クイーン研究家・いしづみたかゆきのクイーンとプラチナ・ジュビリーを訪ねて6,000マイル![4]6月5日(日)クイーン+アダム・ランバート、ロンドン公演/後編

クイーン研究家・石角隆行(いしづみたかゆき)氏によるクイーンのツアー+エリザベス女王プラチナ・ジュビリー観戦記 in 英国「いしづみたかゆきの英国徒然漫遊紀行」第4回。今週は、先週その前半をお送りしたクイーン+アダム・ランバート公演レポート、その後半です。

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クイーンとプラチナ・ジュビリーを訪ねて6,000マイル!
いしづみたかゆきの英国徒然漫遊紀行④

QALロンドン10DAYSの初日、6月5日(日)O2アリーナ・レポートその2

石角隆行(クイーン研究家)

いきなりスミマセン。タイトルのマイル数、間違っておりました。東京-ロンドンは約9,600km、1マイルは約1.6kmなので正しくは6,000マイル。本連載から変更します。

QALロンドン10DAYSの初日、6月5日(日)O2アリーナの後編、始まります。
O2アリーナ入り口
私がQALを観るのは2020年1月の日本公演以来。2年ぶりに見て最初に感じたのがアダム・ランバートさん、大きくなられたなぁ……でした。アダムが初めてクイーンと合流してツアーを行なった2012年の写真と見比べてみてください。その頃はどちらかというと華奢な印象すらありましたが、2014年8月のサマー・ソニック、2016年の武道館に2020年の日本と回を重ねるごとに “大きく” なられています。今回、その姿を目の当たりにしてMLBの選手か!と思いましたもの。筋骨隆々のアスリート並の身体に変貌を遂げられましたが、この体型になって良かったのは、なんと言っても歌声。オペラ歌手やゴスペル・シンガーを見ていると声量や声の太さは大きな体軀がやはり有利。アダムさん、音域の広さは素晴らしいけれど、(ヴォーカルの)線が少々細い印象がありました。が、今やその声量は骨太の域に達し、ヴォーカリストとしての力量をまざまざと見せつけてくれました。また、その大きな身体ゆえ、フロントマンとしての貫禄も充分。プラチナ・ジュビリー・コンサートでオープニングに登場した堂々たる迫力にはしびれましたもの。

そして、もうひとつ。アダムの進化はクイーンの楽曲を自らの血と骨に取り込んでいることでしょう。このコラボレーションが始まった当初は、まだクイーンの曲を歌っているというポジションでした。2014年、2016年に2020年と見届けてきましたが、その度に自分の中にクイーンを同化させてきたと思えます。ブライアンとロジャーはトラディショナルなクイーン・サウンドを弾き出し、そこへ真正面からアダムは対峙しています。フレディの声跡をなぞることなく、自分なりのスタイルで。曲の節回しや抑揚をアダム流に解釈し昇華させる技術とセンスは見事! これこそがコラボレーションと言えるでしょう。
■ACT4/カインド・オブ・マジックのMVをステージで再現!

前置きが長くなりました。本編のレポートに戻ります。

今回のヨーロッパ・ツアーから、「ドゥーイング・オール・ライト」と「ドラゴン・アタック」(日本公演は “ボーン・トゥ・ラヴ・ユー”)が外れ、新しい曲2曲が入れ替えになりました。1曲は「輝ける日々」(本ツアーの後半では外れる日もありました)。そしてもう1曲は「カインド・オブ・マジック」。ライヴで演奏されるのは、2008年のポール・ロジャースとの「Rock the Cosmos Tour」以来、14年ぶり。コカ・コーラのCMに同曲が起用されたことでセットリストに入ったと思われますが、きらびやかなサウンドに美しくポップなメロディ・ラインのこの曲が加わり素直に嬉しいです。日本公演でも演って欲しかったです。ステージ上のスクリーンには「カインド・オブ・マジック」のMVやアルバムのジャケットに登場するカートゥーン・キャラクターたちのアニメーションが、曲に合わせて映し出されます。ギター・ソロ・パートではブライアンがセンターステージの先端まで走ってきて、ギター・ヘッドから火花を天井に向けて発射。MVのあのシーンを再現! これが3連発。続いてステージ正面、アダムが右手に持つスティックからも火花が炸裂。ド派手な演出で客席は湧きに湧きます。視覚的にも楽しめる「カインド・オブ・マジック」は間違いなく本コンサートの白眉のひとつと言っていいでしょう。

「テイク・マイ・ブレス・アウェイ」のアカペラ・コーラスに導かれ始まったのは「リヴ・フォーエヴァー」。アダムの真骨頂とも言うべく歌声をじっくり聴かせるコーナーです。下から上と縦横無尽に美声を響かせ客席を終始圧倒。会場には曲調に合わせてレーザービームが飛び交い、アダムのヴォーカルを彩ります。

