『GENTLE GUITAR MELODIES~A Tribute to George Harrison~』 発売記念 星加ルミ子×藤本国彦トーク&益田 洋ライヴ・イベント・レポート PART.2

写真左より星加ルミ子氏、益田洋氏、藤本国彦氏

ジョージ・ハリスンのオフィシャル・ツイッターで認められた日本人ギタリスト益田 洋。

そのジョージ・ハリスンの優しく、繊細なナンバーをギター1本で演奏したアルバム『GENTLE GUITAR MELODIES~A Tribute to George Harrison~』の発売(3月8日)を記念してのライヴ&トーク・イベント(益田 洋さんの演奏と、星加ルミ子さん[元ミュージック・ライフ編集長]と藤本国彦さん[ビートルズ研究家]によるトーク)が2月27日BACK IN TOWNにて開催されました。

ここでは当日の模様を前後編に分けてお届けしていきます。


PART.1はこちらから

ジョージの作品はじわじわ良さが沁みてきて、何度も聴いてるうちによくなってくるんです
藤本:ビートルズの情報も含めて。『ミュージック・ライフ』は当時一番の音楽雑誌ですものね。

星加:まぁ、音楽雑誌としては(笑)。アメリカやイギリスにはああいう束の付いた音楽雑誌なんてありませんからね、みんなタブロイド紙か何かで。あとアメリカにあるのは中央をピンで綴じたゴシップ雑誌、芸能誌。私が「ミュージック・ライフはれっきとした音楽雑誌で、ゴシップなんか一切関係ない純粋にレコードや音楽を紹介する雑誌なんです」って言ったのをエプスタインが信用してくれて、凄く大切にしてくれました、それは幸運でした。ですから一ヶ月の間に5大都市のコンサートに同行しました。

あ、その間、これはジョージのエピソードじゃないんですけど、ニューヨークではワーウィック・ホテル──日本でいえば帝国ホテル・クラス──の10階にメンバーが泊まっていて、8階か9階ににわか造りのレストラン/ビュッフェがあるんです。そこで手の空いた人が食事ができるようにいつでも暖かい物が置いてあって。私が朝ご飯を食べようと下りて行ったらリンゴ・スターがいたんです。「朝ご飯食べる?」って言うので付いて行って一緒にお盆を持って列に並んだら、リンゴが次から次へ私のお盆に入れてくれるんです。これが量が凄い、スクランブルド・エッグをドサッと乗せるので、「トゥー・マッチだ」って言うと自分の方に少し取って。そうやってリンゴ・スターがサーブしてくれた朝ご飯を一緒に食べました。『ティファニーで朝食を』じゃないニューヨークでしたけど(笑)。

藤本:最終公演(サンフランシスコ/キャンドルスティック・パーク)の後に行われたアフター・パーティにも行かれたんですよね。

星加:ロサンゼルスのビバリーヒルズに一軒家を借りていて、メンバーはそこからロスとサンフランシスコの公演に行ってました。それで最終公演が終わってみんな一緒に帰ってきたんです、ジョーン・バエズなんかも一緒だったと思います、後でボブ・ディランも来てたって聞きました。一軒家といっても高級住宅街のビバリーヒルズですから凄い豪邸で、プールやプレイルームがあって。夜になってだいぶ暗くなった頃から始まったんですけど、<カメラマンは禁止、でもカメラを持ってなければ入っていい>ということになってました。

打ち上げですからみんな騒ぐわけです、まかり間違えばドラッグとかも入ってくるかもしれない──ということで、エプスタインはそういう心配もしたんだと思います。私はそのパーティに参加したんですけど、ジョージがプールサイドで「サンフランシスコ・ベイ・ブルース」を弾いて歌って、みんなで大合唱して──200人くらいいたのかも。そうやって全米公演の最後の最後にやったパーティでした、写真を撮れなかったのは残念ですけど。
 
pic: KOH HASEBE / Music Life / Shinko Music
藤本:ちょっとエピソードを挙げるだけで凄いですね。そのあとの1968年69年にはジョージとのエピソードは?

