【WML×MLC連動連載】
名盤の立役者・トミー・リピューマ 第7&8回(全10回)

デイヴ・メイスン『アローン・トゥゲザー』

3月29日に発売になった新刊『トミー・リピューマのバラード  ジャズの粋を極めたプロデューサーの物語』は、1960年代からブルー・サム〜A&M〜ワーナーなどで数多くの名盤を手がけたプロデューサー、トミー・リピューマの評伝です。著者は自らもオルガン/キーボード・プレイヤーとしてジャズ/ポピュラー音楽界で著名なベン・シドラン。すでに複数の著作も上梓している作家としての横顔も持つ彼が、トミー・リピューマの人物像を軸に、音楽業界の裏側や名盤の舞台裏を包み隠さず描いた一冊です。

 『トミー・リピューマのバラード』は、50年来の親友への私からのラヴ・レターです。家族のように、ともに素晴らしい時代を過ごしました。“バラード”としたのは、彼の人生は、私が歌うべき歌だから。そして今それを届けることができてうれしく思います。皆さんはここで、音楽やレコード・プロデュースにまつわるさまざまな現実を知ることでしょう。しかし、この歌(本書)の中心は、トミーという男の気持ちにほかならないのです。

ベン・シドラン
そして本連載は、短期集中で毎回アーティスト/作品単位でのテーマを取り上げ、同書からそれにまつわる部分をご紹介していこうというもの。同時に、トミー・リピューマが多くの作品を残したワーナーミュージックのウェブサイト「ワーナーミュージックライフ」(WML)のご協力のもと、我々ミュージック・ライフ・クラブ(MLC)と連動した連載として別々のテーマを取り上げ、双方で同時に展開。両方同時に読むことで倍楽しめる!ことを目指しました。ぜひ取り上げたアーティストの作品を聴きながらお楽しみください。


そして第8回・マイルス・デイヴィス『TUTU』は、ワーナーミュージックライフで同時公開。こちらもぜひお読みください。


WMLでの第8回・マイルス・デイヴィス『TUTU』はこちら。

デイヴ・メイスンはトラフィック脱退後、すでにソロ・アーティストとしてのキャリアをスタートさせていて、ブルーサムと契約の話を始めた時点ですでにヒットもあるスターでした。レオン・ラッセルやカール・レイドルら、豪華LAのトップ・セッション・ミュージシャンを配して制作された『アローン・トゥゲザー』はレーベル初のゴールド・ディスクを獲得、本書中にはトミー・リピューマ自身としても「あれは僕のキャリアにおけるハイライトのひとつだった」という言葉が引用されています。
デイヴ・メイスン『アローン・トゥゲザー』アナログ初回盤は三面・縦観音開きの変形ジャケット+カンガルー・ポケット式。表側中央、岩場に佇むメイスンの姿があしらわれた部分がいわゆるジャケットの正面になる。しかもディスクは本文にもあるように、デザイナーのバリー・ファインスタインが直接手がけた色違いマーブル模様のカラー・ディスクだった(タップ/クリックで拡大できます)。



以下、『トミー・リピューマのバラード ジャズの粋を極めたプロデューサーの物語』より引用。
メイスンと契約した当時、ほとんどのヒット・レコードはグループ──トラフィック、ザ・ビートルズ、ストーンズ──によるものだったが、デイヴは大成功していたバンドを脱退してソロとしての活動を試みた最初のひとりだった。彼のアルバム『アローン・トゥゲザー』はブルーサムの初めてのゴールド・ディスクとなった。
「あれは僕のキャリアにおけるハイライトのひとつだった」トミーは言う。「自信を与えてくれたし、僕がありとあらゆる音楽のプロデュースができることを証明してくれたんだ」。そして、運命のいたずらか、トミーはその後の45年以上もの長い期間、トミーのほとんどの作品を録音し、ミックスすることとなるアル・シュミットとも出会ったのだ。やがてアルは、トミーが描く音楽的な広がりと耳でとらえる光景をレコードに落とし込む、録音技術全般の責任者として彼を支えていくことになる。
「ときどき僕は、レコード・プロデューサーとは映画監督のようなものだと思うんだ」トミーは言う。「楽曲は台本と同じで、まずは楽曲自体が素晴らしくなくてはならない。ちょうど台本が素晴らしくなければならないようにね。ミュージシャンも映画のキャスティングと同様に重要だ。どんなに腕のいいミュージシャンであっても、与えられた役割が合っていなければうまくいかない。そして最後に、映画では撮影技師がイメージを捉えるけれど、レコーディングでは音を捉えるのはエンジニアの責任だからね。レコードが成功するか否かはすべてがサウンドにかかっているんだ」

