【連載】

『マル・エヴァンズ もうひとつのビートルズ伝説』刊行記念トーク・イベント・レポート

松田ようこ × ピーター・バラカン「ビートルズのそばにいる日常」

【最終回】

参加者からの質問「〈俺たち1週間に8日働かされてるんだよ〉」、この言い回しの真相は?

・日時:2025年1月22日(水)19時30分~21時30分
・場所:下北沢 本屋B & B
・参加者:ピーター・バラカン、松田ようこ
・テキスト協力:島乙平

7回にも及んだ『マル・エヴァンズ もう一つのビートルズ伝説』発刊記念トークイベント・レポートも、今回がいよいよ最終回。実はトークショー的には前回の第6回で一区切りしており、今回の最終回はボーナストラック的に、本編後に行なわれた、当日会場にいらしたみなさんとの質疑応答になります。中には見出しのような面白いご質問も!……って、このご質問をなさったのが実は──!? ということで最後までごゆっくりお楽しみください。長い間お付き合いいただきどうもありがとうございました!
 
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「あまりに忙しくて、マルが、〈俺たち1週間に8日働かされてるんだよ〉という意味で、 “Eight Days A Week” と言って、それをジョンが「面白い」って歌にしたというのは書いてあったんですけど、それはマルのオリジナルの言い方だったのか、それともイギリスとかリヴァプールでは割とよく使う表現なのか?」
マル・エヴァンズ Q&A

松田:さて、皆さんの方からも何か質問とか、あればここでお受けしたいと思うのですけれども、いかがでしょうか?何か気になったこととか? どうぞ。

Q:亡くなった時のこともあって、60年代って西部劇はイギリスではああいうふうに流行ってて、彼はピストル、ガンのコレクションもしてますよね。ああいうのは、イギリスでは結構多かったんですか?
バラカン:一時期、映画っていうと西部劇がやたらに多かったんですよ。僕が子供の頃はまだそうでした。あと、一番人気のあるテレビドラマは、半分は多分西部劇だったと思います。だから、カウボーイズ・アンド・インディアンスという、そういうふうに言ってたものなんですけど、僕らぐらいの年は、もう小学生の時にね、一番憧れた世界かもしれない。僕らもね、七歳八歳ぐらいの時にね、カウボーイ・インディアンごっこ、安いそういう衣装みたいなものも誕生日プレゼントでもらって、おもちゃのピストルで遊んでたもん。それが変わるのはいつ頃かな? 60年代に入るとね、だんだんああいう、西部劇のテレビドラマも少なくなったし、映画ももっと多様になりましたね。いわゆるアメリカン・ニューシネマが形になるのは60年代半ばから後半ですよね。それまでの60年代の前半は『ガンスモーク』だとか、『ボナンザ』だとかね。こう西部劇が舞台になっているようなテレビドラマはものすごく多かったです。だから、マルは僕より15歳ぐらい上だから、もろにあれが一番の娯楽だった時代に、子供の時代過ごしてるもんね。
松田:ああ、そういうことだったんですね。ああ、大嫌いなアラン・クラインとも一緒に映画に出たりして。『盲目ガンマン(Blindman)』(リンゴ・スターも悪役で出演)。
バラカン:そういえばそうだそうだ。
松田:大嫌いな相手が一緒でも西部劇に出られるのは嬉しかったんですよね。

Q:お2人にお聞きしたいんですけれども、マルがドラッグをやっていなかったら、ロスアンゼルスで彼はああいう形で亡くならなかったと思いますか?
バラカン:ドラッグやったことがどのくらいの影響を及ぼしたか? あの時代、70年代の前半から半ばもっと後まで、特にLA、ニューヨークもそうですけど音楽業界でドラッグをやってない人はいないぐらいなんですね。で、当時の西洋ではマリファナはもちろん違法ですけれど、そんなに危険なものというふうにみんな思っていないものですね。あれに比べたらコカインっていうのは本当に危険なものだったと思います。60年代はだいたいマリファナ中心なんですね。で、アメリカは70年代になるとコカインに。
松田:そうです。
バラカン:でビートルズもある程度……。
松田:コカインはジョンがやったけど、LSDも……。
バラカン:人によってLSDが合う合わないっていうのがあるみたいで、ものすごく頻繁にやってた人もいれば、1、2回やって、もうちょっとこれはあまり自分は合わないっていうふうに思った人もいましたけど、とにかくね、みんなやりすぎた時代。
Q:じゃ、マルがその自殺をしてしまった日ですけれども、その時はやっぱり彼はドラッグをやってだった感じなんですか?
松田:まあ、鬱だったかなっていう感じはしますね。奥さんから離婚を切り出されたことで非常に気落ちしてしまった。そこでバリウムという精神安定剤(日本でいうバリウムとは違いますけども)を大量に摂取したということが書かれてます。で、それもあってかなと思いますけど。ただ、このバリウムが大量に摂取したかどうかはわからないんですよね、本人が言ってるだけで。で、この本の最後の、細かいことが書いてあるところを見ると、一応その致死量のバリウムは検出されてないんですよね。なので、それはもしかしたらマルが当時住んでたパートナーにそうわざと言って警察を呼ばせたのかもしれない。そういう自殺の仕方もありますよね。警察にわざと撃たせるというような。ちょっとその辺ははっきりとはしないです。ちょっと暗くなっちゃいました?
バラカン:いや、でもね、ポピュラー音楽とドラッグの関係っていうのは、日本ではあまり語られないんだけど、ものすごい大きな問題だったんですね。70年代のアメリカ。

