阿部克自・生誕95周年記念スペシャル・トーク・イベント・レポート

ジャズをヴィジュアルで語る
〜K.Abeの功績を振り返って~

2025年2月15日@東京・四谷 ジャズ喫茶いーぐる 

写真左より塙 耕記氏、佐藤俊太郎氏。
スペシャル・トーク・イベント阿部克自 生誕95周年記念「ジャズをヴィジュアルで語る~K.Abeの功績を振り返って~」が2025年2月15日四谷の老舗ジャズ喫茶いーぐるにて開催された。登壇者は雑誌Jaz.in編集長 佐藤俊太郎氏、レコード店「JUDGEMENT RECORDS!」代表の塙 耕記氏。
佐藤俊太郎(以下佐藤):『Jaz.in』編集長、佐藤です、僕は阿部克自さんとお会いしたことはないのですが、以前から阿部さんの写真のファンで、こういう機会をいただけて光栄です。今日は編集者の立場から色々と紐解いていければ──と思っています、よろしくお願いいいたします。
塙 耕記(以下塙):JUDGEMENT ENTERTAINMENTの塙と申します。私も阿部克自さんとは面識はなんいですけれど、阿部さんがやってらした写真とレコード・ジャケット・デザイン、今日はその現物や写真を見ながらその辺の説明ができたらな、と思います。よろしくお願いします。

◎ デューク・エリントン
佐藤:切手になったデューク・エリントンの写真ですが(※1986年4月29日のデューク・エリントンの誕生日に合わせて発行されたアメリカの記念切手[22セント]に作品が使用された)、僕はデューク・エリントンの写真の中で一番好きなんですけど、黒でもグラデーションが凄い。デュークの輪郭を一層深く浮かび上がらせていて、そこに惹かれました。
:ご存知の方も多いエピソードかもしれませんが、この写真は本人(阿部さん)の許諾なしに勝手に使用されてしまったもの。後から大使館を通してクレームをいれ訴訟を起こす──という話をしていたら弁護士から無理だと聞かされ、アメリカに行って交渉して、先方からものすごい金額をもらえる──と期待していたのに結果10万円程度のお金をもらうこことで決着がついた──という裏話があります。
佐藤:阿部さんはグラフィック・デザイナー出身だからまず構図が凄い。それで最初から頭の中で構図を決めるからあまり数は撮らなかったらしい。だから決めた構図に従って角度とか表情とか撮るところだけを撮る──という方で、デザイナーとしてのセンスが出てると思います。ジム・ホールの有名な写真でも、黒の面積が多いのにちょっと見えている光の輪郭だけでジム・ホールの本質を直球で見せるというのが凄い。そこに惹かれちゃうんですね、一瞬で本質を射抜く。他のジム・ホールの写真とは全然違う。
:阿部さんの『ジャズ・ポートレイチャーズ』に連動した写真展を「JUDGEMENT RECORDS!」で2024年夏に行ない、全国からたくさんの方に来ていただき、スコット・ラファロ、ジョー・ヘンダーソンの写真には大きな反響をいただきました。スコット・ラファロの人気はダントツで、佐藤さんの仰った通り、紙焼きの加減、黒の微妙なさじ加減が写真によって調節されていて、そのパキッとした雰囲気が僕は好きです。
佐藤:そこは重要ですよね。今はデジカメですけど昔はフィルムで、〈撮影半分/紙焼き半分〉で、焼きによっていかようにもなる。阿部さんは焼きにこだわる方だから(作品は)紙焼きでしか見られない。ネガだと阿部さんの写真は半分しかできてなくて、絵画じゃんないですけど、最終的に紙焼きによって作品になる、それが一枚一枚違う。そこが阿部さんの写真の魅力というか面白さだと思います。
ジャズの肖像 ポートレイチャーズ

