森田編集長の “音楽生活暦”

森田敏文(ミュージック・ライフ・クラブ編集長)

第8回:チープ・トリックとパワー・ポップ

ミュージック・ライフ・クラブ編集長・森田敏文による連載・第7回。月いちペースでミュージック・ライフ的な洋楽のアーティストや作品、業界やシーンに関するあれこれなど。「ミュージックなライフのカレンダーへ」、徒然なるままに語るその月の談話形式の雑記としてお送りします。

第8回目のテーマはチープ・トリック。11月に4年ぶりの来日公演が決定しており、さらに来日記念盤として1977年のライヴ音源もリリースに。パワー・ポップの元祖と称されることの多い彼らですが、よくよく考えてみると直系のフォロワー・グループはいないかも……?

●チープ・トリックとパワー・ポップ

◆ ML人気を支えたチープ・トリック、チープ・トリック人気を支えたML ◆

チープ・トリックは11月の来日公演、東京公演2公演ともすぐに売り切れて、追加公演が発表になりました。人気のほどがすごくよくわかります。『ミュージック・ライフ』でもチープ・トリックは人気を支えるバンドの一つとして、すごくたくさん記事も書きました。実際に『LIVE at 武道館』が日本で火がついて、それからアメリカで1年以上経ってから発売になって、彼らの人気を決定づけたものになった。そういう意味でも、日本先行の人気だったんですけど、その中心になってたのは『ミュージック・ライフ』でもあったわけです。

チープ・トリックのファンは、当時やはり、ロビン・ザンダーとトム・ピーターソンのルックスが非常に良かったということもあって、楽曲はポップだったりするところもあったけど、少しアイドル人気的な捉え方をしてたんじゃないかと思うんです。実は今、チープ・トリックを聞いているファンというのは、そういう見方ではなくて、パワー・ポップの一つの源流的なバンドとして聞いてるんではないかなと。

チープ・トリックが初めて『ミュージック・ライフ』の表紙を飾ったのが、本ページ・トップの画像・1978年3月号。こちらの画像4ページはその翌1978年4月号のカラー・グラビア。この号はちょうど初めての日本上陸を果たしている時期の発売で、日本ではこの半年後、世界的にはさらにその半年後にその模様が『at 武道館』として発売されることになる。

◆ 90年代に脚光を浴びたパワー・ポップ。その元をたどると…… ◆

パワー・ポップと言われる音楽のディスク・ガイド・シリーズを以前出してて、もう既にこれは売り切ったような形で絶版にはなっていますが、非常に売れました。ちょっと半信半疑な部分もあったんです。当時、1990年代からジェリーフィッシュとか、ザ・ポウジーズとか、それからレッド・クロスとか、ここら辺は非常に人気を得まして、彼らの音楽をやっぱパワー・ポップっていう括り方で、語ってたところがある。その言葉通り、力強い、それでいてポップであるというようなニュアンスなんですけど。最初のパワー・ポップ・バントという意味になると、ラズベリーズ、バッドフィンガーあたりかと。個人的には、ラズベリーの「Go All The Way」とかが典型的なパワー・ポップだと思うんです。ただ、どうしてもアメリカでは、評論家筋には非常にウケが悪かったようで、あまり高い評価を与えられてなかったんですね。でも、日本では当時からそのパワー・ポップっていうような音楽スタイルがすごくウケていて、それが、連綿と続きながら、その一つにチープ・トリックもあったということが言えると思います。
今回ソニーからチープ・トリックの発表されてなかったライヴ盤が発売されるということで、これが1977年の初期のライヴ。その頃、彼らがどんな演奏したのか、まさにそれこそパワー・ポップ的なサウンドがしっかり聴けるんじゃないかと思います。バーニー・カルロスが取材に答えたようですけれども、その作品はすごく自信があるし、中身はすごくいいというようなこと言ってましたんで、これはすごく楽しみだなというふうに思います。9月発売のようなので、これはぜひともチェックしてほしいなというふうに思っています。


