ポリス、映像作品『アラウンド・ザ・ワールド』初ブルーレイ&DVD化記念・短期集中連載「今だから語るポリス、1980年の日本ツアー」Part 3

『アラウンド・ザ・ワールド』より
全3回にわたって短期集中連載としてお送りしてきました肥田慶子氏(当時日本の所属レコード会社だったアルファレコード担当A&R)と浅沼ワタル氏(専属カメラマンとしてこのツアーに同行)のお二人による「今だから語るポリス、1980年の日本ツアー」も今回が最終回。急に決まった地下鉄構内でのPV撮影、いきなり決めたおかげで断られまくりながらなんとか許可をもらえた相撲部屋での撮影など、どこまでも苦労は絶えない……。何しろ彼らにとっても初めて行なったワールド・ツアー。見るもの全てが珍しいわけで、致し方ない面もある? そんな彼らの初々しい様子を収めたドキュメンタリー『アラウンド・ザ・ワールド』発売を記念してのこの対談も今回が最後、ゆっくりご堪能ください。

「まさか東京でレコーディングすると思わなかったよね 」

浅沼ワタル

浅沼ワタル (あさぬま・わたる)写真家。当時ポリスの専属カメラマンとしてワールド・ツアーに同行。エリック・クラプトン『スローハンド』『Live At 武道館』ジャケットなども撮影。

「レコーディング用のテープを持ってきていて、どこかで(音を)加えて。マルチテープを持ち歩いていた」

肥田慶子

肥田慶子(ひだ・けいこ)当時ポリスが所属した日本のレコード会社アルファレコードA&M部の社員。

──浅沼さんに、東京公演で撮影したセットリストを持ってきていただきました。この映像作品『アラウンド・ザ・ワールド』中の京都公演の映像を見ると、スチュワートのドラムの脇にも同じセットリストが貼られているのがかすかに見えます。ここでは、セカンド・アルバム『白いレガッタ』(1979年10月)までの曲で構成されています。サード・アルバム『ゼニヤッタ・モンダッタ』はこの日本公演の8か月後の1980年10月にリリースされ、シングル2曲がアメリカでトップ10入りするなど、本格的に世界の舞台に出る作品になります。この1980年2月に東京で一部がレコーディングされていました。

浅沼ワタル(以下浅沼):まさかレコーディングすると思わなかったよね
肥田慶子(以下肥田):思わなかった。
浅沼:急に言い出してね。最初からのアイデアじゃないもの。
肥田:レコーディング用のテープを持ってきていて、どこかで(音を)加えて。マルチテープを持ち歩いていた。
浅沼:テープは当時は弁当箱、Uマチックかな。
肥田:大きなマルチテープだった。

──マイルス・コープランドが持ち歩いていたんですかね? マイルスは細かいことはやらなさそうですよね。
浅沼:いや、あいつは結構やる。マイルスの家に行くとね、そういうのがゴロゴロしてるの。けれど整理ができない。
肥田:たぶん人にやらせてるんだと思う。

──1980年2月23日、東京・田町のアルファレコードのスタジオでレコーディングです。
肥田 :スタジオの調整室でほとんどやってた。みんなで聴きながら。調整卓がデーンとあって、そばに机があって、そこにキーボード乗っけて。(演奏のトラックを)重ねたり、やり直したり。「もう一回やってみよう」とか。
浅沼:そのあたりはぜんぶスティングかな。
肥田:そう。
──スタジオにはツアークルーは皆いたわけですよね。
浅沼:そう。ダニー(・クアドロッチ=ギター・テック)がいる、ジェフ(・サイツ=ドラム・テック)がいる、キム・ターナー(ツアー・マネジャー)がいる、マイルス(・コープランド=マネジャー)もいる。

──しかし『ゼニヤッタ・モンダッタ』のプロデューサーであるナイジェル・グレイはいないわけです。
浅沼:スティングだもの。プロデューサーって言ったって。

──スティングが進めているんですね。それでも、卓に触る人がいませんよね。
肥田:だから吉沢さん。だってそうしなきゃ使えないじゃない。卓は日本人が。吉沢さんと、たぶん小池さん 。彼らに完全に貸すなんてことはできないわけです、アルファだって。卓には、録音部の部員にしかさわらせなかったはず。
浅沼:お二人いたと思うね。

──吉沢典夫さんと小池光夫さん。お二人とも レコーディング・エンジニアとしてイエロー・マジック・オーケストラの『ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー』(1979)、『増殖』(1980)などの作品を担当され、YMOサウンドの中核を担ったアルファレコード録音部の方です。
浅沼:レコーディングは3曲やったっけ? ヴォーカルは録らなかった。
肥田:そうそうそう。何度も何度もベースラインを、ギターのダビングをする前の、骨格を決めるようなのを何度も録ってました。

