ビートルズ来日記念ウィーク’25 イベント・レポート PART. 4:「ビートルズは自分の “中心” でした」杉 真理氏 ノーカット版(MLC会員限定)

▲右側写真の左より杉 真理氏、藤本国彦氏。

ビートルズの日(6月29日)を中心に、ビートルズに所縁のあるミュージシャン、評論家、プロデューサーが集い語り合う「ビートルズ来日記念ウィーク」。2025年6月28日、29日、BAUHAUS ROPPONGIにて開催された。

ストーリーテラーは藤本国彦さん。6月29日夜の部、ゲストはミュージシャンの杉 真理さん。

ビートルズにはファルセットやシャウトとか、学校で習わない音楽があった
 
藤本:今日はビートルズ来日59年目ということで、改めて杉さんのビートルズ遍歴をうかがいたいと思います。まず、そもそもビートルズとの出会いは?

杉:小学校の頃、チョコレートのCMで映画『ハード・デイズ・ナイト』のワン・シーン(女の子たちにキャア!キャア!追いかけられる)が使われていて、これはいったい何だろう⁉ 騒がしい人たちだなぁ…と。学校では教えてくれないような音楽だし、シャウトなんて聴いたことがないのでびっくりしました。

藤本:音楽は普通に聴いてました?

杉:歌謡曲とか、洋楽の日本語カヴァーとか。小学5年のときに親父がトランジスタ・ラジオを買ってくれて、それまで聴いたことがなかった洋楽が流れてきてその中にビートルズがあったんです。

藤本:レコードはいつ頃から?

杉:小学校5~6年の頃、JR大森駅そばのレコード屋さんで「のっぽのサリー」と「ロック・アンド・ロール・ミュージック」のシングル盤を買いました、親にちょっと出してもらって(笑)。アルバムは小学生だから買えなかった。ちょうど『ビートルズ・フォー・セール』が出た頃で、アルバム14曲中10曲は日本盤のシングルが出てました。

藤本:なぜその2枚にしたんですか?

杉:ラジオで聴いて、学校では教えてくれないファルセットでポールが歌うのがカッコいい「のっぽのサリー」。B面が「アイ・コール・ユア・ネーム」でこっちも最後にファルセットで♫ウゥ~って入っていて、あれはジョンですよね。

藤本:ジョンだと思います。

杉:ジョンってあんな高い音のファルセットって出るんですね。僕、ファルセット好きなんですよ。

藤本:その後もシングル盤を買うんですか?

杉:「ノー・リプライ」「エイト・デイズ・ア・ウィーク」「カンサス・シティ」とか『ビートルズ・フォー・セール』からのシングル。で、最初に買ったアルバムはお金を貯めて新譜として出た『ヘルプ!』。

藤本:映画の『ハード・デイズ・ナイト』は?

杉:観てなかったです。ペニャペニャのソノシートが付いた映画『ハード・デイズ・ナイト』の特集号みたいな雑誌を買いました。

藤本:音は本当のビートルズじゃないんですよね。

杉:最初はビートルズだと思って聴いてました。でも、近所のお兄さんが本物のビートルズの硬いレコードを持ってきてくれて(笑)。本物は全然迫力が違って、それでアルバムを買うようになりました。映画の『ヘルプ!』はその後、親に銀座に観に連れていってもらいました。

藤本:ということは、映画の『ハード・デイズ・ナイト』は?

杉:その後です。

藤本:アルバム『ヘルプ!』の印象はいかがでしたか?

杉:ともかく、もうびっくり。最初にガツンときたのは「恋のアドバイス」と「ザ・ナイト・ビフォア」だったんですけど、ビートルズって目立つ曲をちょっと聴きすぎたな──と思った頃に、最初目立たなかった曲にワッと惹かれたりするじゃないですか。で、それを聴き過ぎた頃に、また他の曲が光りだす──っていう無限のループに入って早や60年です(笑)。被害者の会に入りたい。

(場内爆笑、拍手)

藤本:「イエスタデイ」は、最初アルバムで聴かれたんですか?