星加:68年のアップル・コーのクリスマス・パーティのときはジョージ・ハリソンは会ってないですね。リンゴの一家とポールには会って、ジョンはヨーコさんとサンタの格好をして子どもたちにプレゼントを配るその年のサンタクロースをやってました。

藤本:69年はアップル・ビルの屋上セッションですが、そう、来年ピーター・ジャクソンが監督として『レット・イット・ビー』(ゲット・バック・セッション)の素材を使ったビートルズの映画を作る──これは楽しみですけど、あのルーフトップ・コンサートの時に星加さんはたまたまロンドンにいらしたんですよね。

星加:本当に偶然、運が良かった、ラッキーだったんです。その時は<ウォーカー・ブラザーズを日本に招聘できないか?>という件でロンドンに来てました。彼らは『ミュージック・ライフ』でも人気が出そうだったので。それで、やっぱりロンドンに行ったらアップルには寄るんですが、行っても知ってる人があまりいなかったので連絡先を秘書の子に渡してホテルへ帰ったんです。そうしたらすぐに電話が来て、「今、ボーイズが屋上で何かやり始めました」って言うんです──ビートルズのことを関係者は<ボーイズ>と呼んでました──、で訊くと何やら映画の撮影もするらしい、屋上には上がれないが下でも音は聞こえる…ということなので、あわててサヴィル・ロウのアップルにとんで行ったら、屋上から盛んに演奏をしてる音が聞こえてきたんです。

道はもう人で埋め尽くされて車は渋滞してるし、警官は笛を吹くし、隣近所から「ウルサイ!」という苦情電話が入るし──という大騒ぎの中をかき分けてアップル・ビルに入りました。大きなレセプション・ルームの真ん中に立っていたら上から音が聞こえてきて、近くにいた関係者に訊いたんですけど何をやっているのかわからない状況で。何曲か終わったら突然パタっと音が止んで、上から階段をダダダダっとボーイズが降りてきたんです。一番先頭はポールで、呆然としてる私を見つけて「HI!RUMI、you stay in London?」<ルミ、君はもうロンドンに住んでるのかい?>とか何とか言うんです。でもこちらが答える間もなく外に待たせてある車に乗り込んで行って。それから次々メンバーが降りてくるんですけど、この日は雪がちらつきそうなすごく寒い日で、みんなほっぺを真っ赤にしてすごく寒そうで、同じようにあっという間に待たせてあった車にそれぞれ乗り込んで行ってしまいました。言葉をかけられたのはポールだけ、これが私が4人を見た最後でした。

藤本:また凄いときに最後を見てしまいましたね。来年のピーター・ジャクソンの映画はドキュメンタリーで、ゲット・バック・セッションの一ヶ月を描くものですけど星加さん写ってるかもしれないですね、下にもカメラを置いて撮ってたみたいですから。

星加:これが私がビートルズを取材した最後になりました、そのあと解散になりますから。
 
pic: KOH HASEBE / Music Life / Shinko Music
藤本:68年〜69年頃、ビートルズの晩年はジョージも「ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープス」等の名曲を作っていて、ジョンとポールの三番手じゃなく早く自分の曲を発表したかったから、解散後は『オール・シングス・マスト・パス』という3枚組の大作をリリースするんです。続いてチャリティ・ライヴ『バングラデシュ・コンサート』を行い、その3枚組アルバムも出す。大量に自作曲を吐き出してジョージが一気に頭角を現した時代ですね。ソロのジョージの曲は、今日演奏される益田さんのアルバムにも多数収められているんですが、メロディやコードが複雑で非常に演奏するのが難しい。聴き心地はいいんですけどジョンとポールの曲のようには一筋縄ではいかない。

星加:ああいうポピュラリティはないですけど、よく聴くと「ジョージってこんなに才能があったの!?」っていう曲がたくさんあるんです。解散後、ビートルズから解放されて、「好きなことができる!」と一番喜んだのはジョージ・ハリソンじゃないでしょうか。

藤本:いわゆる精神世界、宗教に対し熱心に本気ではまったのはジョージだし、ビートルズ後期には「ホワイル〜」「サムシング」「ヒア・カムズ・ザ・サン」といったとてつもない曲を作って。

星加:私、「サムシング」は恐れ多くも日本語の訳詞をしてるんですよ、当時出版社の関係でそういうことがあったんでしょうね。秋本順子さんが昨年その詞で歌ってくださったと人伝てに聞きました。

藤本:70年代以降のジョージについては星加さんのイメージは?

