【連載特集・ジャパン】

EXIT NORTHで来日したスティーヴ・ジャンセン・インタヴュー by 浅沼ワタル〈後編〉

インタヴュー◉浅沼ワタル 協力◉田村亜紀 取材協力◉ビルボードライブ
2023年4月22日(土)東京・恵比寿

元ジャパン、現EXIT NORTHのスティーヴ・ジャンセン・インタヴュー、後編です。前半ではジャパン当時の話を中心にお送りしましたが、今回の後編ではEXIT NORTHとしての現在の活動、来日公演の写真などを中心にお送りします。

〈前編〉はこちら。
【連載特集・ジャパン】EXIT NORTHで来日したスティーヴ・ジャンセン・インタヴュー by 浅沼ワタル〈前編〉
EXIT NORTHではマネージャーなしで活動中

──マネジャーがいないんだってね。ということは、何もかも自分でやってるってこと?
「いや、アシスタント的に事務的なことに関しては手伝ってもらってる人はいるんだけどね。でもマネジャーは要らないかなって。今はその方が楽なんだ。大体全部メールで済んじゃうからさ」
──あーそうか、今は確かにそうかもしれないね。
「うん、昔みたいに、やたら人と直接会わなきゃならないわけでもないし、大抵の仕事の話は直接やって来るからね。マネジャーなんて邪魔にしかならないよ。連中の存在は物事を面倒にするだけだ。今はみんな、自分の仕事したい相手と直接連絡を取ることができるだろ。色んなアイディアだってダイレクトにやりとりできるし……」
──キミにとってはその方が楽だと。心安らかでいられる? 金銭的な部分とか、色んな面で……。
「うん、そう。まあ、とりあえず不満はないよね」
──それはラッキーだね(笑)。とても運がいいよ。
「ラッキーね、そういうことになるのかな。(笑)あなたの方はどうなの?」
──まあ、良い時もあればそうでない時もあるって感じかな。何しろフリーランスだからね。でも、ちょうどコロナ禍に入る前に、シンコー・ミュージックが僕と契約してくれてね。僕の写真を使ってくれるっていう契約。本だとか、色んなリリースだとか、トークショウだとか。
「ああ、なるほど。じゃ、あなたの作品はシンコーが管理してるわけだ」
──うん、そう。僕の長年の偉大なる友人スティングがもうじき日本にやって来るんだけど、そういう時はこっちで合流して仕事をするし、彼が海外で何かやることになったら、僕はそっちに飛んで行って仕事をする、とか。キミ、モンセラット・スタジオには行ったことがあるかい? 本当に素晴らしいところだよ(スティングはレコーディングにモンセラット・スタジオをよく利用する。そうした時に、浅沼氏に声をかけてきたりするそう)。
「いや、一度もないね。そもそもあそこは今もスタジオとして機能してるんだっけ? 僕の記憶では、あそこはとにかく天候が頭痛の種だってみんな文句を言ってたよ」
──うん、その通り。火山とハリケーンだよ。でも、僕はあそこには3回行ったけど、とにかく美しい場所なんだ。
「そうか、イイね。でもそんな素敵なところだと、仕事に集中するのが難しかったりしない?」
──ああ、そりゃそうだ(笑)、なるほどね。今回のニュー・アルバムについてはどんな感想を? これ、リリースはいつだったの?
「自分では満足いく仕上がりになったと思う。出たのは今月だよ」
──今月だったのか。輸入盤だけだよね。日本でのレコード会社は探さないの?
「いやあ、いいよ。必要ないもの。まあ、もしもの凄くいいオファーとかあれば考えなくはないけど」
──アドヴァイザー的なものも必要ない?
「うん、今はオンラインでリリースして、あとはディストリビューターを確保すれば、CDでも」
──イングランドでもそうなんだね。興味深い傾向だな。
「ああ、そうだね。時代は変わったよ」
──今回の日本ツアーの後はどうするの?
「スウェーデンでライヴをやることになってる。単発でのコンサートだね。それからオランダでもライヴの予定がある。あとはこれから、イングランドでのライヴ日程をもっと組むことができればいいなと思ってるんだ」
──あ、そうなんだ、英国もやるんだね。それはいつ頃になりそう?
「やること自体は間違いないと思うんだけど、まだ日程は決まってないんだ。でも、できれば夏頃にはなんとか」
──夏か。メンバーは同じ?
「うん。こっちでプレイする時には全体的に規模を縮小するんだよね、でもスウェーデンでは、もっと大きなシアターが会場だから、ストリングスとかブラスのプレイヤーも加えてプレイできる。いい会場なんだ」
──それはイイね。
「うん。スウェーデンにおいでよ」
──それはいつなの?
「5月16日だね」
──いやー、行けそうにないなあ。また日本に戻って来ることはある?
「あるかもね。分からないけど」
──まだそこまで考えてないか(笑)。これから先がどうなるかなんて、誰にも分らないからね。

 
©︎ Kenju Uyama

読み込み中.....