杉:B面のラストから2曲目、普通だったら “アルバムの墓場” って言われているところ(笑)。地味な曲だなぁって思ってました。それが、いソノてルヲさんの深夜のラジオ番組で〈ビルボード・チャート今週の1位〉と紹介されて、かかったギターのイントロ…。“あれ? 聴いたことがあるぞ、えっ!? あの地味な曲!!” っていうのが「イエスタデイ」だったんですよ。あわてて、深夜寝静まってる両親を起こして、“「イエスタデイ」が1位だ!!” って(笑)。両親はびっくりしてました。

藤本:「イエスタデイ」ってそんなにすごいのかと。

杉:当時、日本盤シングルでも「アクト・ナチュラリー」のB面でしたから。

藤本:当時のディレクター高嶋弘之さんになぜB面だったのかお聞きしたら、アメリカでも「アクト・ナチュラリー」がA面だったし、リンゴは人気があったから日本でもA面にしたと仰ってました。アルバムB面ラストから2曲目に収録され、シングルのB面でも、「イエスタデイ」は名曲ですよね。

杉:20世紀の名曲になっちゃいましたからね。

藤本:音楽の教科書にも載ってますし。
 

テレビで観たビートルズ日本公演
 
藤本:それからはアルバムも買うようになったんですか。

杉:次は『ラバー・ソウル』が、小学校6年のとき、遠足の日に発売になったんですよ。買っといてって母親に頼んだんですけど、帰ったら “売ってなかった” って。絶対ウソ! 店に行かなかったんですよ。

藤本:その頃はもうビートルズはずっと聴くようになっていたわけですね。

杉:自分の “中心” でした。ファンは周りにはほとんどいなかったですね。クラスに2人くらいかな、聴いてたのは──お兄さんとかお姉さんがいる人でした。で、中学に入ったときにビートルズが日本に来るんですよ。改めてさっきのTHE BEAT★RUSHの演奏を聴くと、武道館でビートルズって11曲しかやってないんですよね、しかも地味な選曲。当時、「ミュージック・ライフ」増刊のビートルズ来日記念号か何かに音楽評論家の人たちが演奏予想リストを書いてるんですけど、大ハズレ。だって「抱きしめたい」「プリーズ・プリーズ・ミー」「シー・ラヴズ・ユー」のどれもやらない。

藤本:新聞の予想もほぼハズレてましたね。

杉:でも僕としては演奏したどの曲も好きだったから、衝撃はすごく大きかったです。今考えると、『リボルバー』をレコーディングしてすぐツアーに出たんですよね。だからアルバムの曲は練習する暇はないし、でも発売したばかりの「ペイパーバック・ライター」はやったんですよね。6月29日来日ですけど、6月25日にビルボードの1位になってる。ナンバー1を背負ってやってるんだけど、反応は鈍い。

藤本:あの『リボルバー』のスタジオの音は、4人の生のステージだと再現しづらい。

杉:最初のコーラスも3人だけの声ではね。

藤本:スタジオでは声を重ねていますし。やってくれたことで、逆にスタジオのレコーディング技術と生の差がわかっていいですけれども。

杉:ジョージ・ハリスンが「恋をするなら」でリッケンバッカー12弦ギターをカポタストを使って弾いたじゃないですか。当時フォーク・ギターの人はカポタストをするけど、ロックのエレクトリック・ギターの人がカポを使うと、えっ⁉ってなった。それにジョージは手を振ったり愛想を振りまくけど、よく間違えてた。男のファンはそういうところばかり見てしまうんです(笑)。当時は女の子がキャーッって叫ぶ意味もわからなかったけど、今だったらわかりますね。

藤本:そうですね。テレビで放送されたのはご覧になりました?

杉:観ました。当時はオープンリールのテープレコーダーにマイクをつないでテレビの前に置いて録音するんですけど、絶対誰かが “何やってんだ?” って入ってきて、ノイズを入れるんです。でも、日本公演も「エド・サリヴァン・ショー」も録りました。

藤本:ビートルズが日本に来るという情報もリアルタイムで聞かれて、そのときはどんな思いですか?