◆ 本人もドラマの音楽担当も驚いた!? 同じようなケースは今後増えるかも◆

普通のポップ・バンドは、マルーン5とか典型的なのいるけど、いわゆるロック・サウンドでポップなメロディでっていうことになると、結構いそうでいないのかもしれない。俺はすごく好きだった。例えば昔で言えばラズベリーズとか好きだったし、その後、例えばムーン・マーティンとか、あまり知られていないんだけど、楽曲とすると、ロバート・パーマーが歌ってたり。そういうような人たちがいたりしてそういうのを結構熱心に聞いてた時期もあった。それこそ、ジェリーフィッシュとかそのザ・ポウジーズとか出てきたときにも、ポップなメロディを持ちながら音作りはロックの力感にあふれていて、すごくハマった。あとマテリアル・イシューっていうグループもすごく良かった。やっぱり常にある程度中心になるようなグループが出てくると、それぞれに特徴を持ちながら、同じ方向性を持ったバンド群の盛り上がりっていうのは生まれてくる。

パワー・ポップって結構、簡単そうに見えて実はやっぱり曲が良くないと成立しない。一部のグランジとかにしてもそうだけど、楽曲そのものよりもある種の組み合わせでできちゃうところはあるでしょう。楽曲そのものが置き去りにされるというか。そういうのはやっぱり後々聴いた時に、結局大した事無いなと。そのときの気分でね。なんとなくいいように聴いてたけど、熱狂が醒めた後から聴くと…っていうのはあったりする話だね。でもやっぱ楽曲の骨格がしっかりしてて、良い曲を作れるバンドっていうのは、10年後20年に聴いても間違いなく良いっていうのは、当然なんでしょうね。
チープ・トリックから『ミュージック・ライフ』に送られたグリーティング・フォト。左は1978年、右はトム・ピーターソンが脱退していた時期のもので、1983年の2月号掲載。
◆ 時を超えてチープ・トリック人気が復活するのは、案外正統的後継がいないから? ◆

そういう意味で言うといろんなバンドの後継者みたいなのはいますけど、チープ・トリックは、パワー・ポップでなんとなくみんな普通に聞いてるけど、後継者的なのがいそうでいない、珍しい存在になってるかもしれないね。もう本当にドンピシャ後継者っていうのはいないのか。それだけに、低迷しても、やっぱりまたある時にふっと浮上してきてっていうのを繰り返す、そういうオリジナルの強さみたいなのはありますね。

チープ・トリックは、今こそ本当に聴き直すと、リック・ニールセンの作曲能力とか、ポップでフックのあるメロディを書けるという意味でも、ちゃんと時系列で聴いておくべきだなって反省してます。

ちなみに、クイーンとチープ・トリックのファンっていうのは、あまり被ってないんじゃないかと思いますね。面白いのは、当時の『ミュージック・ライフ』編集部の中でも、クイーン担当とチープ・トリック担当はまったく違っていて、その2人がそれぞれ、『ミュージック・ライフ』を辞めた後、クイーン担当の方はイギリス人と結婚してイギリスに。チープ・トリック担当の方はアメリカ人と結婚してアメリカにいます。偶然でしょうけどね。
MUSIC LIFE Presents チープ・トリック

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チープ・トリック、デビュー40周年を迎えた2017年刊行。現役感も満載の彼らの、キャリア総括ムックで、リック・ニールセンの独占!インタビューのほか、彼らをデビュー当時から追いかけて日本での人気をバックアップした『ミュージック・ライフ』の写真や記事再録も多数! 美麗&面白グラビア、メンバーそれぞれのインタビュー、更には漫画仕立ての「チープ・コミック」といったユニークなものも。
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日本人カメラマンとして初めてザ・ビートルズを撮影した長谷部宏。氏が音楽雑誌『ミュージック・ライフ』のために撮り下ろした数多くの海外ミュージシャンの写真の中から、来日時の写真や日本を感じさせる“ジャパネスク”な写真を厳選した写真集です。1965年にロンドンのEMIスタジオ(後のアビイ・ロード・スタジオ)で撮影したザ・ビートルズ&星加ルミ子の写真、1972年にジャマイカで撮影したレコーディング中のローリング・ストーンズの写真、1975年の初来日時に東京タワーを背にホテルの庭でくつろぐクイーンの写真などなど、貴重な写真の数々をたっぷりとお楽しみいただけます。
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