EXIT NORTHは、スティーヴのソロ・アルバム『Slope』(2007年)をきっかけに、3人のスウェーデン人ミュージシャンが加わって2014年から活動しているグループ。目下のところ2枚のアルバムをリリースしており、最新作『Anyway, Still』をリリースして今回の来日となった次第。上掲の写真は4月26日(水)、ビルボードライヴ大阪で撮影されたものです。
 

スティーヴ・ジャンセン/Steve Jansen(Drums, Pad, Synth, Percussion, Backing Vocal)
ウルフ・ヤンソン/Ulf Jansson(p, key)
チャールス・ストーム/Charles Storm(Synth, Treatments, Guitars, Bass, Voices)
トーマス・フェイナー/Thomas Feiner(Lead Vocal, Trumpet)

 
EXIT NORTH公式ページ
EXIT NORTH公式YouTubeチャンネル
Exit North公式bandcamp

静謐で穏やかな楽曲ではかつてのジャパンを想起させる部分もありながら、全体的にアコースティックで響きを大事にした音像は最初から独特の世界観を感じさせ、スティーヴによるモノクロームな写真作品に近しいものがあります。まだご覧になったことのない方、次の来日の機会はお見逃しのないよう。そしてその際には、本国スウェーデンで繰り広げられる豪華なステージで見てみたいものですね。
そして話はプライヴェートな内容に。会話も公人同士から友人同士へ変わる

──(笑)ええと、ひとつ秘密の質問いいかな。
「うん。……秘密?(笑)」
──キミは結婚してるんだっけ? 子供は?
「うん、したよ。子供はひとり。23歳になる」
──社会人? それともまだ学生さん?
「映画業界で働いてるよ。映画が大好きでね、撮影をやってる。学校でも映画製作の勉強をしてたんだ。映画の方の撮影カメラマンになりたくて……ずっとカメラに夢中でさ。子供の頃からずっとカメラが大好きだったんだよ」
──ははあ、お父さんと同じなんだね。
「うん、僕以上だ。それにモデルの仕事もしてるよ」
──マジで?(笑)。
「たまにモデルもやったりしてるんだ、どこか新しい……ええと、確かトーガ(TOGA)って……女性なら知ってるかもね。あそこでモデルの仕事をしてるんだ」

ちなみにTOGAとは、日本の人気ファッション・ブランド。スティーヴの息子さんはそこでモデルの仕事もやっているんだそうです。

「おかしなもんだよね、全く(苦笑)。(スマホで息子さんの画像を探し出し)……ほら、これが僕の息子」
──キミとはあんまり似てないね。
「その写真ではそうだね。でも写真によっては結構似てるのもあるよ、時々ね(笑)。それにしても、変わった服だよね。まるでドレスみたいな……」
──なるほどね、ということは彼はミュージシャンではないんだ。
「うん、楽器はやるけど、仕事にはしたくないって。でも彼の一番の仲良しはミュージシャンなんだ。面白いもんだよね、彼らは小学校の頃から一緒に大きくなったんだけど……その子のお父さんていうのはプロの写真家なんだ」
──へえ~。
「で、僕はミュージシャンだろ。だから両方とも、親父の方は息子が自分と同じ仕事をやるかと思ってたけど、子供が選んだのは親友の父親の職業ってわけ(苦笑)。クロスオーヴァーしてるんだよね。あなたも息子さんがいたよね?」
──うん、ひとりね。彼は英国籍を選んだから、今はイギリス人だよ。
「ああ、そうなんだ! それはグレイトだね。僕、あなたの写真を撮って送ったでしょ」
──うん、もう43年……45年とか、それくらい前だよね。
「うん」
──あれは誰が撮ってくれたんだっけ? キミが撮ってくれたの?
「そうだよ」