Q:最初、その最後の頃にマルが自伝として出版しようとしていたものは、かなりの形で出来上がっていたかのように読めましたので、それが将来その生の形のままで出る可能性っていうのはあるんでしょうかね?
松田:著者のケネス・ウォマックさんが、今年、そういった彼の遺品を全て公開するというふうに一番最初に言ってるんです──本当は去年だったと思うんですけれども。なので、何かしらの形で彼の原稿が世に出るとは思います。写真とかそういう形で。日本語になるかはわかりません。ただ、アーカイヴを出版する──そういう動きがあるということは、著書の本人がおっしゃってます。

Q:おすすめのビートルズの本はありますか?
バラカン:去年だったか、おととしだったか割と最近ですけれど、『One Two Three Four:The Beatles in Time』(邦題『ワン、ツー、スリー、フォー ビートルズの時代』)という本があります。クレイグ・ブラウンだったかな。彼はめちゃくちゃにあるビートルズに関する本、ありとあらゆる本を全部読んで、その中からの情報を自分で組み合わせて、短いエピソードみたいにして、綴ってるんですけれど、かなりこれも分厚い。日本語訳も出てます。あれは、すごく面白かったです。
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『ワン、ツー、スリー、フォー:ビートルズの時代』
 クレイグ・ブラウン(著)、木下 哲夫(翻訳)/白水社

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松田:私からのお勧めは、私が翻訳したピーター・アッシャーの『ビートルズA to Z』という本ですけれども、ここにたまたまありますけれども、これは薄いです(笑)。これは、アルファベット順にピーター・アッシャーさんがビートルズのエピソードいろいろ書いている本なので、軽く読むにはとても面白いと思います。そこにも面白いエピソードがいっぱい入ってます。
商品詳細
ザ・ビートルズ A to Z アルファベットでたどる音楽世界
ピーター・アッシャー(著)、松田ようこ(訳)
Q:この本の89ページの五行目に、ニールとマルは、ネムズやレコード会社の管理下ではなく、ビートルズに直接雇われた、との記載がありますが、63年の頃はそうだったのでしょうか? ビートルズのポケットマネーからマルに週給で賃金が払われていたという意味でしょうか?
松田:ビートルズ・カンパニーでしたっけ?
バラカン:ビートルズ・カンパニー、確かそうだったと。ビートルズ個人のポケットマニーから払ってたわけではないですし。
松田:ただ、確かに毎週金曜日に現金を持って、事務係の人が渡していたと。

Q:お2人から見て、5人目のビートルズは誰だと思いますか? マルです!(笑)。
松田:どうですか?
バラカン:ジョージ・マーティンかな? どういう意味でいうかですよね。仲間で言うと、ある意味マルかもしれませんけれど。クリエイティヴな意味ではジョージ・マーティンでしょう。
松田:音楽的にはジョージ・マーティン。活動的にはマル・エヴァンズかな?(質問が)本当にすごいいっぱい。
バラカン:いっぱい来てましたね。

Q:今後、ビートルズの本の翻訳予定はありますか?
松田:えと、これは今のところ私のとこにそういったお仕事の話は来ておりませんけれども、お待ちしております(笑)。

Q:ビートルズ解散後もバッドフィンガーのプロデュースや各メンバーとのつながりは写真や記事で見聞きしておりますが、メンバーとの最後の接点はどこだったのでしょうか?
松田:えーと、そうですね。バッドフィンガーのなんだっけ? ギターの、後から入った?
バラカン:ジョーイ・モーランド?
松田:ジョーイ・モーランドはナチュラル・ガスというバンドで、マルと最後にレコーディングしていますけれども。それ以前ではもう会ってなかったんじゃないかな? それで亡くなったことを知ってショックを受けるということがありましたね。

