「徹底的にロジャー・テイラー 
『オペラ座の夜』ドラムサウンド徹底分析」レポート

11月3日(月・祝)@東京・二子玉川 ジェミニシアター

ロジャー・テイラーは、ロックというよりは、音の鳴り方はオーケストラっぽい深い音を出したいドラマーなんですね

──ロジャーM.T.

「永遠なるボヘミアン・ラプソディ 『オペラ座の夜』のすべて」
(2025年11月21日発売)
写真左より吉田聡志(MLC)、ロジャーM.T
11月3日(月・祝)東京・二子玉川のジェミニシアターにおいて、ロジャー・テイラーのドラム演奏を徹底的に解析するイベント「徹底的にロジャー・テイラー 『オペラ座の夜』ドラムサウンド徹底分析」が開催された。今回のテーマはタイトル通り発売50周年を迎えるクイーンの超名作『オペラ座の夜』。「ボヘミアン・ラプソディ」を始め、クイーンが大きくブレイクしていく作品の分析だ。
第一部:トークによる『オペラ座の夜』分析

実演・解説はクイーン・トリビュート・バンドQUEER(クイーア)のドラマーであり、ロジャー・テイラーをお師匠と仰ぐロジャーM.T.が担当。ドラムの実演、バンドでの演奏に加え、MLCのクイーン・コンシェルジュ吉田聡志(11月21日発売の「永遠なるボヘミアン・ラプソディ 『オペラ座の夜』のすべて」を監修)とのトークで『オペラ座の夜』を分析。ドラム・ソロに続き大きな銅鑼を打ち鳴らしてイベントはスタート。

吉田聡志(以下吉田)
:ロジャーM.T.に大きな拍手を!(場内大拍手)。
ロジャーM.T.(以下ロジャー):本日も熱きロック・スピリットと透き通る青い瞳を持ち、超絶すごいヴォーカリストであるかっこ良すぎるロジャー・テイラー師匠についてしつこく語って行こうと思います、一応時間は8時間を予定しております(場内大爆笑)。
吉田:今日は『オペラ座の夜』50周年ですよ、ロジャーさん。英国で発売されたのが1975年11月21日、日本でも1ヶ月遅れで発売されました。
ここで当時の音楽界の状況が紹介される。『MUSIC LIFE』誌の人気投票ではクイーンとレッド・ツェッペリンとポール・マッカートニー&ウイングスの3強時代。ただしクイーン人気は日本独自のもので英米ではそこまでの人気ではなかった、そこに登場したのが「ボヘミアン・ラプソディ」であり『オペラ座の夜』だった。大盛況の日本公演から帰った75年4月頃から曲作りやリハーサルが始まったアルバム制作、75年7月のリッジファームを経て本格的なレコーディングが始まる。しかしクイーンのメンバーは芸術家が4人いるから、良いものを作るためには手間暇を惜しまずお金もかけた。結果借金をしながら活動を続けていた──とブライアン・メイは述懐している。それゆえ次のアルバムは売れることが必須の、一か八かの勝負作になった。

