ファンタスティック・ネグリート独占インタヴュー公開!「私の7世代前の祖父母は禁断の愛に落ちた。17 世紀、白人女性が黒人男性の子を産んだ──それに驚いたのと同時に、2022年の今、我々だってまだやれるとみんなに伝えたかったんだ」

10月に東京・大阪での来日公演が決定したファンタスティック・ネグリート。これに先立ち4月プロモーション来日時にはインタヴューが実現。連作となっている最新のミュージック・ビデオの真実を語ってくれました──そこに描かれる17世紀、黒人男性と白人女性による禁断の愛の物語が、実際の、そして彼の祖先のお話だったとは! ついに発売された必聴の新作『ホワイト・ジーザス・ブラック・プロブレムズ』と、そして3作連続でグラミー賞を獲得した彼の貴重なライヴをお見逃しなく!!

インタビュー・文●内本順一

ファンタスティック・ネグリートの4thアルバム『ホワイト・ジーザス・ブラック・プロブレムズ』は、様々な意味で非常に革新的な作品だ。ソウル、ファンク、ブルーズ、カントリー、リズム&ブルーズ、ポップ、サイケデリック・ロックと、ジャンルを越境するのは最早大前提。それどころか1曲の中でめまぐるしく越境が行なわれていたりもする。プリンスの『アラウンド・ザ・ワールド・イン・ア・デイ』、ビートルズの『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』といった作品の横に並べて置きたくもなる、端的に言うなら “ぶっとんだ” アルバムなのだ。

このアルバムには過去と現在を繫ぐストーリーがあり、人種問題、経済格差、ヘイト、さらには国家の侵略犯罪に苦しみ、嘆き、不安を抱え続けながら今を生きる人々に力を与えるメッセージがある。生きる上でのヒントがあり、想像力を刺激する力があり、テーマは深刻でも昂揚感と楽しさと愛がある。アルバムのテーマは、ファンタスティック・ネグリートことイグザヴィア・ディーフレッパーズがコロナ禍でライヴ活動をストップし、インターネットで自分の祖先のことを調べてみたことから生まれたそうだ。

「私の7世代前の祖父はアフリカ系アメリカ人で、17世紀半ばに奴隷として働いていた。一方7世代前の祖母はスコットランド人で年季奉公人。そんなふたりが禁断の愛に落ちて、子供ができた。白人女性が黒人男性の子を産むなんて逮捕案件だった時代のことだ。当時の法律を思うと、死に追いやられたって不思議じゃない。けれどもふたりは非人道的なシステムに対して愛を貫き闘った。そういったことがわかってね。社会によって課された障壁をはねのけて愛を成就させるという意味では『ロミオとジュリエット』のようでもあるけど、黒人と白人、奴隷と年季奉公人という立場の違いを思うと、ふたりが愛を貫き、人間性を保てたのがいかに凄いことかわかるというもので。偏見やシステムに屈しなかった彼らのパワフルさに驚いたのと同時に、2022年の混乱したこの社会で、我々だってまだやれる、立ちはだかる苦難に対して愛で闘い、前に進むことができると、私はそう思ったし、それをみんなに伝えたかったんだ」


アルバムを作るにあたって重要視したのはコントラストだと、イグザヴィアは言う。

「スコットランドがルーツの白人とアフリカがルーツの奴隷が一緒になるという物語の時点でコントラストがあるわけだけど、それを表現するには音にもコントラストが重要だと考えた。例えば “Highest Bidder” という曲にはコンガによるプリミティヴなリズムに、ピアノを重ねて作った。ムーグを大胆に使ったのも今作の特徴で、“Venomous Dogma” という曲ではあたたかなテクスチャーを作る目的でムーグを使っているんだけど、それも曲の中でのコントラストだ。コンテンポラリー・ブルーズの部門で(グラミー賞を)受賞しているアーティストがムーグを使うの?って言われそうだけど、かまわない、使うんだよ」