Q:この本を翻訳してて一番大変だったところはどんなところでしょう?
松田:よくぞ聞いてくださいました。この本、800ページになりましたけども、原書も600ページ以上ありまして。八ヶ月かかかって翻訳しました。翻訳するとだいたい私はいつもそうなんですけど、その主人公なり著者の分身のような気持ちになってしまって、もうすっかりその気持ちになるんですね。なので八ヶ月間は自分はマルだと思って、ずっと生活しておりましたし。ただその最中に、この本のことを話せる相手は編集者の方だけで周りにはいないので、全部自分の中に閉じ込めながらやっていて、本が出た時にやっと解放されるというような気持ちです。ただやっぱりこの本はすごく面白かったし、いろんな発見があったので、それは本当にありがたいことだと思っています。
バラカン:いや、本当にユニークな本ですよね。こういう立場からビートルズを書いたものはまず他にないからね。
松田:そうですよね。うん、そういう意味でもビートルズを知らない人でも読んで楽しめる本だと思いますので、ぜひに初めての方も見ていただきたいと思います。
バラカン:そろそろビートルズを知らない世代ができつつあるからね。
松田:そうなんですよね。その若い人たちにね、なんとかして、こういうものを残していきたいです。今でも音楽でビートルズに影響を受けているミュージシャンはいっぱいいますから、若い人でもいますから、そういう音楽を通じて、またビートルズも知られたらいいと思います。

Q:あまりに忙しくて、マルが、〈俺たち1週間に8日働かされてるんだよ〉という意味で、「Eight Days A Week」と言って、それをジョンが「面白い」って歌にしたというのは書いてあったんですけど、それはマルのオリジナルの言い方だったのか、それともイギリスとかリヴァプールでは割とよく使う表現なのか?
バラカン:ビートルズの曲に出会うまでは聞いたことない話です。あれは造語です。造語っていうかとても面白い言い方だけど、それはマルが言ったことですかね?
(場内)そう書いてあった。
バラカン:ああそう! リンゴはね、いろいろと「Hard Day’s Night」とか「Tomorrow Never Knows」とかいくつかそういう名言を残してます。
Q:それはやっぱおかしかったんですか? イギリスで「Hard Day’s Night」とか。
バラカン:おかしいですよ。普通の言い方じゃないんだもん。明らかに。
Q:アメリカじゃもうすでにあった?
バラカン:いやいや、無い!無い!無い! 「Tomorrow Never Knows」もおかしい。
松田:「Eight Days A Week」もおかしい。
バラカン:そう、おかしいけれども、面白いおかしさ。うん、文法的に言うと、え? 何?、っていう。でも何言おうとしてるかはなんとなくわかる。だから面白いね、うん。
松田:マル・エヴァンズという説も一方でありながら、ピーター・アッシャーさんの本では、過剰勤務のお抱え運転手とジョンの会話から生まれたという説もあるので、全くわからないです。
バラカン:過剰勤務の運転手ってマルじゃないの?
松田:もしかしたらそうかもしれないんですけれども、それもそういうふうには書いていませんね。
バラカン:64年でしょ? アルバムでいうと、『Beatles For Sale』だから。マルがまだ運転してると思いますよ。
松田:だとしたらこれはマルなのかな?
バラカン:アルフはまだ雇われる前だと思う。
松田:アルフは雇われる前ですけど、ニールも運転してませんでした?
バラカン:ニールも時々運転してたけども、ほとんどマルですね。
松田:ああ、だとしたらマルかもしれないです。
バラカン:いい質問でした。ありがとうございます。今の質問をしてくれたのは、告井延隆さんといって、一人ビートルズを、アコースティック・ギター一本でメロディからリズムからベースから、もう全部アコースティック・ギター一本で、ビートルズのすべての曲を演奏しています。すごく面白いからぜひ。CDもいっぱい出してるし、ライヴも素晴らしいです。
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松田:私、告井さんにお会いできて嬉しいです。ありがとうございます。それではお時間にもなりましたので、そろそろ、これで終わりにさせていただきたいと思います。ピーターさん本当にありがとうございました。
バラカン:ありがとうございます。
松田:ありがとうございました。またお会いしましょう。
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