この本を書くことで 〈ああ俺は音楽が好きなんだな、やっぱりバンドが好きなんだな、モッズが好きなんだな〉というのを痛感した ── 森山達也
2024年11月29日@タワーレコード渋谷
新刊書籍『Hey! Two Punks The Mods : The Early Days 博多疾風編』発売記念インストアイベント・レポート
7時を少し超えてイベントがスタート、音楽ライター本田隆さんが壇上に登り森山達也さん、北里晃一さんを呼び込む。一斉に絶叫が上がり大きな拍手が二人を迎える。
森山達也(以下森山):寒い中ありがとうございます、短い時間ですけど楽しんでいってください。
北里晃一(以下北里):いっぱい入ってるね、朝から待ってた人もいるって聞いて感激してます。楽しんでってください。
本田隆(以下本田):この『Hey! Two Punks』は今までのモッズの硬質なイメージをすべて脱ぎ捨ててますね。
森山:脱ぎ捨ててないです(笑)。デビュー前の博多時代の話だから、そんな硬質な服なんか着れないでしょ。その当時考えてることは、どうにかして金を集めて夕方どうやって飲むか。政治のことなんか考えてないし、だから硬質なイメージを着たくても着れなかった。
本田:なるほど。
北里:モリヤンが言った通りなんですよ、夕方5時から焼き鳥屋が開いて、1,300~1,400円あればなんとか飲み食いできて。
森山:ビールが300円。
北里:焼き鳥でバラを頼んで。
森山:健全に飲んでました。
本田:机にお金を置いて。
北里:あれが一番間違いない明朗会計。
忘れるから、書き残しとかなくちゃいけないっていう意識からできた本
森山:まず、なぜこの本を出したかというと、みんな知ってると思うけど、俺が耳の病気になって、約一年はいろんな病院に行って精神的にもやられそうだった。で、一年ぶりくらいかな、北里から「ちょっと会おうか」って電話があった。そんな時に重い話とかしたところで治りようもないし、そこで昔の楽しい話になった。でも二人ともあまり細かいところまで覚えてなくて、お酒も飲んでるから記憶もいい加減。それで、こういうことは記憶がある今のうちに書かないと、何年かしたら思い出せないね──ということで結局本になった。自分たちにとっても残しておきたい記憶だし。
北里:こう書こう──と思って書き出したわけじゃないので、結局モリヤンと飲みながら記憶の擦り合わせをやって、断片と断片をつなぎ合わせると一本の筋道ができて、それをエピソードとして連ねていった感じ。
本田:一つ出ると、どんどん思い出す。
北里:そんな感じはものすごくあったし、最後までちゃんと出てきた。
本田:焼き鳥屋の描写もすごくリアルで。
森山:年寄りは昔のことはよく覚えてる──って言うじゃないですか、最近のことはすぐ忘れるけど(笑)。当時は毎日のルーティーンワークに近かったから覚えてるんだろうね。
北里:毎日だからね。
本田:この本の制作中のエピソードとかも聞きたいんですけど。
森山:まず、〈こんなことがあったよね〉というのは覚えていても年数がわからない。〈アイツいたっけ?〉みたいな細かいところがどうしても思い出せない。そういう時は連絡を取ったり博多の連中に聞いたり。でもそいつらも忘れてて──その辺が大変っていえば大変だったかな。
北里:俺の方が2歳年下なんで、若干ながら覚えてるんですよ、同じ酒を飲んだにしても。
北里:肩肘張らずに書いたものなので、結局は考えてることはみんなと同じ。でもね、不思議とモリヤンと飲んでたら〈絶対プロになれる!〉というのは信じられた。夢物語とは思ってなかった、この人についていけば必ず俺たちは東京に行ける、こうやって音楽で飯が食えるとは、あの時からずっと思ってた。これは間違いない。
本田:そうやってプロになられて、実際になってみるとここが違った──というのは。
森山:それは次の「エピック東京編」で。(場内大拍手)
本田:あるということですね。
森山:出せるかどうかわからないけどね。この本が爆発的に売れれば──、で、割と売れ行きいいらしいです。(場内大拍手)[重版出来! 12月下旬]
2年4ヶ月ぶりのステージ、東京キネマ倶楽部
本田:2年4ヶ月ぶりですよね先日の東京キネマ倶楽部、本当に素晴らしいライヴでした。ファンの前に久々に出た感想は?
森山:舞台袖でメンバーにも言ったんですけど、久々に緊張したね。
北里:マジで「上がったぁ~!」って。
本田:座ってのアコースティック・セットでしたが、最後のアンコールで立たれたじゃないですか。あれは想定外ですか?
