1月27日(土)東京・福生市民会館

THE BEATLES MEMORIES 〜NOW AND THENトーク&ライヴ〜イベント・レポート

ジョンが始めた物語をポールが閉じる──「Now And Then」は最後に相応しい曲だと思います

写真 前列中央から左に、杉真理さん、伊藤銀次さん、カンケさん、左端+後列THE BEAT☆RUSH。
1月27日(土)、東京・福生市民会館 大ホールに於いて「THE BEATLES MEMORIES〜NOW AND THENトーク&ライヴ〜」が開催された。トーク・ゲストにはビートルズはもちろん福生にも所縁のある伊藤銀次さん、杉 真理さん。演奏はトリビュート・バンドTHE BEAT☆RUSHがビートルズ・ナンバーを〈赤盤〉〈青盤〉期に沿って再現するという構成で行なわれた。司会はカンケさん(ラジオ日本「THE BEATLES 10」パーソナリティ)が担当。

第一部〈赤盤「THE BEATLES 1962-1966」〉サイド

「Love Me Do」 演奏:THE BEAT☆RUSH(以下同)

司会のカンケさんが登場。昨年末のビートルズ ラスト・シングル「NOW AND THEN」リリースから始まった、音楽ファンだけでなく世間一般を巻き込んだビートルズ・ムーヴメントを解説し、伊藤銀次さん、杉 真理さんを交えたトークを開始。

伊藤:僕の年代、すべての始まりがビートルズでした。中学の頃起こった空前のエレキブームの最中でも、ベンチャーズより海外のニュースで見たビートルズ4人がカッコよかった。レコードは友達から「プリーズ・ミスター・ポストマン」c/w「マネー」のシングル盤を借りて聴いた、その瞬間から、その切なさ、激しさに痺れました。ジョンやポールが首を振りながら歌う姿にも憧れました。
:僕は銀次さんより1〜2年後かな、映画『ハード・デイズ・ナイト』のオープニング・シーンがチョコのCMで使われたのを見て、嵐がやってくる感じがしました。

伊藤:最初〈赤盤〉が出た時(1973年)は、僕はそれまでの音源は全部持っていたので、敢えて買わなかった。でも、まさかそれから半世紀後に出し直されるとは思ってもみなかった。
当時お小遣いも少なかったから、ラジオをチェックしてビートルズを聴いてようやく買ったのが『ビートルズ・フォー・セール』。とにかくビートルズみたいなことをやりたくて、楽器は弾けないけどビートルズ好きと5人でバンドを組み、架空のアルバム・ジャケットを作りシングル曲のタイトルを考え、ライナーノーツを書いて世界進出を妄想した。しかしアルバム『ヘルプ!』日本盤に書いてあったポール・マッカートニーの股下の長さを自身と比べて断念。
誰も音楽教育を受けてないのに、歌詞を書き曲を作り、アレンジをし演奏し歌ったから、ひょっとしたら僕らにもできるのかな──と日本中、世界中の若者が思ったんじゃないでしょうか。そこから世界のロックが始まった気がします。
:伊藤さんと全く同じ理由で<赤盤>は今回初めて買ったので、すごく新鮮でした。

「I Saw Her Standing There」
「I Want To Hold Your Hand」


:<赤盤>の新装盤は、ジョンとジョージのギターの定位が以前の音源から変わっているし、ジョンがギターで色々細かいフレーズとかでカッコいいことをやってるし、それぞれのギターを楽しめた。60年代当時はモノラル盤が主流でメンバーもモノラルのトラックダウンにしか立ち会わなかったくらいですから、今回のリミックスによってステレオ盤がモノラル盤に対抗できる音作りになったと思います。
伊藤:当時はステレオ盤もアルバムによって片方歌、片方演奏という時期もありましたから、ビートルズをバックに歌うこともできた(笑)。後に沢田研二さんのアルバム『GS I LOVE YOU』の編曲をした時、エンジニアの吉野金次さんが同じような音像定位でミックスをされていて、ビートルズ中期の雰囲気がありました。
:当時ビートルズはアイドルでした、映画「ヘルプ」の邦題は「ヘルプ!4人はアイドル!」ですからね。ちょうど「アイドルを探せ」とか日本にアイドルという言葉が定着した時代。女の子たちが直感的にキャァーって叫んだことで、それまでの意識や価値観が変わるきっかっけになった、ビートルズがアイドルでよかったと思います。
カンケ:ビートルズが単なるレコーディング・アーティストじゃなくてアイドルだったからよかったのかもしれません。

