【新刊セルフ・ライナーノーツ】『デヴィッド・ボウイ 21世紀の男』by 大久達朗

一番の思い出は「ボウイ本人に会えなかったこと」

連載「新刊セルフ・ライナーノーツ」ももう第四回。今回ご登場いただいたのは、10月8日(水)に『デヴィッド・ボウイ 21世紀の男』の著者・大久達朗氏。氏はこれまでにも弊社刊のデヴィッド・ボウイに関するムック・シリーズの監修を一手に手がけ、さらに著書として『デヴィッド・ボウイ ジギー・スターダストの神話』を発売しておりますが、今回は新刊『21世紀の男』発売ということでおでましいただきました。“ライナーノーツ” の名の通り、『デヴィッド・ボウイ 21世紀の男』の見所・読み所を「著者ご自身で」解説していただきます。

■著者プロフィール
・大久達朗(おおひさたつお):1969年、宮城県仙台市生まれ。大手輸入レコード店勤務、レコード会社の洋楽ディレクターを経てフリーに。2016年以降『CROSSBEAT Special Edition DAVID BOWIE』のムック・シリーズを監修。2022年には、ジギー・スターダストの誕生から消滅までをルポした『ジギー・スターダストの神話』を上梓。画像のギターはボウイが70年代初期に使用したものと同じ12弦ギター、Hagstrom H33。画像のアンプはミック・ロンソンが使用したものと同じ、初期型のMarshall Major(200W/通称“Pig”)。前者はそろそろブルー・メタリックに塗り替えようかなと思案中。

ということで「新刊セルフ・ライナーノーツ」『デヴィッド・ボウイ 21世紀の男』編、その「見どころ・読みどころ」をご本人に解説していただきます。

【新刊セルフ・ライナーノーツ】

『デヴィッド・ボウイ 21世紀の男』by 大久達朗

デヴィッド・ボウイ 21世紀の男
この本を書こうと思ったきっかけ
メディアから遠ざかっていた時期も、
ボウイだって実はちゃんと21世紀を生きてきていた
あえて最大のきっかけを挙げれば、もちろん「ボウイの謎」を解明するためです。2004年に人前から姿を消して以降ボウイはメディアに一切出なくなり(*)、自分の情報を最後まで全部遮断したわけです。その期間、つまり今回の本がカヴァーしてる期間は今も謎だらけの十数年でして。その間に本人とコンタクトを取った人も限られるし、その間に流れた情報なんて虚実ゴチャゴチャ。だからまとめなきゃ、可能な限り精査しなきゃ、と思ったことです。

ボウイって、なかなか実態を把握できない/させない人なので、簡単に伝説化するタイプのスターだし、実際そうなってしまったとも思うんです。でも『ジギー・スターダストの神話』(2022年)を出させていただいた時にも書いたんですが、デヴィッド・ボウイは実在の人物で、どんな仮面を被ろうと、どんな服を着てどんな音楽を披露しようとも、実際にいたひとりの人間なわけです。人知を超えた能力を駆使する宇宙人とかではなく、コックニー訛りで女好きで一日60本のタバコと10杯のコーヒーを口にして、一日中毛抜きを手にしながら自分の眉毛の角度を気にしてるっていう(笑)とても人間臭い面のある人でもあったわけです。

メディアの発言に踊る/踊らされるっていうのは本人が昔面白がってやってた戦略ですけど、いつまでたっても古い情報に踊らされるのは嫌じゃないですか。こっちももう昭和を生きる中学生じゃないし(笑)。我々はともかく、リアルタイムでアップデートしながらちゃんと21世紀をボウイは生きてきたんだってことをまとめたかった。

*単発のチャリティ・イベント出演、TVや映画へのチョイ役出演等の例外もあり。
 
デヴィッド・ボウイ 21世紀の男
実際に書き始めてみると?
アルバム『Low』ジャケ写、あれから30年。
異論もあったんですが、あえて横顔の写真を使わせてもらいました
歳をとれば体力も衰える、病気にもなる、癇癪起こして時々ピキっと怒る──時間の流れはボウイも我々も同じだってこと、それを改めて知ったと同時に驚かされるわけです。でも、ボウイが我々と同じ思考回路でないことは明白で、絶対ダラダラせず、ガムシャラに働く。世間からは引退・休養中と思われてた2005〜2012年でもそれは同じだった。完全にワーカホリック。でも同時に、ボウイって一定のクオリティに達しないアイデアや作品は平気で捨ててきたんですよね。だからガムシャラに何でも作って何でも出すってわけじゃなく、出すに値するものだけを選んで人前に提示してきた。2013年の復活作『The Next Day』って、2010年から3年間作り続けてたアルバムなんです。だからボウイの中のハードルも上がって当然ですよね。

昔思いついたアイデアを何年か振りにやり直す、ってことも良くやってた人ですけど、92年に作った曲は何度もアレンジを変えて、ようやく2003年にリリースされるとか(*「Bring Me The Disco King」のこと)、2014年の「Sue」も97年のドラムンベースのインスト曲を元にしてたとか。歳をとって、昔設定したハードルをようやくクリアできる状況になった、っていうのは、加齢っていう意味で理想的なことですよね。それを実現したのも凄いわけですけど。
今回の本の表紙の写真は、2006年、つまりボウイがもう引退したと思われてた時の写真です。もうすぐ60歳のボウイってことですけど、相変わらずカッコいい(笑)。でも昔と同じとか若々しいって意味じゃなく、60歳の年輪ががっつり出てますよね。そこがカッコいい。それと、編集部からは異論もあったんですが、あえて横顔の写真を使わせてもらいました。それはアルバム『Low』(77年)のジャケ写、あれから30年近く経ったボウイを、どこかで比較して欲しかったから。……あの写真、所有権が英BBCにあって、今回使うのに少し苦労したんですよね。(使用料も)高かったし。でもわがままを通させてもらいました。
デヴィッド・ボウイ 21世紀の男
デヴィッド・ボウイの個人的な思い出(ライブ体験、訃報に接した時の心境など)
「ボウイを見る」のではなく、
「ボウイが見たものを見る」という必要性
んー、当時も今振り返っても、90年の東京ドーム公演は音がひどかった(笑)。まあそれはしょうがない。時代ですから。

