【特別企画】ギルバート・オサリバン × 杉 真理・スペシャル対談

「曲作りは、途中からどうなっていくのか想像が つかないのが面白い」──ギルバート・オサリバン

新作アルバム『DRIVEN』を携えて、この秋行なわれたギルバート・オサリバンの『The DRIVEN Tour Japan 2023』。最終日10月14日の終演後に、オサリバンの大ファンでもあるシンガー/ソングライターの杉 真理さんとの対談が行なわれた。会場は 東京「かつしかシンフォニーヒルズモーツァルトホール」。同ホールではこの春に杉さんもコンサートを行なっている。
商品詳細
ギルバート・オサリバン
『ドリヴン』


CD(2022/7/22)¥2,405
1. ラヴ・カジュアリティー
2. ブルー・アンカー・ベイ
3. レット・バイゴーンズ・ビー・バイゴーンズ(フィーチャリング・ミック・ハックネル)
4. ボディ・アンド・マインド
5. ホワット・アー・ユー・ウェイティング・フォー?
6. レット・ミー・ノウ
7. テイク・ラヴ(フィーチャリング・KTタンストール)
8. バック・アンド・フォース
9. イフ・オンリー・ラヴ・ハッド・イアーズ
10. ユー・キャント・セイ・アイ・ディドゥント・トライ
11. ユー・アンド・ミー・ベイブ
12. ヘイ・マン
13. ドント・ゲット・アンダー・イーチ・アザーズ・スキン
14. アワ・シルヴェスター(日本盤ボーナス・トラック)
杉 真理(以下 杉):Nice to meet you! 素晴らしいコンサートでした。今回もセットリストが素晴らしかったんですけれども、ヒット・ソングの他に初期の名曲「If I don’t get you(back again)」(71年『Himself』収録)や新作の『DRIVEN』からの「Blue Anchor Bay」もあって、選曲する時は大変じゃなかったですか。

ギルバート・オサリバン(以下オサリバン):みんな「If I don’t get you( back again)」は気に入ってくれているんだ。いい曲がたくさんあるというのはいいことでね。新しいアルバムから3~4曲、あとはそれまでの曲をやることになる。そして年が変わると、「Houdini Said」(『Himself』収録)とか他の曲を入れる。それはすごく僕にとってはいいこと。たくさんの選択肢があるということだから。

:今の世界状況からも、とくに「Where peaceful waters flow」(73年『I’m a Writer, Not a Fighter』収録)とか「Let bygones be Bygones」(『DRIVEN』)の2曲が心に沁みました。これらを選曲した思いや気持ちを教えて下さい。

オサリバン:イギリスやヨーロッパでは、「Where peaceful waters flow」は聴衆のみんなと歌ったりする、日本では(言葉の壁もあって)歌わないけど。曲のメッセージは、今この世の中で起こっていることに照らして、意味があるからね。「Let Bygones Be Bygones」は、いわゆる「ブレグジット」(イギリスの欧州連合離脱)についての曲だと言われることもあるけれど、特にブレグジットのことについて歌ったわけではなく、互いに言い争ったり意見の不一致があったりしても、いろいろなことを水に流して忘れよう、前を向いて行こう、ということなんだ。

曲作りについて

:あなたの曲はいつもいいメロディと途中の展開する部分が素晴しいと、僕は思っているんですが、新作『Driven』の「Take Love」でキーがB♭から始まってC#に移る──、あの曲を書き始めたときから、こんな風に転調しよう、というアイデアが頭にあったのでしょうか?

オサリバン:曲作りは、メロディを作って行って途中のミドル・セクションのところにきたとき(ミドル部を作るのが好きなんだ)、そこからどこに行くのか、自分でも想像がつかない。時には、ある方向に作って行ったら収拾がつかなくなって戻れなくなる。でも、その試行錯誤するところが曲作りの醍醐味、面白いところ。「Take Love」はミドルのところで違うコードを使って実験的にやってみた。それが楽しかった。曲作りはどうなっていくのかわからないところが面白いよ。

:今回のアルバムでもすべての曲で途中のミドルの部分がどれも素晴らしい展開をしていて、どこに行くんだろうと思って……でも、必ず上手に戻ってくるじゃないですか。それって、何か数学的な才能を必要としているんじゃないかと思うんですが(笑)。数学とか科学はお好きでしたか?