「All My Loving」
「Roll Over Beethoven」
「A Hard Day’s Night」

この後、急遽決まった演奏ということで、杉さんがアコースティック・ギターを弾き、伊藤さんとのデュエットで、〈ジョンとポールがくんずほぐれつ歌う〉「If I Fell」が披露された。

伊藤銀次さん、杉真理さんと福生、大瀧詠一さん

カンケ:福生で伊藤銀次と杉真理が歌うというのは、ビートルズという側面以外の部分になりますが、大瀧詠一さんという共通項があります。伊藤さんは大瀧さんの一番弟子。
伊藤:大瀧さんに「やる気があるんだったらプロデュースするから東京に出てこい」と言われて1973年に大阪から引っ越してきました。東京だと思ったら福生でしたけど(笑)。ちょうど僕たちが来た頃に立川の米軍基地がなくなり米兵の住んでいた施設が「ジャパマハイツ」として払い下げられたので、一軒を借りてバンド・メンバー全員で大瀧さんの家の側に住む合宿状態になりました。

カンケ:杉さんはその頃のアメリカン・ハウスの「福生45スタジオ」には?
:『ナイアガラ・トライアングル2』(82年)に参加することが決まって、81年にお邪魔してビートルズをはじめ色々話した時に「アンナ」の話になって、大瀧さんが「オリジナル知ってるかい? これがいいんだなぁ」って言うから、「聴かせてください」って言うと、「今は、聴かせない」って言われたんです(笑)。
伊藤:僕も大瀧さんに「君はビートルズが詳しいらいしいね」って言われたので、「結構知ってると思います」と言ったら、「じゃあビートルズがアメリカで契約した曲とレーベルを全部言いなさい」って。ご存知だと思いますが、キャピトル・レコードが最初出すのを断ったので、仕方がないのでヴィー・ジェイ(VeeJay)とか小さいレーベルにバラバラに楽曲を発売てもらった。でも当時は知らなかったので、「申し訳ありません、僕、分からないです」って言うと、「そんなことも知らずにビートルズに詳しいなどと、よく言えたもんだな君は」って。
カンケ:杉さんも先ほどおっしゃってましたが、二人の共通するところは更にあって、『ナイアガラ・トライアングル』『ナイアガラ・トライアングル2』。大瀧さん関係だとちょうど「イエロー・サブマリン音頭」で、この曲は杉さんとプロデューサー川原伸司さんの発案ですか?
:僕も川原さんもビートルズが好きなので、冗談で「イエロー・サブマリン」を音頭でやってたのを大瀧さんに聴かせたら閃いちゃって。
カンケ:「イエロー・サブマリン音頭」には伊藤さんと杉さんの声が入っているんですよね。
伊藤:大瀧さんに急に呼び出されて、ただ音頭でやると言うのは一言も言わなかった。〈ビートルズをカバーするので所縁のある人、杉くん、佐野元春、伊藤銀次、この3人でコーラスをやりたい〉と。嬉しいな……とスタジオに入るとメガホンがあって、間奏のところの掛け声をやりたかったみたいで、「それぞれビートルズに因んだ一言を叫んでくれ」と。
:僕が呼ばれた時は〈リバプール関係者集まれ!〉(笑)。
伊藤:そこで杉くんが叫んだのが〈はざまけんじ!〉。
:シングル「イエロー・サブマリン」のカップリング曲「エリナー・リグビー」に出てくる〈Father Mckenzie(マッケンジー神父)>。
伊藤:佐野くんは自分のスタイルを崩さずに〈All Together Now〉。二人ともカッコ良すぎるでしょ、僕は昔観た潜水艦の映画での台詞〈目標400魚雷発射用意!〉。大瀧さんがそれでいいって言うので、僕だけ一人おかしな感じで入ってます。
カンケ:それがいいんです、それがトライアングル。では演奏の後休憩が入り、第二部の〈青盤〉サイドをお送りします。