話は再びジャパン時代へ。リチャードの近況、早逝したミック

──そう言えばリチャードはどうしてる? キミんとこの、バルビエリ。
「ああ、リチャードね、うん。彼は今、とんでもなく人気のあるグループの一員だよ」
──そうなの? それは英国でってこと?
「英国のグループで、名前はポーキュパイン・トゥリーって言うんだ。いわゆるプログレッシヴ・ロック・グループと言えばいいのかな。世界各国の、もの凄く大きなスタジアムでライヴをやってるよ」
──そうか、それはイイね。僕がリチャードに最後に会ったのは、確か渋谷のライヴハウスで、キミも一緒だったんじゃないかな。それ以来一度も会ってないんだ。
「そうなの? それって何年前?」
──多分、30年近く前だと思う。まだミックが存命中の頃だから。ハハハ。
「(苦笑)それは相当前の話だね」
──僕は彼がいないのが寂しいよ。彼とは一緒に楽しいことを沢山やったからね。
「ああ、それは僕もだよ、分かる。ミックはいつも楽しい奴だった」
──本当に悲しいよ。ナイスガイだったからね。
「うん、本当にそうだね。しかも彼も同じ、癌によって命を奪われたわけで。彼は、一旦キプロスに引っ込んだんだ。息子が生まれてから、自分のオリジンであるギリシャに戻った。だから僕は彼とは4~5年ぐらい殆ど会ってなかった。そうしてるうちに彼が病気だと聞いたんだ。それで彼に会いに行って……」
──キプロスまで会いに行ったんだ?
「そう。それで僕らは彼に癌の治療を受けさせるために、英国に連れ戻ったんだよ。でも残念ながら、その時にはもう手遅れだった」
──ああ、そうだったのか……でもさすが、良き友だね。
「当然のことだよ。僕らはとても近しい友人同士だったからね」
──ミックとはいつからの知り合いなの?
「73年だね。僕が13歳の時からだから、今年でもう50年になるのか。半世紀だものね」
──良い友達だね。お兄さんよりも(苦笑)。
「うん(苦笑)……あなたの方はどうなの?」
──僕は今、東京郊外で暮らしてるよ。都心まで出るのに電車で2時間かかる。だからね、前回キミが僕にメールをくれた時にさ、『13時に渋谷で会おうよ』って書いてきたの、覚えてる? それが11時だったんだよ。東京に出るまで2時間かかるのにさ、間に合うわけないじゃない(笑)!
「ああ、そうか。それは悪かったね(笑)」
──だから『13時は無理だけど、15時でどう?』って返信したら、『あーゴメン、15時にはどこだかに行っちゃうからダメだ』って返ってきて。『OK、じゃあ次回だね。今度は4月に行くから、その時か、もしくはイングランドで会おう。ディナーに招待するよ』ってキミは書いてたんだ。
「ああ、そうだったね」
──というわけで、向こうに行ったらディナーを一緒にしよう。
「うん、ロンドンに来てよ」
──滞在日程が決まり次第、詳細を送るよ。
「OK、楽しみにしてる」

そして二人の共通の話題、写真へと移り……

「ちなみに、今はどこのカメラを使ってるの?」
──ニコンだよ。
「相変わらずだね。スポンサーシップ?」
──いやあ、違う違う(笑)。キミの方はどうなの?
「僕はシグマを使ってる」
──え、シグマ!? 日本のメーカーだよね。
「うん。凄くイイよ、うん」
──デジタル、それとフィルム? 相変わらず写真は撮ってる? 前回は渋谷エリアで撮影してたよね。
「デジタル。見てくれた?」
──うん、見た覚えがあるよ、ツイッターだったか、フェイスブックだったか、モノクロで……。
「ツイッターだね。そう、モノクロで真四角のやつ。あれはシグマじゃなくて、リコーで撮ったんだ」
──ああ、そうか。それもデジタル?
「うん、デジタルだよ。あなたもデジタルでしょ?」
──うん、勿論僕もデジタルだよ。フィルムはとにかく高いからね。今は3倍ぐらい費用がかかるんじゃないかな。
「うん、高いし、現像に時間もかかるしね」
──そう、撮った後は現像して、修正して、プリントして、なんてやってると、丸一週間とかかかっちゃう。デジタルは1分だもんね。
「うん、1分どころか、それ以下だよ。問題があればもう一枚撮ればいいだけだから」

最後に、手書きでメッセージをお願いしてみました

実は序盤に、以下のようなやりとりがあったのでした。

──今日はどれくらい時間があるの?
「どれくらい必要なの?(笑)。多分友達と会ったりとかはあるんだけど。僕のバンドは今日到着するしね。確か午後のフライトで着くはずで」
──そうか。僕の写真集(『ザ・ゴールデン・イヤーズ・オブ・ブリティッシュ・ロック』)、気に入ってくれた?
「これからじっくり見せてもらうよ。ピントがちゃんと合ってるかどうかとか、諸々確認してからね(笑)」
──コメントをもらえないかな。手書きで書いてよ。
「え、今!?(笑)。ウソだろ? 今書かなきゃいけないの?」
──いやいや、取材が終わったらね。
「ああ、よかった。そんなに興奮しないでよ。ちゃんと書くからさ……」
──でもさ、そりゃあ急かしたくもなるよ。だってキミとは今はもう、そうしょっちゅう会えるわけじゃないんだから。
「そりゃそうだけどさ、でももうちょっとリラックスして欲しいな(苦笑)。のんびり行こうよ」