ジャズの肖像 ポートレイチャーズ

4,074円

阿部克自(写真)、行方 均(監修)
ジャズは、ここに生きている──世界で知られたジャズ・フォトグラファー阿部克自写真集。

ジャズ・ミュージシャンを撮影し続け、写真家、グラフィック・デザイナー、プロデューサーとしてジャズ・シーンに多大なる貢献を果たした阿部克自。2005年、日本人として初めてジャズ写真家の最高の栄誉「ミルト・ヒントン・アワード」を受賞。多数のミュージシャンと親交が深かった阿部だからこそ撮れた、ミュージシャンが心を許した者のみに見せる素顔の魅力を捉えた貴重な写真を多数掲載。
◎ Jaz.inのカレンダー

佐藤:昨年の写真展を『Jaz.in』で取材させていただいて、阿部さんの写真の魅力を再認識させていただきました。阿部さんは2008年に亡くなってらっしゃるので、その後メディアの方で阿部さんの写真を取り上げる機会がなかったんです。だから塙さんの方で写真展としてフィーチュアされたのはすごくいいことだなと思いました。僕も改めて自分の中でも阿部さん写真を使いたい、紹介したいという気持ちが湧いてきて、昨年12月発売号で阿部さんのポートレートで2025年のカレンダーを作成して掲載させていただきました。阿部さんのご自宅に伺い膨大な数の紙焼きから、厳選に厳選を重ね僕に刺さった作品6枚を選びカレンダーを作りました。
:どれくらいの数を見たんです?
佐藤:僕が見たのだけで1,000枚近くありますね、多分全部で3,000枚くらいかとは思うんですけど、惹き込まれて休みなしに見続けて夜中になってしまったんです、それでも40枚くらい選んで、その中からさらに選んだ6枚。他のものも、今年機会をみておいおい紹介しいきたいなと思っています。
:その話を伺って選んだ写真を見せていただきました。ミンガスは一度以前にも見たことはあったんですけれど、それ以外は見たことがなくて。ケニー・ドーハムの写真とかすごく珍しいじゃないですか。ジャケットで使われている以外あまり見たことがない。

◎ ケニー・ドーハム
佐藤:僕も初めて見た写真がたくさんあって、これは一番最初に刺さりました。ケニー・ドーハムの佇まいをこれほど見事に捉えた写真を見たことがなかった。(写真は)見えない部分が多いじゃないですか。ボタンから下、袖から下がまったく隠れちゃってるんですよね。これがケニー・ドーハムの本質というか演奏の儚さを──日本だとクワイエット・ケニーの印象が強い──それをすごく射抜いているんです。これがリー・モーガンだとおそらく全然違う写真になりますよね。ここにリー・モーガンが表紙になったのを持ってきてます、これ大倉瞬二さんの写真なんですけど、リー・モーガンっていうと、こういう、どうだ!ってキラキラした感じになるじゃないですか 。これはこれでかっこいいと思うんです。
:かっこいいですよね、スター性がある。
佐藤:そう、でもケニー・ドーハムはそこが魅力じゃない、儚さだったりそういうところを、見事に〈吹いてるところ〉で表している。
:ちなみにこの写真は現物が本日展示してあります。もしケニー・ドーハムの未発表の音源があってレコードを作るならジャケットに使いたいです。
佐藤:ジャケットにしたら絶対かっこいい。全部が見えてなくて隠れているところがいいんですよね、逆に存在感が増して。阿部さんのそういうマジックかなと思います。

◎ ハンプトン・ホーズ
佐藤:これはジャズメンっていうよりハリウッド・スターみたいですけど、ハンプトン・ホーズって見た目もかっこいいし。でも麻薬の囮捜査で捕まって刑務所に入って、その後スターになって来日もしてるんですが、憂いを含んだ寂しげな目とタバコの煙を、正面からではなく振り返ったところで捉えるセンス、それとスーツのかっこよさと足首が端正に写ってる。そこはデザイナーとしての彼しか撮れないセンスかなと思います。楽器を弾いてないジャズメンって正面から撮ってもあんまり面白くないんですけど、振り返ったところで撮ることで表情とか魅力が引き立つ──そんなところに惹かれました。
:この写真は日本人ミュージシャンをバックに来日時に製作されて日本コロムビアから発売されたアルバム『Hampton hawes "Jam Session"』(1968)の時に撮られた写真の一枚。
佐藤:めちゃくちゃカッコいいですね。