杉:本当に来るのかなぁ?って思ってました。中学に入ったばかりなので現実感もなかったし、ライヴに行ったら退学──という時代ですから。

藤本:杉さんの学校もそうでした?

杉:そうでもなかったかな──中学1年だからそんなに興味を持ってる奴もいないし。でも同学年で一人行った奴がいるんですよ。(声を潜めて)親父が東芝に勤めていて。

藤本:ああ…そういうことですか。その友達から話は聞きました?

杉:聞きました、最近会って(笑)。

藤本:ズルいって言いました?(笑)

杉:言いました。でも、彼のお父さんを通すとレコードが社販で買えたので『リボルバー』を買わせていただきました(笑)。当時、日本では「イエスタデイ」とかあまり有名じゃなかったんですが、どこかの新聞社の偉い方が書いた日本公演の評論を覚えてます。〈ともかく武道館はギャーギャーうるさくて聞こえなかったけど、「イエスタデイ」という曲はカントリー調でよかった〉って。

藤本:あはははは。

杉:どこがカントリー調なんでしょうかね。で、僕がビクターからデビューする1977年に、プロモーションの一環でその新聞社の方が取材に来てくれるっていうので、見たらその記事を書いた偉い人なんですよ。取材の後、接待麻雀をしなきゃいけなくて、僕とディレクターの川原さん(「ジョージ・マーティンになりたくて~プロデューサー川原伸司、素顔の仕事録~」著者)とプロモーターとその方で囲んだんですけど、その方が下手なんですよ(笑)。僕以外のビクターの二人は頑張ってその方を勝たせようとしてるんですけど、僕はロン!ロン!ってその方を追い詰めちゃって。二人に “お前、なんのために○○さん呼んでるのかわかってるのか” って言われました。結局記事は書いてもらえなかった。でもまぁ、〈「イエスタデイ」をカントリー調の曲って言う人だからしょうがねえや──〉ってロン!!

(場内大爆笑)

藤本:役満!!って(笑)。日本公演では、「イエスタデイ」もバンド・ヴァージョンですものね。テレビで観て〈ビートルズの演奏は下手だ〉って言う人がいたじゃないですか。

杉:全然感じなかったですね。でもモニターもないんでしょ、本人たちは何を演っているかわからない状態であれですから。

藤本:ライヴの末期、もうヤメたい時期。

杉:でも、本当によく来ましたね、それも武道の聖地でやるの?って思ってましたけど、いつの間にか武道館はロックの聖地って言われるようになって。

藤本:武道館を使えたのは、前年イギリスでMBE勲章を授与されたのが大きかったようですね。だから国から認められた人が来る──ということで国賓扱いに。でもまぁマスコミや評論家はいろいろと言ってましたね、大人はまったくわかってなかった、理解できなかったんでしょうね。

杉:理解できないものは怖かった。

藤本:それまでの大人の持っている〈あるべき若者の姿/行動〉から大きく外れていて理解ができなかった。

杉:そのビートルズの曲が教科書に載るなんていうのは本当に大逆転。反対に今の若い人の中には〈教科書に載るんだから、ビートルズっていい子ちゃんバンドだと思ってた〉って言う人もいます。

藤本:真っ当な道よりも、そこから外れて生きる方がいい──という自由のある人たちなので。

杉:あれだけクレバーでユーモアがあるのも。

藤本:それも大きいですね。リヴァプールという街は田舎町の風情もあって、昼間からおじさんたちがパブで飲んでる。そこでの会話はジョージ・ハリスンをもっとひねくり廻したようなイントネーションで、ビートルズ英語に馴染んだ私でもわかりにくい(笑)。

杉:ジョンとポールが “俺たちリヴァプール出身だからさ” って言ってるのって、自分は博多出身だから “博多もんやけん!” っていうのと、確かになんか似てる感じがします。
 