森山:予定はなかった。
本田:そこまで行けたってことですよね。
森山:アレやんないと帰んないかなと思って(場内爆笑・大拍手)。
本田:モッズ・コールも抑え気味で、みんなすごく気を使ってるな、と。
森山:俺、緊張してたから、あの沈黙がすごく辛くて。
北里:はしご登らせて、はしご外す、みたいな。
森山:普段なら、「わぁ!!!」とか、「モリヤマ!!」とかあるんだけど。
本田:アコギになると椅子に座ってる人も多いからシーンとなって、探りながら観てる感じだった。
森山:2年も休まなければOKなんだけど。俺もみんなと同じくらいモッズがやりたかったし、ステージに立ちたかった。なんかすごい新品な俺になった気分で、最後までやれるかっていう不安もあった。
本田:音も新しいモッズでしたね。
北里:新しくなったかどうか俺はわからないけど──、聴き違いだと思う。俺たちは変わらないところがいいとこなんよ(場内大拍手)。
当時、70年代の博多の音楽シーンは東京とは全然違ったから生まれた
森山:それがわかってれば俺も評論家になるよね(笑)。当時はファミコンもなければ、音楽番組もなかったし、流行はやっぱり東京が中心だったからこっちまで情報が来るのが遅れるし、外国のアーティストもなかなか福岡まで来ることはなかった。だから流行りとかを意識せずに自分たちが好きなロックをやれた、個性の強いしっかり自分たちのスタイルやポリシーを持ってるバンドが生まれやすかったんだと思う。これが東京と同じように流行に敏感で街を歩く人もそういう人たちばっかりだったら、やっぱりそっち寄りのバンドが増えたりしてつまんなくなったり、没個性になって、ああいうビート系のバンドはもちろん出てこなかっただろうし。そこくらいかな、なんとなくオレが思うのは。
本田:やっぱりモッズにとってパンク・ムーヴメントはすごく大きかったと思うんですけど、スローな曲の下地というのは?
森山:その辺も書いてますから。
本田:そこは、しっかり読んでいただくとして。苣木さん(G.)、梶浦さん(Dr.)が入っての4人のモッズ、当時の二人については?
森山:読んでもらったらわかるけど、メンバー探しがなかなか大変だった時期があって、北里はずっといてくれたけど、最後の方は俺も〈バンド組めないのかな──〉と思ってた。これは本には書いてないけど、一瞬、東京の方から〈ソロで来ないか〉って話もあった。オレはバンドが好きだから結局は断ったんだけど、一瞬、〈ああ、オレも永ちゃんみたいになろうかな……〉とかもあって、北里に「もうお前、バンド組めよ」と言った。北里がバンド組んで安心したら東京に行けるかな──と思って。そうしたら、組んだバンドが女の子ヴォーカルで、オレに言わせれば北里には違うわけよ(場内大爆笑)。あんだけラモーンズが好きとか言っといて、何そのポップなのは!? 悪くはないんだけど俺のイメージとは違ったわけ。で、〈これは俺は東京に行けないな、コイツの面倒みるしかないな──〉と。
本田:そういうことがあったんだ、北里さんは?
北里:覚えとるんだけど、あれはブロンディみたいなのが流行ってて、そういうのもアリかなと、でもそれは腰掛け程度にしか思ってなかった。
本田:森山さんがソロになるのは悲しかった?
北里:いや、それは知らなかったし。
森山:結局バンドが好きだったから正解だったな、東京に一人で行かなくてよかった。そうじゃなかったらこんな歳までロック・バンドやれてなかったし。〈ロックは若者のものだ〉っていう昔のことは知らないけど、ロックもだんだんそうは思われなくなってるし、歳をとったら楽しみはないのか? フザけんな、〈俺たちみたいに歳をとった奴らがロックを目一杯楽しめる、まだそういう文化がある〉っていうのが、逆に今となっては〈どうだ、お前らうらやましいだろう〉と思うよね。だからみんなずっと、何歳になってもロックを好きでいてね(場内大拍手)。
もう一回冷静に昔からの自分を振り返ることは、
すごく薬になったと感じさせられた
本田:解散というのを考えたことは?
森山:だから、ないと言えば嘘になるというか、でも本気で考えたのは別にないね。それこそ今回この耳の病気になった時に解散というより、〈ああ、これでもう俺はやれないのかな〉というのは考えた、そこが一番きつかった。ミュージシャンにとって一番大事な耳がイカれてしまったから、〈ああこれでもうできないのかな──〉と思ってしまう。
本田:それを見守られていた北里さんは?
