※関連ニュースをご覧になる場合は、こちら↑のタグ(アーティスト名/項目)をクリック。

デヴィッド・ボウイとスパイダーズ・フロム・マーズの舞台裏──秋から英国でデヴィッド・ボウイ展が全国巡回

この秋英国で、ヴィクトリア・アンド・アルバート(V&A)博物館が企画したデヴィッド・ボウイ展の全国巡回が開始されます。同展はボウイの生涯と音楽をテーマに、彼のアーカイヴから厳選された衣装や楽器等、彼にまつわる品々が100点展示されることになっており、その多くはこれまで一般公開されたことがないものであるとのこと。初日は今年11月4日、V&Aダンディーですが、来年2月から5月にはハル市内のフェレンズ・アート・ギャラリーでの開催が決定しており、それに合わせてBBCではハル在住のボウイゆかりの人物たちに取材したレポートが公開されました。

exhibition
David Bowie: On Tour
デヴィッド・ボウイがロンドン市内で車検にかかる費用を口にした時、ジョン・ケンブリッジは思わず訊き返したそうです。「幾らだって?」

それは1970年のこと、ボウイのキャリア初期に彼のバックを務めていたザ・ハイプのドラマーのケンブリッジは、デビューしたての彼の愛車ローヴァー100を転がしてハルまで行けば、遥かに安いMOTが受けられると持ちかけました。ケンブリッジは更に自分の両親を説得し、ブリスベーン・ストリートにある実家に彼を滞在させることを承諾させました──市の中心部近くの労働者階級の住むエリアです。

「彼は笑っちゃうほど法外なカネ出して車検を通そうとしてたんだ。僕は言ったよ、ハルならその金で車が1台買えるよって」、彼はそう振り返ります。

ケンブリッジはその後、ボウイが一世を風靡することになったバンド、ザ・スパイダーズ・フロム・マーズの結成に助力し、イースト・ヨークシャーの質素な街から更に3人の労働者階級の若者たちが、それをきっかけに大胆なグラム・ロックのコスチュームとカリスマ的な音楽の世界に身を投じることとなったのです。

それから60年近くが経った今でも、ケンブリッジは、プロデューサーのトニー・ヴィスコンティとともに、ロンドン南部のベッケナムにある広大な邸宅、ハドン・ホールでボウイと暮らした日々を、懐かしく思い出しています。ケンブリッジは、1969年にリリースされたボウイの名前を冠したデビュー・アルバム(通称『スペース・オディティ』)の制作に携わったバンド、ジュニアズ・アイズのメンバーのひとりでした。「彼の家には水鉄砲とか、色んなオモチャが揃っててね。要するに僕らはそれくらい無邪気だったんだ」と彼は当時を振り返ります。
ボウイが新しいギタリストを必要とした時、ミック・ロンソンに声をかけたのはケンブリッジでした。ロンソンは市役所の庭師で、ケンブリッジとは地元ハルで活動するバンド、ザ・ラッツで一緒にプレイしていたのです。彼いわく、話を持って行った時のロンソンはグレートフィールド団地のラグビー場でピッチのラインを引いている最中で、ケンブリッジは彼を説得してロンドンに連れて行き、ボウイに引き会わせたのでした。ロンソンに続いてハル出身のベーシスト、トレバー・ボルダーも加入しましたが、ケンブリッジは解雇され、代わりにドリフィールド出身の ドラマー、ミック・“ウッディ”・ウッドマンジーがバンドに迎えられました。

ザ・スパイダーズ・フロム・マーズがスターダムへと駆け上がっていく中、ケンブリッジは現実世界へと引き戻され、本業である左官業に復帰せざるを得ませんでした。

「彼らがブレイクして『トップ・オブ・ザ・ポップス』に出演したり、アメリカや日本に行ったりするようになった時にも、僕は自分のことなんかみんな名前すら聞いたことないんだよな、と思っていたよ。そりゃ勿論、建設現場で相変わらずの左官作業をしながら、ラジオを点ければ彼らの歌が流れて来るのはウンザリしたさ、『ああ、またか』ってね。でも、物事ってのはなるようにしかならないから」

彼は今日、「ボウイの歴史に少しでも関われたことをただ嬉しく思っているよ」と語ります。

その思い出の中には、スターになったボウイと彼の最初の妻アンジーを連れてハルのパブ巡りをしたことも含まれています。

「あるパブで店を出ようとした時、ひとりの女の子が彼を見て『あなた、デヴィッド・ボウイにそっくりね』って言ったんだ。そうしたら彼は事も無げに言ったよ、『ああ、よく言われるんだよね』って」
ボウイの『ジギー・スターダスト』時代の旋風に巻き込まれた人々のひとりが、彼のヘアドレッサー兼衣装担当だったスージー・ロンソン──当時は旧姓のファッシーを名乗っていた──でした。彼女はその後、1977年にミック・ロンソンと結婚します。

「デヴィッドはミックと出会えて本当に運が良かったのよ。二人はステージ上で完璧に一体化してたわ。バンドはロケットみたいに爆発的なスピードで急上昇して行ったの。どこへ行ってもチケットはソールドアウトでね」