憂いの感覚とあたたかみ。プリミティヴなリズムとモダンなアレンジ。まさにそのコントラストが想像力をかきたて、イメージを広げる。1曲目「Venomous Dogma」はサイケデリック的な浮遊感のあるドリーミーな前半から、途中で展開がガラリと変わり、ヘヴィなブルーズ・ロックへと移行。今回はアルバム全曲に映像がついたヴィジュアル・アルバムもYouTubeで公開されているのだが、「Venomous Dogma」のそれは曲展開の変化に合わせて映像もカラーからモノクロに変わり、そのコントラストも鮮烈だ。また、イグザヴィアの歌唱法も今作は過去作より幅がある。例えば「They Go Low」という曲などでは心の底から切実にシャウトするが、ブルージーな締め曲「Virginia Soil」ではソフトに歌う。

「自分を歌の上手いシンガーだとはまったく思えない。どの教会にもひとりかふたりいる歌のヘタクソな子供、それが自分だった。でも物語の核となる感情を伝えることはできるし、それが何より重要だと思っていて、今作はこれまでで一番それができた。ダイナミックに歌う曲とソフトに歌う曲、そのメリハリもうまくいったし、前作までとは全然違う歌唱レベルに到達できたという自負があるんだ」

そんなアルバムを携えての10月の日本公演は、「自分を含む4ピースのバンドで、ラウドなショウになる」とのこと。それも大いに期待したい。


※公開後、文章を一部修正。動画も差し替えました。

商品詳細
Fantastic Negrito
『White Jesus Black Problems』


Amazon Music・MP3(2022/6/3)¥1,600
CD(2022/6/3)輸入盤
ファンタスティック・ネグリート『ホワイト・ジーザス・ブラック・プロブレムズ』
FANTASTIC NEGRITO/WHITE JESUS BLACK PROBLEMS

ビッグ・ナッシング/ウルトラ・ヴァイヴ
FNWJBPJ[CD/国内流通仕様]¥2,500+税
世界同時発売、解説付

1. Venomous Dogma
2. Highest Bidder
3. Mayor Of Wasteland
4. They Go Low
5. Nibbadip
6. Oh Betty
7. You Don't Belong Here
8. Man With No Name
9. You Better Have A Gun
10. Trudoo
11. In My Head
12. Register Of Free Negroes
13. Virginia Soil

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ファンタスティック・ネグリート来日公演

東京:10月6日(木)、大阪:10月7日(金)

米カリフォルニア州オークランド出身/在住のシンガー・ソングライター、ファンタスティック・ネグリート(Fantastic Negrito)ことイグザヴィア・ディーフレッパレーズ(Xavier Dphrepaulezz)。1995年にインタースコープ(Interscope)よりイグザヴィア(Xavier)名義でアルバム『The X Factor』をリリースするも、1999年に交通事故で瀕死の重傷となり、音楽活動から離れる事を余儀無くされる。2014年に再び演奏を開始したイグザヴィアは、翌年にNPRの第1回「Tiny Desk Concert」で見事に優勝。2016年にファンタスティック・ネグリート名義でのデビュー・アルバム『The Last Days of Oakland』をリリースし、第59回グラミー賞で最優秀コンテンポラリー・ブルース・アルバムを受賞した。その後も2018年にセカンド・アルバム『Please Don‘t Be Dead』、2020年にサード・アルバム『Have You Lost Your Mind Yet?』とコンスタントにアルバムを発表。この2作もグラミー賞で最優秀コンテンポラリー・ブルース・アルバムを受賞し、3作連続でグラミー獲得という快挙を成し遂げた。またスタージル・シンプソン(Sturgill Simpson)からクリス・コーネル(Chris Cornell)まで様々なアーティストとツアーし、ほぼすべての主要フェスティバルに出演(フジロックフェスティバル’20への出演も予定されていたがCOVID-19の為、開催延期)。スティング(Sting)やE-40等とコラボレーションも行ない、自身のレーベル、ストアフロント・レコーズ(Storefront Records)も設立した。この度そのレーベルより新作『White Jesus Black Problems』を6月3日にリリースする事を発表。そして待望の来日ツアーが決定。この機会をお見逃しなく!