来日公演以降もビートルズ熱はさらに増して、杉さんはせっせとレコードを買い続ける。アルバム未収録だった「ストロベリー・フィールズ・フォーエバー」c/w「ペニーレイン」を買ったのが中学2年生の頃。その前の『ラバー・ソウル』『リボルバー』と刻々と変化していくビートルズに遭遇する。
 
杉:ジョンの作品で比べても、『ラバー・ソウル』収録の「ノルウェーの森」ではほとんど1コードで進行する中にシタールが入るオーガニックなフォーク・ロックですが、『リボルバー』の「トゥモロウ・ネバー・ノウズ」では同じ1コード進行でもサイケデリックの方向に行く。基本、ジョンの中では同じ方向を向いてる曲なんだけれど、料理の仕方で変わる。それが『ラバー・ソウル』と『リボルバー』の違いじゃないかなと思うんです。

藤本:「トゥモロウ・ネバー・ノウズ」の方が圧倒的に革新的ですよね。

杉:『リボルバー』の中で一番好きでした。

藤本:川原さんからお聞きした話ですけど、あの曲が怖い──とビートルズから離れた同級生の女子が何人もいたそうです。「ミュージック・ライフ」の星加さんも、後に『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』も好きだと仰ってましたけれど、当時ファンの側に立つとなかなか理解するのが難しい──と。

杉:僕は毎回ついていけないんじゃないか…と心配しながら聴いて。で、あ、自力でついて行けた──というのが次の快感になってました。

藤本:その頃はミュージシャンになろうというのは?

杉:全然、ないです。ギターは中学から弾いてました。

当時のギター譜が間違いが多くて──という話になり、〈当時はジャズやクラシックのプレイヤーが採譜しているからなのか、ビートルズのサウンドにならない〉という具体例を、杉さんがギターを手に「キャント・バイ・ミー・ラヴ」を素材に解説。当時は映像もないので耳でコピーするしかなかったとのこと。その “耳コピ”の番外編が「レイン」の逆回転音。実際にレコードを指で逆に回してその音を耳コピし、それをオープンリール・テープレコーダーに吹き込みテープを裏返して逆再生するという自家製逆回転をバンド仲間と遊んで楽しんでいた。

藤本:その後ビートルズは『サージェント・ペパーズ~』『マジカル・ミステリー・ツアー』『ザ・ビートルズ(ホワイト・アルバム)』へと進むわけですが。

杉:もう夢中で、ついて行くのに必死でした。その頃からそれまで続々と出ていたシングル盤が急に出なくなってアルバム志向になる。ライヴを止めちゃいましたし。

藤本:ジョンはヨーコの方を向いてるし、マネージャーのブライアン・エプスタインが亡くなったからポールがバンドを引っ張っていこうとする中で、リンゴが一時期抜けるとか、ビートルズの解散説も流れたりしました。リアルタイムではちょっと不安とかも感じました?

杉:ちょっと不安でしたけど、解散はしないだろうって高を括ってたら解散したのでびっくりしました。ショックでしたね。

藤本:そのビートルズ・ロスをバッドフィンガーとかで埋めたと、川原さんも新田和長さんも仰ってました。

杉:僕もメインに聴くものがなくなってしまったので、とにかくそれに代わるものということで、いろんなものを聴こうと探しました。当時エミット・ローズという〈一人ビートルズ〉と言われたアメリカのアーティストがいて、ヴォーカル、コーラス、ギター、ベース、ドラムとか全楽器を自分でやっていた彼を聴いてました。当時はわからなかったけど、いろんな面でビートルズっぽかった。今ならそのポップとマニアックの両方を兼ね備えた点とか言えますけど。で、ポールが同じように全部自分でやったソロ・アルバム『マッカートニー』は、逆にビートルズっぽくなくしようとした作りだった。でもそんなことを知らないから、“えっ? ビートルズっぽくないよ~” とがっかりしました、今は反省してますけど(笑)。他にはニルソンが大好きでした。ポールがプロデュースしたメリー・ホプキンのアルバム『ポスト・カード』収録の「パピー・ソング」を書いていて、ある時期、彼を筆頭としてシンガー=ソングライターを聴くようになったんですけど、ビートルズ・ロスは大きかったです。

藤本:メンバーのソロ作品は追いかけたんですか?