そしてそろそろお時間にという段になって、話が序盤での手書きメッセージに戻ります。

「さて、何をすればいいのかな? これに対するコメントを書けばいいの?」
──よろしくお願いしまーす。(笑)
「これにコメントすればいいのかな?(笑)」
──いや、とにかく中身を見てよ。ちゃんと見て! 生でコメントを書いて欲しいんだ。この紙を使って……。
「コメントって言っても、どんな感じにすればいい?」
──例えばスティングは、「Great book, Watal. Arigato」って書いてくれたんだよ。
「ああ、そういうことね。OK。……へえ、ベイ・シティ・ローラーズまで撮ってたんだ(笑)」
──そうだよ。彼らはもの凄く人気だったからね。デュラン・デュランとか……彼らのことは知ってる?
「うん。勿論(笑)」
──ここに写ってるミュージシャン、みんな知ってる? 名前もみんな……。
「ああ、うん……どれのこと?」
──ここに写ってるみんなさ。僕が全部撮ったんだよ(笑)。
「そりゃそうでしょう(苦笑)」
──お楽しみいただけたかな?
「ああ、勿論。あなたがこんなにヴァラエティに富んだアーティストたちを撮ってたことは知らなかったよ」
──これだけじゃないよ、もっとだよ。ホントはもっといっぱいあるんだ。……マサミ・ツチヤ(土屋昌巳)には会うことはある?
「あー、そうだね、会えるといいね」
──今回の滞在中に会えるといいよね。彼は東京にいるの、それともイギリス?
「今は東京のはずだ」
──じゃあ、みんなで記念写真撮ろうか。カメラもって来たから……
「(溜息をつきながら)さあて、それじゃコメント書かなきゃね……」

……というわけで、お書きいただいたのがこちら。手書きの本物は、浅沼氏の新たな宝物となった次第。コレクションはスティング、スティーヴ・ジャンセンときて、今後もどんどん増えていくのでしょう。
取材が行なわれたのは4月22日(土)のこと。しかしアルバムは出たばかりで次はまだまだ、そして今回は公演のための来日だったため、EXIT NORTHとしての次の日本でのアクションは当分なさそうです。このインタヴュー、公開するタイミングをはかっていた(事実上逸していた)のですが。スティーヴ氏、約1週間後のツイートでこの取材のことを写真とともに予告なしのフライング・ツイート!(したのが下の埋め込みツイート)。いやいやいや写真撮っちゃダメって言ったじゃん! 自分で出しちゃってんじゃん! まあいいけどさ。そんなわけで公式にアナウンスしないままなわけにもいくまいと、焦って「取材しました! 近日掲載!」とツイッターで予告を出した次第なのであります。ファンの皆様、結局そこからまたお待たせして申し訳ありませんでした。久々の彼のインタヴュー、いかがでしたか?

参考までに彼のツイートで使用されている2枚の写真は、右の浅沼氏の単体のショットは彼がiPhoneで撮影したもので、左のツーショットは恵比寿のロータリーをバックに浅沼氏のカメラで編集部がシャッターを切った、インタヴュー最後の部分で言っている記念写真です。浅沼氏が自身で彼に送ったものを、スティーヴ流にモノクロ化して加工したものを使用したんでしょうね。ともあれ、スティーヴさん、浅沼さん、そしてビルボードライブさんどうもありがとうございました!
 
────────────────

そして後日談。〈前編〉冒頭にもある通り、浅沼氏は6月に渡英。スティーヴに連絡をとって6月20日にロンドンで再会、タイ料理をご馳走になったということです!
ザ・ゴールデン・イヤーズ・オブ・ブリティッシュ・ロック 浅沼ワタル写真集

ザ・ゴールデン・イヤーズ・オブ・ブリティッシュ・ロック 浅沼ワタル写真集

3,960円

撮影:浅沼ワタル
商品詳細
Exit North
『Book of Romance and Dust』


(2018年)
Amazon Music・MP3(MAY 14 2019)¥2,000
1. Bested Bones
2. Short Of One Dimension
3. Sever Me
4. Passenger's Wake
5. Nort
6. Lessons In Doubt
7. Spider
8. Losing
9. Another Chance
Exit North
『Anyway, Still』


(2023年)
Bandcamp
1. I Only Believe In Untold Stories
2. Your Story Mine
3. The Unforeseen
4. Where The Coin Fell
5. Bled Out
6. Us In Half
7. A Battle Cried
8. With All The Indifference
9. In The Game
10. The Signal
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