載・第5回。月いちペースでミュージック・ライフ的な洋楽のアーティストや作品、業界やシーンに関するあれこれなど。「ミュージックなライフのカレンダーへ」、徒然なるままに語るその月の談話形式の雑記としてお送りします。

第5回目のテーマは、昨今の音楽映画事情に関して。至近距離で捉えたコンサート映像のみならず、当事者が存命・故人にかかわらずキャリアやシーンを追ったドキュメンタリーや、俳優が演じる実在のミュージシャンの人生を描いた作品なども数多く作られ、ここ日本でもその多くが劇場で公開に。特に空前のヒットとなった『ボヘミアン・ラプソディ』以降はその傾向が顕著で、そこには劇場の音響・音質向上や、進化したサラウンドシステムが実現する劇場ならではの立体的音像、もちろん自宅では実現不能な爆音!なども要因にあるようですが……。

●音楽映画が立て続けに上映されることについて

◆ アーティストとて人の子、都合の悪い部分は見せたくないはず ◆

ベテラン・ミュージシャンが自分の活動の総集編の時期に入ってきているのは良く感じます。そこから当然、映画も作られれば自伝も書かれる。あとは当事者がだんだん鬼籍に入ってしまうので、早く取材して証言を残さなくては、という事情もあるでしょう。そういった中で、音楽映画が製作され隆盛になってくれば、中堅アーティストの映画も撮られるようになってくるし、そういう相乗効果はあると思います。

ドキュメンタリーのものと、『ボヘミアン・ラプソディ』のように役者が演じるのは同一には観れないなと個人的には思います。役者がやっているのは再現性云々とかで鑑賞する見方もあるだろうけど、それよりもストーリーとしていかに興味を惹く内容になっているか。ドラマチックな内容になっているか。そういった所で観てしまうけれど、アーティストの音楽をずっと聴いてきた人からすれば、ドキュメンタリーの方が響くというのは確実でしょうね。

先日デヴィッド・ボウイを題材にした映画『スターダスト』はありましたが、あれはアーティスト側からの協力を得られなかった。そういうのは出てくると思いますね。つまりアーティスト側からすると、間違った情報が流布されるのは避けたいし、更には自分に都合の悪い事は出来るだけ隠したいでしょう。そういう点で、実は自伝というは自分の都合の良い部分だけを抽出するところがあるので、海外では自伝だからと言って良いという事はなく、どちらかというと評伝本、色んな人の話を取材してそれによってアーティストのトータルな人物像を描くという方が実像に近いとされるところもあります。アーテイストによっては都合の悪い部分、所謂裏側の部分も書いてもらっても全然OKという太っ腹な人もいますけどね。

ドキュメンタリー映画では、アーティスト側がどこまで許容するのかというのになります。ただ、すべてが見たことのあるシーンというのは無いわけで、そこは楽しめる部分が確実にある。

役者が演じる映画では、当事者にしてみれば自分が覚えている過去と、映画で描かれるものが違っていたら嫌だろうし。ただ、なかなかそこは難しい所だけど、勉強する為に観るわけではないし、そこはポピュラー・ミュージックの世界では楽しんで観れば良いんじゃないかと思います。
◆ 作られるべくして作られた納得の作品も。公開方法の多様化も増加傾向を後押し ◆

リンダ・ロンシュッタトの映画が公開されました。テイラー・スウィフトも彼女と同じパターンですけど、リンダはストーンポニーズというバンドで、カントリー畑から出てきて、ポップス、ロックの方に行き、ウエスト・コーストの歌姫になり、一方でラテンやメキシコの民謡を歌ったりして、色々なものをこなしてきた。抜群に歌も上手い。アメリカ人にとっては国民的歌手なわけで、そういう意味で当たり前のように映画は作られたのは納得がいきますよね。

リンダやテイラーなどのようにカントリーからの流れは、小さい時にどういったコミュニティで育ったか。どういう音楽に囲まれていたか。田舎に住む白人の子は、やっぱりカントリーに一番接していただろうし、当然ポップスも聴いているだろうけど。親が聴いてたり、近くのライヴハウスとかでやっているのはカントリーだろうし、そういった意味でそれが主軸になっていった人は彼女たち以外も多く出ていますよね。黒人が教会のゴスペルが基本にあるのと一緒で、同じような世界なんじゃないかな。

音楽映画は『ボヘミアン・ラプソディ』のヒットの影響も当然大きかったし、それに加えてデヴァイスが増え、映画館だけでなく、ネット配信など多くなって、それぞれが予算を持って製作できるようになった環境の変化も確実にある。音楽映画って、アーティストが映像を持っていたりするし、やろうと思えば結構すんなり行けちゃうんじゃないかなと思うんですけどね。
◆ 今後観たいドキュメンタリーは……。とはいえやはり『ボヘミアン・ラプソディ』桁違い ◆

個人的に観たいドキュメンタリーは、亡くなってしまったけどJ.J.ケイルの映画は観てみたいですけどね。日本では結局ライヴを体験できなかったし、謎に満ちた人生でどういった生活をしていたのか興味ありますよね。ミュージシャンズ・ミュージシャンで、クラプトンを始めミュージシャンから憧れられていたのに、基本的に飛行機嫌いで日本は来なかったし、いつもボソボソ喋って歌っていた。もしかしたら非常に安定した生活でドラマらしきものも少なかったのかも知れない。でも実像を知りたい(笑)。

それとイギリスのポップ・ブループ。ポスト・パンク時代になんでああいうサウンドを十代から鳴らしていたのか。ドキュメンタリーで観てみたいですね。

これまで目を付けていなかったアーティストの映画もどんどん出てくるかもしれませんね。それと当然ながら名を成したアーティストやグループの映画化は、かなり制作話が出ているんじゃないですかね。

ただ日本では、今後『ボヘミアン・ラプソディ』のような現象は難しいと思います。そこはクイーンというバンドの日本での特異性でしょう。あんなにリピーターも多く、しかもみんなが競い合って観に行っていたり。バンドのヒストリー的にも、フレディというパーソナリティなど、色々ドラマがあって、映画の素材として見事にハマったというのはあるでしょう。
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  • full moon さん投稿日時 2022.05.13 22:29

    ご本人が存命だと都合の悪いところは取り上げず、故人の場合はスキャンダルも隠さない。リンダ・ロンシュタッドとアレサ・フランクリンを観て思いました。どちらも感動しましたが。
    そして「ボヘミアン・ラプソディー」の世界的大ヒットが映画界に与えた影響は大きいですよね。パクリとまでは言わないけれど構成が似てる!?作品もちらほら。
    ところで、スパークス・ブラザーズの写真がないのが残念。映画としての完成度も高く、すごく面白かったのに。

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