杉:一応聴きました、『ラム』を聴いて“やっぱりポールスゴい!”と思ったし、ジョージは3枚組(『オール・シングス・マスト・パス』)だったのでお金がなくてなかなか買えなかった。ジョンはジョンで独自路線だし、リンゴが予想外に良かったんですよ。

藤本:ヒット曲がたくさんありましたね。「明日への願い」とか「想い出のフォトグラフ」とか。

杉:あの頃からジョージってすごいんだ!って思い始めて。

藤本:70年代にポールはビートルズのやり直しのようにウイングスを大きくしていきますが、ウイングスに対してはどんな思いがありましたか?

杉:やっぱり最初はポールの言ってる通り二流バンドだと思ってました。最初のアルバム『ワイルド・ライフ』とか、ぱっとしないな~ジョンがいないしなぁ~と。ま、一番そう思ってたのはポールだと思うんですけど。

藤本:ジョンが亡くなったニュースは、どこで聞かれました?

杉:六本木の友人の両親がやっているレストランで。ジョンが撃たれた──けれど、死なないだろう…と思ってたら、亡くなった。もう頭が真っ白になって、家に帰って、ビートルズのレコードを全部買い直そうと思ってレコード屋に行きました。

藤本:ジョージも明け方に起こされて、撃たれたって聞いたけど、大丈夫だろうと思ってもう一度寝た──と振り返ってました。

杉:そう思いますよ、死ぬわけがないって。

藤本:そのジョージも亡くなって、ポールとリンゴが残って。90年代半ばにはアンソロジー・プロジェクトがあり、ビートルズの新曲として「フリー・アズ・ア・バード」と「リアル・ラヴ」が出て、さらに2023年の「ナウ・アンド・ゼン」に至るのですが、ビートルズの“新曲”が久しぶりに出た時はどう思いましたか?
杉:ちょうどレコーディング・スタジオで作業をしていて、テレビで「フリー・アズ~」のプロモーション・ビデオを観たんです。それまで宇宙一すごいビートルズの新作は毎回衝撃だったわけで、それをジョンなしでやるのは大丈夫かな~と思って観たら、やっぱりブッ飛ばされました。ビートルズという印を押されて世に出るというのはこういうことだな──と。そのときの技術で音を作り、歌詞に出てくるイメージのディテールを映像化してるのを観て、感動を通り越して、やっぱり宇宙一凄いと思って、見終わったらスタジオ作業をやる気がしなくなってその日は中止にしました(笑)。ともかくビートルズは毎回自分の想像を大きく上回って、さらにあらぬ方向から来るわけです。ビートルズ以降そういうのってそんなにいない。

藤本:想像を上回っていたとしても、たいていは予測の範囲内ですよね。

杉:音楽を聴く──ということには受け身の快感があるじゃないですか。どんでん返しとか予想外が楽しい。こっちの予想を毎回遥かに超えてくれたのがビートルズでした。そのビートルズ解散以降そういった衝撃がなかったところに「フリー・アズ・ア・バード」ですよ。もう打ちのめされるその感覚は、かつて新曲が出るたびに味わったあの快感! やっぱり凄いなぁと。「リアル・ラヴ」もそうでした。

藤本:「ナウ・アンド・ゼン」は?