オサリバン:そうは思わないな。僕は、自分の曲作りを分析したりはしないんだ。自己分析するのはすごく危険でね。つまり、音楽はピアノを弾いて、カセットを用意して録音する。いいメロディが浮かんだら録音して、またいいメロディが浮かんだら録音しておく。いいメロディはずっと残ってくれるからね。でも歌詞は違う。歌詞は、いったんできたものを使わないでいると、古びてしまう。「Take Love」のメッセージも、まさに今の世界の現状を歌っていて、いま君が実際に手にしているものに対して希望を持てよ、ということ。今の世界、火事や洪水で被害を受けないところはないからね。歌詞は真っ白なノートにいくつか書いて行くけど、使わないものもある。その時々にあったものを使うんだ。

:他のすべての曲に関してもミドル部分で展開して、元のキ―に戻るその瞬間がすごく気持ちいいんですけども、それも自然に戻って来るんですよ。まさに「Come back again naturally」 (「Alone again naturally」のもじり)というか、それがすごいな、といつも思ってます。

オサリバン:自然と戻るのは(本当は)難しい、「Alone Again」がいい例でね。ミドルのところはその前の部分と関係ない、最初の部分とは関係ないんだ。そこの歌詞も最初の歌詞と関係なく、ミドルが終わると歌詞の内容もまた最初の話に戻ってくる。キーも変わるし歌詞の中身も変わる。「Alone again」はクラシカルな例だよ。

レコーディングとライヴ

:イタリアの歌手のフィリッパ・ジョルダーノとの「Matrimony」(2018年『Friends & Legends Duets』)のデュエットですが、あれは実際に一緒にスタジオでやったのでしょうか。素晴らしいバージョンなのですが。

オサリバン:んー、そんなのやったかな・・・思い出せないけど・・・やったような気もする──いや、あれは一緒にはやってない。声を送ってもらって、声を録音してまた向こうに送り返したんだ。技術の賜物だね。
写真左よりG・オサリバン、中野学而、杉 真理。
:あなたの声は素晴らしいんですけども、歌をシングルにするかダブル(声を重ねること)にするかというのは、どういう風にして決めるのですか?

オサリバン:70年代の初め頃は多くの人がダブルトラックにしていた、そういうのがすごく流行ったんだ。ジョージ・マーティンが好んでいて、ビートルズも『A Hard Day’s Night』(64年)でもよくやってたよ、「I Should Have Known Better」とかで。ジョン・レノンはダブルトラックを嫌ってた、ポール・マッカートニーは好きで上手かったけどね。今では、僕もあまりしないな。ダブルトラックというのは、まだ歌がよくない時にはすごく効果が発揮されるんだよ。でもうまい歌手には効果はない。だから僕の曲でダブルトラックが効果を発揮したのは初期の頃1970年とか1971年、まだ歌い方がちゃんと確立していない時。今は歌い方をマスターしたから、必要性を感じないよ。いいシンガーにダブルトラッキングが必要ないのは面白いね。

:デビュー当時のテレビ番組で、あなたがオーケストラの人達と演奏している姿を観たことがあるんです。全然臆することなく堂々と歌っているんですが、ステージであがってしまうなんてことなかったんですか。

オサリバン:デビュー当時はオーケストラとはやってない。最初にやったのは少なくとも1972年。最初のライブは1972年の11月。「Alone Again」「Clair」「Get Down」とか単独ではあるけど、でも、ライヴコンサートではなかったな。

:コンサートではなくテレビ番組で、ですね。ずいぶんと堂々としているようでした。

オサリバン:いや、そう見えただけで、実際はそうじゃなかったんだよ(苦笑)。あの時にはずいぶんいろんなことを学んだね。歌うことに関しては、まだまだ経験が少なかった。経験していくことで歌がよくなっていったんだよね。1971年、曲を書き始めた頃、曲はレノン=マッカートニー、歌はボブ・ディランになったつもりで書いたり歌ったりしたよ。ディランは特別いい声をしているというわけではないだろう? 僕にとっては素晴らしい声だけどね。僕は声がいいわけではないから、他人の曲は歌わない。他人の曲を歌うときは、すごくナーヴァスになる。歌は自分の曲を歌うときだけ自信を持てるんだ。独特の声だろ? 昔は緊張したけど、今はステージを楽しんでいる。快適だよ。