吉田
:ロジャーさんと『オペラ座の夜』の出会いは?
ロジャー:僕のクイーンの入り口は「キラー・クイーン」なんです。74年にシングル盤を買って、それからアルバムを買いだして、寒い雪混じりの12月21日なぜか渋谷道玄坂のヤマハで『オペラ座の夜』を買いました、当時11歳。電車を乗り継いで家に帰りレコードプレイヤーに盤を乗せたら──遠くから「デス・オン・トゥー・レッグス」のピアノが聴こえてきて、そこからラストまで一気に聴き通して、もう大感動しました!!
吉田:では実演を加えて『オペラ座の夜』を解析していきましょう、で、ロジャーさんのトレーナーの胸のマークは?
ロジャー:これは、お師匠ロジャー・テイラーがフレディ・マーキュリー・トリビュート・コンサートで着用していた衣装と同じものをとある方からお借りして、マークをスキャンしてワッペンとして作成したオリジナル・トレーナーです。
吉田:ではそのかっこいいロジャー・テイラーの魅力、ドラムの叩き方から解説をお願いします。
ロジャー:まず上半身から言うと、手首のしなやかさと椅子の高さ。普通ロックのドラマーの椅子は低いんです。ツェッペリンのジョン・ボーナムもTOTOのジェフ・ポーカロも450mmくらい。で、ビートルズのリンゴ・スターの椅子は高くて、あんちゃん(THE BEAT★RUSH)に尋ねたら、「この前リンゴと同じ椅子を買って測ったら645mmだった」と。ロジャーお師匠は580mmです。これ、今は高くしてますがデビュー当時は低かった。例えば「キープ・ユアセルフ・アライヴ」など初期のPVでは膝が上がっちゃってます。なぜ高くしたかというと、あのハイトーンですからセカンド~サード・アルバムとなるとステージでコーラス・サポートが増えてきて、椅子が低いとあの声が出ないんです。あとは椅子が低いとシンバルとかが邪魔して顔が見えない! で、結局椅子もシンバルも高くセットすることになった──というのが僕の説です。
吉田:ではここで手首のしなやかさも含め実演をお願いします!
ここでロジャーM.T.は、普通のドラマーとロジャーお師匠の叩き方の違いを見せるために、手首、肩と首の動きの違いを実演。

ロジャー:あと忘れてはならないのは叩きながらの〈お口パクパク〉。これはバスドラのタイミングで息を吹いて──を繰り返すシンガーの呼吸。歌いながら叩くと言うか、ドラムが歌ってるわけです。そしてスネアを打つ時にハイハット・シンバルを開ける──というのもクイーンの特長。このチッ、チッていうハイハット・シンバルの使い方、これを本人が解説しているビデオもあります。あとはスティックの廻し方、皆は指2本で挟んで廻すんだけれど、お師匠は右手だけ他のドラマーとは逆方向に廻す。それが一番アップになって見られるのが「カインド・オブ・マジック」のビデオです。
吉田:じゃあドラム叩けなくてもロジャーのスティック廻しができれば。
ロジャー:ムム、お主やるな! と。
吉田:で、今日のすごいドラム・セットの話もしておかないと。
ロジャー:もうムチャムチャ多いんですよ。普通のドラマーはタム2つですけど、お師匠は全部で10個のキット。「ボヘミアン・ラプソディ」が大成功したので多分全部買ったんです。一番小さい6インチから、8、10、12、13、14、15、16までタムがあります。こんなに使います? 使うんです! 初来日の時はドラムは4個(バス、スネア、フロア、タム)でめっちゃシンプル。やっぱりお師匠はドラムを歌わせるって言い方をするんですけど、ドカドカ叩いてるように見えてちゃんと音階がある、表情があるんです。最初は2つだったタムが一つ増え二つ増え──と、これだけ並べるんですが──翌年ドカっとなくなる、やっぱりいらないかな……と。
ここから初の試みで「ドラム・カラオケ・クイズが行なわれた。ロジャーM.T.が叩くドラムのフレーズだけで曲を当てるというもの。

ロジャー:試しにやってみましょうか? 入門編です。
● M1.フラッシュのテーマ

ロジャー:もう少しマニアックでしつこいやつを。
● M2.アンダー・プレッシャー
● M3.オウガ・バトル


ロジャー:タムの廻しとかがロジャーっぽいです。普通のロック・バンドとの差は(と、左右の手を交差してフレーズを叩く)こうやってドラムを歌わせるんです。こういうのを随所に入れてます。長いとすぐ分かってしまうから次は短いフレーズを。このキットじゃないとできない曲です。
● M4.ユー・アンド・アイ

ロジャー:最後に叩いたのはこの時期から使い始めたチャイナシンバルです。

ラスト曲以外かなりの確率で、会場からはすぐに曲目が答えられた。

吉田:ドラムだけでもすぐ分かるくらい、クイーンの曲って特徴的ですよね。
ロジャー:それだけ深いんですよ。だから40年経っても50年経っても全然飽きない。
吉田:今日は『オペラ座の夜』特集ということで、ここからは収録曲のドラム・サウンド&プレイを解説していただきます。
「マイ・ベスト・フレンド」

