ロンドンから電車で1時間、海辺のブライトンは、リゾート気分を味わいながらロックゆかりの物が見られる、ファンにとっては正に遊園地。向かう途中の車窓から、ピンク・フロイド『アニマルズ』のジャケでお馴染み、バタシー発電所の堂々たるお姿も拝める！

ザ・フーの『四重人格』を映画化した『さらば青春の光』に登場する路地裏 ”Quadrophenia Alley” は、ブライトン観光の目玉の1つになっている。海岸沿いに建つ優美なザ・グランドは、『さらば青春の光』でスティングが、ベルボーイとして働いていたホテルだ。

ブライトンはまた、何度もビートルズの公演地に選ばれている。彼らの曲で歌われるヘルター・スケルターが灯台の形をした滑り台のことだとは昔は知らず、イギリスに行ったら体験してみたかったので、ブライトン・ピアで挑戦。晴れていたらワイト島まで見渡せるというてっぺんまで急な階段を登り、滑り落ちないように注意しながら麻袋に足を入れ、お尻まですっぽり覆う。普段原稿ばかり書いて運動神経の鈍った身には、既にこの作業がヒヤヒヤもの。らせん状のスロープはかなりスピードが出て、海に落ちる錯覚に襲われて大人でも十分楽しめた。ドラッグやエロチックな意味で深読みされる「ヘルター・スケルター」だが、大部分はこの滑り台の動きのままを歌っているのだなと、1人ほくそ笑む。

ブライトンといえば忘れてならないのは、クイーンの曲の元ネタの1つであるブライトン・ロックだ。“ブライトン名物の飴” の意味で、昔からイギリスのビーチ・リゾートで売られている棒状キャンディーのこと。曲「ブライトン・ロック」の冒頭には、ブライトン・ピアを思わせる遊園地のSEが入っていて、ミュージック・ホールの曲「I Do Like to Be Beside the Seaside」（「海辺にいるのが大好き」の意味）も挿入されており、ブライトンにちなんだ仕掛けが満載だ。ミントとフルーツ味をミックスしたブライトン・ロックをかじってみる。ポキッと折れずにぐにゃっとして、その “まずさ” には、どこか郷愁を誘うものがあった。