ボブ・ディランの貴重なインタビュー、『NYタイムス』紙で「ジョージ・フロイド、コロナ禍、新作について」語る!

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〈以下メイカー・インフォメーションより〉
オリジナル楽曲によるニュー・アルバムとしては2012年発表の『テンペスト』以来、8年振りとなる『ラフ&ロウディ・ウェイズ』を発表するボブ・ディラン。ノーベル賞受賞者が語る大変貴重なインタビューが、その新作の発売(日本盤は7月8日)前に行なわれ、2020年6月12日に『NYタイムス』紙ウェブ版で公開された。その内容は「最も卑劣な殺人」の発表後とジョージ・フロイドがミネアポリスで殺された翌日の2回にわたって電話で交わされた話をまとめたものだ。死、過去からのインスピレーション、そして新作『ラフ&ロウディ・ウェイズ』について語られた中より以下に抜粋する(翻訳:丸山京子)。
ジョージ・フロイドの家族とこの国に迅速な正義を
NYタイムスの記者が79歳になったディランと、2度目となる短い会話をしたのは、ジョージ・フロイドがミネアポリスで殺された翌日だ。故郷の州で起きたこの事件に明らかに動揺していたのだろう。その声は沈んでいた。
「ジョージが虐待され、死に追いやられるあの光景は、見るに耐えらないほど気分が悪かった。醜い、というのを越えていた。フロイドの家族とこの国に、迅速な正義が訪れると思いたい」
「最も卑劣な殺人」に登場するポップ・カルチャーの担い手たち
ビルボード・シングル・チャートで初の全米No.1を獲得した「最も卑劣な殺人」。この歌は長らく失われていた時代のノスタルジックな賛辞では?との記者の質問に対し、ディランは、
「ノスタルジーではないよ、私にとっては。“最も卑劣な殺人” は過去を美化しているわけでも、失われた時代を見送っているわけでもない。曲というのは、その瞬間に、私に語りかけてくるだけだ。これまでもずっとそうだった。歌詞を書いている時は特にそうだ」
と懐かしさを基に作ったのではないと語り、歌詞にドン・ヘンリーとグレン・フライという意外な名前を挙げたのについて
「“ニュー・キッド・イン・タウン” “駆け足の人生” “お前を夢みて”。史上最もよく書けた曲といっていい」
としている。
さらにこの歌では、アート・ペッパー、チャーリー・パーカー、バド・パウエル、セロニアス・モンク、オスカー・ピーターソン、スタン・ゲッツなどの名前も出てきており、ジャズの及ぼす影響や最近聴いている作品について
「マイルスのキャピトル時代の初期のやつかな。でもジャズ、って何がジャズなんだ? ディキシーランドか、ビバップか、高速のフュージョンか? 何をもってジャズと呼ぶ? ソニー・ロリンズか? ソニーがカリプソをやってるのは好きだが、あれはジャズか? ジョー・スタッフォード、ジョニ・ジェイムス、ケイ・スター……彼女たちもみんなジャズ・シンガーだったと思うし。私が考えるジャズ・シンガーといえばキング・プレジャーだが。わからないよ、すべてがジャズっていうカテゴリーに入れられるわけで。ジャズは “狂騒の20年代” に遡る。ポール・ホワイトマンはキング・オブ・ジャズと呼ばれていた。もしレスター・ヤングに尋ねていたら、お前は何を言ってるんだと言われてると思う」
と答え、そのどれかからインスパイアされたか?に対しては
「ああ、おそらくものすごくね。シンガーとしてのエラ・フィッツジェラルドにはインスピレーションを感じる。ピアニストとしてのオスカー・ピーターソン、当然だ。ソングライターとしてインスパイアされたか? ああ、モンクの “ルビー・マイ・ディア”。あの曲を聴き、ああいった一種の方向に向かうきっかけになった。何度も何度も、繰り返し聴いたのを覚えている」
と話す。
「アイ・コンテイン・マルチチュード」に交錯する様々なイメージ
「アイ・コンテイン・マルチチュード」でも大勢の人物の名前が挙がり、アンネ・フランクとインディアナ・ジョーンズが一緒なのはなぜ?に対し
「彼女のストーリーにはとても大きな、深い意味がある。明確な言葉で語るのも、何かに置き換えて語るのも難しい。特に今の時代のカルチャーではね。集中力欠如で、誰も人の話なんて最後まで聞かない。今、君はアンネの名前だけをコンテクストから取り出したが、彼女はトリロジーの一部なんだ。私に聞く時に、インディアナ・ジョーンズとローリング・ストーンズを挙げようと思ったのは何故?、と尋ねることだって出来たわけだ。でも君はアンネを選んだ。名前そのものは孤立しているわけじゃない。それらが組み合わされた時、単独のパーツはそれ以上の何かになる。あまり詳しい話をしても意味はない。曲は絵画のようなものだから、あまり近くに立ってしまうと全体の絵が見えなくなる。個々のピースは大きな全体の一部でしかないんだ」
そのローリング・ストーンズだが、お遊びで自分が書きたかったと思うストーンズの曲は?には
「“アンジー” “ヴェンチレイター・ブルース”……あとは、そうだ。“ワイルド・ホーセズ”」
と返す。
「アイ・コンテイン・マルチチュード」聞いて思ったのだが死について、よく考えるか?との問いには
「人類の死、についてなら考える。裸の猿がたどってきた長く、奇妙な旅……。軽んじるつもりはないが、一人の人間の人生なんて儚いものだ。どんな人間も、どれだけ頑強で力が強かろうが、死ぬ時は脆いものだ。一般論としては考えるが、自分と結びつけてではない」
とだった。
コロナ禍と自身の健康について
このパンデミックは、聖書に書かれた言葉のようなもの? 何を意味している?という問いについては
「来るべき何かの前触れだと思う。間違いなく、侵略的で、蔓延的だ。でも聖書? 人間の過ちに報いるための、なんらかの警告という意味で? そうだとしたら、世界にはやがて天罰が下されるということになる。過激な傲慢さには、破滅的な罰が与えられるものだ。もしかすると、人間は破壊の一歩手前にいるのかもしれない。このウィルスについてどう考えるか、その考え方はいくつもある。自然消滅させるしかないのだと思う」
5月に79歳となったディラン。健康状態はどうか?何かコツがあるのか?に
「それはまた大きな問題だな。どうやってなんて誰かわかってやってるやつはいるのか? 人間の心身は、手に手を取り合っている。どこかで合意がなきゃ、だめっていうのか。心は精神、身は体だと思う。その二つがどう一つになるのか、想像もつかない。ただ、そのまっすぐな直線の上を歩き、そこから外れず、そのレベルを保つようにしているだけだ」
と答えた。
NYタイムス紙web版で公開された全文はこちら。


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