ロジャー:これはやっぱりド頭の、普通はやらない低いタムから上がっていく珍しいフィル・イン。これが有るのと無いのとでは大違い!
吉田:PVが上から撮ってる映像なのでタム廻しが印象的です。
ロジャー:コロナが流行り始めた時にお師匠がインスタグラムを始めたんです。イタリアの女性から〈「マイ・ベスト・フレンド」はどうやって叩いてるんですか?〉って質問が来て、お師匠は広い自宅のスタジオで、「こうやって叩くんだよ」っとドラムを左手から叩き始めたんです。そうすると後半で叩き方がたどたどしくなる、ムムっ??と思って手持ちのビデオ映像を全部観たら右手から叩き始めてるんです。で、僕はメールを書きました。〈師匠、違います、あなたが最後に「マイ・ベスト・フレンド」を叩いたのは1980年9月30日ニューヨークのマジソン・スクエア・ガーデンです、それから40年経ってお忘れなんじゃないですか? あなたは右手から叩いて必ず右手で締めたんです〉って送ったらインスタやらなくなっちゃった(笑)。それまではドラム・クリニックとか色々やってくれてたんですけどね、ブライアンと一緒に「永遠のチャンピオン」をやってくれたり。ラストがその「マイ・ベスト・フレンド」でした。ま、その投稿がきっかけではないと思いますけど。


「デス・オン・トゥー・レッグス」

吉田:次は『オペラ座の夜』のオープニング曲「デス・オン・トゥー・レッグス」。
ロジャー:ここでは普通には叩いてないんです。フレディがマネージメントに対して怒り狂った、〈この二本足の悪魔め!!〉っていう歌詞に対し、それに向き合いながらも「そうは言ってもマネージメントがいないとなぁ……」という心の葛藤を表した8ビート。一発抜いたりちょっとずらしたりして普通に叩かない──という、とっても素敵なお師匠のお話。まぁ、でもこれはスタジオ・ヴァージョンだけで、『ライヴ・キラーズ』では普通に叩いてます。ドラムでは1枚目からセカンド、サード、4枚目とタムの音がどんどん深くなっていきます、その長〜い音をお師匠は求めていて、この『オペラ座の夜』でやっと完成するんです。さらにその上を行くのがこのキットをレコーディングに使った『華麗なるレース』。僕は音的にはこの2枚が一番好き。


「シーサイド・ランデヴー」

吉田:A面最後のフレディのヴォードヴィル調の曲、これにもいろんな音が入ってますよね。
ロジャー:イギリスの若いお兄ちゃんたちがスタジオでワイワイ遊んでる感じがしません? その中でフレデイとロジャーが使ったのがこれらの音、まずタップダンス風の音ですが、最初はスネアの周囲の金属部分を叩くリムショット、それも片方のスティックを逆手に持って左右の音を変えてます、2回目に出てくるチキチキ音はフレディが指ぬきでテーブルを叩いてタップダンスの音を出してます。彼らはこれ以降楽曲にいろんな音を入れ始めます。「チーン」って音はフィンガー・シンバルを使っていて、お師匠はソロ・アルバムでもここぞというタイミングで使っています。本当に大技あり小技ありで手を抜くことがないですね。