「Yesterday」
「In My Life」
「Yellow Submarine」


第二部〈青盤『THE BEATLES 1967-1970』〉サイド

「Sgt.Pepper’s Lonely Hearts Club Band」
「With A Little Help From My Friend」
「Strawberry Fields Forevver」


カンケ:ビートルズは8年間(1962〜1970)を駆け抜けたバンドだと思います。その中で〈青盤〉はスタジオ・レコーディングの時代。
伊藤:ジョンとポールの才能はもちろんですが、アイドル並みに世界中でアルバムが売れたことで、彼らがレコーディングに費やす予算があったんです。一日あればアルバムが作れる時代に一曲に時間を費やすことができた。アイドルだったから才能があった彼らに凝った音楽を作らせる予算があった。それが世界中の他のミュージシャンに刺激を与えたし、ビートルズが門戸を開けた様々な音楽があるんです。そうやって60年代後半から70年にかけて英米の音楽がもの凄い勢いでガラッと変わった。
:ビートルズが世の中にいろんな可能性を振りまくと、その反面の部分も見えてきた。例えばヴェトナム戦争や各地の紛争、人種差別といった世情の圧力。そういったものに反発することもあって、音楽の流れも加速したんじゃないですか。
カンケ:この後の楽曲が加速度的に変化する時代の作品です。

「I Am The Walrus」
「Something」
「Get Back」
「Let It Be」


カンケ:後期の目眩く展開からラスト・シングルの「Let It Be」に辿り着いてしまいました。ところが、50年を超えてまさかの新曲が登場するんですね。
伊藤:30年くらい前にジェフ・リンがプロデュースに関わった「フリー・アズ・ア・バード」とかがありました。
カンケ:あれでもう最後と思っていた。
伊藤:ジョンの曲があったにせよ、こういう形ではできないと思ってました。ジョンの声だけを抜き出す──という技術が発達したんですね。
カンケ:率直な感想としては如何でした?
伊藤:ビートルズに影響されて自分の人生ができたのでで、切なかったです。しかもタイトルが「Now And Then」。まさにあの時、僕はビートルズと出会って、ビートルズが解散して、「Now And Then」でもう一度彼らからのメッセージが聞こえてきた時、世界中の人みんながそうだと思うんですけど、僕は自分勝手に、僕だけへのメッセージだと思いびっくりしました。──ジョンの声が切なかった。
:僕は聴くたびに変わってきます。最初は何か物足りない感じがして、もっとポールが出ていいんじゃないかと思ったんですけど、聴くたびにポールがどれだけ後方から演っているか、例えばジョンのデモ・テープにあったBメロを間奏のコード進行に合わせていく──とかが分かるんです。ジョージが亡くなった後にできた『LOVE』というアルバムでビートルズの曲からコーラスを抜き出すとか、今回のAIを使った技術とか、このままいくとポールが亡くなった後にもどんどん色々なことがやられてしまう。だからポールとリンゴが元気な今しかない!とポールは思ったと思うんです。これで終わりだ、と。ジョンが始めた物語をポールが閉じる──と。だから「Now And Then」を他のビートルズの曲と比べてはいけないと思うんです、最後に相応しい曲だと思います。
伊藤:改めてポールのプロデュース力に驚きましたね。
:ミュージック・ビデオを観ると、ポールのそういう立場が分かってグッときます。
カンケ:最初に、ビートルズ現役世代、赤盤青盤世代、『1』世代とか色々と言いましたけど、どの世代のハートにも届いた曲だったんじゃないかと思います。ビートルズが出す音は全然違うんです。
:ビートルズが〈OK〉を出したその時点でOK。
カンケ:銀次さんの世代から、今日来てくださった中の若い世代の方まで、全部聴き届けることができたということで、最後に「Now And Then」で今日のショウは終わりにしたいと思います。伊藤銀次さん、杉真理さん、ありがとうございました。

「Now And Then」

拍手が続く中、本当の最後!と、カンケさんの声がけで、THE BEAT☆RUSHに伊藤銀次さん、杉真理さんを交えたメンバーで「Hey Jude」を演奏、最後は場内一緒になっての大コーラスでイベントを締めくくった。

「Hey Jude」

場内大拍手の中 イベントは終了。

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