──1980年のミュージック・ライフ5月臨時増刊号『ポリス来日写真集 THE POLICE in Japan』に以下の記載があります。
帰国を明日に控えた2月23日、田町のアルファ・スタジオに集合、昼から真夜中までシングル用のレコーディングを行なった。ただし演奏のみ。歌はオーストラリアで吹き込むという超国際的スケール。4曲分録音したが、タイトルのついているのは2曲。「ア・カナリー・イン・コールマイ」(原文ママ)と「ドリブン・トゥ・ティアーズ」というもの。このどちらかが日本録音シングルとして初夏頃発売になる予定。
──結局、「高校教師」がアルバムからの先行シングルとして1980年9月にリリースされるわけですが、この増刊号のテキストはポリスの貴重な記録になっています。深夜まで録音したんですね。
肥田:吉沢さんも小池さんも慣れていたんだと思う。YMOの長ーいレコーディングで。

──肥田さんも最後まで付き合いましたか?
肥田:はい。通訳が必要になるかもしれないと思って。 通訳が必要とされない限りは、調整卓のそばに長椅子があって楽にしていました。 ガラス張りで奥がスタジオ。呼ばれれば聞こえますから。関さん(アルファレコード ポリス担当、関 信夫氏)が細かくて、一所懸命におやつとか、ケータリングを準備していたの。
肥田:けれど、ケータリング食べなかったよね。
浅沼:何も食べなかった。
肥田:ステージでも感じたけど、まるで三人以上いるような感じが、フルでディープな感じがするじゃない。レコーディング聴かせてもらっても、ヴォーカルも入ってないボンボンボンボンってベースの骨格だけなんだけど、うわぁー何人いるんだろうというすごく厚い感覚がありました。

──この映像作品には、バンドのサウンドチェックの様子がいくつか収録されています。香港でスティングとスチュワートのリズム・セクションが音を合わせていく様子は、まさにバンド・サウンドの土台を垣間見るようです。
浅沼:スーパーバンドという存在に近かった 。この時点で。

──『ゼニヤッタ・モンダッタ』にはオランダ・ヒルフェルスム(Hilversum)のヴィッセロード・スタジオズ(Wissellord Studios)だけが録音箇所として記されています。ジャケット裏に、スティングがウッドベースに座っているスタジオでの写真があります。
浅沼:僕が撮った写真。ヒルヴァーサム(「Hilversum」の英語読み)ね。アンディが傘を持っているのは京都でマイルスが撮った写真だね。

──『ミュージック・ライフ』1980年4月号には「スティングがウォークマンでイエロー・マジック・オーケストラをにこやかに鑑賞」との浅沼さん撮影の東京での写真が掲載されています。翌1981年リリースの四作目『ゴースト・イン・ザ・マシーン』の日本盤LPのブックレットにはムーンライダーズの鈴木慶一さんと、イエロー・マジック・オーケストラの高橋幸宏さんとの対談が収められています。同じアルファレコードからの発売で、縁があります。
浅沼:僕のカセットテープなんだよ。YMOの。肥田さんか関さんからもらったんだと思う。それをスティングに取られちゃった。

──1980年ですからウォークマンが出始めたばかりですね。
肥田:私は1980年の10月から11月はYMOの世界ツアーに付いているので、その前の8月か9月にはA&Mの担当を離れています。
浅沼:ロンドンにいっしょに来てます?
肥田:行ってます。
浅沼:じゃあそこで会ってるはずだね。ハマースミス・オデオンだ(1980年10月16日)。僕も行っていたから。

──この映像作品のタイトルは『アラウンド・ザ・ワールド』です。現在、この1980年のツアーを「Around The World Tour」と記しているメディアもあるのですが、「Around The World」という言葉は1980年の時点では存在せず、BBCの放送後にVHS等で作品がリリースされた際につけられたのではないでしょうか。
肥田:当時は、いつもポリス・ワールド・ツアー、ワールド・ツアーと言っていました。

──この映像作品にはアルバム『ゼニヤッタ・モンダッタ』(1980年10月リリース)からは「スーツケースの流れ者」「カナリアの悲劇」「果てなき妄想」「君がなすべきこと」「シャドウズ・イン・ザ・レイン」「高校教師」の6曲の演奏シーンが収録されています。1980年2月の日本公演の段階ではいずれも演奏しておらず、その後ツアーが香港、オーストラリア、インド、エジプト、ギリシャ、フランス、南米、米国とツアーが進むにつれ、次のアルバム『ゼニヤッタ・モンダッタ』の曲が登場してきます。そしてバンドは日本ツアーを終えて、成田から香港に向かいます。
浅沼:都ホテルから車で成田に行くんだけど、アンディが起きてこなくて。相撲で風邪ひいて。

