米国ルーツ・ミュージックの多様さを体現したザ・マーヴェリックスのラウル・マロ他界、享年60

フォーク／カントリー／テハーノ／ブルース等、様々なアメリカのルーツ・ミュージックを内包／体現する米国のグループ、ザ・マーヴェリックスのリード・ヴォーカリスト、ラウル・マロが死去しました。結腸癌を患い2年間の闘病の末他界、享年60でした。妻のベティ・マロが、ラウル自身のフェイスブック・ページに、英語とスペイン語で旅立った彼に向けたメッセージを投稿しています。

「2025年12月8日午後8時52分、私の愛する人……息子たちの父親……献身的な息子にして兄弟……そして多くの人にとっての良き友人、そんな彼は天使の翼を手に入れました。 彼は別のギグをするように呼ばれました──今度は空で──そして彼は鷲のように高く飛んでいます。

人生と愛、喜びと情熱、家族、友人、音楽、そして冒険。私たちの愛するラウルがやってきたようなやり方を体現できる人は、彼をおいて誰もいません。 今、彼は天が許すすべてのものを持って、私たちを見下ろし、道を照らし、一瞬一瞬を味わうことを思い出させてくれるでしょう。

ディノ、ビクター、マックスと私──家族全員と一緒に──このすべてを通して、あなたの愛とサポートに感謝します。 私たちはその全てを感じていました。

ラウル自身の言葉で──『ムチシマス・グラシアス（どうもありがとう）』」

ラウル・マロは1965年、キューバ移民の両親のもとマイアミで生まれ育ちました。エルヴィス・プレスリーやハンク・ウィリアムズを愛し、成人して1993年からはテネシー州ナッシュヴィルへと拠点を移して活動。そして1989年にマイアミでマーヴェリックスを結成することになります。

マーヴェリックスでラウル・マロはリード・ヴォーカルとギターを担当。ロイ・オービソンにも例えられる透き通ったクリアトーンの歌声を武器に、この他ポール・ディーキン（ドラム）、ロバート・レイノルズ（ベース）、ベン・ピーラー（ギター）で結成。インディ・レーベルで1枚のアルバムをリリースした後、バンドはMCAナッシュヴィルと契約。2000年に解散するまで、MCAでは4枚のアルバムのアルバムをリリース、このうち『ミュージック・フォー・オール・オケージョンズ』は、1995年当時日本盤CDでもリリースされています。

グループの解散後はソロ・アーティストとして再出発。音楽性の多様さをグループ時代よりもさらに加速させ、キューバのルーツを前面に出した2001年の『Today』以降、バンドがリユニオンする2013年までの間に7作のソロ・アルバムをリリース。「オペラ的」「カントリー・ヨーデル」と称される艶のある歌声の魅力はこの時も変わりありません。

ソロ活動以外にも彼はロス・スーパー・セヴンの一員としてもアルバムに参加。このロス・スーパー・セヴンはいわゆるグループというよりは流動的なユニットであり、しかもその顔ぶれはその名の通りスーパーグループそのもので、フレディ・フェンダー、デヴィッド・イダルゴ／セサル・ロサス／スティーヴ・バーリン（ロス・ロボス）、フラーコ・ヒメネス（今年7月に他界：8月19日MLCニュース参照）、ダグ・サーム、ジョー・イーリーなど錚々たる顔ぶれが名を連ねています。そこでマロは参加した2001年の『Canto』、2005年の『Heard It on the X』のいずれもオープニング・トラックでのリード・ヴォーカルという大役を務めていました。

マーヴェリックスは2003年にサンクチュアリ・レコードでのアルバムのために再結成、ギタリストが交代しツアーでのキーボード奏者が正式加入。マロと二人のオリジナル・メンバーに新たな顔ぶれを加えた5人としてのマーヴェリックスは、2013年、2015年にもニュー・アルバムをリリースしました。

グループは音楽的な評価も商業的な成功も収めましたが、メディア側はその多様な音楽スタイルをどう扱えば良いのか分からなかったようで、メインストリーム・チャートでのヒットにはほとんど縁がありませんでした。しかしライヴ会場では熱狂的なファンの支持を受け、その歴史の中でグラミー賞を1回、CMA賞（カントリー・ミュージックアソシエーション）を2回、ACM賞（アカデミー・オブ・カントリーミュージック）を3回受賞しているという実績を残しています。

そして12月5日と6日には、ナッシュヴィルのライマン・オーディトルアムでマロとマーヴェリックスの業績をたたえるチャリティショウが開かれました。しかしその前日に容体が悪化しマロは救急搬送され、会場に足を運ぶことができず。そのまま8日に息を引き取ったということです。

安らかなる眠りをお祈りいたします。