彼女によれば、ロンソン、ボルダー、ウッドマンジーの3人は「生まれも育ちもハルの、ごく普通の若者たち、いわゆる『野郎らしい野郎ども』だった」。にも拘わらず、彼らが派手で大胆で両性具有的なステージ衣装を受け容れるのに「殆ど時間はかからなかった」のだそうです。「3週間も経つと、楽屋に入るとみんなして『俺のマスカラどこ? デイヴィッド、チーク持ってる?』なんて言うようになったのよ。そんな恰好してても、女の子たちはまだ自分たちに夢中になってくれるってことに気づいたんだと思うわ」

ボウイはかつてウッドマンジーに「ピンクを着こなせるのは本物の男だけなんだぜ」と言ったことがあったとも彼女は証言します。「ウッディはちょっと驚いてたと思うけど、ちゃんと着こなしてたわ、あれは素敵だったわね」
1970年にボウイがアンジェラ・バーネットと結婚する際、ケンブリッジは彼の介添人を務めていました。彼はボウイの50歳の誕生日パーティーにも出席しており、2016年にボウイが他界するまで、毎年クリスマス・カードを受け取り続けていました。

「デヴィッドは、例えばNASAを見学に行けば、ロケット科学者と対等に話ができただろう。一方、建設現場に行けば、誰かがミキサーにセメントを入れているのを見て、何が行なわれているのかを理解することもできた。彼はどんなことでもその分野の第一人者と渡り合うレベルで会話ができる男だったんだ」とケンブリッジは振り返ります。

ボウイは1973年にザ・スパイダーズ・フロム・マーズを解散させました。ロンソンはその頃既に彼単体でミュージシャンとして高く評価される存在となっており、ルー・リードが多くの人々に影響を与えたアルバム『トランスフォーマー』に共同プロデューサー及びギタリストとして参加し、実績を積み上げていました。

「彼らが解散した時は本当に悲しかったけれど、私の物語はそこで終わったわけではなく、最終的にはミックと私、そして私たちが共に過ごすことになった素晴らしい時間へと繋がっていったのよ」とスージー・ロンソンは語ります。ミック・ロンソンはそこから更にボブ・ディランやモリッシーといった人気アーティストたちと共演するかたわら、数作のソロ・アルバムも世に出しましたが、1993年、46歳の若さで癌のためにこの世を去りました。

ロンソンとボウイを題材にした舞台作品『Turn and Face the Strange』を、ギャリー・バーネットと共同で脚本を手掛けたルパート・クリードはこう証言します。「デヴィッド・ボウイのサウンドを確固たるものにしたのは、紛れもなくザ・スパイダーズ・フロム・マーズでした。最果ての街ハルはしばしば見過ごされがちですが、実はデヴィッド・ボウイの成功におけるその存在感は、決して過小評価されるべきではないのです」
CROSSBEAT Presents デヴィッド・ボウイ 21世紀の男

CROSSBEAT Presents デヴィッド・ボウイ 21世紀の男

〈シンコー・ミュージック・ムック〉

2,200円

監修・執筆:大久達朗
ボックス・セット・シリーズがついに完結!
『ヒーザン』から始まり『★』へと到る歩みを改めて検証


ボックス・セット・シリーズの最終作、『アイ・キャント・ギヴ・エヴリシング・アウェイ[2002−2016]』が話題のデヴィッド・ボウイ。『ヒーザン』『リアリティ』を続けて発表した2000年代前半から、復活作『ザ・ネクスト・デイ』、そしてキャリアに終止符を打った傑作『★(ブラックスター)』まで……未来を見据えて生まれ変わり続けた男に相応しい2000年代~2010年代の活動を、現在の視点から見つめ直します。名作『ロウ』からほぼ全曲を披露した2002年のライヴ盤『モントルー・ジャズ・フェスティヴァル』の詳細な解説や、沈黙の時代(2004〜2012)の徹底検証を完備。遺作『★』の革新性を改めて考察したテキストも必読です。
商品詳細
デヴィッド・ボウイ
『The Shel Talmy Recordings』


Amazon Music(SEP 18 2026)
商品詳細
デヴィッド・ボウイ
『アイ・キャント・ギヴ・エヴリシング・アウェイ[2002-2016]』


Amazon(2025/9/24)¥26,400[13CDs]【Amazon.co.jp限定】メガジャケ付
Amazon(2025/9/24)¥26,400[13CDs]
CROSSBEAT Special Edition デヴィッド・ボウイ 1989-2016

CROSSBEAT Special Edition デヴィッド・ボウイ 1989-2016

2,200円
CROSSBEAT Special Edition デヴィッド・ボウイ 1983-1988

CROSSBEAT Special Edition デヴィッド・ボウイ 1983-1988

1,430円
CROSSBEAT Special Edition デヴィッド・ボウイ 1977-1982

CROSSBEAT Special Edition デヴィッド・ボウイ 1977-1982

1,430円
CROSSBEAT Special Edition デヴィッド・ボウイ 1964-1969

CROSSBEAT Special Edition デヴィッド・ボウイ 1964-1969

1,760円

RELATED POSTS

関連記事

LATEST POSTS

最新記事

ページトップ