カーペンターズのソングライター、ロジャー・ニコルスが84歳で死去

1940年にモンタナ州ミズーラで生まれたニコルスは、1968年にアーティストとしてA&Mレコードと契約し、同年ヴァン・ダイク・パークスやランディ・ニューマンらが参加したデビュー・アルバム『Roger Nichols and the Small Circle of Friends』をリリースしました。同作はチャート入りを逃したものの、ニコルスの才能を評価したA&Mの共同創始者ハーブ・アルパートが、ニコラスにA＆Mの音楽出版社のスタッフ・ソングライターになることを勧め、ここからニコルスと作詞家ウィリアムズとのコラボがスタートしました。

ニコルスとウィリアムズは70年代初頭、最も注目されたポップ・ソングライティング・チームの一つとなり、彼らが共作したカーペンターズの「We’ve Only Just Begun」と、スリー・ドッグ・ナイトの「Out in the Country」が同時に大ヒットし、前者は1971年にグラミー賞の2部門にノミネートされ、1998年に「グラミーの殿堂」入りを果たしました。

二人はその後もカーペンターズの曲を書き続け、USチャートの第2位を記録した「Rainy Days and Mondays」や、「Let Me Be the One」（邦題「あなたの影になりたい」）、「I Won’t Last a Day Without You」（邦題「愛は夢の中に」）などがヒットしました。

後者の「I Won’t Last a Day Without You」は、バーブラ・ストライサンドが1974年のアルバム『ButterFly』にカヴァー・ヴァージョンを収録し、ストライサンドは翌1975年のアルバム『Lazy Afternoon』にも、二人が共作した「I Never Had It So Good」を収録していました。

また、アート・ガーファンクルは、1973年の初ソロ・アルバム『Angel Clare』に二人が共作した「Traveling Boy」を収録し、サード・シングルとしてリリースしています。

このほか、ニコラスはウィリアム・レーンとも共作しており、ポール・アンカが1975年にレコーディングした「Times Of Your Life」は、コダックのCMに起用され、USチャートで7位を記録しました。

その後ニコルスは引退しましたが、彼の曲は引退後も生き続け、R.E.M.は2003年のシングル「Bad Day」のB面にスリー・ドッグ・ナイトのカヴァー「Out In The Country」を収録、英シンガー／ソングライターのルーマーは、2012年のアルバム『Boys Don’t Cry』にガーファンクルのカヴァー「Traveling Boy」を収録しています。

そんなロジャー・ニコルスをどこよりも大きく評価したのが、我が国のファンでした。1968年リリースの当時唯一のアルバム『スモール・サークル・オブ・フレンズ 』が1987年に世界で初めて日本でCD化されると、それをきっかけに殊1990年代には、長年愛し続ける山下達郎のようなベテラン・ファンに加え、フリッパーズ・ギターやピチカート・ファイヴなど若い世代の渋谷系のミュージシャンらも含めた多くの熱心なA&Mポップス〜ソフト・ロック・ファンを中心に、 “ロジャニコ・ブーム” が巻き起こることに。

アルバム『スモール・サークル・オブ・フレンズ』はその象徴的な一枚として愛され、1997年にはボーナス・トラックを加えたコンプリート盤や、1995年には日本制作でのニコルス28年ぶりのアルバム『Be Gentle With My Heart』をリリース。きわめつけはニコルスに加えマレイ＆メリンダ・マクレオド兄妹のオリジナル・メンバー3人でが再結集し、スモール・サークル・オブ・フレンズとして40年ぶりのセカンド・アルバムも日本のビクター制作で世界に先駆け発売。グループとしては2012年に3作目『マイ・ハート・イズ・ホーム』もリリース。雑誌での特集だけでなく多数の研究書籍も出版され、今年の8月には、世界初／国内初CD化の曲も多数含めた40曲超もの彼の楽曲を集め、ニコルス自身が監修を務めた『ロジャー・ニコルス・ソングブック』が発売される予定となっていたのですが、今回の彼の死はそんな矢先の出来事でした。

安らかなる眠りをお祈りいたします。