【連載・朝日順子】ロック史の現場を見て！食べて！飲む！ UK & アイルランド体当たりレポート〜2023 夏 第7回 真のワーキング・クラス・ヒーローとは

ホーム
NEWS
【連載・朝日順子】ロック史の現場を見て！食べて！飲む！　UK & アイルランド体当たりレポート〜2023 夏　第7回　真のワーキング・クラス・ヒーローとは

2023.10.16

連載・朝日順子の英国＆アイルランド「ロック聖地巡りの旅」第7回　真のワーキング・クラス・ヒーローとは

朝日順子さんによる英国とアイルランドでのロック聖地巡りの旅の記録、第7回めは前回に続いてロンドンとリヴァプールでのお話。今回の主人公はポール・マッカートニーです。

朝日順子のサイト

ビートルズ時代にポールが撮影した写真を一冊の写真集にまとめたのが『1964：Eyes of the Storm』で（1月27日、4月5日MLCニュース参照）、その発売に合わせてロンドンのナショナル・ポートレート・ギャラリーで写真展が開かれていました（10/1で終了。2024年夏、日本でも開かれる予定：7月10日MLCニュース参照）。今回朝日さんはその写真展を訪れてポールの作品に触れ、想いを巡らせ（ご本人言うところの「妄想」が膨らみ）始めます。

やっぱり地元の皆さんはそのあたりには敏感なんですかね

第7回　真のワーキング・クラス・ヒーローとは

ポールが自身のカメラで、ビートルマニアが爆誕する瞬間を捉えた写真の展覧会を、ロンドンのナショナル・ポートレート・ギャラリーで見た。素顔でくつろぐビートルズのメンバーに加え、プロデューサーのジョージ・マーティンが不倫相手の秘書といちゃつく姿、ポールがマイアミでアバンチュール（死語！）を楽しんだ相手など、ゴシップのりで楽しめる写真もあった。

働く市井の人のポートレートも多く、ポールの書く歌詞との繋がりを強く感じた。吹き荒れるビートルズ旋風の中心にいながら、こうやって彼は普通の人の職業から生活を想像し、名も無い人々に名前を付けて歌詞にしたのだろうなと思った。ハイライトは “リアル『ハード・デイズ・ナイト』” と言うべき、“見る側” ではなく “見られる側” から捉えた貴重な写真の数々で、車を追いかけるファンの熱狂や、空港で出迎える群集の熱気に圧倒された。

ポールが撮影に興味を持ったのは、弟のマイクの影響もあると思う。リヴァプールで訪れたマッカートニー家の自宅では、撮影の作業スペースが必要な弟に、広い方の部屋を兄が譲ったと聞いた。1964年にビートルズ人気で一家が住めなくなると、家は次の住人によって内装が変えられてしまう。95年にナショナル・トラストが購入し、元の状態を再現するのに役立ったのは、マイクが家の内外を撮りためた写真だ。

ポール家の裏庭（左）と、2005年リリースのポールのソロ『ケイオス・アンド・クリエイション・イン・ザ・バックヤード〜裏庭の混沌と創造』。

ポールの『ケイオス・アンド・クリエイション・イン・ザ・バックヤード』のジャケに使われたマイクの写真そのままの裏庭で佇んでいると、ガイドさんが「椅子に座ってもいいのよ。壊れやしないから」と言ってくれた。彼女の説明では、玄関に飾られたプレートは、両親の思い出にと兄弟が特注したものだそう。

マッカートニー家の玄関でガイドさんと。頭上にプレート ──「In loving memory of Mum & Dad, MARY & JIM」

リヴァプールで会ったガイドは皆、ジョンの自宅はミドルクラスだから、”労働者階級の英雄” は他の3人だけと言っていた。真のワーキング・クラス・ヒーローとは、ポールがカメラで捉えた人々や、マイクのことかもしれないと、ふと思った。

─────────────

朝日順子氏「ロック史の現場を見て！食べて！飲む！ UK & アイルランド体当たりレポート〜2023 夏」第7回、いかがでしたでしょう。英国における階級というのはもはや制度ではないものの、相変わらず意識としては根強いということなのでしょうか。日本で言えば「おらが街のヒーロー」が実は隣町の出身だった、とかそんな感じ？　地元の方が「他の3人だけ」と限定的な言い方までするのは、割と驚きでした。そして、ポールの弟マイク・マクギアことマイク・マッカートニーによる写真集は、実は弊社でも輸入販売中。ご存知ない方はこの下の朝日さんの著作のさらに下にそのリンクを加えておきますので、そちらもどうぞご覧ください。

というわけで、次回第8回はアイルランドに渡ります。今回の「他の3人だけ」というのに通じる、地元民による「おらが街のヒーロー」に対するこだわりのようなお話を朝日さんから軽く伺っておりますが、はてさてどういったお話になるのやら……。どうぞ次回もお楽しみに！

朝日順子・主な著作