星加:私は1975年に『ミュージック・ライフ』を辞めまして、しばらく音楽業界から足を洗っていた状態だったのでジョージの動向もあまり知りませんでした。でも、作品を出していたのは知っていたので、60年代の頃もジョンとポールの束縛から解き放たれてこうやって自由にやりたかったんだろうなぁ──と思いましたね。ただ、ジョージには申し訳ないんだけどインド物は宗教色が強すぎて…。

藤本:ジョージの作品はじわじわ良さが沁みてくるアルバムや曲が多いんですよね。
 
星加:何度も聴いてるうちによくなってくる。ポールみたいにヒット・ソングを量産するタイプではないですからね、彼は彼でああいった自分の色を出して、色んなことを自由にやったという最後はよかったんじゃないでしょうか。

藤本:そうですね、エリック・クラプトンとの日本公演も実現しましたし。

星加:でも、パッと来てパッと帰っちゃったみたいで。

藤本:あの後、ツアーを止めちゃいましたからね。

星加:ジョージ・ハリソンっていう人はちょっと引っ込み思案で、ビートルズの中でも年下で弟のような存在でしたからね。エリック・クラプトンみたいな押しの強い人とやるとどうしても主従関係の従になっちゃう(笑)。でもそれを嫌な顔もせずにやってる本当に素直な人で、私そういう所が好きでした。

藤本:ジョージは寡黙なイメージがありますけど実は凄く人懐っこくて。

星加:寡黙でしたけど、嫌な顔とは全く見せなかったですね、ジョン・レノンの方がずっと感じ悪かった(笑)。

藤本:ジョン・レノンはなかなか難しそう(笑)、無邪気というか直感で動くというか。最初の話に戻りますが、ジョージは65年に星加さんが最初に会われた頃の無邪気なあどけない感じからほんの数年で大人になって。

星加:インドがきっかけで随分変わりましたね。4人とも変わったかな。カメラマンの長谷部さんが奇しくも言ったように、“大人になった“ というのが合ってますね。

藤本:60年代という時代がそうだったのかもしれませんね。

星加:そうですね。

藤本:星加さんもその時代に『ミュージック・ライフ』の編集長をやられて、貴重な体験を色々とされて。

星加:ビートルズがいてくれたから『ミュージック・ライフ』も在って、感謝してもしきれないくらいですね。

藤本:なるほど。ではそろそろトークを終わります、ありがとうございました、改めて、星加ルミ子さんでした(場内大拍手)

星加:ありがとうございました。
 

この後サイン会が行われ、休憩を挟んで益田 洋さんの演奏第二部となった。
益田 洋 ライヴ

当日は星加さん×藤本さんの対談を挟み、二部に分かれて益田 洋さんのライヴが行われた。今回のアルバム作成の起因ともなった「Give Me Love」をはじめ、“ヒット曲だけど同じフレーズの繰り返しだからやりにくい”という「My Sweet Load」、映画『Let It Be』のアレンジに準じた「I Me Mine」、デモ・テイク・アレンジの「While My Guitar Gently Weeps」など様々な趣向でジョージ・ハリソンの名曲の数数が演奏された。アンコールは静謐なサウンドに溢れた「All Things Must Pass」。心と身体が癒されたライヴだった。
 
『GENTLE GUITAR MELODIES~A Tribute to George Harrison~』
Hiroshi Masuda Live

 
<Part.1>
1. For You Blue
2. Something
3. Give Me Love
4. While My Guitar Gently Weeps
 
<Part.2>
1. Here Comes The Sun
2. Only A Northern Song
3. All Those Years Ago
4. Don’t Bother Me
5. My Sweet Load
6. I Me Mine
7. The Light That Has Lighted The World
8. Let It Be
〜encore〜
9. All Things Must Pass

GENTLE GUITAR MELODIES~Tribute to George Harrison~
<収録曲>
01.Don't Bother Me
02.You Like Me Too Much
03.Only A Northern Song
04.While My Guitar Gently Weeps
05.Piggies
06.Something
07.Here Comes The Sun
08.For You Blue
09.I Me Mine
10.My Sweet Lord
11.What Is Life
12.All Things Must Pass
13.Give Me Love (Give Me Peace On Earth)
14.The Light That Has Lighted The World
15. All Those Years Ago
 
全曲ギター・ソロ演奏&アレンジ:益田 洋
ALL SONGS by GEORGE HARRISON
2,000円(税込み)/3月8日発売  SHINKO MUSIC RECORDS
 
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