【連載】“『マル・エヴァンズ もうひとつのビートルズ伝説』を読む” トーク・イヴェント・レポート

藤本国彦 × 松田ようこトーク【第6回】メンバーとの蜜月と決裂

・日時:2025年5月31日(水)17時30分~20時

・場所:高円寺・本の長屋

・参加者:藤本国彦、松田ようこ、安藤誠(進行役・本の長屋)

・レポート構成:松田ようこ

プロフィール

▶藤本国彦

通称「ビートルズやくざ」。1961年生まれ。音楽出版社『CDジャーナル』編集長を経てフリーに。主にビートルズ関連書籍の編集・執筆・イヴェント・講座、関連映画の字幕監修などを手がける。猫と相撲とカレーが好き。

 

▶松田ようこ

翻訳家、ウクレレ奏者。1960年生まれ。1972年から1976年までニューヨークで過ごし、ラジオから流れるポップスとビートルズの赤盤・青盤をきっかけにビートルズに夢中になる。ウクレレでビートルズも演奏。【オフィシャルサイト

 

5月末に高円寺のシェア型書店・本の長屋にて『マル・エヴァンズ もうひとつのビートルズ伝説』(シンコーミュージック・エンタテイメント刊)の翻訳者である私(松田ようこ)と、ビートルズ本を数多く手がける編集者の藤本国彦氏とのトーク・イヴェントが開催された。本書はビートルズのローディー(ロード・マネージャー)だったマル・エヴァンズの一生に、ビートルズの4人の活躍と共に追った全800ページの評伝。その翻訳を終えて“マル漬け”になっていた私と、ビートルズ解説のプロである藤本氏とのトークは気負うことなく楽しく、進行役の安藤氏が用意したスライドを見ながら気づけば2時間半もおしゃべり。その貴重なトーク内容を、「マル本」発売1周年と映画『ブライアン・エプスタイン 世界最高のバンドを育てた男』公開が重なるこの時期に振り返ってみたい。

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作詞に長けたマル

松田:マル本には、マルとポールの人間関係がドラマのように描かれています。


藤本:ビートルズのツアーが終わった時期、ポールとマルは親密でしたね。一方でジョンはニール・アスピノールと仲が良くて、日本公演の時には一緒に骨董品屋をめぐったりしていた。


松田:解散前はそういう図式だったのですね。その頃マルにとってポールは神のような存在で、ジョンは少し怖い存在だったのでは? ウィットに富んだ性格だけに、表現が辛辣なときもありますからね。


藤本:ポールは天然?


松田:だからポールはマルに対しても、平然ときついことを言えたんでしょうか。ポールの家にマルが住み込みの“家政婦”として入っていた時期、ふたりの関係は親密で、一緒に曲も作りました。


藤本:マルには作詞の才能があった。のちに、マルが作詞したスプリンターの「ロンリー・マン」をジョージが気に入ってレコーディングすることになったのも、その裏付けです。「フィクシング・ア・ホール」は、マルがポールの曲作りを手伝っている。映画『ザ・ビートルズ:Get Back』で、マルがポールの「ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード」の作詞を手伝っていたみたいに自然な形で。


松田:「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」もそうですね。そこでポールはマルに「印税が入るよ」なんて期待をもたせちゃった。


藤本:マルは「マッカートニー=エヴァンズか! 家が建つ! ローンが返済できる!」と思ったはず。


松田:夢が一気に広がったでしょうね。でも第19章の最後に、印税は入らなかった、というマルの悲しそうな記述が……。


藤本:「フィクシング・ア・ホール」をマルが手伝ったことは知られていましたが、マルとポールのあいだに印税の話が出ていたとはこの本で初めて知りましたね。ポールから平然と「クレジットしなくてもいいかな?」と諭されたというエピソードも初耳です。


松田:マル本で真実が明かされましたか。


藤本:そう、ポールが本当に「いい性格」だったことがよく分かりました(笑)。まあ、ポールは“天然”が魅力ですからね。


松田:いずれにしてもビートルズはみなわがままで、あらゆる要求をマルやニールにぶつけていました。雇われスタッフだから頼まれたことをやるのは当然ですが、自宅で家族と過ごしているマルを、弦の張り替えだけのために呼び出す(ジョージ)なんて考えられません。


安藤:ブライアン・エプスタインのもとで働いていたアリステア・テイラーも自伝を出していますが、ポールにはそうとうこきつかわれた、と(笑)。


松田:アリステア・テイラーはアラン・クラインのことを「壊れた便座みたいなヤツ」と言った人ですよね。私はあの記述が大好きです(笑)。


藤本:ほかにも1968年1月にピーター・アッシャーがアップルで初プロデュースしたポール・ジョーンズのレコーディングで、ポール(・マッカートニー)がドラムを叩くことになったときのエピソードが面白かった。ポールはドラムの練習がしたいから、レコーディングの前日にマルに頼んでEMIスタジオのリンゴのドラム・セットを自分の家に運ばせていたんですね。そして翌日、再びマルに頼んで、しれっとスタジオに戻させているんです。翌月の「ヘイ・ブルドッグ」のセッション映像(「レディ・マドンナ」のプロモーション映像)でもポールがドラムを叩いている場面が出てきますが、その下地となったのがこのレコーディングだったのか、と。しかもわざわざマルに運ばせて、また戻させる!

ポールとの決裂

藤本:1969年9月20日、アップル本社でのミーティングで、ポールがビートルズでまたライヴやテレビ特番をやろうと提案したとき、ジョンがお前は頭がおかしい、ビートルズは終わりだ、と言い出します。その場にマルとニールも同席し、ジョージは電話のスピーカーホンで参加していた。これは初耳でしたね。ジョージはその場にいなかったと思っていたから。
 

松田:その日、ポールはそうとうショックを受けたはずです。


藤本:そうですよね。それからポールは鬱状態に陥ってリンダと農場にひきこもります。そして、その年の12月から『マッカートニー』というソロ・アルバムの制作に入る。しかも完全に秘密裏にレコーディング。唯一知っていたのはマルで、機材類の搬入などすべてマルが行なっていた。


松田:この時期マルはポールに寄り添っていて、ニールからポールの居場所を聞かれても絶対にバラしませんでしたね。


藤本:ところが1970年2月に、テレビ番組でジョンとヨーコが「インスタント・カーマ」を演奏したとき、そのステージでマルがタンブリンを叩いているのをポールが観てしまった。


松田:これでポールは、マルがジョンのほうに行ってしまったんだ、と感じた?


藤本:そう、それでポールはマルと決裂しましたね。


松田:マルにしてみればそれは青天の霹靂です。それまでポールのために身を粉にして働いて、すべての作業が終わった2月下旬のある日突然「君はもう必要ない」と断言されたわけですから。


藤本:このときのエピソードは初めて知りました。こんな話はなかなか出てこないです。


松田:あとになってマルは、ビートルズがアラン・クラインとリンダの父親(弁護士)のどちらにつくかという闘争のはざまに自分を巻き込まないためにポールは自分と縁を切ったのだ、と解釈していますが、本当はどうだったのか。
 

藤本:マルはお人好しですね。

──本日はここまで。第7回は来週10月17日(金)公開予定です。どうぞお楽しみに!
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