◎ テディ・ウィルソン
佐藤:これも光のマジック。ピアノの板に人物を映すというのは他のカメラマンもよくやるんですけど、もうちょっとかっちりと撮るんです。阿部さんの場合は周りがすごくボヤけていてそこに人物が浮かび上がっている。黒といっても色んな黒が入っていて、それが全体を包み込んでいて、それがテディ・ウィルソンの肖像をグッと浮かび上がらせてる。カッチリ撮っちゃうと人物が同化して平板になってしまう、それを周りをぼかして、どうやって撮ったのかな?──、そこに写真家魂を感じるんです。これも多分現像とかで相当凝ったと思うんです──デジカメで撮るとなかなかこういう写真は撮れない。

◎ チャールズ・ミンガス
佐藤:有名な一枚ですね、これはカラーもいいんです。ミンガスの険しい表情を下から捉えて、眉間とかすごいんですけど、そのミンガスのバックを鮮やかなブルーの空にして輪郭をかっちりとって、彫像のように立つミンガスのポーズが素晴らしいんです。この太い腕とか。ミンガスのタフな生き様とかすごく見える気がするんです。
:有名な写真ですけど敢えて一枚だけこれを入れて。
佐藤:これ好きなんです(笑)、ミンガスは好きなアーティストだし、この写真は最初から入れたいなと思っていて、ある程度狙っていたのはあります。

◎ アーチー・シェップと松本英彦
佐藤:真ん中にテナーを配して左右に日米の伝説的なテナー・プレイヤーを対照的に配して。まず松本英彦とアーチー・シェップという取り合わせが面白くないですか? その二人のセンターにテナーを配置するというこのデザインの巧みさも凄くないですか? これもプリントをめくっていくうちに一発で惹き込まれた写真です
:この写真に関しては何の時の写真かは調べきれなくて──、どうして一緒にいたのか、もしかしたら一緒に演奏したのか? とかも興味があって。
佐藤:そうですね、二人の録音とかって。
:ないですね。それは調べていきたいと思ってます。
佐藤:偶然聴きに来てたとか、スタイリッシュな格好なので何らかのステージじゃないか──とか。
:いい写真です。
佐藤:アーティが顎に手を当ててるところなんか哲学的じゃないですか、崇高さを感じます。

◎ ハリー・“スウィーツ”・エディソンとズート・シムズ
佐藤:これも構図が素晴らしくて選んじゃったんですけど、ハリー・“スウィーツ”・エディソンのジャケット写真とかも阿部さんは撮ってると思うんですけど、これはライヴ写真。一瞬で撮ったので、アーチの中にズートの端正な姿をちょこんと入れてとか構図は考えてなかった──、でも阿部さんはやっぱり考えてたと思うんです。真横から撮ったらつまらない写真だから、アーチの中にズートが浮かび上がる構図の巧みさって凄いなと思って選びました。
:この6点をJUDGEMENT RECORDS!店内に展示しています(2月28日まで)。今回は雑誌との連動感を出したかったので前回から期間を開けずにやっていただきました。
佐藤:レコード店ってレコードを買うだけじゃない、こういった写真展とか、いろんな情報を収集したい──文化発信地としてすごく意味がある所だと思っていて、今後もこういった機会があればコラボしたいなと思っております、本当にありがとうございます。今月末まで開催されていますので、実物の写真を見るとまた感じるものが違うと思いますので、足を運んで味わって欲しいなと思います。

ここからお二人の好きなK.Abeの好きな写真を持ち寄っての話題となった。
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