ブラッド、スウェット&ティアーズ全盛期のヴォーカリスト、デヴィッド・クレイトン・トーマス死去

ブラッド・スウェット&ティアーズ、デヴィッド・クレイトン・トーマス(右端)が加入してからのパーソネル。グループの1969年発表セルフタイトルのセカンド・アルバム(邦題『血と汗と涙』)、見開き内ジャケットのメンバー全員のカット(画像はCDブックレットで再現されたもの)。
6月25日、ブラッド・スウェット・アンド・ティアーズのメンバーとして「Spinning Wheel」や「You've Made Me So Very Happy」などのヒット曲でグラミー賞を受賞したヴォーカリスト、デヴィッド・クレイトン=トーマスが亡くなりました。享年84。彼の訃報は長年彼のパブリシストを務めて来たカナダ在住の音楽ジャーナリスト、エリック・アルパーによって確認され、拡散されています。現時点で死因は明らかになっていませんが、亡くなった場所はトロントのセント・マイケルズ病院で、彼は2010年に難しい心臓手術を受けたことが伝えられていました。
カナダ人兵士のフレッド・トムセットと、ロンドンの病院で兵士たちの慰問に訪れたイギリス人音楽大学生のフリーダが出逢い、イングランドのサリー州でクレイトン=トーマス、本名デイヴィッド・ヘンリー・トムセットが生まれたのは、1941年9月13日のことでした。第二次大戦後、一家はトロント郊外のウィローデールに定住します。幼少期は苦難に満ち、父親との関係も良好ではなく、彼は14歳になる頃には家を出て路上生活を送るようになったそうです。日々生き延びるためなら手段を問わなかった彼は、何度となく刑務所や少年院に出たり入ったりを繰り返してたのだとか。けれどそんな中である日、出所した囚人仲間が残していった使い古されたギターを手にした彼は、独学で演奏を学び、自らの中に人生を変えることになる才能を発見。刑務所のコンサートで生まれて初めて「受け容れられた」という感覚を味わった彼は、それを境に犯罪からキレイさっぱり足を洗うことができたのです。

1962年に釈放された彼は、トロントのヨング・ストリート地区に惹きつけられ、そこで耳にするデトロイトやシカゴから流れてくるリズム・アンド・ブルースが次第に素養として身に付いていきました。ロカビリー界のレジェンド、ロニー・ホーキンスが彼の並外れた才能を見抜き、自らの庇護下に置くようになると、間もなくクレイトン=トーマスは自身のバンドを率いるようになります。最初はデヴィッド・クレイトン=トーマス・アンド・ザ・ファビュラス・シェイズ、次に結成したのがジャズの要素を取り入れたボスメンで、後者はジャズ・ミュージシャンをメンバーに組み込んだ最初期のロック・バンドのひとつです。彼は1966年に痛烈な反戦歌「Brainwashed」を作詞・作曲・レコーディングし、この曲はカナダのチャートで瞬く間にトップに躍り出ました。

そしてある晩、フォーク・シンガーのジュディ・コリンズが、ニューヨーク・シティでライヴに出演していた彼のパフォーマンスを聴き、自身の友人だったドラマーのボビー・コロンビーに、その圧倒的な歌声について話したことで、彼の運命は一変することになります。コロンビーのバンド、ブラッド・スウェット・アンド・ティアーズ(以下BS&T)はその直前に破綻を迎えており、彼はクレイトン=トーマスをバンド再建の手助けとして招き入れたのでした。結果は誰もが知る歴史の通りです。1968年にリリースされた、バンド名を冠したアルバム(彼がバンドに加入して最初の作品)は全世界で1000万枚を売り上げ、ビルボード・チャートで7週間第1位に輝き、驚異の109週間連続チャートインを記録しました。このアルバムは更にグラミー賞5部門を獲得、中でも年間最優秀アルバム賞はビートルズの『Abbey Road』を抑えての受賞という快挙でした。また、ビルボード・ホット100でいずれも最高位第2位を獲得したバンドの代表曲「You've Made Me So Very Happy」「And When I Die」、そしてクレイトン=トーマス自身が作曲した「Spinning Wheel」の3曲もこのアルバムから生まれたものです。彼が情熱的に歌い上げるビリー・ホリデイの「God Bless the Child」は、彼自身の代名詞となりました。
David Clayton Thomas and The Shays - Walk That Walk (1965)
Blood, Sweat & Tears - You've Made Me So Very Happy (Official Audio)
Blood Sweat & Tears - Spinning wheel
David Clayton Thomas And When I Die August 16, 1974
クレイトン=トーマスを正式にヴォーカリストに据えたBS&Tは、ロイヤル・アルバート・ホール、メトロポリタン・オペラ・ハウス、ハリウッド・ボウル、マディソン・スクエア・ガーデン、ニューポート・ジャズ・フェスティバル、ウッドストック等名だたる会場やフェスでヘッドライナーを務め、時代を代表するバンドの一つとなりました。また、ヒット・アルバム『Blood, Sweat & Tears 3』や『Blood, Sweat & Tears 4』をリリース、後者には彼のヒット曲「Lucretia MacEvil」や「Go Down Gamblin'」が収録されています。1970年、バンドは米国国務省の要請で東欧をツアーし、鉄のカーテンを突破した最初のロック・グループとして歴史に名を刻みました。このツアーにまつわる想像を絶する困難な出来事は、後に2023年の優れたドキュメンタリー『What the Hell Happened to Blood, Sweat & Tears?』(邦題『ブラッド・スウェット&ティアーズに何が起こったのか?』)にまとめられ、高い評価を得ています(2024年6月28日MLCニュース)。長年の容赦ないツアーに疲れ果てた彼は、1972年にバンドを脱退しますが、1970年代半ばには復帰し、最終的には2004年までバンドを率いて、様々な変遷を経験しました。
ソロ・アーティストとしてのクレイトン=トーマスは、10枚近くのアルバムをリリースしており、中でも2008年の『The Evergreens』は彼自身がしばしばお気に入りと称していた作品です。また、2015年の『Combo』は、彼が原点回帰を果たした作品で、全てが始まったトロントのこじんまりとしたクラブでジャズやブルースを歌った、音楽への愛情を感じさせる音源となっています。BS&Tのパワフルなブラス・サウンドとは隔世の感があるこのアルバムでは、彼はバンドを最小限の編成に絞り、カナダ屈指のジャズ・ミュージシャンによるクインテットを率いて、その独特の歌声を披露しました。彼の後年の作品はますます大胆さと政治色を増し、2020年の『Say Somethin'』でひとつのピークを迎えました。彼はまた、カナダのCBCテレビで自身の番組の司会も務め、2010年、心臓の大手術を乗り越えたのと同じ年に、マッセイ・ホールでトロント交響楽団と共演を果たしました。