・東京:10月6日(木)LIQUIDROOM
・大阪:10月7日(金)SHANGRI-LA

来日公演詳細(LIVE/EVENTページ):10/6・7 ファンタスティック・ネグリート 東京・大阪

総合問合せ:SMASH

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●グラミーを三度受賞したシンンガー/ソングライター/ミュージシャン/活動家、ファンタスティック・ネグリート(Fantastic Negrito)ことイグザヴィア・ディーフレッパレーズ(Xavier Dphrepaulezz)は4枚目のアルバム『ホワイト・ジーザス・ブラック・プロブレムズ(White Jesus Black Problems)』を6月3日、自身のレーベル、ストアフロント・レコーズ(Storefront Records)よりリリースする。またアルバムに付随し、音楽とセットになるフィルムも制作。自身が育ち、現在も住むオークランドでソングライティング、レコーディング、撮影の全ては行なわれた。『ホワイト・ジーザス・ブラック・プロブレムズ』は、自身の祖先を調べ、そこからインスピレーションを受けたアルバムとなる。彼の7代目の祖母はスコットランド人の年季奉公人であった。彼女は、1750年の植民地時代のヴァージニアの人種差別的な法律に公然と反抗し、アフリカ系アメリカ人の奴隷である7代目の祖父と慣習法による結婚をした。二人のラヴ・ストーリーは、非人道的で残忍なシステムに対し、愛だけを武器に立ち上がった証だ。彼らの忍耐は、現代の偏向した社会で、白人至上主義、偏見、無知、恐怖、暴力に直面しても、絶えず闘うことの美徳を教えてくれる。現代の私たちよりもはるかに大きな侮辱と暴力を受けた人々が、それでも、人と人とのつながりや愛するという決意を通し人間性を保つことができた、という物語を伝えることは意義深い。1759年に彼らができたのなら、2022年の私たちにもできるはずである。

●ファンタスティック・ネグリートことイグザヴィア・ディーフレッパレーズは、米カリフォルニア州オークランドの正統派イスラム教徒の家庭で育った。銃で襲われる等、死と隣り合わせの環境下、1993年にインタースコープ(Interscope)と契約。1995年にイグザヴィア(Xavier)名義でアルバム『The X Factor』をリリースするも、1999年、交通事故で瀕死の重傷となり、音楽活動から離れる。2014年、再びオークランドの路上で演奏を開始したイグザヴィアは、2015年にNPRの第1回「Tiny Desk Concert」で優勝。2016年にファンタスティック・ネグリート名義でのデビュー・アルバム『The Last Days of Oakland』をリリースし、第59回グラミー賞で最優秀コンテンポラリー・ブルース・アルバムを受賞した。その後も、2018年にセカンド・アルバム『Please Don't Be Dead』、2020年にサード・アルバム『Have You Lost Your Mind Yet?』とコンスタントにアルバムを発表。この2作もグラミー賞で最優秀コンテンポラリー・ブルース・アルバムを受賞し、3作連続でグラミー獲得という快挙を成し遂げた。また、スタージル・シンプソン(Sturgill Simpson)からクリス・コーネル(Chris Cornell)まで、様々なアーティストとツアーし、ほぼすべての主要フェスティバルでプレイ(フジロックフェスティバル'20への出演も予定されていたがCOVID-19の為、開催延期)。スティング(Sting)やE-40等とコラボレーションも行ない、自身のレーベル、ストアフロント・レコーズも設立した。更に、音楽以外にも、若者の教育と能力向上を目指す都市農場、レヴォルーション・プランテーション(Revolution Plantation)を創設している。

■More info:Big Nothing
商品詳細
ファンタスティック・ネグリート 
『Have You Lost Your Mind Yet?』

★第63回グラミー賞「最優秀コンテンポラリー・ブルース・アルバム」獲得

Amazon Music・MP3(2020/8/14)¥2,100
商品詳細
ファンタスティック・ネグリート 
『ザ・ラスト・デイズ・オブ・オークランド』

★第59回グラミー賞「最優秀コンテンポラリー・ブルース・アルバム」獲得

Amazon Music・MP3(2016/6/3)¥1,600
CD(2016/9/7)¥2,070
商品詳細
ファンタスティック・ネグリート 
『プリーズ・ドント・ビー・デッド』

★第61回グラミー賞「最優秀コンテンポラリー・ブルース・アルバム」獲得

Amazon Music・MP3(2018/6/15)¥1,500
CD(2018/6/15)¥2,578
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