もちろん一番の思い出は「ボウイ本人に会えなかったこと」です。逆説的ですけど、どんな天変地異があろうとも会って話することは絶対叶わないことになってしまった。子供の頃から会いたいと思ってた、それが全て思い出になってしまった、という件です。

ただ、実際にボウイに会った人は皆、その時の鮮烈な印象だけが残って、他の時代、他の場所に生きてたデヴィッド・ボウイを客観視できなくなる傾向があるんですよね。日本の関係者も海外の人もそう。それはある意味当然なんですけど。だから、会えなかった自分はおのずと「そうではない」角度を提示するべきだし、ボウイを見るのではなく、ボウイが見たものを見る、っていう必要性を感じてます。

─────────────

スターやアーティストだって人の子、ごはんだって食べるし居眠りだってする。デヴィッド・ボウイだってその例外ではありません。会いたくても会えない、話を聞きたくてももう聞けない……。ならば残された作品や記録から考察するしかないわけで、21世紀のデヴィッド・ボウイに関する氏の研究成果、ぜひお手にとってお読みいただければと思います。大久氏の “ボウイ熱” はかれこれン十年、まだまだ下がることはなさそうです。

というわけで、本の著者だって人の子。誌面で文字にしなかった/できなかった著者の内面/裏側を知るこの連載【新刊セルフ・ライナーノーツ】、また次回をお楽しみに!
デヴィッド・ボウイ 21世紀の男

デヴィッド・ボウイ 21世紀の男

10/8発売/著者:大久達朗/B5判/128ページ

ボックス・セット・シリーズがついに完結!
『ヒーザン』から始まり『★』へと到る歩みを改めて検証


ボックス・セット・シリーズの最終作、『アイ・キャント・ギヴ・エヴリシング・アウェイ[2002−2016]』が話題のデヴィッド・ボウイ。『ヒーザン』『リアリティ』を続けて発表した2000年代前半から、復活作『ザ・ネクスト・デイ』、そしてキャリアに終止符を打った傑作『★(ブラックスター)』まで……未来を見据えて生まれ変わり続けた男に相応しい2000年代~2010年代の活動を、現在の視点から見つめ直します。名作『ロウ』からほぼ全曲を披露した2002年のライヴ盤『モントルー・ジャズ・フェスティヴァル』の詳細な解説や、沈黙の時代(2004〜2012)の徹底検証を完備。遺作『★』の革新性を改めて考察したテキストも必読です。

●関連ニュース BOOK・2025.09.25
10/8発売 デヴィッド・ボウイ、ボックス・セット・シリーズがついに完結! 『ヒーザン』から始まり『★』へと到る歩みを改めて検証〜『デヴィッド・ボウイ 21世紀の男』

■大久達朗・その他の著作

CROSSBEAT Special Edition デヴィッド・ボウイ 1964-1969〈シンコー・ミュージック・ムック〉

CROSSBEAT Special Edition

デヴィッド・ボウイ 1964-1969〈シンコー・ミュージック・ムック〉

1,760円

監修:大久達朗

─────────────

ザ・ゴールデン・イヤーズ・オブ・ブリティッシュ・ロック

ザ・ゴールデン・イヤーズ・オブ・ブリティッシュ・ロック

浅沼ワタル写真集

3,960円
これは、ブリティッシュ・ロック黄金時代のドキュメンタリーだ!!
ストーンズ、ツェッペリン、クイーン、デヴィッド・ボウイ、セックス・ピストルズ───
ロックが最も輝いていた瞬間をロンドンで撮り続けてきたカメラマン、浅沼ワタルの決定版!!

これは、ブリティッシュ・ロック黄金時代のドキュメンタリーだ!! かつてロンドンに暮らし、70年代から80年代のロック黄金期をフィルムに収めたフォトグラファー、浅沼ワタル。吠えるミック・ジャガー、ツェッペリンの奇怪なパーティ、ザ・フー『さらば青春の光』撮影現場、ボウイの人気TV番組出演、クイーンのスタジオ訪問、おしどり夫婦ポール&リンダ・マッカートニー、死の直前に撮ったシド&ナンシー、バッキンガム宮殿前で契約書にサインするピストルズ、デュラン・デュラン放映禁止ビデオ撮影現場潜入などを一冊に収録!! 約100組のアーティスト、286点の作品を掲載。ブリティッシュ・ロックが最も輝いていた瞬間をロンドンで撮影した決定版が登場!!
CROSSBEAT Special Edition デヴィッド・ボウイ 1989-2016

CROSSBEAT Special Edition デヴィッド・ボウイ 1989-2016

2,200円
CROSSBEAT Special Edition デヴィッド・ボウイ 1983-1988

CROSSBEAT Special Edition デヴィッド・ボウイ 1983-1988

1,430円
CROSSBEAT Special Edition デヴィッド・ボウイ 1977-1982

CROSSBEAT Special Edition デヴィッド・ボウイ 1977-1982

1,430円
CROSSBEAT Special Edition デヴィッド・ボウイ 1964-1969

CROSSBEAT Special Edition デヴィッド・ボウイ 1964-1969

1,760円

RELATED POSTS

関連記事

LATEST POSTS

最新記事

ページトップ