──この作品のライナーノーツでも、アンディは「気温は氷点下じゃないかと思えるほどだ」と相撲を回顧しています。
浅沼:土俵って土だから冷たくて。ホテルで熱を出した。香港へ移動なのに、ベッドから起きてこなかった。 キムと僕で薬を飲ませて熱を下げて。アンディが「起きられない」「ダメだ」と言うのを引きずって成田に行ったんだよ。これが日本での最後の思い出だね。
構成:大島隆義

この1980年2月の初来日ツアー(と日本でのレコーディング)を経て、同年10月、ポリスにとって3作めとなるアルバム『ゼニヤッタモンダッタ』は当時アルファ・レコードから国内盤がリリースされた。その裏ジャケ、インナースリーヴの両面には、日本だけでなくこのワールド・ツアーで撮影された多くの写真が使用されている

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◆商品情報
ポリス『アラウンド・ザ・ワールド(レストア&エクスパンデッド)』
The Police/Around The World Restored & Expanded

2022年5月20日発売

・Blu-ray+CD:商品番号UIXY-15046 / ¥6,600円(税込)
・DVD+CD:商品番号UIBY-15125 / ¥5,500円(税込)

*アンディ・サマーズ(G)によるライナーノーツ掲載(日本盤は日本語訳付)
*日本盤のみ日本語字幕付、SHM-CD仕様

お求めはこちら
■DVD & BLU-RAY
※下記の曲の演奏シーンあり。

Next To You/ネクスト・トゥ・ユー
Walking On The Moon/ウォーキング・オン・ザ・ムーン
Born In The 50’s/俺達の世界
So Lonely/ソー・ロンリー
Man In A Suitcase/スーツケースの流れ者
Can’t Stand Losing You/キャント・スタンド・ルージング・ユー
Bring On The Night/ブリング・オン・ザ・ナイト
Canary In A Coalmine/カナリアの悲劇
Voices Inside My Head/果てなき妄想
When The World Is Running Down, You Make The Best Of What’s Still Around/君がなすべきこと
Shadows In The Rain/シャドウズ・イン・ザ・レイン
Don’t Stand So Close To Me/高校教師
Truth Hits Everybody/トゥルース・ヒッツ・エヴリバディ
Roxanne/ロクサーヌ
 
※ボーナス・フィーチャーズ(完全演奏)
Walking On The Moon(Live from Kyoto)/ウォーキング・オン・ザ・ムーン(ライヴ・フロム・京都)
Next To You(Live from Kyoto)/ネクスト・トゥ・ユー(ライヴ・フロム・京都)
Message In A Bottle(Live from Hong Kong)/孤独のメッセージ(ライヴ・フロム・香港)
Born In The 50’s(Live from Hong Kong)/俺達の世界(ライヴ・フロム・香港)
■CD
1. Walking On The Moon - Live from Kyoto/ウォーキング・オン・ザ・ムーン(ライヴ・フロム・京都)
2. Next To You – Live from Kyoto/ネクスト・トゥ・ユー(ライヴ・フロム・京都)
3. Deathwish - Live from Kyoto/死の誘惑(ライヴ・フロム・京都)
4. So Lonely - Live from Kyoto/ソー・ロンリー(ライヴ・フロム・京都)
5. Can’t Stand Losing You - Live from Kyoto/キャント・スタンド・ルージング・ユー(ライヴ・フロム・京都)
6. Truth Hits Everybody - Live from Kyoto/トゥルース・ヒッツ・エヴリバディ(ライヴ・フロム・京都)
7. Visions Of The Night – Live from Hammersmith/ヴィジョンズ・オブ・ザ・ナイト(ライヴ・フロム・ハマースミス)
8. Roxanne – Live from Hammersmith/ロクサーヌ(ライヴ・フロム・ハマースミス)
9. Intro/イントロ
10. Born In The 50’s – Live from Hong Kong/俺達の世界(ライヴ・フロム・香港)
11. Message In A Bottle – Live from Hong Kong/孤独のメッセージ(ライヴ・フロム・香港)
12. Bring On The Night – Live from Hong Kong/ブリング・オン・ザ・ナイト(ライヴ・フロム・香港)
商品詳細
スティング
『ブルー・タートルの夢』


Amazon Music・MP3(1985/6/1)¥1,350
CD(2011/11/9)¥2,028
商品情報
スティング
『マイ・ソングス』


Amazon Music・MP3(2019/5/24)¥2,210(Deluxe)
2CDs(2019/10/4)¥3,520(スペシャル・エディション)

 
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