転調と楽譜について

:またキーに関する質問で、しつこいんですけど(笑)、「Clair」(72年)のミドル部分で半音あがっているのに、いつの間にか元のキーに戻っているという、あのマジックのような展開、一体どうやってああいう風になったのか、覚えていらっしゃいますか。

オサリバン:そうか……君はソングライターだからこういう質問になるんだね。
OK。それも最初はメロディからスタートして、出来たメロディはそのまま置いておくんだ。1972年は2枚目のアルバムの制作中だった。マネージャーはゴードン・ミルズだったけど、彼の娘たちの面倒をみていて、それで彼らのために書いたものをみんなが気に入ってくれた。先ほどの話に戻るけど、コードを試行錯誤しながらあっちに行こうか、そっちに行こうかとやる。(先ほど言ったように)曲を書く時はそれが楽しいんだ。だから「Clair」でもマイナーに飛んで、そしてまた戻ってくるのさ。

:なるほどね。ちなみに、実は僕も4月にここのホールで(コンサートを)やったんです、ここのホールはどうでしたか?

オサリバン:素晴らしかった。サウンドがすごく良かったよ。君はバンドでやって、楽器も演奏して歌ったの?

:そうです。

オサリバン:ピアノ、それともギター?

:ギターですね。

オサリバン:そりゃクールだ! それじゃ、僕にレコード下さい。

:実は5年くらい前、一回渡したことがあるんです。

オサリバン:じゃあ、もう一つ欲しいな。聞きたい!

:新しいのを持ってきていますので、お渡ししますね。あと、譜面には全然こだわらないと聞いたんですけど、本当ですか?

オサリバン:うん、譜面は書けない。多くの現代の多くのアーティストが楽譜は書けないよ。レノン=マッカートニーとかね。

:僕は、キーのこととかコード進行のことは、ビートルズと、あなた、それからアーヴィング・バーリン(作曲家「White Christmas」が有名)から学んだんですけど、その3組とも譜面はほとんど読まないというのを聞いて、納得しました。

オサリバン:そうだね。みんな音楽を作り上げるだけだ。アーヴィング・バーリンは、ワン・キーで演奏する。一つのキー(調)だけで演奏してそれを移調してるんだ。アップライトピアノでキーを変換するのは簡単なんだけど、僕はグランドピアノでそれに似たことをやったんだ。いつも、コンサート・ピッチから半音下げてやっている。それにしても、キーを変えないなんて、バーリンはすごいよね。

:バーリンは、確か黒鍵だけで弾いていたんですよね?

オサリバン:そうそう、同じキーでしか弾けなかったんだ!

『Driven』に込めた意味

:では、これで最後の質問ですけど、『Driven』というタイトルはどういう風につけたんですか?

オサリバン:それは、まさに僕自身の状況を指しているんだよ。誰しも、自分を衝き動かすものがあるだろう? そしてそれに向かって努力するだろう? 僕はいま76歳、庭いじりもするし杖も使う。まさにそれが、driven(「駆り立てられる」)ということなんだ。自分の中に、そういう衝動ってあるよね。僕は曲を作るのが大好きなんだ。
そうじゃなかったら、ここで演奏して歌ってなんかいない。曲作りはとてもパーソナルなことで、人は僕が歌う歌を気に入ってくれる。だからだよ、僕が他の人の曲を歌ったりしないのは。だって、歌が上手いわけじゃないし。僕が自分の曲を歌う、それをみんなが気に入ってくれる。自分が作って自分で歌って……それが自分を衝き動かしているものだ。だから、とてもいいタイトルだと思うよ。

:なるほど、その通りですね。コンサート後に長い時間お付き合いくださって、ありがとうございました!

撮影:平岡裕子、通訳:中野学而、コーディネイト:平見勇雄、
取材協力:トゥモローハウス

ギルバートマニア

ギルバートマニア

3,300円
1967年にデビューして今年で音楽生活56 年のキャリアを誇るギルバート・オサリバン。類まれなメロディーメーカーとして現在も休むことなく音楽活動を行っている彼の、これまでリリースした音源の全貌とキャリアを追った初のアーティスト・ブックです。

ギルバートマニア

著者:平見勇雄 /英文要約:平岡裕子
A4判/272頁オールカラー/定価:3,300円(税込)
商品詳細
ギルバート・オサリヴァン
『Gilbert O'sullivan』


Amazon Music・MP3(2018/8/24)¥1,500
商品詳細
Gilbert O'Sullivan
『Back to Front』


CD(2012/3/16)輸入盤
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