(中略)
ブルーサムは、このデイヴ・メイスンのアルバムにありとあらゆるマーケティング手段を駆使し、販売促進を尽くした。成功のもうひとつの要素はパッケージにあった。これはバリー・ファインスタインが率いるカモフラージュ・プロダクションに負うものだった。カモフラージュは事実上ブルーサムの専属アート部門として機能していて、ブルーサムのレコードはサウンド面で他社と異なっていただけでなく、ヴィジュアル面においても普通ではなかった。
たとえば、アルバム『アローン・トゥゲザー』ではバリーは初めての “カンガルー・パック” を考案した。それは三つ折りになったアルバム・ジャケットを広げるとポスターになり、下の部分が袋状になったものだった。そしてその袋状の部分には一枚一枚がすべて異なる色とりどりのレコード盤が入っていた。これはバリーのアイデアで、前代未聞だった。デイヴ・メイスンのレコードは一枚一枚、それぞれが実際に違って見えた。というのも、バリーは生産工場に行き、工場長に頼み込んでレコードがプレスされる前の段階で、色のついた小さい球を煮えたぎるプラスチックに落としてもらったのだ。そんなわけで、レコード盤の一枚一枚が文字どおりの回転アートに見えた。
この加工を行なうためにアルバム1枚で14セントも余計に費用が掛かったし、工場の職人たちからは頭がおかしいと思われていた。しかし、このアルバムがレコード店に並ぶと、ヒップなファンたちの間でみるみる評判となり、大反響を呼んだ。ニューヨークのブロードウェイにある大きなレコード店では、このレコードをショウ・ウィンドウの中でターン・テーブルの上に乗せ、背後に鏡を立てかけて回転するロールシャッハ検査のように見せた。外では人々が立ったままじっと見とれていた。音楽が聞こえないにもかかわらず。
────────────────

WMLでの第8回・マイルス・デイヴィス『TUTU』はこちら。


第9&10回・最終回は、それぞれドクター・ジョンとダン・ヒックスについてをWMCとMLCで取り上げます。6月4日公開。どうぞお楽しみに。
Various Artists
『トミー・リピューマ・ワークス』

ワーナーミュージック・ジャパン
AOR、シティ・ミュージックの先駆者である今は亡き名プロデューサー、トミー・リピューマ。貴重な写真の数々を掲載したブックレットを収録した、音楽の自叙伝ともいえるCD3枚組45曲収録の楽曲集。

アメリカの音楽界だけでなく、日本のポップス・ミュージック・シーンにも多大な影響を与え、AOR、シティ・ミュージックの先駆者である今は亡き名プロデューサー、トミー・リピューマ。グラミー賞に33度ノミネートされ、5度受賞。彼のプロデュースしたアルバムは7,500万枚以上の売り上げを記録している。彼が携わったImperial, A&M, Blue Thumb, Warner Bros., A&M/Horizon, Elektra, GRP/Verveというすべてのレーベルから、彼が手掛けた代表的な楽曲を収録した、未亡人公認のオムニバスCD。ジョージ・ベンソン、マイケル・フランクス、マイルス・ディヴィス他アーティストの数々の名曲を収録。AORファン、フュージョン・ファン垂涎の貴重な写真を収録したブックレットが付いた、3枚組CD。

ブックレットには、マイルス・デイヴィス、マイケル・フランクス、ダイアナ・クラール、ドクター・ジョン、サンドパイパーズ、クロディーヌ・ロンジェ、ニック・デヵロ、アル・シュミットなどと撮影された、音楽史的に大変貴重な写真の数々を収録。

●トミー・リピューマ・プロフィール
1936年7月5日生まれの音楽プロデューサー、オハイオ州クリーヴランド出身。ジョージ・ベンソンはじめ、アル・ジャロウ、マイケル・フランクス、マイルス・デイヴィスやダイアナ・クラール等、ジャズ/クロスオーヴァー/AORの名盤とされる作品を数多くプロデュース、グラミー賞の受賞作も多数。2017年3月13日に他界、享年80。

その生涯をベン・シドランがまとめたのが評伝『The Ballad Of Tommy Lipuma』(2020年刊)で、邦訳版『トミー・リピューマのバラード ジャズの粋を極めたプロデューサーの物語』(弊社刊)として発売中。

この記事についてのコメントコメントを投稿

この記事へのコメントはまだありません

ブルース・ロック・アンソロジー[ブリティッシュ編]

ブルース・ロック・アンソロジー[ブリティッシュ編]

2,970円

CROSSBEAT Presents ブリティッシュ・ビート

1,980円
ディスク・コレクション AOR

ディスク・コレクション AOR

2,640円
AOR名盤プロデューサーの仕事

AOR名盤プロデューサーの仕事

2,200円

RELATED POSTS

関連記事

LATEST POSTS

最新記事

ページトップ