そしてブライアンのソロ・コーナーに。デビュー直後の1973年9月、ロンドン・ゴルダーズ・グリーン・ヒッポドロームで「サン・アンド・ドーター」(曲間にギターソロ・コーナー)を演奏以来、クイーンのコンサートには毎回必ず設けられるブライアンのギターソロ・コーナー。本「ラプソディ・ツアー」ではその演出がパワー・アップ。なんとブライアンが巨大な隕石に乗って天井に向かって、ゆっくりと上昇。そこは惑星や恒星が浮かぶ宇宙空間。天空でブライアンが優しく奏でるのは、ドヴォルザークの交響曲「第9番・新世界より/家路」。日本では下校時間のBGMとしてよく流れていた、あの曲です。郷愁を誘う優しいメロディに、幻想的な宇宙の大銀河は聴覚と視覚双方に働きかけ、実に癒やしてくれます。O2アリーナが巨大なプラネタリウム空間になったよう。天空ステージはゆっくりと地上に向けて下降。再び地上に降り立ったブライアンはセンターステージに歩み寄り、一転してアグレッシヴなギター・ソロを披露。この緩急の切り替えが鮮やか! 約9分間のブライアンのソロ・コーナーは、このまま「タイ・ユア・マザー・ダウン」に突入。いよいよ最後のパートに移ります。
■Act 5/「BO RAP」のフルコンプ演奏!

「タイ・ユア・マザー・ダウン」で幕を開けた最後のブロック。「ショウ・マスト・ゴー・オン」ではアダムの太く繊細な声を場内の隅々まで響き渡せ、「RADIO GA GA」ではO2アリーナに集まったオーディエンス全員のハンド・クラッピング。場内はこれ以上ないほどヒート・アップする中、始まったのは「ボヘミアン・ラプソディ」。これまでライヴではセカンド・パートのバラードから演奏されていたこの曲ですが、冒頭のコーラスをHD音源から流し、「I’m just a poor boy〜」で、スポットライトの中に浮かび上がったアダムが歌い始めます。ギター・ソロになると銀の鉄仮面を被ったブライアンが、センターステージ下からせり出しで登場。オペラ・パートではスクリーンにMVでのコーラス映像が映し出され、ハード・ロック・パートからは一気呵成に駆け抜け、最後はロジャーが銅鑼ではなくティンパニを叩いてラプソディ・ツアーの本編を締めました。

「ボヘミアン・ラプソディ」が初めてフルコンプ演奏されたのは2002年のバッキンガム宮殿でのゴールデン・ジュビリー・コンサート。QALでは2017年のUSAツアーから取り入れられています。2005年のQ+PRツアーではバラード・パートはフレディの映像と音声で、ポール・ロジャースはハード・ロック・パートからの登場。初期のQALツアーでもバラード・パートの前半をアダム、後半はフレディ映像&音声という形で「ボヘミアン・ラプソディ」は演奏されてきました。「ラプソディ・ツアー」は映画の大ヒットを受けてのツアー。映画以降のファンにとってフレディは亡くなっていることが前提のレジェンド的な存在。映画公開以前はフレディを意識した演出の同曲でしたが、このツアーでようやく “親離れ” 出来たように思えます。フレディの映像を映し出すのもロジャーの「輝ける日々」とブライアンの「ラヴ・オブ・マイ・ライフ」のコーナーのみに留めていました。もっとも「ボヘミアン・ラプソディ」でのアダムは、スポットライトを正面からではなくバックから当ててシルエットの中で歌っていました。フレディに敬意を表し、この曲であえて黒子に徹する。そんなアダムの真摯な姿勢が感じ取れました。

■Act 6/Encore 英国ならでは?伝説のチャンピオンのウェイヴが超高速!

アンコールは1985年のライヴエイド会場ウェンブリー・スタジアムの「Ay‐Oh」から始まります。ステージにはホログラムでフレディが登場。客席はフレディとのコール&レスポンスをヴァーチャル体験。間髪入れず “ドン・ドン・パッ” の「ウィ・ウィル・ロック・ユー」に突入。ブライアンは前日のプラチナ・ジュビリー・コンサートで着用したキツネや鳥、草木に昆虫がプリントされたロング・コートで登場し客席を沸かせます。ここでラストの「伝説のチャンピオン」で少々違和感が……。O2のお客さんと一緒に大声で歌っており(イギリスはコンサート中の声出しOKです)、サビのパートになると右腕を掲げ大きく左右に振りますよね、ここ。いつものように “We are the Champions〜” と歌いながらゆっくりと右腕を振る筈だったのですが、周囲を見渡すと、自動車の高速ワイパーか!と思えるほどのスピードで左右にウェイヴ。最後の曲ですから、それまでの余韻を噛み締めながら、ゆっくりと腕を振るのが日本。英国ではパフォーマンスの素晴らしさを讃えて送り出すという意味合いがあるんでしょうか。国民性の違いを感じました。これ、ロンドンだけじゃなくグラスゴーでもそうでした。もっとも、かくいう私も郷に入ればと、高速ウェイヴの流れに乗ってはいましたが。