杉:最初はちょっとネタ切れかな──っていうのと、ポールが頑張りすぎてるんじゃないの? っていうのはあったんですけど、藤本さんの本で読んだカール・パーキンスとポールのエピソードの中に出てくる「ナウ・アンド・ゼン」という言葉にまつわる旧友との物語──を思い出して、これはポールが頑張るのも当然で、まだリンゴと僕が元気なうちは責任をもって仕上げる──と思ったんじゃないかな。それこそAIなんかにやらせない、生の僕らが作るぞ、と。そう思うと泣けてくるんです。

藤本:私も最初は“こんなもんかな”と思ったんですけど、聴いてるうちにどんどん良くなってくる。

杉:1年半くらい前、福生のイベントでTHE BEAT★RUSHと一緒に「ナウ・アンド・ゼン」をやったんですけど、実際演奏する側になってみると、めっちゃいい曲だって思った。その後また別の催しでやったら尚更グッときて沁みました。

藤本:『アンソロジー』は今年の秋頃に、また音が良くなって出るっていう話なんですけど、そうすると「フリー・アズ・ア・バード」や「リアル・ラヴ」も音が良くなりますね。ショーン・レノンとダニー・ハリスンがその2曲を聴いて、“ジョンの声が「ナウ・アンド・ゼン」みたいに生の声になってる” と言ってましたから、楽しみですよね。
杉:……ちょっと怖いな、それは。例えば僕は「トゥモロウ・ネバー・ノウズ」を普通のジョンの声で聴きたいとは思わないから、「フリー・アズ・ア・バード」もあれはあの声でいいんじゃないかなぁ──と思うんですけど…、聴くとまた違うんでしょうね。

声の変換話つながりで、ポールのアルバム『プレス・トゥ・プレイ』の話から、そこに参加した杉さんの敬愛する10ccのエリック・スチュワートの話題に。大好きなポールとエリックの共作が収録されている──と期待したが〈全然ダメじゃん〉という出来に。杉さん曰く、〈エリックもポールには良くないとか言えないでしょ、やっぱりポールにダメ出しをできるのはジョンと、エルヴィス・コステロくらい〉。藤本さんが〈それにジョージ・マーティンとナイジェル・ゴッドリッチ〉と続けた。

杉:僕もポールには言えないですよ(笑)。でもライヴのセットリストからそろそろ外してほしいのが、ウイングスの「レット・ミー・ロール・イット」。メンバーも飽きてるけどポールには言えないんじゃないかな(笑)。

藤本:杉さんはロンドン、リヴァプールへは?

杉:リヴァプールは行ったことがないんですよ。ロンドンは89年にレコーディングで2週間くらい。

藤本:ロンドンはいかがでした?

杉:ニューヨークへ行ったときに初めてミュージカルを観て、ロンドンでも観たんですけど、やっぱりイギリスの感じがしていいんです。同じノスタルジックな曲でもポールが作るノスタルジーってアメリカの匂いもするけど、ちょっと違うじゃないですか。「ハニー・パイ」とか。

藤本:ビートルズが屋上ライヴをやったアップル・ビルとかは行かれました?

杉:行ってないです。

藤本:今後は行かれる可能性がありますよね。

杉:行きたいです。藤本さんが行かれるとき、声かけてください。インドも行ってみたい。カレー好きだし。

藤本:インドのカレーはそんなに辛くないです。美味しいです。

杉:インドってビートルズにとっては転換期だったんですかね。あのとき一緒に行ったパートナーは、全員総取っ替えですし(笑)。ビートルズって対立してたりそれぞれ個性はあるんですけど、誰かがヒゲを生やすと全員ヒゲ面になるし、違う方向に行っても同じようなところがあって。

藤本:ファッションもそうですよね。ラフならラフで、サイケはサイケで。

杉:誰かがサングラスをかけだすと全員サングラス。そういえばジョンとポールの結婚した時期も近い。

藤本:ポールは相当意識したと思いますよ、ジョンが先に結婚して、すぐにポール。
杉:だから同じ船に乗ってるんでしょうね。

藤本:最後に、杉さんのこれからのお知らせをお願いします。

杉:ライヴはいろいろと(オフィシャル・サイト参照)。で、いまレコーディングをしてるんですよ。

藤本:それはいつ発売ですか?

杉:今年か、来年の頭ぐらいかな。

(場内大拍手)

藤本:それは楽しみですね──ゲストは杉真理さんでした。

杉:ありがとうございました。

(場内大拍手)

ライヴ:THE BEAT★RUSH

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