晩年のクレイトン=トーマスは司法制度に関わる若者たちの熱心な擁護者となり、自身の辛い青春時代を糧に、かつて自分が経験したのと同じ苦難に直面する若者たちを励ます立場を貫きました。彼はトロントを拠点とする慈善団体ピースビルダーズ・カナダの献身的な支援者となり、同団体の若年犯罪者に対する修復的司法[訳注:犯罪を、人々やその関係に対する侵害と捉え、司法を被害者・加害者・地域社会による対話を通じて、被害の回復と関係の修復を図るためのものと理解する考え方]、投獄に代わる代替措置、学校や地域社会における紛争解決への働きかけを支持しました。彼は同団体の修復的司法プログラムを支援するために「ザ・システム」という曲を作詞・作曲・録音し、トロントのコーナー・ホールでの大規模公演を含む、同団体のための数々の資金調達ガラやチャリティ・コンサートでヘッドライナーを務めました。こうした活動は、彼の音楽と同様に、自らの経験に基づき、若者が人生最悪の瞬間によって定義されるべきではないという強い信念から生まれたものでした。
彼の功績はこれまで幾度となく称えられており、既にカナディアン・ミュージックの殿堂入りのみならず、カナダ音楽への傑出した貢献に対してジュノー賞特別賞を受賞、また2010年にはカナダ・ウォーク・オブ・フェイムに星を刻まれ、2007年には「Spinning Wheel」でカナダ版ソングライターの殿堂入りを果たしています。2010年に出版された彼の痛烈な回顧録、その名も『Blood, Sweat and Tears(血と汗と涙)』は、ホームレスのストリートチルドレンから国際的なスターダムへと駆け上がった自身のありのままの物語であり、何よりも不屈の精神、勇気、そして生き抜く力の物語となっています。

晩年、常に自身の故郷と考えていたトロントに戻ったクレイトン=トーマスは、持ち前の情熱をもって更に演奏とレコーディングを続けました。「俺みたいな人間は引退しないんだよ」彼はかつてニヤリと笑いながら言ったそうです。「こいつが俺の天職だからね」

デイヴィッド・クレイトン=トーマスは、娘のアシュリー・クレイトン=トーマスとクリスティン・グラハムという2人の子供たちを遺して旅立ちました。彼の人生と音楽を称える追悼コンサートが後日開催されることになっており、収益は彼が深く愛した平和構築団体「ピースビルダーズ・カナダ」に寄付されるとのことです。

安らかなる眠りをお祈りいたします。
商品詳細
Blood Sweat & Tears
『血と汗と涙』


Amazon Music(1968/12/11)[Expanded Edition]
Amazon(2013/3/6)¥1,684・CD
商品詳細
Blood, Sweat & Tears
『The Best Of Blood, Sweat & Tears : What Goes Up!』


Amazon Music(1995/11/7)
商品情報
デヴィッド・クレイトン・トーマス
『David Clayton-Thomas(1973)』


Amazon Music(MAY 04 1973)
商品詳細
デヴィッド・クレイトン・トーマス
『Soul Ballads』


Amazon Music(MAR 03 2015)
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