「アイム・イン・ラヴ・ウィズ・マイ・カー」

ロジャー:このアルバムのお師匠といえばこの曲ですけど、70年代中盤から81年のツアーまではちょろっとやってくれてましたけど、あとは全部止めてしまって、ポール・ロジャースとやることになってから復活しました。2005年埼玉スーパーアリーナを観に行ったんですけど4リットルくらい涙が出ました、号泣です。しかもドラム・ソロをやりつつこの曲を演ったので、こっちにしてみればお腹いっぱいになり過ぎで。
吉田:みなさんご存知かと思いますが、この曲はジョン・ハリスさんという当時の楽器担当の方に捧げたもので、去年ハリスさんにお会いした時に伺った話ですけど、曲に入ってる排気音はオーディションで決めたそうです。ロックフィールドっていう農場スタジオに集まっていた車を一台ずつ走らせて、最終的に一番いい音が採用になった。一説にはロジャーのアルファロメオなんですけど、本当は違うらしい。
ロジャー:え~~!!
吉田:それくらい拘ってオーディションで決めたそうです。で、原曲のロジャーのギター弾き語りヴァージョンが「メイキング『オペラ座の夜』」のDVDに入っているので、これをちょっとだけお見せします。
ロジャー:こんなことやられたら、たまらないですよね。6/8っていうワルツのリズムで激しくギターをかき鳴らして素晴らしい声で歌われるとこういう超素晴らしい曲になる。
吉田:この曲のドラムで一番凄いところはどこでしょう。
ロジャー:普通だったら4/4とか8/8のズンチャ・ズンチャのリズムなのが、ワルツなのでズンチャッチャ・ズンチャッチャとなる。基本的にお師匠はこのリズムが好きなんです、ソロ・アルバムにもこういうリズムの曲がいっぱい入ってます。ロックというよりは音の鳴り方とかオーケストラっぽい深い音を出したいドラマーなんですね、硬くてビシビシした音じゃなくて丸くてド~ンという深い音。だからブライアンのレッド・スペシャルの素晴らしい音と、鋭い音色のフレディのピアノと、その全体を包み込むジョンのベースがうまくブレンドしてくれると思うんです。
吉田:じゃあ公式音源で「アイム・イン・ラヴ・ウィズ・マイ・カー」のドラムレス・ヴァージョンがあるので、今日はドラマーとしてロジャーM.T.が叩きます! 歌はロジャー・テイラーご本人が歌っています。
ロジャー:いまだに夢を見るんですよ、来日したロジャーが体調不良で代役を求めて──自分が代わりに叩くっていう(笑)。だからその夢を叶えようかな──って、ちょっとだけやります。

「アイム・イン・ラヴ・ウィズ・マイ・カー」実演

吉田:第一部はこれで終了、ロジャーM.T.さんでした!!(場内大拍手)
 
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第二部:実演を交えながらの 『オペラ座の夜』ドラムサウンド徹底分析

第二部はロジャーM.T.に加え、QUEER(クイーア)からベーシスト/ジョージ伊藤ディーコンと、キーボード・プレイヤー/スパイク横田、元QUEERのギタリスト/ブライアン.M.佐藤が参加して、実演を交えながらクイーン楽曲をそれぞれのパートから実演を交えた分析が行なわれた。

サンプル曲1「マイ・ベスト・フレンド」

ジョージ伊藤D:一聴して名曲なんですけれど、ここでジョン・ディーコンは超変わったことをやっています。普通は曲頭にバスドラムとベースが一緒に入るんですが、ジョン・デイーコンその一発目を弾かない。一拍目を休むなんてベーシストとしては非常に怖いことなんです。ドラムもシャッフルのリズムなんですけどロジャーも跳ねないドラミングをしてます。
スパイク横田:イントロのキーボードも頭は裏から入っていて印象的です。


サンプル曲2「39」

ジョージ伊藤D:ブライアン・メイが子供の頃好きだった、ウォッシュボードに一本弦の茶箱ベースといった手作り楽器で演奏されていたスキッフルという音楽調の曲で、ここではジョン・ディーコンはダブルベース=ウッドベースを弾いてます。

以降、様々な曲でのアンサンブルや演奏の妙、楽器のセレクション、聴きどころ等が解説された。

サンプル曲3「アンダー・プレッシャー」
サンプル曲4「ホワイト・クイーン」
サンプル曲5「ボヘミアン・ラプソディ」


最後にリズム・セクション クイーン・ライヴ・メドレーが披露された

デス・オン・トゥ・レッグス〜セブン・シーズ・オブ・ライ〜ボヘミアン・ラプソディ(HARD ROCK PART)〜ナウ・アイム・ヒア

encore タイ・ユア・マザー・ダウン
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永遠なるボヘミアン・ラプソディ

『オペラ座の夜』のすべて

3,000円

監修:吉田聡志(クイーン・コンシェルジュ)
A5判/208頁
ISBN:978-4-401-65669-1

発行:株式会社シンコーミュージック・エンタテイメント

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著者:松林天平
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