北里:一年間闘病してると、俺らがあまり電話すると急かしてるみたいに思わせて、また精神的なプレッシャーになるから連絡は取らなかった。でも、初代マネージャーの角田がモリヤンの病院にはずっと付き添っていて逐一連絡は受けてた。病状はもちろん、その病状も決して芳しくなく先生から「完治することはない」と言われたという残酷な報告も聞いて、「そうなのか、じゃあ慣れるしかないのか」という話で、モリヤンは辛い一年を送ってたと思うよね。それでも一年経った頃に、やっぱもう一回会ってバカ話でもしながら飲みたいし──というのでこの本に至るんだけどね。
本田:そうするとやっぱり、書かれたこともご自身の療養にかなりプラスになったという。
森山:うん、そうね、音的なことはできなかったけど、もう一回冷静に昔からの自分のことを振り返ったりも本当にすごくできたし、改めてそれをやることで〈ああ俺は音楽が好きなんだな、やっぱりバンドが好きなんだな、モッズが好きなんだな〉というのを痛感したよね。それはすごく薬になったと感じさせられたね。
本田:それで2年ぶりにライヴをやって、その後もやっぱり先を見据えて──という流れができた。だからこの『Hey! Two Punks』はお二人が昔を振り返ってるんですけれど、前に進んでいくというような本と感じたんですよね。
森山:とりあえず、よくある映画の「○○○ episode, 0」みたいなアレ。『THE MODS, 0』というか、〈ここから始まったまだ完璧じゃないモッズだったんだけど、でもあそこから始まったんだよ〉というのをみんなが知って、デビュー・アルバムの『FIGHT OR FLIGHT』を聴いたらわかるよね。
本田:そうなんです、多分。でもあの笑いの中にも音楽が好きで好きでしょうがないっていうのが出てるんですよね。それはずっと変わらないんじゃないのかな。
森山:どうなの?
北里:それしかないからね、取り柄っちゅうのがね。
本田:本当に好きなんだなっていうのが伝わってきて。
森山:ま、書いてあるのが焼き鳥、ロックだからね。さみしい人生(笑)、みんなもそんなもんよね、あの頃って。
北里:モリヤンはピザを頼む時、いろんなトッピングしないの。ごくシンプルで、なんでもかんでも乗せればいいってわけじゃない、一つキモになるものさえ乗ってれば完成。だから俺たちも、音楽さえできればそれでいいと思ってた。
本田:そういうところも書いてある本なので、あの笑いの裏にあるものを感じて欲しいと思います。で、将来のモッズについて話していただける範囲でいいので一言いただけますか。
森山:予定自体は全然立ててないんだけど、この前ライヴやって様子を見て、二日間くらいはきつかったけど、少しずつ症状も収まり出すと思うわけ、それがうまくいったら来年にはまた、リハビリがてらって言ったらステージに失礼なんだけど、またライヴやりたいなと、春あたりにできたらいいなと思ってます(場内大拍手)。
北里:モリヤンが言ったことと全く同じ。モリヤンの耳の次に北里や!とならないように足を引っ張らないよう健康にだけは留意します、頑張ります(場内大拍手)。
本田:モッズは変わらない、というのを二人が約束してくれました。
森山:後は、「エピック東京編」が出るかどうか(笑)。
本田:その時はまた、この後の話を読めると思います。
トーク後集まった全員をバックに記念撮影を、その後サイン会が行なわれた。
Hey! Two Punks The Mods : The Early Days 博多疾風編
メンバー自身が初めて明かす、THE MODSデビュー前夜までの知られざる物語
1970年代、博多。多くの無名ミュージシャンが成功を目指して切磋琢磨していた土地で、2人の若者が運命的な出会いを果たした。バンドを解散して暗中模索の日々を送っていたシンガー、森山達也。彼に憧れていたベーシスト、北里晃一。海外から届いたパンク・ロックの波をキャッチした彼らは、新バンドの夢を最新のサウンドに託していく……。本書は2人が初めて書き下ろした自伝的エッセイ。これまでTHE MODSの硬質なイメージで覆い隠され触れられる事がなかった東京進出までの涙と笑いの日々を詳細に、肩肘張らず語った内容は貴重。青春のすべてを音楽に賭けた若者たちが織り成す、リアルノンフィクション53篇!
Hey! Two Punks
The Mods : The Early Days博多疾風編
森山達也/北里晃一 著
推薦文:宮藤官九郎
あとがき:藤井フミヤ
A5判/320頁予定/予価:3,000円(税込)/11月25日発売予定
THE MODS 40th Bye Bye Stardom, Hello Rock‘n’Roll
著者:THE MODS/本田 隆
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