そして最後は「ゴッド・セイヴ・ザ・クイーン」。これも英国ならではですが、みなさん歌詞を覚えいてる。イギリス国歌ですから当たり前でしょうが、観客全員が誇らしげに歌う姿は実に壮観です。折しもプラチナ・ジュビリー・ホリデーの最終日だっただけに、ロンドンの人達にとっては格別の思いがあったのでしょう。

●2022年6月5日(日)ロンドンO2アリーナ/セットリスト
※( )は初出アルバム/リリース年度

■Act 1
1. ナウ・アイム・ヒア(『シアー・ハート・アタック』1974)
2. テア・イット・アップ(『ザ・ワークス』1984) 
3. 輝ける7つの海(『クイーン II』1974)
4. ハマー・トゥ・フォール(『ザ・ワークス』1984)
5. 愛にすべてを(『華麗なるレース』1976)
6. キラー・クイーン(『シアー・ハート・アタック』1974)
7. ドント・ストップ・ミー・ナウ(『ジャズ』1978)
8. 神々の業(リヴィジテッド)(『シアー・ハート・アタック』1974)
■Act 2
9. アイム・イン・ラヴ・ウィズ・マイ・カー(『オペラ座の夜』1975)
10. バイシクル・レース(『ジャズ』1978)
11. ファット・ボトムド・ガールズ(『ジャズ』1978)
12. 地獄へ道づれ(『ザ・ゲーム』1980)
13. アイ・ウォント・イット・オール(『ザ・ミラクル』1989)
■Act3/B-stage
14. ラヴ・オブ・マイ・ライフ(『オペラ座の夜』1975)
(Brian on vocals ; Freddie sings the last verse on-screen))
15. '39(『オペラ座の夜』1975)
16. 輝ける日々(『イニュエンドウ』1991)
17. 愛という名の欲望(『ザ・ゲーム』1980)
18. アンダー・プレッシャー(『ホット・スペース』1982)
■Act 4
19. カインド・オブ・マジック(『カインド・オブ・マジック』1986)
20. ブレイク・フリー(自由への旅立ち)(『ザ・ワークス』1984) 
21. テイク・マイ・ブレス・アウェイ(『華麗なるレース』1976)
〜リヴ・フォーエヴァー (『カインド・オブ・マジック』1986)
22. ギター・ソロ(featuring 交響曲第9番・新世界より/ドヴォルザーク)
■Act 5
23. タイ・ユア・マザー・ダウン(『華麗なるレース』1976)
24. ショウ・マスト・ゴー・オン(『イニュエンドウ』1991)
25. RADIO GA GA(『ザ・ワークス』1984) 
26. ボヘミアン・ラプソディ(『オペラ座の夜』1975)
■Act 6/Encore
〜Ay‐Oh(『ボヘミアン・ラプソディ オリジナル・サウンドトラック』2018)
27. ウィ・ウィル・ロック・ユー(『世界に捧ぐ』1977)
28. 伝説のチャンピオン(『世界に捧ぐ』1977)
29. ゴッド・セイヴ・ザ・クイーン(『オペラ座の夜』1975)

この日は、6月2日のグラスゴーから6月4日のバッキンガム宮殿と休みなしの5日連続公演だけにメンバーの体調を心配しましたが、そんな懸念を吹き飛ばすような圧巻のパフォーマンス。2時間20分に及んだラプソディ・ツアー初日を無事完走しました。

さて、「ラプソディ・ツアー」のロンドン公演、オンデマンドでの配信が決定しました! 7月25日から31日までオンライン視聴できます。詳しくは下段のリンクを参照してください。

livestream.queenonline.com
Queen + Adam Lambert: Rhapsody


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次回最終回は、英国徒然漫遊記エキストラ。ロンドン市内のクイーン聖地巡り&クイーンと同時期に活躍したABBAのデジタル再結成ライヴを書きます。もうしばらくお付き合いください。
今回の戦利品一覧、パンフ、Tシャツ2枚。
戦利品①、ツアーTシャツ
戦利品①ツアーTシャツのバック。欧州ツアーの日程をプリント
戦利品②、フレディTシャツ
■石角隆行の著作
クイーン 誇り高き闘い

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ジャッキー・スミス/ジム・ジェンキンズ(著)
田村亜紀(訳)
クイーン 輝ける日々の記憶 浅沼ワタル写真集

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